門前払いされる住宅困窮者に心を痛め続けた15年間

プライムの石塚氏(左)と松本氏。高校の同級生で気心知れた関係の2人で不動産会社、NPOを運営プライムの石塚氏(左)と松本氏。高校の同級生で気心知れた関係の2人で不動産会社、NPOを運営

座間市で高齢者、母子家庭、障がい者などの住宅困窮者を決して断らない不動産会社、株式会社プライムを経営する石塚惠氏が不動産業界に入ったのは30歳の頃。時代はバブル経済の終わり頃で、貸主は今よりもはるかに強気だった。

「高齢者、障がい者、母子家庭などといった人達はお金にならないと門前払いされるのが当たり前の時代でした。泣きながら帰っていく人達の後ろ姿に心が痛みましたが、それは最初に入った会社だけでなく、その後、転職した他の会社も同様。社員がいくら探してあげたいと思っても経営者がダメと言ったら帰っていただくしかありませんでした」。

最初は衝撃を受けたとしても、同じ光景を見続けていれば、やがてはそれに慣れる。だが、石塚氏は不動産業界に入って以来15年間、ずっと違和感を抱き続けた。自営業だった実家の倒産で家を追い出される経験をしたことがあり、住まいの重要性がよくよく分かっていたからだ。

その違和感に加え、もうひとつ、そうした不動産会社を作らなくてはいけない必要もあった。不動産会社勤務中に母の介護が始まり、そこで感じた不便さを解消しようと立ち上げたNPOの活動の中で立退きを迫られる多くの高齢者に遭遇したのである。

「高校の同級生だった松本篝さんと助け合って介護をしているうちに、介護保険以外に安価に利用できるサービスが必要と感じ、2009年に任意団体として家事援助サービスを開始、2011年にはワンエイドとしてNPO法人化。福祉有償運送サービスを行うようになっていたのですが、そこでしばしば立退きの相談を受けたのです。不動産業をしているのに、何もできない。その罪悪感から、必要に迫られて起業を決意し、2012年にプライムを設立しました」。

不動産会社とNPOが表裏一体という独自のスタイル

設立の経緯からして当然だが、プライムでは相談に来た住宅困窮者を決して断らないし、その他の相談でも決して見捨てないことを標榜している。それが実現できているのは不動産会社プライムとNPO法人ワンエイドが表裏一体という、他にないスタイルで活動しているからだ。

たとえば、と話してくれたのが、東名高速道路の海老名パーキングエリアで2年間に渡り、車上生活をしていた高齢者夫婦の事例だ。詐欺に遭って人間不信に陥ったらしい70歳代の夫婦で、ゴミ屋敷化した車で世捨て人のような暮らしをしているうちに妻が認知症を発症。行方不明になってしまったことから夫が助けを求めて事態が表に出た。行政からは部屋を探して欲しいと依頼がきたのだが、部屋探し以前にパンクして車検も切れている車をパーキングエリアから出す必要がある。

「行政としては株式会社である不動産会社には頼めませんが、NPOならこうした相談事に乗れる。車の陸送、売却などの手配も不動産会社の仕事ではありませんが、NPOならできます。妻を探すことに始まり、車の陸送、売却、住民票の復活などをやり、ようやく最後に部屋探し。幸い、この事案では住民票を復活させたらきちんと年金がもらえることが分かり、無事に一件落着。手間も時間もかかりましたが、表裏一体で活動してきて良かったと思いました」。

2015年からはNPOでフードバンクの活動を始めているが、これも「住まいに困っている人は食べ物にも困っている」ということに気づいたからだ。

オフィス自体も隣り合っており、見た目からして表裏一体オフィス自体も隣り合っており、見た目からして表裏一体

住まいと食べ物をセットで考え、フードバンクをスタート

取材させていただいたのは2018年の最後の営業日。多くの人が引き取りに来るからと食料品が積み上げられていた。手前は地元の男性が届けてくれた野菜取材させていただいたのは2018年の最後の営業日。多くの人が引き取りに来るからと食料品が積み上げられていた。手前は地元の男性が届けてくれた野菜

「住まい探しに来た、お腹が空いているという人たちには会社に持ってきた自分の弁当やカップラーメン等を食べてもらっていたのですが、その数があまりに多く、これをすべて持ちだしで続けるのは辛いと思っていたところに、フードバンクという活動があることを知り、だったらと始めました」。

最初は自分たちで食料品を集めるすべがなく、日本初のフードバンクであるセカンドハーベストの大和市にある倉庫から食料品を分けてもらって活動を開始。行政の広報紙やお祭りなどで告知を続けるうちにフードバンクの存在が知られるようになり、徐々に自前でも集められるようになってきたという。取材時にも近所の人がやってきて自分で収穫したという野菜を置いて行った。野菜類は家財道具が揃っている母子家庭などに配布するのだとか。全体では月に100~130人ほどに配布している。

「食料品自体は無償で提供していただけるのですが、それを運搬したり、倉庫に一時保管したりするのに手間、お金がかかるので、子ども食堂などのように始める人が少ないのがフードバンク。本当は各市にあれば良いのでしょうが、神奈川県下でもあるところは限られるので、市内以外からも提供を求める人が来ている状態です」と松本氏。

ワンエイドからは近隣の20弱の子ども食堂などへの食料の提供も行っているが、注目を集めやすい子ども食堂と違い、その手前のフードバンクが脚光を浴びることは少ない。縁の下の力持ちなのである。それなのに運搬、保管の手間だけでなく、母子家庭に提供する場合には子どもの目を気遣い、もらってきた品に見えないように梱包するなどの配慮もしており、その心配りの細やかさには頭が下がる。

空き家はあるのに貸してもらえないという矛盾

部屋が足りないのが大きな悩み。貸しても良いという大家さんはぜひ、協力していただきたいものだ部屋が足りないのが大きな悩み。貸しても良いという大家さんはぜひ、協力していただきたいものだ

フードバンクを始めてからは行政との連携も進んだ。「それまでも高齢者の部屋探しを通じて地域包括ケアセンター、社会福祉協議会などと協力しあってきたことに加え、他のNPOが手がけていない住宅、食と幅広い活動をしていることが評価されたのでしょう、ここ2~3年で相談されることが増えました」と石塚氏。

2017年の住宅セーフティネット制度以降、行政も不動産会社も住宅困窮者の問題を意識するようになっており、紹介できる物件も少しずつは増えているという。たった1戸の管理物件から始めた8年前からすると、口コミはもちろん、テレビなどにも取り上げられたことから貸しても良いという大家さんが連絡をくれるなど状況は徐々に変化している。

「それでも、まだまだ潤沢とは言えず、月に100件ほどある部屋探しの依頼にはすべて応えることができていませんし、希望条件に合わない物件でも紹介せざるを得ないのが現状です。空き家はあるのに、孤独死、滞納、火事や近隣トラブルなどが怖いからと貸そうとしない。たいていは不動産会社が管理しているので、そこを飛ばして大家さんに直接交渉するわけにもいかず、現状、貸してもらえるかどうかは管理している不動産会社社長の意向次第。ワンエイドで見守りをしますからと説得して回っているのですが……」。

一般の不動産会社であれば不動産会社や大家さんを説得して貸してもらえるようにする手間はなく、複雑な事情のある人の問題解決をする必要はなく、賃貸の仲介はさほどに難しい作業ではない。だが、プライムが行っている事業は仲介に至るまではもちろん、仲介した後も入居者に関わり続けなければいけない。それだけの手間がかかってもその分、仲介手数料が高くなるわけではない。逆に家賃の安さが大事な場合には、安ければ安い分、仲介手数料も安くなる。入居希望者のニーズに真剣に応えようとすればするほど収益が減るのだ。それでやっていけているのだろうか?

分野ごとの切れた支援ではなく、その人の暮らしすべてを支援

「独立する時には『そんな儲からない客層を相手にするなんて』とさんざん言われました。これまで成約したうちの8割が高齢者、母子家庭、障がい者などの賃貸仲介で、たまに売買を手がけている状態。1件ごとの収益は高くないので数をこなさないといけないのは事実ですが、それでも低空飛行ながら、独立から8年間やっていけています。他にやっているところがありませんから、独壇場ですよ」と石塚氏は笑う。

逆に現状の問題点をリアルに知ることができ、対処する経験を積めることをチャンスと考え、もっと早くからやっておけばよかったとも考えている。今後、さらに高齢化、単身化が進んだ時、住宅業界がどのような問題を抱えるかを先行して経験しているというのだ。また、年末などに年金をやりくりして買ったとプレゼントを持って来てくれる入居者がいるなど必要としてくれる人がいるという自負もやりがいであり、楽しみだとも。

現状でも大変な量の仕事を抱えているお二人だが、まだまだやりたいことがあるという。たとえば、ステップハウス(ホームレス状態から生活を再建するに当たって利用する低廉な家賃で暮らせる住宅)の運営だ。とりあえず住める場所があれば仕事を探すなど次のステップに進みやすくなるからだ。

やり始めているのは困っている人たちの相談窓口同士の連携だ。「多くのNPOや活動している人たちは目の前のことで手一杯。自分たちがやっていることをPRしたり、他の団体と連携する余裕がありません。でも、母子家庭で食に、住宅に困っているなら、塾に行けない、制服が買えない悩みも抱えているはず。そんな人にボランティアが教えてくれる塾、安く制服を買える、もらえる情報を提供できればとワンエイドのオフィス内には県央エリアの様々な団体のパンフレットを置いています」。

行政も含め、多くの支援は食なら食、住まいなら住まいと分野が限定される。だが、お二人にとっての支援はその人が必要とするもの全てということなのだろう。その稀有な視点に加え、お二人は驚くほど面倒見が良い。夜中3時の電話に応えて更生施設から逃げ出した子どもを迎えに行き、何度も親との話し合いに立ち合い続けることができる人などそうそういるものではない。すごいですねという言葉に石塚さんは「結局、人としてどれだけ向き合えるかですよ」とさらり。私には、重く、響く一言だった。

取材協力/株式会社プライム
http://prime-zama.com/

途切れない支援という言葉自体はあちこちで聞くが、なかなか実践できていないのが実態。それを繋げることで実現できればという思いの込められた掲示途切れない支援という言葉自体はあちこちで聞くが、なかなか実践できていないのが実態。それを繋げることで実現できればという思いの込められた掲示

2019年 02月08日 11時05分