札幌に不動産会社運営の忍者屋敷ができた?

MASSIVE SAPPOROで広報・人事を務める清水聖子さん。MASSIVE SAPPOROが運営するシェアハウス「BUIE」に住んでいた経験もあるMASSIVE SAPPOROで広報・人事を務める清水聖子さん。MASSIVE SAPPOROが運営するシェアハウス「BUIE」に住んでいた経験もある

日本を訪れる旅行者の興味が「モノ」から日本文化の体験などの「コト」に向き始めている昨今、人気を集めているのが、忍者体験のできる施設だ。忍者の本場である三重や滋賀はもちろん、京都にも以前から忍者ショーやからくり屋敷などがあったが、最近では東京でも忍者が接客してくれるバーなどが登場している。

そんな中、札幌にも2年前に忍者体験のできる施設がオープンし、外国人観光客を中心に人気を博しているという。運営しているのは、なんと地元の不動産会社。不動産と忍者に、いったいどのような関係が? 遊休不動産活用の一環だろうか…。
自身も「忍者」だったという、運営会社である株式会社MASSIVE SAPPORO(マッシブ サッポロ)広報の清水聖子さんにお話を伺った。

民泊参入で見えた、インバウンドの需要

2010年に設立されたMASSIVE SAPPORO。主な事業は、不動産売買や賃貸の仲介、シェアオフィスやシェアハウスの管理・運営、民泊の管理や運営代行、不動産コンサルティング全般などだ。

地域密着の不動産会社である彼らが札幌で観光を楽しんでもらうべく始めたのが、忍者体験施設「北海道忍者道」。場所は秘密で、予約すると集合場所に忍者が迎えに来てくれるというシステムが、謎めいた雰囲気を醸し出している。
「修行」と題した体験プログラムは、送迎も含めて1回120分。歩き方の練習や、本物の武器を使った吹き矢や手裏剣投げ、殺陣などを、忍者装束をまとって楽しむことができる。修行のプロデュースには、伊賀忍者の子孫や、京都で忍者修行などの経歴を持つ、本格的な忍者たちが携わった。

清水さんは広報を務める前に「北海道忍者道」のスタッフだったこともあるそうで、「外国人観光客だけでなく、日本人の親子連れにも人気があり、土日は予約でいっぱいです」。忍者たちは大忙しのようだ。

実は、こうした取組みを始めるきっかけになったのは、もともと展開していたシェアハウスの空室を活用し、民泊事業に参入したことだった。
日本全体で訪日観光客が増加しており、北海道にも、主に交通の便がよいアジア圏から多くの観光客が訪れている。MASSIVE SAPPOROでも、2015年から、シェアハウスの空き部屋をいくつかインバウンド向けの民泊として運用開始した。すると、外国人観光客の行動に関して見えてきたことがあったという。

「観光客が札幌で何をしているかというと、近隣の観光地を巡った後、ホテルに戻ってテレビを見て過ごしているという人が多いことが分かりました。札幌には体験型アクティビティやナイトアクティビティがなく、あくまで旅の拠点でしかなかった。これはもったいないと考えたんです」

札幌でも観光を楽しんでもらいたい――。MASSIVE SAPPOROは『不動産×インバウンド』をキーワードに新たな事業を展開し始めた。そのひとつが「北海道忍者道」だったのだ。
札幌に魅力的な観光スポットをつくるという取組みは自治体にも評価され、札幌雪まつりのレセプションに招かれて忍者ショーを披露したこともあるという。

本格的な忍者体験ができるとあって、外国人観光客を中心に人気の北海道忍者道。忍者装束での記念撮影も喜ばれている本格的な忍者体験ができるとあって、外国人観光客を中心に人気の北海道忍者道。忍者装束での記念撮影も喜ばれている

不動産×インバウンドで広がった事業領域

無人ホテルのチェックインはこの端末を操作して行う(上)。広々とした部屋はファミリーでの使用も可能。外国人観光客のニーズに合わせた(下)無人ホテルのチェックインはこの端末を操作して行う(上)。広々とした部屋はファミリーでの使用も可能。外国人観光客のニーズに合わせた(下)

民泊への参入は、日本のホテルが抱える課題も浮き彫りにした。

「民泊を利用するお客さんと接するうちに、外国人観光客の方々が宿泊先に求めるものが分かってきました。例えば、親子3世代などファミリーで旅行に来て、10日間ほど周遊していく方が多いようなんですね。そのため、大人数で泊まれる部屋が求められます。また、電車よりもレンタカーで移動することが多いので、駐車場付きのほうが便利です。それに、ヴィーガンの方やハラルフードを食べる方は、部屋にキッチンがないと困ってしまいます。
しかし、現在彼らが利用しているホテルは主に1~2人部屋で、駐車場もキッチンもないことが多い。こうしたニーズがあることは、民泊をやってみて初めて分かったことでした」

そこで、既存の建物を活用した民泊の展開を進める際には、大部屋をつくったり、キッチンを完備するなどインバウンドのニーズに合わせて改修。
また、2018年6月の改正旅館業法施行で、最低客室数の緩和や、タブレット等のICT機器でフロント業務を代替できるようになったことを受け、スタッフのいない「無人ホテル」を着々と拡大中だ。こちらでも、ニーズに合わせた広めでキッチン付きの間取りはもちろんのこと、チェックイン時の確認などを遠隔で行うことで、人件費やオーナーの負担を削減している。有事の際、10分以内にスタッフが駆けつけられる場所にオープンすることで、法に定められている駆けつけ要件も満たした。現在のところ新築での受託が多いが、中古物件でも開業は可能だそう。オーナーにとっては常駐スタッフが不要なので開業しやすく、深刻なホテル不足への対策になるとして、力を入れている。

さらにユニークなのが「カラオケレンタカー」。不動産とは関係ないが、家族でレンタカー移動をする観光客に、移動中も楽しんでもらおうと始めたサービスだ。しかし、「日本人の方が出張などで利用されることも多いんです」と清水さん。インバウンド向けに始めた事業だが、意外と日本人にも利用されているようだ。

起業のきっかけになったシェアハウス。人気の秘訣は

そもそもMASSIVE SAPPOROは、札幌出身の社長が東京でシェアハウスに出合い、「故郷の札幌に新しい風を吹かせたい」と、札幌初のシェアハウスを開業したのが始まり。札幌におけるシェアハウスのパイオニアであり、トップランナーだ。少しシェアハウス事業についても紹介しておこう。

MASSIVE SAPPOROのシェアハウスは、「BUIE(部家)」というブランドで札幌市内を中心に展開。部室のように、住人同士のコミュニケーションを大切にしてほしいとの願いが込められているそうだ。自社物件だけでなくオーナーからの相談を受けて開業したシェアハウスもあり、中にはシェフがオーナーという変わり種もある。
「弊社が運営するシェアオフィスにケータリングをお願いしていたシェフから、シェアハウスを開業したいという相談を受け、『CHEFIE(シェフイエ)』というシェアハウスをオープンしました。オーナーであるシェフが食事をつくってくれるのが最大の特徴で、交通の便はやや悪いのですが、空きが出るとすぐ埋まってしまう人気物件なんですよ」

BUIEに入居すると、居心地のよさから4年ほど住み続ける人もおり、物件によっては満室で入居待ちが出ているという。人気の秘訣を聞いてみた。

「物件探しの際、まず見るのが写真ですよね。私たちはホームページに載せる写真にとてもこだわっています。撮影のためにインテリアコーディネーターを手配することもあるんです」
これは民泊などの場合も同じ。Webで情報を探すのが主流となっているからこそ、第一印象を決める写真には徹底的にこだわるべき、という。
また、物件は気に入っても、シェアハウスのコミュニティになじめないと居心地が悪くなってしまいそうだが、「マッチングにも力を入れています」と清水さん。
「ご相談いただいた際のメールや、内見のときにいろいろとお話する中から、どういう方なのか想像を膨らませ、合いそうなシェアハウスをご案内するようにしています。もちろん立地など本人の希望も踏まえてですが、例えば希望の物件が満室だった際には、『こんな物件も合うと思いますよ』と別の物件をご紹介することもあります」

BUIEではシェアハウスごとにノートを用意し、連絡事項を書いたり、イベントの提案をしたりできるようにしている。今回見学させていただいた、BUIEのひとつ「ART ROOM」のノートにも、生活の中で気をつけてほしいことやイベントの誘い、新しい入居者の紹介などが賑やかに書き込まれていた。シェアハウスごとやBUIE横断でのイベントも開催され、かつてBUIEに住んでいた「OB・OG」も参加することがあるという。一過性ではないコミュニティが築かれているようだ。

物件そのものの魅力はもちろんのこと、一人ひとりに合わせた丁寧なマッチングや、それにより保たれるコミュニティの質が、BUIEの人気の理由なのだろう。

MASSIVE SAPPOROが運営するシェアハウスのひとつ、「ART ROOM」(左上)。大型テレビとソファが設置されたシアタールームは憩いの場(右上)。廊下にアーティストの作品が。直接壁に描いたのだそう(左下)。掲示板代わりのコミュニケーションノート。雰囲気のよさが伝わってきた(右下)MASSIVE SAPPOROが運営するシェアハウスのひとつ、「ART ROOM」(左上)。大型テレビとソファが設置されたシアタールームは憩いの場(右上)。廊下にアーティストの作品が。直接壁に描いたのだそう(左下)。掲示板代わりのコミュニケーションノート。雰囲気のよさが伝わってきた(右下)

地元の不動産会社がまちのためにできること

不動産や関連事業を通して、札幌を魅力的なまちにしようと取組むMASSIVE SAPPORO。いま彼らが向き合っているのは、札幌だけでなく全国で起こっている問題だ。

例えば、改正出入国管理法(入管法)の施行により、海外から働き手としてやってくる人の増加が見込まれているが、外国人が暮らせる住まいの選択肢は少ない。住まいを提供したくても、オーナーが英語対応できないことや生活習慣の違いなどの問題があり、一筋縄ではいかないのが現状のようだ。実際札幌では、住居が手配できずに、急遽学生寮などを使ってもらった事例もあるという。

「MASSIVE SAPPOROでは7割のスタッフが英語対応可能。オーナーに代わって英語でのやり取りを行うことができるのが強みです。すでに、日本へ働きに来た外国人の方にシェアハウスを案内しています」
留学生などが入居しているシェアハウスもあるので、初めて日本に来る人にとっても暮らしやすいだろう。
今後も、外国人向け住まいの問題解決に取り組んでいきたい、と清水さんは話す。

「インバウンドの数は2020年を境に減るのではという予想もありますが、多くの人が日本を知る機会になるので、むしろそこからがスタートだと思っています。今は2020年以降盛り上がっていくためのアクセルを踏む時期。旅行者や移住者が増えることを見据え、いろいろなことを仕掛けていきたいです」

MASSIVE SAPPOROが行っている事業の多くは、不動産という自分たちの仕事の本分をベースにしたものだ。「まちづくり」の看板を掲げなくても、一不動産会社として、まちのためにできることはたくさんある、ということを示しているようにも思う。

今はまだ、観光やビジネスの拠点というイメージの強い札幌。今後、MASSIVE SAPPOROがどのような変化を起こすのか、楽しみだ。


■取材協力
株式会社MASSIVE SAPPORO

2019年 07月23日 11時05分