テレビで見たシェアハウスに憧れて

あまつ風の前には広い庭と駐車場がある。緑に囲まれた静かな環境で、ゆったりとした空気感が漂うあまつ風の前には広い庭と駐車場がある。緑に囲まれた静かな環境で、ゆったりとした空気感が漂う

福岡市の南側に隣接し、大きな公園やため池を有する春日市。福岡市の博多や天神からは、電車とバスを乗り継いで30分ほどの立地に、シェアハウス「あまつ風」はある。福岡市外にもかかわらず、全9室が満室(2019年1月現在)という人気ぶりだ。大家の黒岩吉枝さんは「シェアハウスを始めたのは、まさにご縁と勢いでした」と大らかに笑う。

3人の子どもが成人し、主婦として暮らしていた黒岩さんに転機が訪れたのは2010年のこと。自宅の隣の土地が売りに出たために購入。何か活用したいと考えていたとき、たまたまテレビで見たシェアハウスに魅かれたという。「ワンルームマンションは生活が味気ないなと思っていたけど、シェアハウスなら人と人がつながれる。これだとピンときたんです」

東京へ通って勉強し、シェアハウスを完成

大家の黒岩吉枝さん。入居者からは「大家さん」「黒岩さん」「よっちゃん」と呼ばれ親しまれている大家の黒岩吉枝さん。入居者からは「大家さん」「黒岩さん」「よっちゃん」と呼ばれ親しまれている

当時、福岡ではシェアハウスという言葉さえ耳慣れなかった。ネットで調べた黒岩さんの目にとまったのは、シェアハウス専門の情報サイト「ひつじ不動産」の無料セミナー。東京でセミナーに参加してみて「シェアハウスをやってみたい」という思いが膨らんだという。しかし、不動産業界は未経験のため、知識も自信もない。そこで思い切って、東京で開かれたシェアハウス管理士講座に5回通うことに。「受講者はハウスメーカーや不動産関係の方が多く、主婦は私ひとりでした。はじめから専門用語がわからなくて、ついていくのに一生懸命で…。最後のテストに合格したときはホッとしましたね」と振り返る。

次のステップは、シェアハウスを建設すること。知り合いがいなかったため、住宅展示場で話を聞いたりして、依頼する住宅メーカーを決定した。「私はもちろん設計士さんもシェアハウスを手がけたことがなかったから、意見を出し合いながらみんなで楽しく作りました」。何度も打ち合わせを重ねて、2012年3月に建物が完成した。

ゆったりした共用スペースと快適な9つの個室

広々とした敷地に立つ、木造2階建て・全9室のあまつ風。黒岩さんが特にこだわったのは、住む人の交流が生まれるスペースづくりと、快適なプライベート空間だ。

玄関の右側には広々としたシューズ置き場、正面には2階へと続く階段、3つの部屋。奥には男女別のトイレ、お風呂、洗濯スペースがある。階段横の扉を開くと、広いキッチン・ダイニング・リビングがひと続きになっている。キッチンのコンロを2か所に設け、IHとガスの2種を用意したのは「それぞれが好きなときに料理をして、たまには分け合えるといいなと思って」と黒岩さん。また、廊下からリビングへの扉を一部すりガラスにしたのも理由がある。「すりガラスだと、人の気配を感じられるでしょ。誰かが玄関を出入りしたら気付くし、リビングに人がいるかどうかも何となく分かるのがいいんです」。2階には6部屋と男女別のシャワーブース、洗面台がある。

全9室にはクローゼットとベッド、机・椅子、温冷庫、エアコンを備え、洗濯物を干すためのワイヤーもついている。家賃39,000 ~47,000円、共益費11,000円(水道・ガス・電気・ネット代込)は、オープン当初からほぼ変えていないという。

左上から時計回りに、リビングから見たダイニングとキッチン、タイルを施した清潔な洗面台、2面窓で明るい光が差し込むリビングルーム、バスタブ付きのバスルーム左上から時計回りに、リビングから見たダイニングとキッチン、タイルを施した清潔な洗面台、2面窓で明るい光が差し込むリビングルーム、バスタブ付きのバスルーム

外国人も暮らす人気のシェアハウスに

車の通りとは水路を隔てたところにあるあまつ風の敷地。左があまつ風、右が大家の黒岩さんの自宅車の通りとは水路を隔てたところにあるあまつ風の敷地。左があまつ風、右が大家の黒岩さんの自宅

まずはひつじ不動産のサイトで入居者を募集したが、完成から半年は手応えがなく入居者はゼロ。そもそも福岡は家賃が安く、シェアハウスの文化が浸透していなかったからだろう。およそ半年後に1人目が決まり、自分でホームページやfacebookページを立ち上げたことで、少しずつ入居者が増えてた。

今はオープンから7年目。これまで主に20~30代の男女が入居し、5年住み続けている人も。香港や台湾、オーストラリアなど、外国の人も受け入れてきた。黒岩さんは隣の家に住んでおり、週2回ほどはトイレットペーパー等備品の補充に訪れる。

「運営方法は柔軟に変えてきました」と黒岩さん。以前やっていた月1回ミーティングは、なかなか全員がそろわないのでやめた。入居者へのお知らせは掲示板に貼っていたが、今は基本的にLINEグループでやり取りしている。また、入居者とfacebookで友達になると、プライベートが見えすぎて良くないと感じたため、友達になる場合は退去されてからと決めているという。

苦労を乗り越え、あたたかく心地よい場に

もちろん大変なこともある。自己中心的で片付けない人がいると、共有スペースがとても汚くなったり、全体の雰囲気が悪くなったり。「シェアハウスをやめるという選択肢も頭をよぎりましたが、応援してくれる人たちのおかげでどうにか解決できました」。また、男女がシェアハウスで恋愛を繰り広げるテレビ番組が話題になると、恋愛目的で入居を希望する人もでてきた。「ここは恋人を作るための場所ではありません。入居者同士が恋人になると、ほかの人が気を使われるので、もしお付き合いを始めたら、どちらかが退去してもらうように伝えています」

当初、思い描いていた「交流が生まれる場づくり」は実現している。黒岩さんや入居者が庭でバーベキューをしたり、近所の人も招いてガーデンコンサートをしたりするときなどは、自然とみんなで声をかけあい、いいコミュニティができているのだそう。「ひとり暮らしだけど、全然さみしくなかった」などと言われることも多い。「私はいち主婦でしたが、あまつ風をきっかけに多くの人と出会って視野が広がり、充実した毎日を送っています。ここはずっと変わらない場所。退去された方が遊びに来てくれたり、家族を連れて寄ってくれたりして、幸せを感じます」

「あまつ風」は「空を吹く風」という意味。「入居された方の日々の生活に、気持ちの良い風が吹きますように」という願いを込めたという黒岩さん。都心から離れ緑あふれるあまつ風は、優しく朗らかな黒岩さんの思いに包まれて、今日も心地よい風が吹き抜けていた。

敷地内の畑で農作物を育てて収穫したり、入居者が手作りのケーキをふるまってくれたり。広い庭ではコンサートやバーベキュー、花火などを楽しんでいる敷地内の畑で農作物を育てて収穫したり、入居者が手作りのケーキをふるまってくれたり。広い庭ではコンサートやバーベキュー、花火などを楽しんでいる

2019年 02月25日 11時00分