当時、大阪では珍しかったシェアハウスをオープン!

大阪府東大阪市、近鉄線「布施駅」の近くに「シェアハウス アルト」(以下、アルト)という賃貸物件がある。大阪で、シェアハウスの存在がまだ珍しかった2010年(平成22年)に、築40年を超える2階建てのアパートがオーナー自らのデザインによってフルリノベーションされ、シェアハウスとしてオープンした。
アルトは、7.5帖と9帖の部屋が合計18戸。家賃39,000円~43,000円。それぞれに個性的な内装がほどこされたキッチン、リビング、サロン、パウダールームなどが備わっている。通常の1年契約に加えて1ヶ月からの短期契約も可能だという。これだけ見ると、よくありそうなシェアハウスだが、入居待ちが出るほどの人気となっている。契約者の平均入居期間が長いうえ、1年を通じて継続的に問合せが入り、結果的に高い稼働率を維持しているようだ。このシェアハウスには、物件の概要だけでは計り知ることのできない、人を惹きつける"なにか"があるようだ。
注目を集め続けるその要因について、オーナーの井上寿美さんにお話を伺った。

シェアハウスアルトの外観シェアハウスアルトの外観

入居者同士のコミュニケーションをサポートするものとは

現在、アルトには、20代前半から40代の男女18人が暮らしている。アルトのブログには、入居者同士が楽しく集うホームパーティーなど、様々なイベントの様子が数多く掲載されている。
こうしたイベントについて井上さんに聞いてみると「私が主催するイベントは、月1回のアルトミーティングとウェルカムパーティーだけです。あとは入居者さん方が自発的に発案・企画して実施しているイベントです。バーベキューしよう!とか、こんなことやりたい!といった意見を出す人がいて、それに対して賛同者が何名か出てきて、実際のイベント開催に繋がっているんです」と話す。
確かに、入居者18名全員が顔を合わせる機会は、自然にはなかなか起こらないだろう。アルトミーティングとウェルカムパーティーを開催することで、まずは入居者同士の交流を深める機会を提供する。それが入居者同士のコミュニケーションのとりやすさになり、緩やかなコミュニティが形成されていくという流れができているようだ。
ちなみに、アルトミーティングとウェルカムパーティーでは、「楽しい集まりに美味しい食べものは欠かせませんから」と井上さん自らが食事を作り、入居者に振る舞うのだとか。また「既に退去したOB、OGの方々が参加される時もあります。通常、退去したらそれっきりになりそうですが、こうして遊びにきてくれるのは嬉しいですね」と満面の笑みで話される様子が印象的だった。

入居者様の手作り冊子「アルトの日々」。表紙の賑やかなイベント風景から入居者同士の仲の良さが伺える入居者様の手作り冊子「アルトの日々」。表紙の賑やかなイベント風景から入居者同士の仲の良さが伺える

業務改善ならぬ生活様式改善の話し合いが、コミュニティを深める

左:パウダールーム、右上:1階、玄関からリビングを望む、左下:ピンクのソファが印象的なサロン左:パウダールーム、右上:1階、玄関からリビングを望む、左下:ピンクのソファが印象的なサロン

サロンにある2台目のテレビとWi-Fiルーター、バーカウンターは、ミーティングによる話し合いで設置が実現した例の一つだ。これまでは、リビングでの食事を伴うイベントが多かったが、サロンにこういった設備を追加したことで、「珈琲の会」や「アルト映画祭」など入居者主催のサロンを使ったミニイベントが開催されるようになり、シェア生活を楽しむ機会が増えた。

シャワールームの使用についても、当初は100円で7分使えるシステムだったが、時間を気にせず、また1日複数回使いたいという入居者からの要望があがった。1回100円なので、1日1回の使用で入居者が負担していた1ヶ月のコストは3,000円。この件について、毎月賃料を2,000円アップするという条件で合意し、シャワーはフリーで使えるようになった。こうした共同生活の中で気になることや、要望や意見を直接オーナーに伝えられることで、入居者の住みやすさがアップし、みんなが納得した上で暮らすための環境をつくりだしているようだ。

アルト内の共有スペースの清掃については、入居者の当番ではなく清掃業者に依頼をしている。「当番制にすると、キレイにする人と、そうでない人がどうしても出てきてしまう。それは当然トラブルの元になるので、清掃業者の方に定期的に来てもらっています」という、こういった気配りは女性ならではかもしれない。
個人差や不公平感が生じやすいことは、できるだけ第三者に依頼するという方法で快適さを補っているようだ。

入居者のコミュニティを育むソフトとハードの役目

アルトには、大きく分けて3つの特長がある。
1つ目は、何といってもオーナー自ら考えたオリジナルデザイン。そこには、個人・女性オーナーならではの細かい気遣いと工夫が所々にみられる。事実、独特の空間を醸し出すパウダールーム、サロン、リビングといった共有スペースの内装デザインやインテリアの雰囲気に惹かれて入居を決める見学者も多いそうだ。
内装デザインについて井上さんは「シェアハウスを創ろうと思いついた時から、和モダンにヨーロピアンの要素を加えたものにしようと決めていました。通常の賃貸住宅では、なかなか使わない内装材や設備品を使用しましたし、設置家具もイメージ通りのものが見つからなかったので、下足箱など大工さんにオーダーして創ってもらった手作りのものが結構あります」と、そのこだわりについて話す。

2つ目の特長は、水回りの充実、特にトイレにいたっては、1階と2階にそれぞれ男女別に計8個の個室が用意されている。設計段階では、部屋数を取るためにトイレは男女兼用にしてはどうか、と提案されたそうだ。しかし井上さんは、「それでは入居者様に、ストレスを感じさせることになるのではないか」という想いから、その提案には同意しなかったという。
「シェアハウスと言うとイベントやコミュニティの部分が強調されますが、賃貸住宅であることにかわりはありません。日常的な生活に支障をきたさないように、毎日使う必要な場所はしっかりと確保しておきたい。でなければ細かいストレスが積もり積もって生活に快適性がなくなり、シェア生活自体を楽しめなくなります。居心地のよいスペースを提供できなければ、入居者さんが決まらなくなります。それは、シェアハウスも普通の賃貸住宅も、結局は同じなのです」と個人オーナーとしての心得を教えてくれた。

3つ目の特長は、追加設置している設備・備品類の数々。これらはアルトミーティングで出された意見を基に検討するという。「あったらいいな、ではなくできるだけみんなが使用するもので、一時の流行ではなく普遍的に使えるものを採用しています。入居者様の快適な暮らしのために必要なものを選び出す感覚が、シェアハウス運営者には必要ですね」と井上さんは言う。そして、「シェアハウスは、住民同士の交流・会話といったソフトが大事だと思っています。しかし、そういったソフトは自然発生的に生まれるものではなく、ソフトを創る基になるのは、やはり環境や設備といったハードだと思うのです」と独自のノウハウを惜しげも無く語った。

色んなイベントなどで入居者が楽しく集う共有スペースのリビング色んなイベントなどで入居者が楽しく集う共有スペースのリビング

ブログで雰囲気が伝わることで、さらに興味を持ってもらえている

女性ならではの視点で、アルトの知名度を上げたオーナーの井上寿美さん女性ならではの視点で、アルトの知名度を上げたオーナーの井上寿美さん

入居待ちがでるほどのシェアハウスアルト。いったいどのように集客しているのだろうか?
「不動産のポータルサイト2社とアルトのホームページだけで集客しています。ポータルサイトで物件を見つけても、その後で物件のホームページを確認する人が多く、最終的にその物件に問合せを入れるかどうかは、ホームページやブログが決め手になると思っています。見学者の方に聞いてもブログは、ポータルサイトでは伝えきれない、今のハウスの様子や日々の取り組み、入居者さんのこと、雰囲気が分かりやすいようです。実際、ブログを読んで見学に来られる方の成約率は高いです。ホームページは定期的にメンテナンスをして情報を更新していて昨年は、スマホ対応にリニューアルしました。ホームページやブログは、作りっぱなしにしないことが大切です。私が発信しているどの内容も普通のことです。でも、地道にコツコツ積み上げていくと、スペシャルなものになっていくと実感しています」と井上さんは語る。

一般的に賃貸市場は、いかに市場のパイを奪うかという部分が語られる。しかし井上さんは、アルトの入居者については、自分でお客様を作ることができたという達成感があるという。「例えば、ワンルームでお部屋を探しているお客様の中には、諸事情でそのカテゴリーに、はまらない人がいます。一人ずつ拾い上げて新しい分野を作るのは大変な作業ではありますが、逆にとてもクリエイティブな仕事だと思っています。私はこのシェアハウスで、それが出来たことがとても嬉しいんです」と語る。
「アルトには、バイタリティのある面白い入居者様がたくさん集まってきてくれます。
それは多分、物件が呼び寄せているのだと思うのです。良い入居者さんが集まる物件は
良いオーラを出します。それがまた、良い入居者さんを呼んでくれるのです。物件(建物)が入居者を選ぶ、私はそう思っています」と井上さんは締めくくった。

入居者への「個性的で住みやすい物件の企画」と「物件を運営するための地道な取り組み」という二つの要素が、人を呼ぶシェアハウスとなる秘訣なのかもしれない。

取材協力
シェアハウスアルト:http://www.sharehouse-art.com

2016年 07月24日 11時00分