『趣味』だけでなく『ライフスタイル』そのものを提案する賃貸マンション

▲『宮崎台』駅南口から桜並木を通り抜けた高台に建つ『キャムハウスⅠ』。築25年のマンションの一室を『ハワイを感じるコンセプト賃貸』としてリフォームした▲『宮崎台』駅南口から桜並木を通り抜けた高台に建つ『キャムハウスⅠ』。築25年のマンションの一室を『ハワイを感じるコンセプト賃貸』としてリフォームした

『コンセプト賃貸』という言葉が世間で認知されはじめたのは、2010年頃だっただろうか。

当初は、バイクや自転車、音楽など“個人の趣味を楽しむためのひと工夫を加えた賃貸マンション”が主流だったが、いまや『コンセプト賃貸』は趣味の枠には収まらず、ライフスタイルそのものをコンセプトに掲げ、オーナー側から暮らし方を提案する物件が続々と登場している。

その一例として今回取材したのは、神奈川県川崎市宮前区。東急田園都市線の『宮崎台』駅から徒歩1分という好立地に建つ築25年の賃貸マンションだ。物件のコンセプトはズバリ、『ハワイを感じる住まい』。造り手の想いを、マンションオーナーと企画・リフォーム担当者に聞いた。

オーナーが選んだテーマは、日本人みんなが大好きな『ハワイ』

「賃貸マンションは、築年数が経ってしまうとどうしても空室対策のための工夫が必要になりますから、僕も数年前から『コンセプト賃貸』を意識するようになりました」と語るのはオーナーの越水隆裕さん。祖父の代から所有する土地に父親が数軒の賃貸マンションを建て、越水さんが物件管理をおこなっている。

「いつか『ハワイ』をコンセプトにしたリフォームをやってみたいと考えていたんです。ハワイは“日本人の誰もが大好きな場所”で、ものすごく幸せな空気感が漂っている…あの光と風が通り抜けるハワイの気持ち良い暮らし方をうちの賃貸マンションで提案できないかと思い、ちょうどHOME'Sとコラボしたコンセプト賃貸企画の提案を頂いている中で、ハワイ専門情報誌『ハワイスタイル』の編集長の渡邊さんと、『カリフォルニア工務店』の建築士の岩切さんに引き合わせていただき、プロジェクトを組んで一緒にリフォームをすることになりました」(越水さん談)。

▲左からエイ出版社(カリフォルニア工務店)の一級建築士・岩切剣一郎さん、オーナーの越水隆裕さん、<br />エイ出版社『ハワイスタイル』編集長の渡邊真人さん。<br />エイ出版社は、出版社でありながら、一級建築士の社員が在籍し設計士事務所を持つユニークな会社。<br />サーフ&ビーチテイストの開放的な西海岸スタイルを得意としている▲左からエイ出版社(カリフォルニア工務店)の一級建築士・岩切剣一郎さん、オーナーの越水隆裕さん、
エイ出版社『ハワイスタイル』編集長の渡邊真人さん。
エイ出版社は、出版社でありながら、一級建築士の社員が在籍し設計士事務所を持つユニークな会社。
サーフ&ビーチテイストの開放的な西海岸スタイルを得意としている

ハワイのロコたちが大切にしているのは『光』と『風』を感じる暮らし

▲渡邊さん自身も賃貸マンション暮らし歴18年。「賃貸マンションは『壁に穴を開けてはいけない』といったルールがあって、部屋に遊び心を持たせようとしても、どうしてもできることが限られてしまう…もっと自由な賃貸マンションがあったらいいなと僕自身も思っていました」と渡邊さん。壁にかかっているブルーのアートは、ハワイ在住の女性アーティスト・ヘザーブラウンの作品。「壁には『ハワイスタイル』誌の中でもたびたび特集したヘザーの作品を飾りました。もちろん、この部屋ではこのアートも楽しんでいただけます」(渡邊さん談)。※アートは退去時に返却要▲渡邊さん自身も賃貸マンション暮らし歴18年。「賃貸マンションは『壁に穴を開けてはいけない』といったルールがあって、部屋に遊び心を持たせようとしても、どうしてもできることが限られてしまう…もっと自由な賃貸マンションがあったらいいなと僕自身も思っていました」と渡邊さん。壁にかかっているブルーのアートは、ハワイ在住の女性アーティスト・ヘザーブラウンの作品。「壁には『ハワイスタイル』誌の中でもたびたび特集したヘザーの作品を飾りました。もちろん、この部屋ではこのアートも楽しんでいただけます」(渡邊さん談)。※アートは退去時に返却要

プロジェクトを組んだ季刊誌『ハワイスタイル』は、ハワイをこよなく愛する読者に向けて、現地の最新情報を発信するハワイ専門誌。編集長の渡邊さんは、当然のことながら取材・編集が専門分野であるため、マンションのリフォームに携わるのは初めてのことだった。

「“賃貸でどこまでできるのか”…最初にお話をいただいたときは戸惑いがありましたが、『ハワイスタイル』が長年取材してきたハワイのロコたちの暮らしをこの部屋で提案してみようと思いました。

日本で“ハワイスタイルの部屋”を作ろうとすると、ハイビスカス柄のクロスやキルトのタペストリーなど、どうしても“コテコテなハワイ風”になってしまうんですが(笑)、現地のロコたちが暮らしている部屋はまったく違います。

彼らの家から感じるのは、“海から渡ってくる風”や“空から届けられる光”だったり、もっと本質的なハワイの魅力。例えば、天井には大きなシーリングファンを設置し、生活の中に“目で感じる風”を採り入れています。そんなロコたちの“リアルなハワイスタイル”を参考にして、ハワイの持つ心地良さを感じる空間を目指しました」(渡邊さん談)。

この部屋はマンション2階に位置しているが、南側に低層の住宅街が広がっているため窓からの視界を遮るような大きな建物が見当たらない。眩しいほどの光が部屋の奥まで届き、爽やかな風が通り抜けていく。ソファに座りながらシーリングファンの動きを眺めていると、ここが『宮崎台』だということを忘れてしまうほど…あのハワイのゆったりとした時の流れに包まれるから不思議だ。

ちなみに、天井に取り付けられたシーリングファン付の照明や、使い込まれた風合いの木製チェスト、ソファやダイニングセット、ビーチアクセサリーなどは『家具・装飾品付き』となっており、この部屋でそのまま使うことができるという(サーフボードは除く)。

コンセプト賃貸のニーズ拡大が、業界全体の活性化につながる可能性

「この部屋は、南の窓から光が燦々と入ってくるので“ハワイのイメージでイケる!”と思いましたね(笑)」と語るのはリフォームを担当したカリフォルニア工務店の岩切さん。

カリフォルニア工務店はその名の通り、アメリカ西海岸スタイルを得意とする建築士事務所で、“自分達が格好いいと思う空間を造りたい”をテーマに、日本の住宅業界の常識にとらわれない空間づくりを提案している。その施工例を見てみると、『カリフォルニアハウス』や『サーファーズハウス』など、アメリカ映画から抜け出したような個性的なコンセプトを掲げた家がズラリと並ぶ。

岩切さんによると、近年は一戸建ての設計やリノベーションだけでなく、こうした『コンセプト賃貸』のリフォーム依頼も増えてきているという。

「昔は、マイホームを持つことが多くの人たちにとって“人生の夢”でしたが、今の若い人たちにとっては、残念ながらもうマイホームは“夢”ではありません。借金をしてローンを組むことにも慣れていないし、“一生賃貸でいいから身近なところで幸せを見つけたい”と考えている人が増えているように感じます。

だからこそ、今後はもっと遊び心やワクワク感を感じされてくれる『コンセプト賃貸』のニーズが高まってくるはず。

アメリカでは、中古住宅に愛情を持ってメンテナンスをしていくことで、さらに住まいの付加価値が高まることが多いのですが、これからの日本のマンション業界も『コンセプト賃貸』のような付加価値をつけた物件が増えることで、業界全体の活性化や空き家問題の改善につながるような気がします」(岩切さん談)。

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今回のリフォームで岩切さんがこだわった点は『五感に届くハワイの気持ち良さ』だった。

例えば、光と風が通り抜けるリビング・ダイニングの壁は、天然素材ならではの温もりを感じる杉の下地材を使い、ラフに張り合わせて白いペンキで仕上げた。その空間を眺めていると、どこからともなくココナツオイルの甘い香りが漂ってきそうだ。

「これは、手作りのビーチハウスのイメージで仕上げてあります。クロスではないので、画鋲や釘を刺したとしてもその跡が素材の風合いに変わりますから、通常の賃貸マンションと違って画鋲も釘打ちもOKです。住む人なりの感性で、この空間を自由に楽しんでもらえたら嬉しいですね」(岩切さん談)。

▲杉の木の板張り以外の壁は、ハワイの海のグラデーションを連想させる爽やかなブルーやグリーンで塗られていた。<br />これはオーナーの越水さんが自らの手で施したものだそう。<br />「コンセプト賃貸を造るためには、どうしても通常のリフォームよりも初期投資がかかってしまいます。<br />やみくもにコンセプトを掲げるのではなく、事前にそのエリアの特性やニーズを分析して、<br />“いかにユーザーのハートに刺さるか?”を検証することが大事だと思います」と岩切さん▲杉の木の板張り以外の壁は、ハワイの海のグラデーションを連想させる爽やかなブルーやグリーンで塗られていた。
これはオーナーの越水さんが自らの手で施したものだそう。
「コンセプト賃貸を造るためには、どうしても通常のリフォームよりも初期投資がかかってしまいます。
やみくもにコンセプトを掲げるのではなく、事前にそのエリアの特性やニーズを分析して、
“いかにユーザーのハートに刺さるか?”を検証することが大事だと思います」と岩切さん

コンセプトが、オーナーと入居者をつなぐコミュニケーションのきっかけに

▲チェストの上にはビーチアクセサリーをコーディネート。「ハワイの空港に降り立った瞬間の、あの気持ち良さをこの部屋で感じてもらえたら嬉しいですね」と渡邊編集長▲チェストの上にはビーチアクセサリーをコーディネート。「ハワイの空港に降り立った瞬間の、あの気持ち良さをこの部屋で感じてもらえたら嬉しいですね」と渡邊編集長

最後に、オーナーの越水さんに『コンセプト賃貸』について、オーナー視点での魅力を聞いた。

「マンション経営をしていて常々感じていたことですが、オーナーと賃借人というのは実際に会うのは契約のときぐらいで、ほとんど顔を合わせることがありません。

でもコンセプト賃貸の場合は、『気に入ってもらっていますか?』とか『何か不都合はないですか?』とか、“部屋のコンセプト”をきっかけにして入居者の方とのコミュニケーションがスムーズに図れるようになるんです。

オーナーとしては、そこに暮らす人の意見に耳を傾ける良い機会になるし、また新たなコンセプト作りを仕掛けるためのアイデアも発見できる…これはとても有意義なことだと思います」(越水さん談)。

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“いつかハワイで暮らしてみたい”と考えていたハワイラヴァーのみなさん、一度現地を訪れ“田園都市線沿線のハワイ”を体感してみてはいかがだろうか?

■取材協力
エイ出版社『ハワイスタイル』
https://www.ei-publishing.co.jp/magazines/regular/hawaii-style/
カリフォルニア工務店
http://www.cal-co.jp/

2016年 02月18日 11時09分