自宅のシェアハウス化を支援するという、“シェアホスト”で物件を活用

左から、代表の林田直大さん・パクイチョルさん・工藤英揮さん・シラバンラールさん。林田さん以外は、ひだまり新屋敷に入居中の住人だ。工藤さんは、熊本エリアのコミュニティーマネージャーを担っている(撮影:山口)左から、代表の林田直大さん・パクイチョルさん・工藤英揮さん・シラバンラールさん。林田さん以外は、ひだまり新屋敷に入居中の住人だ。工藤さんは、熊本エリアのコミュニティーマネージャーを担っている(撮影:山口)

Hidamari株式会社は、コミュニティ重視型シェアハウス事業「シェアハウスひだまり」(以下、ひだまり)を手がける熊本の企業だ。2012年に熊本市内のアパートの1室から始まった彼らのシェアハウスは、その後熊本、福岡、東京、横浜、鎌倉・湘南、埼玉と6つのエリアで展開し、現在は約30棟の物件を管理運営している。ひだまりに入居中の住人は約270名と、今ではなかなかの大所帯となっている。

また、彼らは自宅のシェアハウス化を支援する、“シェアホスト”という新たな制度を導入した。シェアホスト第一弾物件として2018年6月、「アートワーク茅ヶ崎」の運営を開始した。

“シェアホスト”とは、住人としてシェアハウスに同居する物件オーナーのこと。つまりアートワーク茅ヶ崎は、自宅をシェアハウス化した、オーナー同居型シェアハウスなのだ。
“オーナー同居型”と聞いてイメージするのは、間借りや下宿などではないだろうか。海外では、今でも当たり前の住まい方だが、日本では単身物件が増えてから、あまり見かけることがなくなった。そんな中、住人の住み心地や、懸念されるプライバシー面も加味して考えたのが“シェアホスト”だという。

なぜ、あえてシェアハウスなのか。また、今回のような取り組みを行うに至ったのはなぜか。Hidamari株式会社代表の林田直大さんに話を聞いてきた。

“シェアホスト”に大切なこと

林田さん達はこれまで、主に住まい手のいない「空き物件」を活用して、シェアハウスを手掛けてきた。
そんな彼らのもとに今年、湘南在住のフラワーデザイナー ガブリエレ久保さんから「自宅の空き部屋」を活用したシェアハウスの相談があったそう。1階はワークスペース、2階にガブリエレさんが暮らすその家は、3階の3部屋が空いており、彼女自身が空き部屋を有効活用することに意欲的。おもしろい人が入ってきてくれれば、良い刺激になると考えていた。また、海外や東京での仕事も増えてきたことを踏まえ、ガブリエレさんはいずれ東京に引っ越すことも検討している。そうすると空き家となってしまうこの家に、住みたい人はいるのか、使ってくれる人がいるのかを確かめるという意味でも、自宅をシェアハウス化することは有用だと考えたそう。

実際に家を訪れたのは、林田さんと共にHidamariを立ち上げ、現在は鎌倉・湘南エリアを担当する中原さん。彼は建物自体の素晴らしさとセンスの良さに感動した。また、何よりオーナーのガブリエレさんがとても魅力的な人だったのだという。

オーナー同居型は、部屋や設備の使い方など、住人に対してオーナーが過干渉になる恐れがある。もちろんそれは建物に愛着があるからこそだが、ともすれば住人の住み心地に影響する。そんな懸念を和らげるために考えたのが、物件オーナーではなく“シェアホスト”という立ち位置だった。
シェアホストは、あくまで住人の1人。立ち上げ時に丁寧なヒアリングを行い、コンセプトやライフスタイル、目指すコミュニティ像などはシェアホストに寄り添った形にするが、シェアハウス運営が始まってからは、物件の管理者ではなく1人の住人として、他の住人と共に役割分担などにも参加しながら暮らしてもらう。大事にしているのは、フラットな繋がりである。

アートワーク茅ヶ崎を“シェアホスト物件”と銘打ったのは、全国でもっとこのような暮らし方が広まってほしいとの想いから。実は、”シェアホスト“と名付ける前から、ひだまりにはオーナー同居型のシェアハウスがあったそう。熊本に1つ(3部屋)と、江ノ島に1つ(5部屋)。下の写真で紹介する江ノ島の南夫妻の場合は、定年後の住まいとして江ノ島に家を購入し、現在は東京との2拠点生活中。2拠点生活の開始とほぼ同時期に、シェアハウスとして、そして自身も住人の一人として、家を開いた。
ひだまりが関わったオーナー同居型シェアハウスは、いずれも建物自体が素晴らしく、魅力的なオーナーが住まう。これらのオーナーの傾向は、おおらかで、包容力があり、人と関わることで自分の人生も豊かにしたいと考えている人達。そんな人達に惹かれてか、満室稼働が続いているという。

アートワーク茅ヶ崎のガブリエレさん(左)と、江ノ島ヒトデ軒の南夫妻(右)。ガブリエレさんはずっと住んできた家を、南夫妻は定年後の住まいとして購入した家(現在は都内との2拠点生活)を、シェアハウスとして活用中。自身も住人の1人として、シェアメイトとの刺激のある暮らしを楽しんでいるそう。(写真提供:シェアハウスひだまり)アートワーク茅ヶ崎のガブリエレさん(左)と、江ノ島ヒトデ軒の南夫妻(右)。ガブリエレさんはずっと住んできた家を、南夫妻は定年後の住まいとして購入した家(現在は都内との2拠点生活)を、シェアハウスとして活用中。自身も住人の1人として、シェアメイトとの刺激のある暮らしを楽しんでいるそう。(写真提供:シェアハウスひだまり)

多様な価値観が交錯する「居場所」をつくりたい

公には出していないが、こちらもオーナー同居型のシェアハウス。広々としたリビングと、2階の個室・ゲストルームをシェアメイトに貸し出している(写真提供:シェアハウスひだまり)公には出していないが、こちらもオーナー同居型のシェアハウス。広々としたリビングと、2階の個室・ゲストルームをシェアメイトに貸し出している(写真提供:シェアハウスひだまり)

そもそもなぜ、林田さんはシェアハウスをやることにしたのか。その原体験は高校生の頃にあるそうだ。

当時、学校でのトラブルが原因で、登校しづらかったという林田さん。親に心配をかけたくない彼は、家に引き籠もるという選択肢はなく、彼なりの苦肉の策として学校から真反対の方向にある塾の自習室に通った。そのうち、そこに仲間と居場所ができ、自分の世界が広がったという。学校というコミュニティに固執しなくてもいいのだとわかったことで、自然と高校にも行けるようになったそう。家族とも違う、自ら足を運んだ先で自分が迎え入れられた感覚と、それによってできた「居場所」のようなものがじんわりと温かかった。大学進学後、今度は日本や海外のたくさんのゲストハウスを渡り歩く。そこで出会った様々な立場の人と接することで、自分の世界がまた少し広がる感覚を覚えたという。

「人や社会は簡単には変えられないから、悩みを解決するには、自分の価値観を広げることが近道です。それなら、僕はそういう場をつくって提供したい。多様な人や価値観を受け入れる、人々の『居場所』をつくりたいと思うようになりました。」

この想いが、ひだまりの原型である。

「最初は、ゲストハウスをつくりたくて。視察も兼ねてたくさんのゲストハウスを見て周ろうと世界一周の旅に出ました。なのに、ハンガリーのあるゲストハウスの居心地が良すぎて、そこに1ヶ月半も滞在しちゃったんですよ。年越しシーズンってこともあって、他のゲストも同じくらい長くいたと思います。EUは合計3ヶ月しか滞在できないので、いろんなところを見て回るという意味では損だったのかもしれません。でも本当に、とても楽しかった。この時シェアハウスの存在はまだ知らなかったんですが、短期で人が入れ替わるゲストハウスよりも、もっと長い期間、深く人と関われる場づくりの方がたぶん自分には向いてるなと思ったんです。」

林田さんは大学院在学中の2012年、後輩の中原琢さんを誘って、シェアハウス運営を始める。そこから約6年半、多くの人との出会いや助けを得て、今やひだまりは300人近くの住人を抱える大所帯となった。Hidamariのビジョンに共鳴してくれた仲間も集まり、彼らは各エリアでコミュニティマネージャーとして活躍してくれている。その働きもあって、住人も物件オーナーも、ひだまりが描く「居場所」に共感してくれているのだという。

林田さん曰く、シェアハウスで暮らす住人は「いい意味で自立している人達」。各々自分の世界があり、自分のことがわかっているから、人に引きずられすぎることがない。人がどうあろうとそこまで影響がない。ゆえに、他人と一緒であっても問題なく暮らせるのだそう。

ひだまりが大事にしていること

シェアハウスを運営するにあたって最も重要なのは、住人が気持ちよく、楽しく、安心して住めること。ただし、「入居者様」でもなく、「オーナー様」でもなく、オーナー・住人・自分たちがフラットな関係にあることを目指している。住人同士で行うホームパーティー以外に、「ひだまりBar」や花見など、オーナーも一緒に参加しやすいイベントを企画するのも、その一環だそう。

ひだまりが大事にするのは、人と人との繋がりだ。各シェアハウス内の個々の繋がりはもちろん、エリア内外のシェアハウス同士の繋がり、オーナーと住人との繋がり、元住人との繋がり、ひだまりを通して生まれる全ての繋がりを、1つのコミュニティとして育んでいるという。「住まい」を媒介とした、フラットな関係で。だからこそ、シェアホストという制度も生まれた。

「ネットが浸透したからこそ、リアルがリッチですよね。」

LINEやSNSで人と会わなくてもコミュニケーションを取れる時代だからこそ、直接「会う」ということは特別なもので、その価値は以前より高くなってきていると林田さんは言う。
ちょっと聞いてほしい、ちょっと相談に乗ってほしい…そんな時、多様なバックグラウンドを持つ複数の第三者と直接顔を合わせて話ができる環境が日々の暮らしの中にある、それは現代において、とても価値が高いものなのかもしれない。

鎌倉のすこしおとなの海企画(左上)、ひだまりBar@熊本(左下)、福岡・熊本合同キャンプ(右)の様子。時にはオーナーさんも交えて、季節ごとに様々な交流を企画している(写真提供:シェアハウスひだまり)鎌倉のすこしおとなの海企画(左上)、ひだまりBar@熊本(左下)、福岡・熊本合同キャンプ(右)の様子。時にはオーナーさんも交えて、季節ごとに様々な交流を企画している(写真提供:シェアハウスひだまり)

住まいの「あたりまえ」を疑え

引越しというのは、それなりに大きな出費を伴う。敷金・礼金・保証利用料・仲介手数料といった初期費用に加え、家具や家電などを揃えると、関東なら50~60万円ほどは最低でもかかるだろう。

「この費用、みんな当たり前に支払っているけれど、本当に当たり前なの?」というのが林田さんの見解だ。

ひだまりの場合、近隣の1R相場の1~2万円低い家賃に設定し、初期費用も安い。保証会社や連帯保証人をつける必要もなく、その分面談を充実させて担保する。生活に必要な家具家電は揃っていて、布団と着替えだけ持って身1つで転居可能。きちんとした人ならば、費用面での転居のハードルはかなり低いのである。インテリアが好きな人は、自分でこだわりたいし、お金もかけるだろう。けれど空間によほどこだわりがなければ、当たり前にかかっている単身者の転居費用は、かけずともいいものではないだろうか。例えば映画が好きな人、旅行が好きな人、転居分の費用を好きなものに投じた方が、人によっては豊かな暮らしが実現できるだろう。また、シェアホスト物件について、林田さんは以下のように言及する。

「多くの人は、立地や賃料を基準に住む場所を選ぶのでしょう。けれど今後、『シェアホストがいる』ことに価値を感じて住む場所が選ばれることがあってもいいと思います。誰が建てたかわからない、誰かに貸すために建てた最大公約数的な家ではなく、心あるオーナーがこだわり抜いた素敵な家に一緒に住むこと、そこに価値を見出す人も現れるでしょう。現に、今、僕らが関わったシェアホスト物件は大人気です。」

木造戸建ては、約20年で価値がゼロになるとも言われるが、そんなことはない。丁寧に手入れをし、こだわりと愛着を持ったセンスのいい家であれば、そしてそのオーナーが魅力的な人であれば、そこに価値を見出して、住みたいと思う人はきっと現れるだろう。子ども達が独立し、夫婦2人、あるいは1人になった愛着のあるその家で、また若い人達との刺激ある生活を過ごすのも、楽しいものかもしれない。

ひだまりの取り組みは、現在の住み方・暮らし方への問いかけなのだ。

シェアハウスひだまり:https://sharehouse-hidamari.com

各物件の個性豊かな共用部も魅力の一つ。シェアホスト物件以外、1軒に概ね10人前後が暮らしている。男女比は半々。20代半ば~30代前半の年代が入居者のメイン層だ(写真提供:シェアハウスひだまり)各物件の個性豊かな共用部も魅力の一つ。シェアホスト物件以外、1軒に概ね10人前後が暮らしている。男女比は半々。20代半ば~30代前半の年代が入居者のメイン層だ(写真提供:シェアハウスひだまり)

2018年 12月05日 11時05分