原状回復とは通常の使用を超えるような使用による損耗・既存を復旧すること

賃貸では部屋探し時はもちろん、暮らし始めてからも不動産会社とお付き合いするケースは多々想定される。そんな時に気持ちよく対処してもらい、楽しい暮らしを送るためには、不動産会社の仕事や役割、どんなことをしてもらえるのかなどを知っておくと何かと便利。これは日夜様々なトラブルに対処してきた不動産会社の裏話に耳を傾け、より良い暮らしのためのノウハウを学ぶ連載の第7回目。今回、次回はトラブルも多い原状回復について取り上げる。

まず、知っておきたいのは賃貸住宅の退去時に問題になる原状回復とはそもそもどういう意味なのかという点。国土交通省のガイドラインによると、原状回復とは、

「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」

とされている。言葉そのものには最初の状態に戻すという意があり、それをそのまま解釈すると、借りた状態に戻して退去することになるが、ガイドラインはそうではないと明言している。暮らしていれば部屋はどうしても汚れる。だが、入居者はそこで暮らすために家賃を払うのだから、普通に生活していて汚れたとしたら、それはその人の責任ではないという解釈である。

それを図化したのが下の図。入居から退去までの間の通常損耗、経年変化は賃料に含まれるため、入居者が負担する必要はないものの、善管注意義務違反(*)、故意・過失その他による損耗などについては借りた人が負担しなさいというわけである。

(*)善管注意義務とは民法第400条等にある「善良なる管理者の注意義務」を意味し、管理者の職業や社会的・経済的地位に応じて、取引上一般的に要求される程度の注意のことを言う。民法には「自己の財産におけると同一の注意をなす義務」という軽い注意義務も定めており、善管注意義務は自分のもの以上に気をつける必要があると解されている

常識的に適宜掃除をするなどして暮らしていた場合には入居者が負担する部分はさほど大きくはならないはず常識的に適宜掃除をするなどして暮らしていた場合には入居者が負担する部分はさほど大きくはならないはず

画鋲を打っても6年住めば壁紙分の負担はゼロ

時間とともにモノの価値は落ちると考え、その時点での残存価値から負担が決まる時間とともにモノの価値は落ちると考え、その時点での残存価値から負担が決まる

もうひとつ、原状回復を理解する上で大事なのは、時間が経つとモノの価値は減少するという考え方。これは法人税法などにある減価償却の考え方を当てはめたもので、償却期間6年の壁紙は張替時100%の価値が6年後には1円(*)になる。つまり、6年間住んだ後に退去するのであれば、もし、子どもが壁に落書きをしていたとしても、その時点の壁紙の価値は1円。住んでいた人が負担する部分はほぼゼロということになる。

だが、入居して3カ月、同じように壁に落書きがある状態で退去するとしたら、残存価値が多いので住んでいた人が負担しなければいけない割合が増える。長期に住むか、短期で出てしまうかによって負担の割合が変わってくるのだ。

「よく壁に画鋲を打つのもダメと言われますが、6年以上長期に住むのなら、画鋲、手垢、落書き程度は全く問題ありません。画鋲跡くらいなら簡単に補修できるようになってもいますから、そこまで神経質になる必要はないのです。日焼けやテレビ、冷蔵庫の後ろの電気焼けも通常損耗として扱われますので、気にしなくて大丈夫です。ただし、棚を吊るために壁に釘をたくさん打つなどで壁紙の下のボードを交換するほどになっていた場合には何年住もうが、その費用を負担する必要があります」(ハウスメイトパートナーズ東東京支店支店長・谷尚子さん)。

(*)平成19年の税制改正以前は償却期間終了後の残存価値は10%とされていたため、それより以前の契約の場合、今よりも残存価値が高くなることがある

壁紙の負担はゼロでも、喫煙者の負担は重くなる傾向に

喫煙、無断でのペット飼育などは入居者負担が大きくなる典型喫煙、無断でのペット飼育などは入居者負担が大きくなる典型

この考え方についてはあまり理解されておらず、「たとえば室内が黄ばんでしまうほどの喫煙は過失とされているため、壁紙張替えの費用を全額請求してしまう例があるようですが、6年以上住んでいた場合、壁紙の残存価値は1円(*前項参照)。そのため、禁煙物件や特約がある場合を除き、壁紙の張替は入居者負担ではなく、大家さん負担となります。ただし、過失となるほどの喫煙があった場合、壁紙の負担はなかったとしても、それ以外の負担が大きく、通常は1万円程度で済むエアコンの内部清掃がヤニのために3~4万円になったり、建具に付着したヤニ落としや消臭のために別途利用がかかったり……」。そのほか、インターフォンやスイッチなどの黄ばみは取れないため、交換せざるを得なくなるなど、ヘビースモーカーの部屋では住戸内の様々な部分に影響が出るため、壁紙分がないとしても全体では重い負担になるのだという。

ちなみに吸っていないと言い逃れしようとしても、プロの目は鋭い。「臭いで分からない場合でも、ヤニ落としスプレーを壁に吹き付けると茶色い液が垂れるのですぐ分かりますし、壁や天井の入り隅部分のクロスが線状に白く残る、キッチンやバルコニーに吸殻や灰が残っているなど、喫煙の証拠は確実に残るもの。それよりも窓の近くで吸う、まめに換気をするなど、煙を室内にこもらせないようにするなどの努力をしていただきたいものです」。

多くの床材は6年償却だが、本物の木のフローリングだけは負担が重くなる

費用精算については負担する面積なども要チェック。ここまでの図表類はいずれも国土交通省ホームページより費用精算については負担する面積なども要チェック。ここまでの図表類はいずれも国土交通省ホームページより

床は素材によって償却期間が異なる。「クッションフロア、シートフローリング、畳床、カーペットなどは6年、畳表は消耗品扱いで、特約がなければ入居者の負担はありませんが、本物の木のフローリングの償却期間は建物同様とされているので、長く住んでも価値が高く、傷つけると負担が重くなります。また、家具を置いたせいで畳やカーペットなどが凹むことがありますが、これは通常損耗なので入居者が負担する必要はありません」。

フローリングと称されていても、たいていは合板の上に印刷した多層フィルムを貼ったもので、これなら6年の償却なので長く住めばさほど汚れなどは気にならないが、本物の木の場合には張替えにならないよう、気をつけて住んだほうが良さそう。ただし、最近は傷も味わいのうちと、原状回復が不要の物件も出てきている。また、シートフローリングでも破いたり、濡れた雑誌、タイヤなどのゴム製品を置きっ放しにしての色移りなどは入居者負担となる。その他の床材もカビさせるなどすると入居者負担となる可能性がある。

壁や床を張り替える場合、毀損しているのが10センチ四方だとしても、そこだけ補修すると不自然だったり、作業自体が困難だったりする。そこでガイドラインは、補修工事が最低限可能な施工単位を基本とし、壁の場合には一面、畳なら1枚単位、クッションフロアやシートフローリングは部分張替えを想定してm2単位などと補修工事の最小単位を定めている。原状回復で費用負担の話をする時には補修範囲がどのように算定されているかは必ずチェックしたい点だ。

ただし、いずれの場合でも借りているものは大事に使うという気持ちは忘れないようにしたい。もし、自分が誰かに何かを貸した時、それが汚されて戻ってきたらどんな気持ちになるか。そう考えれば、汚してもいい、壊してもいいとは思えないはずだ。

2015年 01月27日 11時09分