容易に民泊を行えることが盛り込まれた規制改革実施計画が閣議決定

最近なにかと耳にする機会が多い民泊。個人宅、もしくは個人の所有する不動産に旅行者などを有料で宿泊させる仕組みのことだ。2020年の東京五輪へ向けて、今後不足すると見られる訪日外国人旅行者の宿泊施設の確保や空き家の有効活用、地方活性化など様々なメリットが期待されている。

とはいえ、現在民泊を合法的に行うには旅館業法上の許可を得るか、または国家戦略特区内での営業しか選択肢はない。前者は用途地域や消防法、建築基準法などの厳しい制約があり、後者は今のところ全国で東京都大田区と大阪府(政令指定都市および中核都市の37市町村)の二地域しかなく、さらに滞在日数が6泊7日以上という条件もある。したがって、民泊は誰でも気軽に行えるという状況ではないのだ。

そこで政府は、6月2日(2016年)、年間営業日数を180日以下とすることを条件に、容易に民泊を行えることを盛り込んだ規制改革実施計画を閣議決定した。旅館業のような許可制ではなく、インターネットによる届出制で民泊の開業が可能になる。早ければ2017年度中に、いわゆる「民泊新法」が施行される。

年々増加傾向にある民泊に関する苦情

今回の「民泊新法」の施行により、ホテルの空室探しに苦労する旅行者、空き部屋を持て余す家主、観光客を呼び込みたい地方は救われるのか。

事態はそう単純ではないようだ。大きな問題の一つが周辺住民の不安だ。海外からの観光客が数多く訪れる東京都新宿区の保健所衛生課の資料によると、民泊に関する苦情件数は以下のように推移している。

【新宿区における民泊に関する苦情件数】
2013年度:3件
2014年度:6件
2015年度:49件(2015年12月末現在)

年々増加し、特に昨年の件数は飛び抜けて多い。
また、資料には、おもな苦情内容として次のような事例が紹介されている。

● 見知らぬ外国人が短期(数日以内)に出入りし、常に不安である
● 深夜のドア開閉や共用部分での雑談など昼夜を問わず騒音が絶えない
● 本人居住の入居契約や住居目的以外は禁止の管理組合の規定に違反している
● ゴミを分別せず退室日に出すことや、どこでも喫煙するなど生活ルール違反

なかには、ナイフを持った外国人宿泊者が自宅敷地に入ってきて木を切っていた、という深刻な事例もあった。

同区は「民泊に関する苦情が増加しており、近隣住民とのトラブルのほかにも、感染症への対応、テロリスト潜伏、違法薬物の取引などに対して大きな危機感を持っている」としている。

新宿区保健所に寄せられた深刻な苦情例。警察沙汰になることもある(出典:国土交通省資料)新宿区保健所に寄せられた深刻な苦情例。警察沙汰になることもある(出典:国土交通省資料)

観光立国フランスではテロリストの潜伏先にも

民泊は、実際にテロリストの潜伏先として利用された事例なども報告されている。3月17日(2016年)、世界でも有数の観光立国であるフランスのホテル&レストラン関連業界団体が、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会に招かれ基調講演を行った。そこでは次のようなコメントがあった。

「アパートなどの所有者が、より利益の上がる民泊営業に物件を回したため、パリ市内の家賃相場は数年で急上昇していきました。民泊物件へ回すために賃貸契約の約25%が契約更新されず、住人は住居を失い高額な物件を探してやむなく賃貸し直すか、郊外へと引っ越しを余儀なくされた。特に観光客が多い地域では、住民が減り学級閉鎖に陥る学校も出ています」

「パリ同時多発テロ(現地時間2015年11月13日)でパリはもちろん、フランス全土が体験したことがない程の大きな悲しみに包まれ揺れました。あれだけの落胆と憔悴をフランス国民が味わった中、我々は鬼の首でも取ったかのように、そらみたことか、テロに民泊が使用されたとその部分をことさらに強調して抜き出し声高に訴えることはしませんでした。フランスの多くのマスコミもそうでした。それから我々も、政府の民泊推進・容認、制限付き容認、民泊反対派などと、多くの交渉チャンネルとしてのパイプは持っていなければならない。それらを失わずに今後も言うべきは言い、活動と交渉をしていかなければならないということでご了承いただきたい」

民泊を認めない自治体やマンションも

様々なメリットがある民泊。しかし、そのデメリットも顕在化している。この二つを天秤にかけ、地域またはマンションとして一切認めない方針を選んだケースもある。

長野県の軽井沢町では、民泊を町内全体で認めない方針を打ち出している。ハイクラスなリゾート地として知られる同町は民泊禁止の理由について、「騒音や風紀の乱れを防ぎ、良好な環境の保持を最優先する必要がある」としている。

しかし、今のところ民泊に関する旅館業法の許認可権は長野県にある。市町村の方針に強制力はないものの、民泊新法施行後は、各自治体の条例によって民泊を禁止することもできるようになるとされているので、今後の同町の動きに注目したい。

また、マンションの場合は、共用部分にスポーツジムや大浴場などを備えている例もある。維持費は所有者が支払う管理費から捻出するので、民泊の宿泊者が自由に利用していたら不快に感じる人も多いだろう。このような背景もあり、マンションでは管理規約によって民泊を禁止する事例もある。管理規約は各戸の所有者だけでなく、賃借人も守らなければならないルールだ。ここに「部屋を宿泊施設として使用してはいけない」といった一文を入れることで民泊を禁止するケースも出てきた。

軽井沢町のホームページ。民泊禁止を明言している軽井沢町のホームページ。民泊禁止を明言している

民泊新法施行後の苦情受付窓口は未定

このように民泊を受け入れない方法はあるものの、国の姿勢は前向きだ。今後は自宅周辺のマンションなどが、突然民泊をはじめる可能性も十分あり得るだろう。仮に騒音などに対する苦情を言いたくなった場合、現状はどこに相談すればよいのだろうか。

現在、旅館業を監督しているのは厚生労働省だ。しかし、実情は無許可の民泊が多く、これには各自治体の保健所が窓口となり行政指導をする。また、観光都市である京都市では、7月13日(2016年)に「民泊通報・相談窓口」を開設した。自治体が民泊周辺住民の苦情を電話やメールで受け付ける全国初の試みだ。

民泊は、訪日外国人観光客の宿泊施設の受け皿としての役割や、空き部屋、空き家の有効活用など多くのメリットが期待される一方、民泊新法施行後の所轄官庁が2016年7月現在で未定など、まだまだ法整備が進んでいるとはいえない。
リスク管理が後回しになってしまっている現状に対し、規制を緩和することによって得られるメリット、およびリスクなどを総合的且つ、早急に検討されることを期待したい。

京都市では7月13日より民泊に関する相談、苦情受付を電話・FAX・メールで行っている京都市では7月13日より民泊に関する相談、苦情受付を電話・FAX・メールで行っている

2016年 08月11日 11時00分