日本橋の老舗企業×新興企業の面白さ

ワーカーと地域をつなぐ「アサゲ・ニホンバシ」。毎回立ち見がでるほどの盛況な「朝活」イベント。49回目のこの日も120名からの参加者が詰めかけたワーカーと地域をつなぐ「アサゲ・ニホンバシ」。毎回立ち見がでるほどの盛況な「朝活」イベント。49回目のこの日も120名からの参加者が詰めかけた

名だたる老舗が今も暖簾を守る街「日本橋」。ここで毎月、朝の7時45分から開催されているイベントがある。その名も「アサゲ・ニホンバシ」だ。

これは、「働く場所を、第2の地元に。」をテーマに、日本橋ワーカーを対象に行われる朝活イベントだ。毎回、出社前の1時間に日本橋にまつわる朝ごはんを食べながら、日本橋の老舗企業×新興企業の2人のゲストスピーカーの話が聞ける。

「マエヒャク(前の100年)」と題した老舗企業のスピーカーには、元禄12年(1699年)創業「株式会社にんべん」13代目就任予定の髙津克幸社長を皮切りに、江戸町火消し い組「株式会社小泉組」の小泉太郎会長などこれまで数々の“100年企業”が登壇。

この地で新しい事業を起こす「アトヒャク(後の100年)」にも、日本橋が創業オフィスとなった「東京R不動産」仕掛け人の馬場正尊氏ほか、日本橋横山町の旧問屋ビルをリノベーションし、ホステル施設などを展開する「株式会社R.project」代表取締役の丹埜 倫氏など興味深い面々がマイクを握る。

ビジネスのヒントにもなる新旧2つのお話を聞きながら、おいしい朝餉を堪能し異業種交流までできるとあって、毎回参加者は立ち見が出るほどの盛況ぶりだ。

ワーカーと地域をつなぐという、ありそうでなかなかない発想の地域活性「アサゲ・ニホンバシ」。今回はこのイベントの発起人であり、運営を行う「特定非営利活動法人 日本橋フレンド」川路 武代表にお話をうかがった。

働く人間に街は優しくない?

「アサゲ・ニホンバシ」の発起人であり、運営を行う「特定非営利活動法人 日本橋フレンド」の代表川路 武氏。実は三井不動産株式会社ビルディング本部・法人営業グループの統括者である「アサゲ・ニホンバシ」の発起人であり、運営を行う「特定非営利活動法人 日本橋フレンド」の代表川路 武氏。実は三井不動産株式会社ビルディング本部・法人営業グループの統括者である

そもそもアサゲ・ニホンバシのきっかけとなったのは「父親に日本橋の案内を頼まれたこと」という川路氏。ビジネスマンとして日本橋に10年以上通い続けていながら、まったく日本橋を案内できない自分に驚いたという。

「月曜日から金曜日まで、40~50時間は日本橋の街に居るわけです。なのにまったく何も知らない。街とコミュニケーションを取ろうにも大抵のイベントは土日に開催されるものばかり。働いている人間には響かない。本当なら働いている人と街との関係性はもっと大きいはず」

そんなことを考えていた時に、川路氏はある人の一言に背中を押された。有志で行っていた勉強会のゲストに来てくれていた森 摂氏。環境とCSRの両方を前面に掲げる雑誌『alterna ――オルタナ』の編集長その人だ。森氏が語ったのは「会社員が創業地を好きになることに理由はいらない」という面白い言葉だった。

「『創業地というのは、企業の起源であり、理念を感じる場所。その会社に勤める者なら、自分の会社がそこで生まれたことをきちんと感じるべき。じゃなきゃローカライズなんて生まれない。理由なく創業地は好きであるべきだし、三越だって、今半だって創業地は一緒なんだ』そう言われたんですよね。ああ、後押しされたなと思いました」

それならば、と。「飲み会」を企画しようと思ったが、勉強会メンバーの日程を合わせると朝しか空いていない。そのうち、参加者をもっと集めれば地元の名士の方にも来ていただけるのではないかと「イベント型朝活」の形を思いついた。どうせなら、老舗の方とベンチャーを合わせ新旧の融合の形で街を知ってみたい。それが「アサゲ・ニホンバシ」の始まりだという。

「どうせやり始めたのだから100回は続けよう」。この言葉通り、月1回のペースを守り、7月で記念すべき50回を迎える。

「出社前の限られた時間」に巻き起こる熱気

なぜ、「アサゲ・ニホンバシ」がこれだけ人気なのか。実際にイベントに参加してみるとなるほど、リピーターが多いのにも納得。とにかく熱気がただ事ではない。

会場となるのは開店前の「日本橋WIRED CAFE NEWS」。多くの人が7時30分の開場と同時に雪崩込んでいく。なにせイベントは1時間しかない。遅刻は厳禁だ。

第49回目(2016年6月17日)だったこの日は、音楽隊が爽やかな音色でお出迎えをしてくれた。いよいよスタートとなると、まずは同じテーブルに座った参加者同士で1人7秒間の持ち時間での自己紹介。マエヒャク、アトヒャクのゲストスピーカーのお話もそれぞれ15分と短いながら聞きごたえたっぷりの内容だ。

この日のマエヒャクには、112年間この地で歯医者を開業する「二宮歯科医院」4代目、二宮健司氏が登壇。“歯科医院”と“老舗”というのが、なかなか頭の中で結びつかなかったのだが聞いてみると面白い。江戸時代の治療事情や滝沢馬琴が入れ歯をしていた事実。二宮歯科医院が開業した明治の頃の日本橋の歯科医者数、戦後間もないころの治療室の写真など、しっかりと老舗たる歯科医院の歴史を感じさせてくれる。

アトヒャクには、日本橋・浜町に立ち飲みバーを開店させた「株式会社ダイニング富士屋本店」の加藤雄三氏が登場。老朽化した建物をリノベーションして店舗経営する業態の面白さや、日本橋の客層の素晴らしさなどを語った。

このほか、参加者同士の交流タイム、「レッドボトルチャレンジ」と称して、赤いペットボトルを頭に乗せている間だけ地域イベントなどを紹介できる告知タイムと盛りだくさん。とても1時間とは思えないほどの充実した内容だ。

この日の朝餉は、人形町のおにぎり屋「シチロカ」さんのおにぎりセット。羽釜で炊かれたツヤツヤご飯と、こだわりの具材に参加者もほっこり。パッケージもアサゲ限定の手書きイラストというのが来場者への愛を感じさせる。

参加者の一人の女性は、娘さんと連れ立っての参加。ご自身もかつて日本橋に勤め、娘さんの勤務先は「コレド室町」ビル。「朝からこんなに有意義な時間を過ごせるなんて。日本橋を大切にしている人たちと出会えて、ますますこの街が好きになりました」と花が咲くような笑顔を見せていた。

第49回のゲストスピーカー、マエヒャクの二宮健司氏(写真右上)とアトヒャクの加藤雄三氏(写真左上)。ゲストの方とは川路氏が打ち合わせを重ね、店舗の紹介に留まらないストーリーが出来上がる。この日の朝餉は「シチロカ」さんのおにぎりセット。「シチロカ」の店名の由来は「活力」を分解してカタカナにしたのだとか(写真左下)。さらにレッドボトルチャレンジも(写真右下)第49回のゲストスピーカー、マエヒャクの二宮健司氏(写真右上)とアトヒャクの加藤雄三氏(写真左上)。ゲストの方とは川路氏が打ち合わせを重ね、店舗の紹介に留まらないストーリーが出来上がる。この日の朝餉は「シチロカ」さんのおにぎりセット。「シチロカ」の店名の由来は「活力」を分解してカタカナにしたのだとか(写真左下)。さらにレッドボトルチャレンジも(写真右下)

多様な場をつくり出すための秘訣とは

「朝活」は数多くあれど、これだけ熱く、長続きしているイベントは少ないのではないだろうか。「アサゲ・ニホンバシ」に関わるスタッフは総勢50名程度。全てがボランティア・スタッフだ。人気のイベントだけに、収益化も目指せるのではないかと考えてしまうが、川路氏は「この先も営利は求めない」と言い切る。

「名だたるゲストスピーカ-の方に出ていただいても、これまで謝礼は一切お支払していません。こちらも、街を愛する気持ちでやっている。だからこそこれまで続いてきたはずです」

ボランティア・スタッフが自主的に集まるのも、「営利を目的とした効率化を一切持ち込まないから」という。

「どんな方もウエルカムですし、出入りは自由です。あえてそれを徹底しています。こういう人しか参加できない……、そうした基準づくりを少しでも始めたら、“いつか自分も排除されるのでは?”といった雰囲気がなんとなく漂います。それでは人の輪は生まれない。多様な場をつくり出すには、オープンで自由であるべきと考えます」

朝からみんなが元気になって、笑顔で帰っていく。これもボランティア・スタッフの力があってこそ朝からみんなが元気になって、笑顔で帰っていく。これもボランティア・スタッフの力があってこそ

「家と会社の往復」に新鮮な楽しみを

日本橋フレンドでは、アサゲ・ニホンバシ以外にも、ワーカーと地域をつなぐイベントを企画・運営している。これからの季節「ミズベ・ニホンバシ」のイベントも魅力だ日本橋フレンドでは、アサゲ・ニホンバシ以外にも、ワーカーと地域をつなぐイベントを企画・運営している。これからの季節「ミズベ・ニホンバシ」のイベントも魅力だ

もともと数人の有志で始まった「アサゲ・ニホンバシ」。1年後には、「特定非営利活動法人 日本橋フレンド」が立ち上げられた。現在、日本橋フレンドでは、このイベント以外でもさまざまな形で「ワーカーによる新しい街づくりの形」を追求する。

例えば、「ニホンバシ・46ドウフケン」。日本橋から『にっぽん』を知るイベントを目指し、46道府県とのコラボレーションを実施する。ある県の食材だけを使って、日本橋のお店の店主に、一からごはんのメニューをつくってもらう。それを日本橋で食すイベントだ。これは行政との連携で実現しているという。

また、日本橋川を手漕ぎボートでクルーズを楽しむ「ミズベ・ニホンバシ」なるイベントも開催している。普段通ることのない水路を進みながら、見ることのない日本橋の裏側を探索。ワーカーがこれまでとは違った日本橋を水面から見つけられるイベントだ。

変わりダネでは、日本橋の街でドロケーを行う「バシレ(走れ)・ドロス」といったイベントもある。よく、こんな楽しい企画を思いつくものと川路氏に話を向けると「自由にブレストしてれば誰だって思いつきます。大事なのは実行力」と笑う。

「今後の展望は?とよく聞かれますが、そのようなものはありません(笑)。ゴールを決めてしまったら、そこから動けなくなります。とにかく実行して積み上げていく。それが大切なのではないでしょうか」

働く場所の魅力を感じ、街と人、人と人のつながりが持てれば、「家と会社の往復」に終始しがちな生活は変わるはず。ワーカーと地域をつなぐ発想は、人生のクオリティも押し上げてくれるのかもしれない。

2016年 07月27日 11時04分