料亭街に佇む、築50年の空きビルをリノベーション

福井駅から徒歩約10分、福井市中心部を流れる足羽川沿いに、老舗料亭や割烹が並び芸妓文化の残る、「浜町」がある。昔ながらの粋な風情が漂うこの界隈は、現在、観光客や市民が景観や食を楽しめる観光スポットとして、自治体により再整備がすすめられている。

2016年夏、そんな浜町の料亭街の中ほどに、築約50年の空きビルをリノベーションした施設「CRAFT BRIDGE」が生まれた。コンセプトは福井の工芸を主役に「工芸の過去から現代への架け橋」となること、「北陸から世界へ、そして未来への橋を架ける」ことである。

CRAFT BRIDGE誕生のきっかけは、福井市を拠点に活動しているHUDGEのグラフィックデザイナー、内田裕規さんと家具会社IDEEの創始者であり流石創造集団(千代田区)の黒崎輝男さんのふとした会話だったという。「黒崎さんとは仕事で長いお付き合い。黒崎さんは近年たびたび福井県を訪れていて、古民家や県内各地の工芸、地酒に注目していたんです。一緒に渡米していた際、工芸や地酒を軸に福井で何か面白いことをしたいねと話が盛り上がりました」(内田さん)

その後しばらくして、内田さんは浜町で偶然に好みの佇まいの空きビルに出会い、ここに工芸を世界に発信するための拠点、CRAFT BRIDGEをつくろうと思い立つ。立ち上げにはコンセプトに賛同した不動産会社やデザイン会社、漆器製造業、大工などさまざまな職種の有志が加わった。彼らは、家守会社「Bridge Laboratory Co.,Ltd」をつくり、現在も施設の運営を担っている。

2階にあるミーティングスペース。向かって右側にシェアオフィスがある2階にあるミーティングスペース。向かって右側にシェアオフィスがある

丁寧な手仕事から生まれた工芸と食が軸

上/3階にあるクラフトビールの店、「BRIDGE BREW」。室内はソファ中心のくつろげる空間 下/3階のバルコニーには同店のオープンエアスペース上/3階にあるクラフトビールの店、「BRIDGE BREW」。室内はソファ中心のくつろげる空間 下/3階のバルコニーには同店のオープンエアスペース

計画当初は越前和紙や越前漆器、越前打ち刃物などの工房を新たにつくるイメージだったものの、「代々続くものづくりの場から、多くの職人を招くのは難しかった」と、内田さんは話す。

そこから発想を転換し、より幅広い人たちが活用できるように、漆器や和紙などのいわゆる伝統工芸のみならず、丁寧な手仕事でつくられるもの全般をテーマとする方針にした。その結果、1階は地酒と発酵食品が楽しめる「RICE BAR」、2階がコワーキングスペース+シェアオフィス及びギャラリー兼ミーティングスペース、3階とバルコニーは各地のクラフトビールが味わえるビアガーデン「BRIDGE BREW」というフロア構成が出来上がった。1階には今後、厨房付きのパン屋が加わる予定だ。

CRAFT BRIDGEの建物は以前は住宅兼賃貸住宅だったため、どの階も小さく仕切られていたが、リノベーションの際になるべく間仕切り壁を取り払い1~3階とも大空間に変更した。
「もとの内装を解体した後、仕上げは躯体に塗装するのみに留めました。築50年のビルならではの趣を生かしました」と設計を担当したソークルデザインの藤本岳陽さんは話す。

デザイナーと職人のコラボで新たな仕事と働き方を

上/2階のコワーキングスペースは東京・中目黒などでも展開している「みどり荘」 下/1階にある地酒を楽しめる「RICE BAR」上/2階のコワーキングスペースは東京・中目黒などでも展開している「みどり荘」 下/1階にある地酒を楽しめる「RICE BAR」

CRAFT BRIDGEが目指す機能は、大きく分けて2つある。
ひとつは、工芸に関する人と人をつなげ新たなモノやコトを生み出すこと。
「2階のコワーキングスペース+シェアオフィスは、ものづくりに携わる幅広い職種の人たちにもっと利用してもらいたい」とやはり立ち上げから参画している白い雲不動産代表の高村俊輝さんは話す。たとえば、デザイナーや建築家などのいわばデザイン系の職種と実際に手を動かす職人たちがコラボレーションして、新たな働き方や開発に取り組むのがひとつの理想だ。内田さんたち家守会社のメンバーは、新たな仕事が生まれるのを機に、さらに人が集まり、また仕事が生まれるという好循環を期待しているという。なお、現在、すでに入居者にはデザイナーや建築家、漆器職人、大工が含まれている。

一方、2階のギャラリーやミーティングスペースでは、月数回のペースで工芸やものづくりに関するイベントが行われ、そこに訪れた工芸や関連のビジネスに興味を持つ人たちと入居者たちの交流も生じている。1階のRICE BARでも日本酒や酒づくりをテーマに職人を招き参加者が交流するイベントを不定期に開催している。

もうひとつは、遠方から福井県の工芸を目的として観光に訪れた人たちの拠点になること。CRAFT BRIDGEで情報収集し、鯖江市などの工芸が盛んな地域の工房などを訪れてものづくりの体験をした後に、ここに戻ってきてあらためて福井県の食や地酒を存分に味わってもらうイメージだ。「来訪者とここに関わる人たちが情報交換したり、つながりが生まれるよう、宿泊施設の併設も検討しています」(高村さん)

世界のデザイナーと工芸の職人を結び付ける場を目指す

今後は家守会社のメンバーが中心となり、同施設を、日本だけでなく世界のデザイナーと福井県の工芸の職人を結び付ける場に育てていきたいという。優れた技術があるにも関わらず、職人が仕事場を離れ、世界各国を飛び回ることは現実的でないからだ。世界各国からデザイン会社やデザイナーが訪れるような情報発信や取り組みを考えていく予定だ。

「公的機関などが紹介する工芸は、デザイン性が現代のニーズと合わないものも少なくない。僕たちの観点で厳選し、工芸とそれを手掛ける職人を紹介したい」(内田さん)

CRAFT BRIDGEの外観。もとは住居兼集合住宅だったCRAFT BRIDGEの外観。もとは住居兼集合住宅だった

2017年 09月22日 11時06分