「動くスナック」でまちに笑顔と元気を届ける

福岡市中央区鳥飼八幡宮の境内に、この春から時折、1台の不思議なバスが停車するようになった。かなり年季が入ったバスに人が集まり、夜な夜な境内には大人たちの笑い声が響く…。
その正体は、「動くスナックアポロ号(以下、アポロ号)」。昭和45年式ライトバスの車内を少しだけ改造し、2018年5月に1年間の期間限定でオープンした移動型飲食店だ。
<泊まれる立ち飲みSTAND BY ME>を運営する貞末慎吾氏ら(株式会社ブルースカイ)が考えた、まちを楽しくするプロジェクトの第2弾である。

「アポロ号」の名前の通り宇宙船に見立てたスナックは、多彩な経歴を持つメンバーで構成された「アポロ計画実行委員会」からママを選出し、日替わりで担当。各々の得意分野を活かした様々なスタイルで、自由にフレキシブルに運営するという。「やってみたい」と手を挙げれば、ママをやることもできる。また、ライトバスを貸し切って、自らイベントを行うことも可能だ。
スナックのセット料金は1人2000円で、ハイボールとソフトドリンクが80分飲み放題(ママセレクトの乾き物は別途1盛り100円)。その他のドリンクや食べ物は自由に持ち込んでOK。

普段は鳥飼八幡宮境内を拠点に営業し、それ以外は各地へのイベント出店や、地方の集落、被災地支援などに赴く。3月に九州1周キャラバンと称したお披露目走行では、SNSに応答のあった各地の友人らのもとを訪れ、1週間で九州一円の27ケ所を巡り、約80名との交流が実現した。
「動くスナック」の目指すものについて、アポロ号’船長’の柴田玄一郎さん(通称:玄ちゃん)に話を伺ってきた。

メンバーの1人が見つけてきたのは、昭和45年式マツダ社製のライトバス。丸みを帯びた車体と、シルバー&ブルーのカラーリングが宇宙船のような雰囲気だったため、動くスナックの名前はすぐに「アポロ号」に決定した(写真提供:アポロ計画実行委員会)メンバーの1人が見つけてきたのは、昭和45年式マツダ社製のライトバス。丸みを帯びた車体と、シルバー&ブルーのカラーリングが宇宙船のような雰囲気だったため、動くスナックの名前はすぐに「アポロ号」に決定した(写真提供:アポロ計画実行委員会)

「楽しそう」「面白そう」の引き寄せ力

アポロ号船長(責任者)の玄ちゃんは、日本とヨーロッパでデザインと視覚芸術を学んだ現代芸術家で、宇宙オタク。アポロ号を使って、被災地や各地の地域課題の可視化に取り組む(写真:山口)アポロ号船長(責任者)の玄ちゃんは、日本とヨーロッパでデザインと視覚芸術を学んだ現代芸術家で、宇宙オタク。アポロ号を使って、被災地や各地の地域課題の可視化に取り組む(写真:山口)

大手門に構えるホステルが軌道に乗るにつれ、お客さんから「二次会や三次会に使えるスナックが欲しいなぁ」というリクエストが上がっていた。それに応えるべく貞末氏は大手門周辺の物件を探してみるも、そんな都合のいい物件は出てこない。そこでふと「あ、動けばいいのか」と思いついた。雑談のなかで「動く」×「スナック」の構想(妄想?)を仲間うちに話すと、「おもしろそう!」と数名が手を挙げ、あれよあれよという間に実行委員会が立ち上がったという。船長の玄ちゃんもその1人だ。翌日には、別のメンバーが静岡からマツダ社製のライトバンを見つけてきたというスピード感。シルバー&ブルーの車体カラーと、丸いフォルムがレトロで愛らしく、「スナック」の雰囲気にぴったりだった。そこからまたトントン拍子に企画が進んだそう。
ちなみに、「アポロ号」の由来は、やってきたライトバンが宇宙船のように見えたから。「宇宙船で、みんなが知ってる名前と言えば『アポロ号』でしょう?」と玄ちゃん。

日替わりママのスターティングメンバーは約5名。いずれも貞末氏の「こんなことやります!」に「おもしろそう!やってみたい!」と手を挙げた人々で、バックグラウンドは経営者・フリーランス・アパレル業・主婦など様々。“ママ”経験者はいない。今後もやりたい人がいれば、日替わりママ人材は広がりをみせる予定だという。
余談だが、貞末氏の肩書は株式会社ブルースカイの「代表取締役 / CEO(チーフ宴会オフィサー)」だ。「楽しそう」「おもしろそう」という魅力の、人を巻き込む力に驚く。

「動かすこと」で各地に笑顔と楽しさと出逢いを届けたい

不動産(土地や建物等)は、文字通り「動かない」もの。持ち家・賃貸に関わらず、ほとんどの人は一定の場所に拠点を置いて暮らし、またそこに根付いた経済活動がある。だが、ひとたび災害が起きると、不動産が被害を受けることで生活の基盤が揺らぎ、心理的・経済的・数多の負担が生じる。

たとえば、トレーラーハウスは住まいごと移動して生活できるし、あるいはコンテナを被災地に移動することで、簡易的な避難所や診療所など復興サポートの拠点をつくることもできる。実際に防災・減災を目指すユニークな防災都市構想<Popup Commons>をもとに、福岡市では社会実験が行われている。

この構想に共感し、「動く(移動する)」というキーワードで独自に何かできないかと考えられたのがアポロ号だ。各都市や地方集落・被災地などへ移動して、交流を中心に各地へ笑顔を運ぶ。行く先は被災地に限らず、各地でのコラボイベントやマルシェなども企画中だ。

「ヨーロッパにはファンフェアという移動型遊園地があって、娯楽の少ない地方に、娯楽施設がやってきます。そんなイメージ。例えば地方の集落や被災地に僕らが行って、娯楽を提供したり交流したり、そういう形で笑顔を届けに行きたいです。」と玄ちゃん。

【左】アポロ号車内の様子。ハイボールとソフトドリンクが80分飲み放題だ(写真:アポロ計画実行委員会)
【右】鳥飼八幡宮境内に停車中の様子。実行委員会のメンバーは宇宙服を模したおそろいのつなぎを着用。また、ナンバープレートはアポロ号が月面着陸を成功させた1969年に合わせたという徹底ぶり(写真:山口)【左】アポロ号車内の様子。ハイボールとソフトドリンクが80分飲み放題だ(写真:アポロ計画実行委員会) 【右】鳥飼八幡宮境内に停車中の様子。実行委員会のメンバーは宇宙服を模したおそろいのつなぎを着用。また、ナンバープレートはアポロ号が月面着陸を成功させた1969年に合わせたという徹底ぶり(写真:山口)

目に見えない「地域課題」を顕在化したい

「災害に対する復興や復旧はインフラや物資に関することで語られがち。でもそれらが整っても、心情を吐露する場所がなくて。例えば夫婦仲が悪くなるとか、やむを得ず選択した夫の単身赴任で諸々ワンオペになるとか、そういった精神面の被災状態は可視化されず、本当の意味での『日常』とは遠い状況にあるんです。交流の中で見えない課題をまずは顕在化させて、解決の糸口を探る。そんなサポートをしたいと考えています。」(玄ちゃん)
6月末にアポロ号は、東峰村で小さな子を持つ親子を対象にコミュニケーションを図った。東峰村は2017年の北部九州集中豪雨の被害が大きかったエリアだ。現地でヒアリングした内容をもとに、今後も継続的なサポートを行う予定だという。

また、こういったサポートが必要なのは、被災地だけではない。
「これはどんな人にも言えますが、閉塞された空間や小さな社会に属すると、特定の価値観に支配されてしまいます。田舎の集落などは都市部に比べてそんな状態にあることが多い。新しい風や別の価値観に触れることは、生きることを豊かにすると思うんです。僕たちは、同じような属性の人をアポロ号で連れて行き、盛り上がって仲良くなって、話すうちに抱えているモヤモヤを吐露してもらう、そういうことをやりたいんです。」(玄ちゃん)
課題が課題として見えないうちは、解決のしようもない。彼らが目指すのは、その地域の課題をそっと汲み取り、顕在化させてサポート可能な機関につなぐこと。

まるで宇宙船のような車内で、乗り組んだ人々と膝を突き合わせて話すと、なぜだか会話が弾むよう。私達も日頃抱えるモヤモヤを、船長の玄ちゃんやママに聞いてもらってはどうだろう。関係のない第三者を介して話すことで、思わぬ発見があるかもしれない。「スナック」は、本来そんな場所なのだろう。

アポロ号は、月の半分ほどを鳥飼八幡宮境内を拠点に営業予定だ(※営業時間は20:00~24:00)。ただし、イベント出店やサポートで各所へ移動するため、営業日についてはSNSをチェックしてほしい。

自治体や企業からの注目度も高く、既にいくつかのコラボイベントも控えているというアポロ号。1年間の社会実験を通して、その後各地にどのような変化がもたらされるのか、非常に楽しみである。

・動くスナックアポロ号Facebookページ
・九州キャラバン https://youtu.be/vzUJMoEvk6A

外が暗くなると、より宇宙船の雰囲気に。”船内”の一体感が出るのか、会話がはずむそう(写真提供:アポロ計画実行委員会)外が暗くなると、より宇宙船の雰囲気に。”船内”の一体感が出るのか、会話がはずむそう(写真提供:アポロ計画実行委員会)

2018年 08月23日 11時05分