心地よく、コストメリットも大。高齢者施設では、今「木造」が新しい

千葉県白井市に、今年3月オープンした特別養護老人ホーム「アンスリール」。高齢者向けの施設では珍しく、『耐火木造ツーバイフォー工法』を採用。10~30年後のライフスタイルに備え、“脱・和風”を設計ポイントにした(設計・写真提供/ニコム)千葉県白井市に、今年3月オープンした特別養護老人ホーム「アンスリール」。高齢者向けの施設では珍しく、『耐火木造ツーバイフォー工法』を採用。10~30年後のライフスタイルに備え、“脱・和風”を設計ポイントにした(設計・写真提供/ニコム)

肌触りがよく、空気がキレイな木の住まい。思わず深呼吸したくなるような心地よさが、木造建築の一番の魅力と言える。
2004年に、耐火木造ツーバイフォー工法による高齢者福祉施設が建設可能になり、日本で初めて「耐火木造」の高齢者施設を手がけたのが、株式会社ニコムの藤嶋三也さんだ。

木造は、RC造(鉄筋コンクリート造)や鉄骨造に比べて、「建築費」を軽減できるのがメリット。また、木の持つ温かみやツーバイフォー工法ならではの気密・断熱性により、光熱費などの「ランニングコスト」も抑えられるのだとか。

「山形県に建てた施設を見学された方は、『何でこんなにあたたかいんだろう?』と驚かれました。東北地方でありながら、冬場でもエアコンの使用は控えめで済む、とスタッフから聞いています。『建築費』『ランニングコスト』が抑えられれば、入居者の費用を安くすることにつながるんですよ」(藤嶋さん)

費用面だけでなく、木の持つ優しさも特長のひとつだ。転倒した時の衝撃をやわらげてケガを防いだり、木の香りで心を落ち着かせることができる。今春完成した、千葉県の特養「アンスリール」では、『住み慣れた家に近いこと』をコンセプトに掲げ、木造を選択。床や腰板にも温もりあふれる木を活用し、快適で住みよい施設に仕上がった。

メリットの多い木造だが、もちろん課題もある。
「木造の弱点としては、上下階の音の問題。カーペットを活用するなど、設備や設計力で配慮しています。また、建設の上限は3階までなので、ある程度の敷地の広さが必要です。木造は、郊外型の施設に適していると思いますね」(藤嶋さん)

意外かつ新たな選択肢である「木造」の高齢者施設。
現在のところ、全国で約90棟という少ない事例ではあるが、今後、注目を集めそうだ。

他にも、藤嶋さんは、全国で個性豊かな高齢者施設や住宅を手がけている。
アイデアあふれる実例をさっそくご紹介しよう。

全国初! 鉄道の駅と高齢者向け施設のコラボレーション

岐阜県恵那市に2008年完成した、高齢者専用賃貸住宅「ハートヴィレッジ東野」。1階には時刻表の掲示された駅の待合室や、小規模多機能型居宅介護施設「ハートホーム東野」が入る(設計・写真提供/ニコム)岐阜県恵那市に2008年完成した、高齢者専用賃貸住宅「ハートヴィレッジ東野」。1階には時刻表の掲示された駅の待合室や、小規模多機能型居宅介護施設「ハートホーム東野」が入る(設計・写真提供/ニコム)

続いて紹介するのは、藤嶋さんの設計した岐阜県の実例。
一見、瀟洒なマンションのように見えるが・・・実は鉄道の「駅」である。

こちらは、高齢者複合福祉施設「ハートホーム東野・ハートヴィレッジ東野」と、明知鉄道の「東野」駅舎が一緒になった複合駅。全国初の取り組みだ。

1階は、1日約65人(※)が利用する明知鉄道「東野」駅の待合室と、デイサービス・ショートステイ・訪問事業所を兼ねた「ハートホーム東野」があり、地域の方が利用できる空間。2・3階は25室の高齢者専用賃貸住宅となっている。

また先進的なのは、子育て中のスタッフが働きやすいよう、職員用の託児所も設けられたこと。「介護業界の悩みである人材確保のため、全国的にも、託児所を併設した施設が広がっています」と藤嶋さんは話す。

施設にいくつもの役割を持たせることで、駅の利用者、高齢者、子どもたちという多様な交流が生み出されるのが面白い。地方鉄道の活性化としても有効な一例だ。

※明知鉄道沿線地域公共交通総合連携計画より。2007年の乗降者数

滝の流れや銭湯風の浴室。水を使って癒しを演出した『サ高住』

名古屋市にあるサービス付き高齢者向け住宅「ナーシングホームOASIS」。左:大胆に描かれた「富士山」がひときわ目を引く、銭湯のような浴室。右:大きな窓から滝の流れを眺められる、お洒落なロビー(設計・写真提供/ニコム)名古屋市にあるサービス付き高齢者向け住宅「ナーシングホームOASIS」。左:大胆に描かれた「富士山」がひときわ目を引く、銭湯のような浴室。右:大きな窓から滝の流れを眺められる、お洒落なロビー(設計・写真提供/ニコム)

もう一つ、地域に密着した実例をご紹介しよう。

名古屋市に2013年誕生した「ナーシングホームOASIS」は、医療法人が運営するサービス付き高齢者向け住宅。“住宅”という位置づけの『サ高住』だが、同ホームには難病専用フロアが設けられ、病院からそのまま入居する医療依存度の高い方も、積極的に受け入れている。

「自立の方も介護度が高い方も穏やかに過ごせるよう、『癒しと祈り』をテーマに設計しました。癒しのデザインとして【水】を取り入れたのが特徴です」と、藤嶋さん。

例えば、明るい吹き抜けのあるロビー。窓の外には、水音が心地よい滝が流れ、室内にも小さなせせらぎが設けられている。安全性を重視する高齢者の住まいとしては大胆な設計であるが、こうした潤いが、入居者の心を落ち着かせてくれる。

また、戦前から続いた銭湯「梅の湯」の跡地という特性を生かし、地域の方も利用できるデイサービスを併設。浴室には大きな富士山を描いたり、地下水を風呂に活用し、昔ながらの「梅の湯」の名残を大切にしたのだとか。

「ナーシングホームOASIS」は、コンセプトや地域への敬意が、設計の随所に表れた実例の一つ。他の施設との差別化を図るために、このような特色あふれる住宅が増えているそうだ。

高齢者住宅のプロに聞く、終の棲家の選び方

株式会社ニコムでは、全国の高齢者向け施設や住宅のコンサルティングから設計まで行っている。設計室次長、藤嶋三也さんは、日本初の耐火木造ツーバイフォー工法での高齢者施設を手がけた株式会社ニコムでは、全国の高齢者向け施設や住宅のコンサルティングから設計まで行っている。設計室次長、藤嶋三也さんは、日本初の耐火木造ツーバイフォー工法での高齢者施設を手がけた

個性も費用もジャンルも多様化する、高齢者向けの住まい。藤嶋さんに、自分に合った老後の住まいを選ぶポイントを聞いてみた。

「ホームの特長は千差万別なので、ここで判断すべし!という共通の定義を述べるのは難しいですね。自分に合うかどうかは、最終的には“直感”が大事だと思います」(藤嶋さん)

サービスや費用面をチェックするのはもちろんだが、
「友達が多いから今の家の近くがいい」「退院後に即入居したいので、医療対応が充実しているところ」「スタッフと相性が合う」など、個人の状況や価値観に拠るところが大きいのだとか。
まさに、マイホーム探しと同じである!

「はっきりと言えるのは、介護保険制度は財政不足だということ。老後の暮らしは、国が何とかしてくれると考えずに、自分の身は自分で守ることが大事ですね」と、穏やかな微笑みをたたえつつ、甘えのないアドバイスをいただいた。

元気なうちから幅広く情報収集をしておくこと、そして、年金頼みではなく、ある程度資金の心づもりをしておくことが、より自由に“終の棲家”を選ぶ秘訣と言えそうだ。

2014年 05月13日 11時18分