一日の1/4を占める睡眠時間。寝具はどれくらい気にかけている?

読者のみなさんは、毎日どこでどのようにして眠っているだろうか。眠りの質によって体調が左右されるという話はよく聞く話である。

厚生労働省が公表した平成27年・国民健康・栄養調査結果の概要によると、一日の平均睡眠時間は男女とも「6時間以上7時間未満」が最も高く、それぞれ30%以上となっている。これによると私たちは一日の約1/4をベッドないし布団の中で過ごしていることになるが、睡眠にまつわる環境に心を配っている人はどれだけいるだろうか。

健康に関心のある人は、自分用に枕をしつらえる人もいると思うが、布団に関してはどうだろう。睡眠中の体を支える寝具、今回は「布団」について考えてみたいと思う。
名古屋市熱田区にある「丹羽ふとん店」の四代目・丹羽正行さんと五代目・拓也さんに、布団についてお話を伺った。

明治時代から綿に携わって150年以上という丹羽家。左が四代目・丹羽正行さん、右は五代目・拓也さん明治時代から綿に携わって150年以上という丹羽家。左が四代目・丹羽正行さん、右は五代目・拓也さん

3種の綿を独自に配合。名人が作るのは手作業にこだわった綿の布団

左がインド産(硬め)、中央がインド産(柔らかめ)、右がメキシコ産の綿。この三種をブレンドして敷布団を作る。さわってみると、手触りや重さがそれぞれ微妙に違う左がインド産(硬め)、中央がインド産(柔らかめ)、右がメキシコ産の綿。この三種をブレンドして敷布団を作る。さわってみると、手触りや重さがそれぞれ微妙に違う

丹羽さん親子は、布団・寝具に関する唯一の公的資格であり厚生労働省認定の寝具技能士だけに与えられる一級寝具製作技能士で、親子二代で技能グランプリで優勝するという高度な技術の持ち主。正行さんにいたっては内閣総理大臣賞受賞という、布団つくりにおいては日本屈指の職人"ふとん名人"だ。

現在3年待ちという同店の布団。海外からも注文が入るという人気の理由は、数々の賞に裏打ちされた確かな技術と素材へのこだわりだろう。

「うちの敷布団はすべて綿です。海外の各地を回って敷布団に適した綿を3種類ブレンドし、しっかりと体を支えるつくりになっています。

綿のいいところは、肌ざわりの良さです。考えてみてください。赤ちゃん用の布団は絹や麻でも、ウールでもないですよね。綿です。肌着もそうです。綿の肌着は人の汗を吸収してくれますし、天気のいい日に干せば、湿気が蒸発してふんわりとした肌ざわりに戻るのも綿だけの性質です。天然の植物繊維の中でも肌に優しいのは綿だけなんですよ」(正行さん談)。

硬さと繊維の長さが違うインドの綿2種類と、クッション性のよいメキシコの綿の3つを独自の配合で紡ぎ何層にも重ねて作る布団は、見ると中央がふっくらと山形に盛り上がっている。人が寝るとだんだんと均されてちょうどいい厚みや硬さになっていくよう計算されているとのこと。

「化学繊維や羽毛の布団であれば、機械で一気に中身を入れることができるので大量生産ができますが、うちはすべて手仕事です」と、拓也さん。
同店のホームページには布団作りの動画がアップされているのだが、それを見ると薄いシート状の綿を何層も重ね合わせていく作業を見ることができる。これぞ職人技!という見事な手さばきで一枚の布団ができていくのだが、繊細な手仕事ゆえに、二人がかりで一日に3、4枚作るのが精いっぱいなのだとか。

湿気の多い気候、リサイクルの精神。日本の気質にあった布団を見直そう

「そもそも布団というのは、日本の気候風土にあったもの。昔は、畳敷きの和室にちゃぶ台があってリビングやダイニングとして使った後、寝るときにはそこに布団を敷いて寝室として使っていました。限られた空間を最大限に利用していたんですよね。

海外に比べて日本は家も小さいですし、マンションなど限られた空間の中では、ベッドを置くよりも折りたたんで出し入れできる布団のほうが合理的。さらに、綿の布団は干すことができます。湿気の多い日本では理にかなっていると思いませんか。

安価で手に入るものの多くは、表の布は綿だとしても、中身はプラスチックやポリウレタンのような化学繊維でできているんです。化学繊維でできた布団は干してもふんわりしません。ぺちゃんこになってしまったらすぐ買い替えできる値段が魅力なのかもしれませんが」と拓也さん。

今流通している多くは実は「綿」ではないのが実情。確かに布団を買うとき、肌に直接あたる布地の部分には気を使っても、布団の中の素材にまで注目する人は少ないかもしれない。拓也さんによると、すぐ買えてすぐ捨てられる使い捨ての現状は、ゴミの問題にまで発展しているという。
綿でできた布団は経年劣化で張りがなくなっても”打ち直し”ができる。布地をほどき中の綿をふんわりさせ2割ほど新しい綿を追加すれば、新品のときと同じような寝心地が復活するのだそう。こうしたリサイクルできるのも綿布団の特長だろう。

同店の布団にはリサイクルタグがついており、購入時に5年後の日付が記入される。これは、打ち直しの時期のお知らせと「丹羽ふとん店」の自信の表れだと正行さん。言ってみれば同店の布団にはリサイクルタグがついており、購入時に5年後の日付が記入される。これは、打ち直しの時期のお知らせと「丹羽ふとん店」の自信の表れだと正行さん。言ってみれば"丹羽ブランド"としての誇りでもあるのだろう

伝統的な手仕事と現代のニーズをうまくマッチさせていくことが、"町の布団屋さん"が生き残る道

「昔は布団というのは着物と同じように各家庭でつくるものだったんです。どこの家庭でも綿屋さんと布地屋さんに材料を買いに行って、着物と同じように自分の家で布団を仕立てていました。戦後になってから仕立てた布団を小売りする人たちが出てきて”布団屋”というものができてきたんです。

30年くらい前までは、だいたい信号のある大きな通りには布団屋があって、赤ちゃんが生まれたり結婚したり、新しい生活のスタートにはこうした“町の布団屋さん”が必ず関わっていました。しかし時代は変わり、機械で大量生産された布団が大手スーパーなどで簡単に安く手に入るようになり、今はうちの回りでも16軒あった布団屋が今は2軒だけになってしまいました」(正行さん談)。

"町の布団屋"が激減した背景には、業界の努力不足もあったと正行さんは言う。
「丹羽ふとん店」は伝統的な布団づくりをしているが、何もかも昔と同じというわけではない。敷布団に関しては先に書いたようにすべて綿で作っているが、掛け布団は軽量化のために一部に化学繊維を使っているのだという。

「掛け布団まで綿100%で作ったものは重たいですよね。だから羽毛布団などの軽い掛け布団が人気となり、綿の布団は好まれなくなってしまいました。化学繊維は絶対にダメだと変に頑固になっていると消費者が離れてしまう。軽いものが欲しいという消費者のニーズに応えられる商品を作るのも職人の仕事だと思いますね」(正行さん談)。

化学繊維を綿で包むことで、できるだけ綿の良さを損なわないような工夫をしているという。これが企業努力というものなのだろう。
伝統的な手仕事と現代のニーズをうまくマッチさせていくことが、"町の布団屋さん"が生き残っていく道といえるのかもしれない。

卓越した技能者に与えられる「現代の名工」、藍綬(らんじゅ)褒章も受賞している正行さん。店内にはずらりと賞状が並ぶ。全国各地からその技術を学びたいとやってくる布団職人たちに、正行さんは自分が培ってきた技術を惜しげもなく教えるのだという卓越した技能者に与えられる「現代の名工」、藍綬(らんじゅ)褒章も受賞している正行さん。店内にはずらりと賞状が並ぶ。全国各地からその技術を学びたいとやってくる布団職人たちに、正行さんは自分が培ってきた技術を惜しげもなく教えるのだという

フローリングに直接布団は不適。いい布団を見分け、長く使うために知っておきたいこと

いい布団を買っても使い方を間違えていると長く使うことはできない。
布団の使い方やお手入れの方法について聞いてみた。

「フローリングに直接布団を敷くのは、カビが生える原因となります。畳であればいいのですが、フローリングの場合はすのこなどの上に布団を敷いて湿気の通り道を作らないといけません。晴れた日には午前から4時間程度、太陽にあてれば湿気を飛ばしてふんわりさせるだけでなく、紫外線で除菌もできるという効果があります」(正行さん談)。

ちなみに羽毛布団の場合は、陰干しのほうがいいのだそう。
「羽毛は動物性たんぱく質なので、陽にあてるとタンパク質が分解されて早く劣化してしまいますから」と正行さん。

布団をたたくのも、劣化を早めるだけで効果がないという。表地を傷めるだけでなく中の綿も切れてしまうので、埃や花粉が気になるのであれば、取り入れる前に掃除機をかけるのがいいとも教えてくれた。

また、いい布団の見分け方は、四隅まできちんと綿が入っているかどうか。隅まで綿が入っていれば、中で綿がずれる余地がないので型崩れもせず、しっかりと体を支えてくれるのだ。

同店の布団は、シングルで上下5万2000円。5000円程度で布団セットが買える今の時代においては、けっして安くない値段だ。しかし、その布団が3年待ちというのは、「いいものを長く使いたい」という人たちが増えてきているということかもしれない。意外にも2、30代の比較的若い世代からのオーダーが多いというのは、なんだか頼もしい気がする。
安価でどこでも買えるのはありがたいが、目先のことだけを考えるのではなく長く使えるものかどうか、品質はどうか。布団に限らずだが、表面的な謳い文句に踊らされることなく、本質をきちんと見極め考えることも必要だと感じた。


丹羽ふとん店
http://niwafuton.com/index.html

敷布団と同じ要領で作られた座布団。座ってみるとお尻を包み込むような心地よさがある。中央はふんわり、角にいくほどしっかりとした綿の感触が伝わる。座布団も布団も布地にシワがなく張りのあるものが「いいもの」の証敷布団と同じ要領で作られた座布団。座ってみるとお尻を包み込むような心地よさがある。中央はふんわり、角にいくほどしっかりとした綿の感触が伝わる。座布団も布団も布地にシワがなく張りのあるものが「いいもの」の証

2017年 03月07日 11時05分