昭和62(1987)年から「まちづくり」に注力してきた札幌の会社

左)ノーザンクロス 宮永和可子さん 右)さっぽろ下町づくり社 近藤洋介さん左)ノーザンクロス 宮永和可子さん 右)さっぽろ下町づくり社 近藤洋介さん

少子高齢化、都市部への一極集中が課題となり、まちづくりを含めた地方の活性化や地域創生について語られることが多くなった。

高度経済成長期には、インフラの整備などにフォーカスされていたまち計画であったが、今では「子育てのしやすいまち」「高齢者が輝けるまち」など、地域の人々のコミュニティや暮らしまで視野に入れたまちづくりが行われている。また、その取り組みは地方行政だけが行うのではなく、民間会社も含めた取り組みが増えてきている現状だ。

そんな中、札幌に昭和62(1987)年から「総合まちづくり業」として、まちづくりに関わってきた会社がある。経営理念は、
・地域に根ざし、地域と連携し、地域のまちづくりに貢献できる「まちづくり会社」として行動する
・まちづくりに取組む人材、組織、地域をつなげるプラットフォームとしての役割を果たす
・自ら新たなまちづくり事業、まち経営事業を開拓するローカルベンチャーとしての成長をめざす
というもの。

今回、札幌に拠点を置く株式会社ノーザンクロスにうかがって、その取り組みのひとつである札幌創成東地区での取り組みを都市政策事業部の近藤さんに、地下道を活用したマルシェの様子を宮永さんにお話を聞いてきた。

まちづくり会社が、あえて別で立ち上げた『さっぽろ下町づくり社』

総合まちづくり業であるノーザンクロスの事業は幅広い。
再開発事業のコーディネートや都市再生プロジェクトの計画・公民協働型のまちづくり事業企画を行う「都市再生まちづくり事業」のほか、中心市街地のリノベーション事業などを行う「タウンマネジメント事業」、地方再生に関する調査研究などを行う「シンクタンク事業」、地域遺産の保全・活用事業「地域遺産トラスト事業」、北海道の魅力や地域企業のプロモーションを行う「出版・プロモーション事業」、自治体やまちづくり団体の活動支援を行う「まちづくり連携事業」などを事業としている。
その活動の中で、より地域とまちづくりのハブとして機能することに注力し、立ち上げた会社がある。札幌・創成東地区のまちづくりを推進する「さっぽろ下町づくり社」だ。

「さっぽろ下町づくり社は、2014年12月から創成東地区のまちづくりのため札幌市主催で地区の若手を中心に勉強会を発足したことに始まります。それが、2016年3月にプロジェクト化して活動をつづけていたのですが、それが2017年さっぽろ下町づくり社として新たにスタートしました」と近藤さん。

あえて、多くのまちづくりのサポートを行うノーザンクロス内ではなく、別会社にしたのはどういった思いからだったのだろうか。

近藤さんは「数々の事例に関わってきて、まちづくりは特に地域の中での持続力や自走・自給力を育てていくことが肝だと思っています。外からやってきて、意見だけを述べる存在にならないように、また、お手伝い・サポートだけということでなく、しっかりと責任と人格をもって活動できるようにしたほうが成果もスピードも速くなる、と感じていました。“信頼される人格をもったまちづくり”を行うために、あえて法人化をしたのです」という。

写真左)「まちづくりフォーラム」の様子 写真右上)「創生東地区プレイスメイキング研究会」の様子</br>写真右下)ディスカッションでは、さまざまなアイディアが検討された写真左)「まちづくりフォーラム」の様子 写真右上)「創生東地区プレイスメイキング研究会」の様子
写真右下)ディスカッションでは、さまざまなアイディアが検討された

ものづくりのまち、札幌・創成東地区

札幌の創成東地区は、かつてはサッポロビールの「札幌第一工場」(※現在は、再開発されサッポロファクトリーとなっている)をはじめ、多くの町工場や倉庫などが立ち並ぶ「ものづくりの街」だったという。しかし、小さな工場は少子高齢化のあおりをうけ、後継者がおらず、放置されたり、土地を売却する例が増えてきたのだ。

「新たにマンションが建設されるなど、開発は進む中において、より創成東地区らしい街の魅力や活力を高め魅力あるエリアにすることが必要だと思いました。一過性でなく、歴史も文化も含めて愛され、今後もつづいていくまちづくりを、という目的がありました」(近藤さん)

基本コンセプトは3つ。地域の人々のつながりや行事を大切にした「都心の“下町らしいつながり”づくり」、安全・安心で子どもからお年寄りまで笑顔で暮らせる「“あかるいまち”づくり」、暮らしの魅力・働く魅力や街の資産の有効活用とチャレンジを進める「“まちとのつながり”づくり」だ。

活動は、マルシェやリノベ塾などの魅力発信事業・街歩きツアーなどのつながりづくり事業、祭事参加などの価値継承事業、HPやSNSを含めた情報発信事業などを行っている。

情報発信事業ではポータルサイトの「さっぽろ下町まちしるべ」では、まちの催しやお店紹介だけでなく、まちの歩みやまちの人々などのコンテンツが並ぶ。
「魅力あるまちの文化や性格や想いが見えるまちづくりをすれば、住んでいる人々は改めてまちを見直し誇れるきっかけになると思いますし、これから住もうと思う人はそういったまちの温かさを感じて新たなことへの挑戦にも積極的になれるのではないか、と感じています」と、近藤さん。

2019年には空間と居場所を考えるプレイスメイキング研究会を発足。実際に実証実験として、木製ベンチや移動式屋台の設置などを行い、まちの動きを創る「まちのリビング」の取り組みを行った。「実証実験の効果検証を含めて、これからの動きにつなげていきたいと思っています」と近藤さんはいう。

この「ヒトとマチをつなぐ」取り組みで、古い建物をリノベーションしたお店やカフェも増え、魅力ある地域になりつつあるという。実際に創成東地区は、札幌市が「第2次都市まちづくり計画」のターゲットエリアとしたことも後押しし、その利便性や暮らしから人口が増加している。

写真左)まちの動きを創る取り組み「まちのリビング」写真右上)設置された木製ベンチでのんびりと休む人も</br>写真右下)北海道神宮頓宮の協力も得て「さっぽろ下町マルシェ」も開催写真左)まちの動きを創る取り組み「まちのリビング」写真右上)設置された木製ベンチでのんびりと休む人も
写真右下)北海道神宮頓宮の協力も得て「さっぽろ下町マルシェ」も開催

北海道のつくり手とつかい手をつなぐマルシェ「kurache'(クラシェ)」

ところで、株式会社ノーザンクロスでは都市公共空間の活用マネジメント事業も行っている。2013年から行っているマルシェ「kurache'(クラシェ)」もそのひとつ。
札幌地下道の歩行空間をつかって、北海道のつくり手とつかい手をつなぐマルシェ形式のPR・販売イベントだ。開催回ごとにテーマを設定して、北海道各地から良質なものをあつめる。

担当の宮永さんは、
「こだわりを持った北海道のつくり手とつかい手をつなげたい、というのが主な趣旨です。でも、それだけではなく、公共空間で行うこのイベントが魅力的なイベントのモデルとなることも目的のひとつなんです。このマルシェを通じて、出店者の方々にはひとつの学ぶ機会としていただきたい、と店頭販売の並べ方から服装などにも気を使ってサポートをしています」という。

マルシェが開催された時の写真を拝見すると、販売する人は白いシャツに黒いエプロンなど統一感がある。また、手書きのあたたかみのあるポップや見やすくディスプレイされた商品棚、商品を使うシーンを思わせる演出(コーヒー販売に洋書などを置くなど)の工夫がされている。全体がひとつのおしゃれな空間をつくりだし、地下道がひとつのマルシェとなっている。このマルシェのノウハウは創成東地区でのイベントでも生かされているようだ。

「マルシェだけでなく、北海道の特産をつかった商品開発もはじめました。札幌の都心で採蜜された希少な蜂蜜をつかってつくった『さっぱち蜂蜜生キャラメル』も企画から生まれた商品です」と宮永さん。

ものづくりの街が継承する新たな創成東地区のまちづくり、そして地域の特色を生かしたものを通じてつくり手とつかい手をつなげていく取り組み。今回の取材で、地道だけれども地域に向き合い、一つ一つのまちとものの特色を見逃さず、時間をかけて話し合い、つづけていく動きこそがまちの人々の暮らしを主体的につくるまちづくりだと感じた。

写真左)札幌の地下道「チカホ」を利用した賑わいのモデルケースとして開催されているマルシェ「kurache'(クラシェ)」</br>写真右上)つくり手とつかい手をつなぐための商品のディスプレイにもこだわる</br>写真右下)札幌都心で採蜜された希少な「さっぱち蜂蜜」と北海道産の生クリームなどでつくられた「さっぱち蜂蜜生キャラメル」写真左)札幌の地下道「チカホ」を利用した賑わいのモデルケースとして開催されているマルシェ「kurache'(クラシェ)」
写真右上)つくり手とつかい手をつなぐための商品のディスプレイにもこだわる
写真右下)札幌都心で採蜜された希少な「さっぱち蜂蜜」と北海道産の生クリームなどでつくられた「さっぱち蜂蜜生キャラメル」

2019年 10月07日 11時00分