愛猫家オーナーが建てた猫専用賃貸マンション
猫と一緒に暮らせる物件に巡り合うまでにとても苦労した、という愛猫家は多いのでは?
名古屋市に住む金田光加さんもそのひとり。
「まずペット可の物件数が少ないですし、見つかっても築年数が相当古かったり賃料が極端に高かったり、実際のところ犬はOKで猫はダメという物件が多くて、なかなか引越し先が見つからず苦労した経験があります。
設備が整っていて綺麗で住みやすい部屋で、心置きなく猫ちゃんを飼えたらいいのに、とずっと思っていました」
自分と同じような思いをしている人が多いのではないかと感じた金田さんは、実家の建て替えを機に、愛猫と一緒に楽しく快適に暮らせる賃貸マンションを造ることを決意。2018年3月に「猫専用賃貸マンション Chatmour~シャムール~」(以下「シャムール」)が完成した。
ご自身も3匹の猫を飼う愛猫家である金田さんがこだわった「猫専用賃貸マンション」とは。その工夫について聞いてみた。
「愛猫と一緒に楽しく暮らす」ために考えられた設備とは
ナゴヤドーム、徳川美術館、建中寺を有し、閑静な住宅地とビジネス街のイメージを併せ持つ名古屋市東区。
幹線道路から少し入った静かな住宅街に立つ「シャムール」は、猫と一緒に住める人気の賃貸マンション。10階建てのマンション内部は、1フロアに2部屋ずつ、合計18部屋はすべてが南向き角部屋の好条件のうえ、「愛猫と一緒に楽しく暮らす」というコンセプトに基づいて考えられた設備が人気物件たる理由のようだ。
金田さんの理想を詰め込んでできあがった「シャムール」。まず、猫と暮らすための工夫について紹介しよう。
1) 幅40センチのキャットウォーク 2)アクリルでできた透明なキャットウォーク
3) 猫ののぞき穴 4)キャットステップ 5)猫ドア 6)換気扇付きのトイレスペース
7)ベランダのシンク 8)掃除しやすいフロアタイル採用
など。猫好きにとって、“あったら嬉しい”を詰め込んだ内容となっている。
猫に限らず、室内でペットを飼う際に気になるのがトイレ事情。猫の場合、臭いだけでなく砂の飛び散りも気になってリビングやキッチン付近には置きづらいという人も多いのではないだろうか。その点を解決するため、「シャムール」では押し入れの1つを猫用のトイレとして利用できるように工夫した。
90センチの高さに棚板を設け、下段がトイレ、上段は餌や猫砂をストックできる収納スペースとして利用できるうえ、猫が自由に出入りできる猫ドアが付いている。上段の天井には換気扇、下段には消臭機器を付けられるようにとコンセントも設置。これなら臭い問題に悩むこともなく快適に過ごせそうだ。
とはいえ、「大事なことは猫にとって居心地がいいということだけでなく、住む人の暮らしやすさだと考えています」と金田さん。
人だけで住むことになっても無駄なく快適であるように
「猫専用マンションだけれども猫用の設備に偏りすぎず、人だけで住むことになっても無駄なく快適である必要があると思いました。人が生活するうえで必要なものを削らず、そこに猫が喜んでくれるものを付け加えるという感覚ですね。
例えば、うちの猫のように高い場所に上らない猫ちゃんの場合、キャットウォークは無用の長物になってしまいますよね。そういう場合は、キャットウォークとしてではなく収納場所として使っていただけるようにと、40センチの幅を設けました。これなら衣装ケースを置けますから」
20キロの荷重に耐える板を3枚重ねているから、衣装ケースを置いても十分な強度があるという。先に紹介した猫用トイレスペースにしても、普通の押し入れとして使うこともできるから、もし猫が使わなかったとしても有効に利用できるということだ。
また、手入れのしやすさも重要だという。
「猫ちゃんってよく嘔吐するんですけど、そういう時の処理のしやすさも大事ですよね。掃除のしやすいフロアタイルを採用することで、簡単に拭き掃除ができるようにしてあります。滑りにくい素材にもなっているので猫ちゃんにとっても快適だと思います」
“あったら嬉しい”入居者目線で作った独自のアプリを提供
実は金田さん、税理士としての顔も持つ。さまざまな業種の方をクライアントに持ち、税務だけでなく時には経営のアドバイスをすることもあるそうで、自身のマンションについても客観的に分析する。
「シャムールの賃料は、7階までは12万5,000円+共益費8,000円、8階~10階は12万7,000円+共益費8,000円。猫と暮らせるからという理由で家賃があがってしまっては、猫と暮らすことがデメリットになってしまう。そうならないよう、63m2の広さの賃貸として平均的な金額で猫と住めることが必要となります。この金額は東区の相場からしても妥当だと思いますね。
賃貸マンション経営はサービス業です。住み続けたいと思っていただけるサービスを提供しなくてはいけません。今入居されている方に一年でも長く住んでいただけるようにしていくというのが賃貸マンション経営にとっては大事なことですね。常にお客様ファーストの姿勢で、“あったら嬉しい”を積み重ねていくことが大事だと感じます」
“あったら嬉しい”の一例として、「シャムール」独自の入居者専用アプリが挙げられる。近所の動物病院や、ペットホテル、保護猫の活動をしている団体のHPや里親情報などが掲載されている。
「掲示板のような役割をアプリでできたらいいなと思って導入しました。マンションの消防点検や地元のお祭りの情報など随時更新しています。マンションだけでなくこの街に愛着をもってもらえたら嬉しいなと思って」
入居者の多くは子どものいる30~40代の家族連れのため、東区周辺の子どもの遊び場や子育て施設情報なども掲載しているそう。入居者の利用頻度までは確認できないそうだが、こうした情報を手軽にチェックできるのはプラスアルファの特典といえそうだ。
入居者の悩みや困りごとはLINEで気軽に相談できる
「シャムール」は管理会社を入れていないため、大家である金田さんと入居者が直接やりとりをする。そのため、入居時に連絡先を交換し、メールでも気軽に相談できるようにしているという。
ほかにも金田さんがこだわっている点がある。退去したあとは工事会社に依頼してリフォームやクリーニングを行うが、それだけに留まらず、新しい入居者が入る前には金田さんご自身で清掃の仕上げを行っているそう。
「部屋に入った瞬間から気持ちよく過ごしていただきたいという気持ちで」行っているというが、こうした入居者目線での配慮も嬉しいところ。
また今後は入居者同士もコミュニケーションがとりやすい環境を整えていく予定だ。
「まだ構想段階なのですが、共用部分にコミュニティスペースを設けて、猫ちゃんと遊べる場所を作れたらいいなと思います。猫グッズを自動販売機で販売できたら面白いし、入居者さんたちの話題作りにもなって楽しいだろうなと考えているところです」
猫ブームに乗り、猫と暮らせる物件が増えてはきているとはいえ、壁や床をひっかく、トイレのしつけができないというイメージがあるためか、まだまだその数は少ない。「設備さえ整えてあげればクリアできる問題が多いんですけどね」と金田さんは言う。
『Chatmour~シャムール~』はフランス語の「chat(猫)」と「amour(愛)」を掛け合わせた造語。「愛猫という意味の中に家族の一員という想いを込めて」金田さんが名付けた名前だ。
猫を含めペットを家族の一員とする家庭が増えた今、家族全員が快適に過ごせる設備と管理を提供してくれる物件が増えることを願う。
【取材協力】
『Chatmour~シャムール~』
http://chatmour.com/index.html
2019年 08月02日 11時05分