祐天寺を知っていますか?

2018年10月1日開業した東急祐天寺駅ビル2018年10月1日開業した東急祐天寺駅ビル

東急東横線・祐天寺駅で降りたことのある人はどれくらいいるだろう。渋谷から代官山、中目黒に次いで3駅目。とても近いがちょっと地味な駅。特に有名な店があるわけでもなく、雑誌で特集されることもない。静かな住宅地なのである。だから住んでいないかぎり、あまり立ち寄らない駅だ。
私は今から36年前、新入社員のとき、祐天寺に住んだ。深夜に帰宅し寝るだけの暮らしだったから、街を歩いたことは少ない。日曜日にたまに出かけても、商店街の店はほぼ定休日だった。だからますます街を知る機会がなかった。

こういう地味で静かな住宅地に、今新しい動きがある。代官山や中目黒からだんだんと店が浸みだしてきて、祐天寺にもブティックやカフェが増えてきたことが1つ。
もう1つは、2018年10月1日に東急電鉄が駅ビルを開業させたこと。といっても単なる商業ビルではない。保育園と、シェアオフィスを含む小規模事業者向けのオフィス、「エトモ祐天寺」という商業スペースからなる6階建ての小さな駅ビルだ。

子育てとスモールオフィスの支援

子育て支援、働き方改革、ベンチャー育成などの社会的気運が高まるなか、東急電鉄としても新しい試みを各地で展開し始めているが、祐天寺もその1つである。
ビルの2階にある保育園は東急電鉄100%子会社の株式会社キッズスペースが運営する保育園「KBCほいくえん祐天寺」。定員48人。
開園時間は朝7時30分から夜20時30分。延長料金はなし。保護者はおむつ持参不要。園内で給食調理をするのでお弁当も不要。必要に応じて夕食も提供してくれる。土曜日も保育可能。どれも働く親にはうれしいサービスだ。

3階から6階が株式会社リアルゲイトが運営するスモールオフィス「Pointline Yutenji」(ポイントラインユウテンジ)。25m2から62m2のオフィスが20区画と、8席からなる月極めのフリーデスクスペース、共用のワークラウンジ、ミーティングルーム1室がある。
 
面白いのは、Pointline Yutenjiに入居する人はKBCほいくえんに優先的に子どもを預けることができるという点。祐天寺駅周辺は目黒区の中でも2番目に待機児童が多かった地域なので地域住民も保育園に預けられるという。

左上:オフィス使用例、右上と左下:ラウンジ、右下:スカイテラスはリフレッシュ空間であるとともにパーティなどで入居者同士の交流にも使える左上:オフィス使用例、右上と左下:ラウンジ、右下:スカイテラスはリフレッシュ空間であるとともにパーティなどで入居者同士の交流にも使える

保育園とオフィスが交流する

また、ワークラウンジの一角にあるフリーデスクスペースでは、保育園に子どもを預けているがオフィスには入居していない保護者が働くことができる。そのため保護者とオフィス入居者との交流も生まれやすい。
さらに、園児がオフィスを見学に行ったり、オフィス入居者が園児向けのイベントを定期的に開催するなど、オフィスと保育園が相互に交流する予定。
屋上もオフィスワーカーや園児が利用できるようにしており、シンクも付けたので、パーティも可能。そうした交流活動の中から新しいビジネスのチャンスも広がることが期待されるわけだ。

ワークラウンジには、隣の学芸大学駅近くの書店「SUNNY BOY BOOKS」(サニーボーイブックス)が選んだ書籍を並べた本棚がある。このビルの特性と時代を反映して、コミュニティ、環境、食、ライフスタイルなどの書籍が並ぶ。

祐天寺には近年、代官山や中目黒のおしゃれな店が浸み出すように増えてきた祐天寺には近年、代官山や中目黒のおしゃれな店が浸み出すように増えてきた

自分の街だという実感が湧いてくる

またワークラウンジやオフィスからは駅前ロータリーが眼下に見え、なかなか眺めがよい。園児たちもバスが見えるのがうれしいという。6階建てという小さなビルなので、祐天寺という街を自分の街として実感できる距離感なのだ。
祐天寺に夫婦で住んで、自宅から10分程度で駅ビルの保育園に子どもを預け、夫はPointline Yutenjiで働き、妻は渋谷に勤めに行く、そんな暮らしが浮かんでくる。

ラウンジの書籍を選んだSUNNY BOY BOOKSは、学芸大学駅周辺のマップを自社でつくっていたが、そのセンスを買われ、東急電鉄の依頼で「祐天寺おでかけマップ」を作成した。
マップを見ると、先ほど書いたように、新しいカフェ、ギャラリー、イタリア料理店などが増えている。
と同時に、地元の名店らしいホルモン屋や居酒屋もちゃんと描いてあるのがうれしい。

私もそうだが、個人や小さな会社で働く場合、仕事に行き詰まったときにリフレッシュする場所がとても重要だ。
大きな会社なら社内の談話室や喫煙所で別セクションの同期社員に会い、世間話をしているうちに打開策のヒントが浮かぶ、ということがある。
個人営業では、そういう仲間がいないので、街に出て、散歩をして、本屋で立ち読みをして、おいしいコーヒーを飲んで、窓から店を眺めてというように、サードプレイスで過ごす時間がとても大事なのだ。

2020年以降完成する渋谷駅周辺再開発により、渋谷周辺にも多くの小さな企業やクリエイターが集まることが予想されるが、住宅地だった祐天寺にもそうした集積が期待されるだろう。
従来型の商業施設やオフィスビルを建てるだけでなく、子育てをしながら働く人々を支援することによって街は驚くほど変わるのだ。東急電鉄としては今後さらに郊外の駅でもこうした取り組みを展開する予定だ。少子高齢化を止めるためにも新しい街づくりをすべき時代はもう来ている。

古い店と新しい店が共存しているのが良い古い店と新しい店が共存しているのが良い

2018年 12月03日 11時05分