隅田川沿いに位置する日本橋浜町。水と緑に恵まれ下町情緒が残る

東京都中央区には、町名に「日本橋」と付く町が21ある。そのうち「日本橋浜町(はまちょう/以下、浜町)」は、日本橋地区の端っこに当たる、隅田川に面した町だ。区内最大の浜町公園を擁し、都心の割に緑も多い。
細かな町割りが残り、下町情緒が漂う一方で、「伝統に凝り固まることなく、外から新しく入ってきた人も、おおらかに受け入れてくれる土地柄です」と、安田不動産株式会社の平田吉史さんは言う。安田不動産は古くから、この浜町のまちづくりに携わってきた。

同社HPの解説によれば、浜町は、徳川家康が江戸幕府を開いた1603年に、神田山(現在の駿河台)を切り崩し、埋め立ててつくった陸地の一部という。江戸時代には武家地と町地が混在するエリアだった。明治に入って浜町が旧日本橋区に組み入れられ、「日本橋浜町」となってからも、長く大名屋敷や花街が残っていたそうだ。

旧安田財閥の創始者・安田善次郎は、この浜町に注目し、小口の土地を少しずつ手に入れることから始めて、ついには島津家や細川家の屋敷があった広大な土地を取得した。安田不動産はその旧安田財閥の流れを汲む会社で、浜町一帯の土地を引き継いでいる。浜町にとっては「まちの大家さん」のような不動産会社だ。
浜町三丁目にある大型複合ビル「日本橋浜町Fタワー」「日本橋安田スカイゲート」「トルナーレ日本橋浜町」は、いずれも安田不動産が開発・運営に携わっている。

そして近年、安田不動産は浜町に点在する40~100m2ほどの小さな遊休地や空き家の活用に乗り出した。個性ある蕎麦屋やフレンチバル、ブックカフェや雑貨ショップなどのユニークなテナントを呼び込んで、まちの魅力向上を狙う。

左上/日本橋浜町Fタワー(1997年) 右上/日本橋安田スカイゲート(2003年) 左下/トルナーレ日本橋浜町(2005年)</br>(以上3点の写真提供:安田不動産) 右下/日本橋浜町の街並み。比較的低層の建物が多く、戸建てもある左上/日本橋浜町Fタワー(1997年) 右上/日本橋安田スカイゲート(2003年) 左下/トルナーレ日本橋浜町(2005年)
(以上3点の写真提供:安田不動産) 右下/日本橋浜町の街並み。比較的低層の建物が多く、戸建てもある

まちに点在する小さな遊休地や空き家に魅力ある店舗を呼び込む

安田不動産がこうした小さな遊休物件の活用に取り組むようになったのは、2015年頃のことだ。1997年に竣工した「日本橋浜町Fタワー」が築20年を迎えようとし、運営するオフィスビル群に空きが出始めた。いかに日本橋地区とはいえ、交通の便では「大丸有(大手町・丸の内・有楽町)」に及ばない。

「ビル単体のスペックを上げることはできても、アクセスは変えることができません」と前出の平田さん。
「大丸有や八重洲、京橋とは違う、浜町ならではの個性を引き出し、差別化を図ることで、ここで働く人、住んでいる人に、浜町を好きになってもらいたいと考えたのです」。

浜町には、それを可能にするポテンシャルがあった。オフィスビルだけでなく、周辺にはマンションや戸建て住宅もある。日本橋地区で、最も居住人口が多いという。町の中心には地域住民が大切に祀る「濱町神社」が鎮座し、町会や商店会などを通した地域コミュニティも保たれていた。

新たなまちづくりのコンセプトは、“「手しごと」と「緑」のみえるまち”。

「手しごと、とは、手間ひまかけるというニュアンスです。例えば、職人が蕎麦を打つ姿が見えて、そこで会話が生まれるようなシチュエーションを、町の至るところにつくっていく。それが、愛されるまちづくりにつながると考えています」。

左上/トルナーレ日本橋浜町の前にある「濱町神社」 右上/2年に1度の神田祭(撮影:山﨑瑠惟)</br>下左/蕎麦屋「浜町かねこ」。神楽坂の名店で修業した店主が2015年に開業 下中/2016年にオープンした立ち呑みフレンチビストロ「富士屋本店 日本橋浜町」 下右/讃岐うどんの店「谷や 和」も2016年にオープン(下3点の写真提供:安田不動産)左上/トルナーレ日本橋浜町の前にある「濱町神社」 右上/2年に1度の神田祭(撮影:山﨑瑠惟)
下左/蕎麦屋「浜町かねこ」。神楽坂の名店で修業した店主が2015年に開業 下中/2016年にオープンした立ち呑みフレンチビストロ「富士屋本店 日本橋浜町」 下右/讃岐うどんの店「谷や 和」も2016年にオープン(下3点の写真提供:安田不動産)

パリ発のステーショナリー・ショップの隣は公民館のようなブックカフェ

2015年8月にオープンした蕎麦屋「浜町かねこ」は、もとは駐車場だった場所。次いで、かつての駐輪場がフレンチバル「富士屋本店 日本橋浜町」に、元社員寮がうどん屋「谷や 和」に生まれ変わった。

街角のおしゃれなステーショナリー・ショップはパリ発祥の「PAPIER TIGRE(パピエ ティグル)」。築50年以上経つ木造2階建てをリノベーションした「HAMA1961」の1階に入居している。
その隣に新築された「Hama House」は道路面の半分がガラス張りの開放的な建物で、1階は書店兼カフェ、2階はキッチンのあるミーティングスペース、3階はスモールオフィスになっている。

「Hama Houseは、浜町の“公民館”のような位置づけです。1階のブックカフェは、飲食しなくても本を眺めにぶらりと立ち寄れる場所。ここでは月に1度、地域で働く人や住民が自由に参加できる交流会が開かれます」(平田さん)。

2017年10月には、安田不動産はじめ地元企業、町会や商店会などが集まって、まちの課題を共に考え、魅力向上に取り組む「浜町を盛り上げる会」を設立した。

左上/2017年改修の「HAMA1961」。1階に「PAPIER TIGRE」がある 右上/「トルナーレ日本橋浜町」前広場で開かれる「浜町マルシェ」の様子 左下/「HAMA1961」と同時期に新築した「Hama House」。ここでは、交流会(右下写真、HAMACHO.JPより)や、浜町在住の落語家・三遊亭楽生さんによる“浜町寄席”が開かれる(右下以外写真提供:安田不動産)左上/2017年改修の「HAMA1961」。1階に「PAPIER TIGRE」がある 右上/「トルナーレ日本橋浜町」前広場で開かれる「浜町マルシェ」の様子 左下/「HAMA1961」と同時期に新築した「Hama House」。ここでは、交流会(右下写真、HAMACHO.JPより)や、浜町在住の落語家・三遊亭楽生さんによる“浜町寄席”が開かれる(右下以外写真提供:安田不動産)

ホテルとソーシャルアパートメント開業。多様な住人と来訪者が行き交う街に

2019年に入り、浜町のメインストリート・清洲橋通りに、2つの新たな複合ビルがオープンした。

ひとつは「HAMACHO HOTEL&APARTMENTS」。建物の周囲はもとより、各階のテラスにも多彩な植栽が施された、緑あふれる外観が目をひく。1階には「街のダイニング」がコンセプトのダイニング&バー「SESSiON」と、チョコレートをつくる様子が見られるショップ&カフェ「nel CRAFT CHOCOLATE TOKYO」が入居した。2階以上は170室のホテルと108戸の賃貸住宅だ。

「採算性を優先すれば、全戸賃貸住宅にしたほうがいいかもしれない。しかし、それでは誰もが立ち寄れる場所ではなくなります。街にとって何がプラスになるかと議論を重ねた結果、ホテルを誘致することになりました。国内外からのお客さんが行き交うようになれば、もっと街に活気が生まれるでしょう」(平田さん)。

もうひとつは、ソーシャルアパートメント「WAVES日本橋浜町」。ソーシャルアパートメントとは、キッチンやリビングスペースを共用し、住人コミュニティーの形成を促す賃貸住宅だ。「WAVES日本橋浜町」は、その共用ラウンジを最上階にあたる13階・14階の2フロアに設けているのが特徴で、遠く東京タワーまで開けた眺望が楽しめる。オープンキッチンや広々としたルーフテラスを備え、住人同士の交流を誘う。一方、居室は全室トイレ・シャワールーム付きでプライバシーが確保されている。3月の開業と同時に、全54室が満室になったそうだ。

左上/「HAMACHO HOTEL&APARTMENTS」外観。豊かな緑が目をひく 右上/ホテル2階にある「TOKYO CRAFT ROOM」。国内外のデザイナーが日本各地のクラフトのつくり手とコラボしたさまざまなアイテムを設置し、訪れる人に使ってもらって発信する場所。宿泊も可能だ 左下/「WAVES日本橋浜町」。1階には江古田の人気ベーカリー「Boulangerie Django」がオープンした 右下/「WAVES日本橋浜町」14階のラウンジ。テラスと一体に使えるアイランドキッチンが設けられている<br />(写真はすべて撮影:ナカサ&パートナーズ)左上/「HAMACHO HOTEL&APARTMENTS」外観。豊かな緑が目をひく 右上/ホテル2階にある「TOKYO CRAFT ROOM」。国内外のデザイナーが日本各地のクラフトのつくり手とコラボしたさまざまなアイテムを設置し、訪れる人に使ってもらって発信する場所。宿泊も可能だ 左下/「WAVES日本橋浜町」。1階には江古田の人気ベーカリー「Boulangerie Django」がオープンした 右下/「WAVES日本橋浜町」14階のラウンジ。テラスと一体に使えるアイランドキッチンが設けられている
(写真はすべて撮影:ナカサ&パートナーズ)

マルシェやハロウィン、盆踊り、神田祭など街の内外を巻き込むイベントも

浜町では、3ヶ月に1度「浜町マルシェ」が開かれるほか、防災フェスティバルや商店会によるハロウィンまつり、町会主催の盆踊りなど、四季折々のイベントが活発に行われている。2年に一度の神田祭には、各町会が氏子として御神輿や山車を出すそうだ。

こうしたイベント情報は「浜町を盛り上げる会」の「HAMACHO.JP」WebサイトやSNS、地域情報誌「BRIDGE」でまとめて発信されている。また、優待付きの「サービスパス」を発行し、交流会への参加や地元店舗の利用を促す。ハードの開発に留まらない、まちの内外の人を巻き込んで交流と活気を生む仕掛けで、浜町の未来を開いていく。
 
HAMACHO.JP http://hamacho.jp/

安田不動産による日本橋浜町の再開発マップ。今後も改修や新築の予定が控えているそうだ(資料:安田不動産)安田不動産による日本橋浜町の再開発マップ。今後も改修や新築の予定が控えているそうだ(資料:安田不動産)

2019年 06月14日 11時05分