忍者体験から創造性をはぐくみたいと始めた忍者教室

近年、外国人観光客に人気の高い、伏見稲荷大社。そのそばに忍者体験ができる施設がオープンしたので、取材してきた。
主催のハイ・パートナーズ株式会社は、外国語を専門とするデザイン事務所で、代表取締役の辻村博志氏が中国にいたとき、海外の人たちが日本にはまだ忍者がいると考えていることに気づいた。だから、外国人向けのコンテンツを計画するとき、忍者を思い出したのだそうだ。

しかし、まずは日本人に、忍者について知ってもらいたいと考えた。そこで2013年に、子供向けの忍者教室「ジャカジャカ忍者」をスタート。体を動かしながら、非日常の体験をすることで、創造性をはぐくむのが主な目的だ。

「子供たちに『なぜ忍者になりたいの?』と尋ねると、『敵を倒したいから』とか、『毒を作りたいから』などという答えが返ってくることも多いんです。それだけを聞くと、危険な思想のように感じるかもしれませんが、そうではありません。奥底には子供なりの使命感や、化学への興味がありますから、それを引き出せれば面白い発想が生まれるのです」と、辻村氏。
忍者の装束を身につけるだけでも、自分の殻を破ったように生き生きとする子供も多いのだとか。

掛け軸の裏にある隠し部屋を見せる、ハイ・パートナーズ株式会社代表取締役の辻村博志氏掛け軸の裏にある隠し部屋を見せる、ハイ・パートナーズ株式会社代表取締役の辻村博志氏

忍者技術を学びながら、地元を知ってもらう活動も

忍者の道具。横笛のように見えるのは吹き矢だ忍者の道具。横笛のように見えるのは吹き矢だ

忍者教室の講師を務める忍者チームは、殺陣のできる役者やパフォーマーたち。手裏剣や吹き矢のほか、忍び足の練習や刀の使い方など、忍術全般を教えてくれる。
「忍者といえば、ドロンと消えてしまうといった超人的な技の印象が強いのですが、実際はさまざまな修行があります。たとえば、肌の部分を隠して小さく丸まり岩のように見せる『うずら隠れ』など。地味な技でも、子供たちは面白がってくれます」と、辻村氏。
猫の目を見て時間を知る方法などの座学もある。時計のなかった時代、どうやって時間を知ったのか学ぶことで、自然に興味をもつきっかけにもなるそうだ。

屋内スペースを使った教室だけでなく、商店街でクイズ形式のラリーを開催することも。忍者のように情報を集める楽しさがあるだけでなく、自分の住むまちを知るきっかけになるという。子供たちが忍者教室で学んだことを話すので、家族もまちに興味を持つようになるそうだ。

2016年10月、忍者堂オープン

押入れの縄ばしごで上がったところにある中二階から、忍者の人形が覗いている押入れの縄ばしごで上がったところにある中二階から、忍者の人形が覗いている

2016年10月、伏見にオープンした忍者堂は、土・日・祝日限定で忍者体験を開催しており、予約が必要だ。年代を感じる建物の内部には、掛け軸の裏にある隠し部屋や、忍者が潜める中二階など、忍者屋敷らしい仕掛けがある。押し入れの中には縄ばしごがあり、中二階の隙間から忍者人形も覗いている。
忍者体験では、忍者の装束に着替えて、手裏剣や忍び刀、吹き矢の使い方を学んだあと、私服に着替えずにまちを散策することもできる。伏見稲荷大社まで徒歩10分ほどなので、忍者の姿で参拝しても楽しそうだ。

また、辻村氏は忍者チームだけでなく古墳チームももっているので、たとえば古墳時代の戦士と侍、そして忍者それぞれで違う構えをするといった事を意識している。
「派手なパフォーマンスだけでなく、忍者道具や忍者の生活なども伝えていきたいと考えています。たとえば、作物の育ちにくい地域に住む人たちが、生きていくために忍者になることも多く、半農半忍者も多かったのです。だから、鎌などの農具が忍者道具になっているのだとわかれば、農民の生活にも興味がわくのではないでしょうか」と、辻村氏が語るように、忍者を入り口に日本の歴史や文化にも興味を持ってもらえるのかもしれない。

オープンしたばかりで、外国語のサイトができていないため、忍者体験の利用者はまだ少ないが、平日はレンタルスペースとして貸し出しており、時代劇のワークショップなどが開かれている。落語会や和文化全般を学ぶ場として提供できれば、それぞれとのつながりができる、と期待しているそうだ。

幅広い国や宗教に対応

忍者といえば、ハリウッド映画に登場するなど、欧米で有名なイメージがあるが、アジアや中東でも人気があるそうだ。たとえば、中東には忍者教室がある。忍者教室といっても、拳法や古武術を教えている教室が多く、武士道の精神を学ぶ人や、護身術を学びにくる女性も多いのだとか。

辻村氏はNPO法人関西アジア人協会の理事も務めており、大阪近辺在住のアジア人との交流があるが、漫画などの影響もあってか、忍者を知っている人は多いそうだ。また、忍者堂のFacebookを立ち上げたところ、海外からの『いいね』が多くつき、さまざまな国や、宗教の人たちが忍者に興味を持っていることがわかったという。

そこで、少しでも多くの利用者を呼び込むため、ムスリムの礼拝用マットや、メッカの方向を知るためのコンパスも用意。グローバライズされてきているとはいえ、伏見周辺で礼拝できるスペースは少なく、館内に人がいるときなら入館料500円で利用できるので、気軽に礼拝に訪れてほしいという。

これからどのような展開になるかは未知数だが、今後も、毎月殺陣の特別講師から学ぶなどして忍者チームのスキルアップに努めるほか、日本忍者協議会のミーティングに参加するなどして、忍者の認知度をあげる方法について考えていくという。

忍者は超人的なヒーローだと認識している人は少なくないだろう。しかしその実態を知ってみると、普通の人々が生活のために忍者をしていたこともわかってくる。そして当時の日本の生活や歴史までが見えてくるものだ。

現在、日本の文化は海外にも徐々に知られつつあるが、忍者を通じて、さらにその奥深さが認知されることに期待したい。

参考:忍者堂 http://ninjado.jp/

忍者堂の内部。平日はレンタルスペースとして使われており、時代劇のワークショップなどが開かれている忍者堂の内部。平日はレンタルスペースとして使われており、時代劇のワークショップなどが開かれている

2016年 12月30日 11時00分