会員制ソーシャルリビング「本町しもたや」オープン

「本町しもたや 」の入居するビル。1階は伊東屋珈琲「本町しもたや 」の入居するビル。1階は伊東屋珈琲

群馬県高崎市といえば、2017年春に世界レベルのスポーツ大会に対応する「高崎アリーナ」、同年秋には高崎駅西口に大型ショッピングセンター「高崎オーパ」が相次いでオープン。さらに東口には2018年オープン予定の「高崎文化芸術センター(仮)」、2020年オープン予定のコンベンション施設が建設中だ。

ビッグプロジェクトが次々に進行中の一方で、高崎市の2013年の空き家率14.8%は、国内平均の13.5%を上回る。(平成25年総務省住宅土地統計調査の推計値参照)
こうした中、高崎駅から徒歩20分、いまだに古い建物が点在する本町通り周辺では、リノベーションによって新たな息吹を吹き込まれ、空き家の再利用が進み始めている。仕掛けているのは、株式会社まちごと屋だ。

同社が2018年2月18日にオープンさせたのが、「本町しもたや」。大正時代に建てられた旧薬局をリノベーション。1階にはテナントとして、群馬県桐生市の人気珈琲店「伊東屋珈琲 高崎店」によるコーヒースタンド、2階はソーシャルリビングと名付けた会員制のシェアスペースとなっている。同社の代表取締役大澤博史さん、橋爪光年さん、武井仁美さんにお話を伺った。

今までなかったソーシャルリビングという発想

「本町しもたや」のプロジェクトは、大澤さんが前を通りかかった時、窓の奥に古い薬局の調剤室が見え、その雰囲気に引かれたことが始まり。オーナーと交渉して借り手を探すことの了解を得たものの、なかなか適切な借り手が現れなかったため、自社で購入した。

物件は高崎の中心市街に古くから存在する町家造り。通りに面した店構えは広くはないが、奥行きがある。1階は高崎で出店を検討していた伊東屋珈琲が出店。調剤室を利用したコーヒースタンドが、えも言われぬくつろぎの雰囲気を醸し出している。奥には2間続きの和室があり、手前は伊東屋珈琲の飲食スペース、奥は会員の打ち合わせスペースになっている。

細く急な階段を上った2階がソーシャルリビングだ。かつては和室3部屋があったが、20年以上使われていなかったため荒れ果てていた。部屋と部屋の仕切りをなくし、新たに床を張り、壁を塗装し直して、広いワンフロアとした。大きなソファを配したラウンジ、書き物やPC作業に集中できるテーブル席、読書や趣味に没頭できるスペースなど。用途と気分に合わせて居場所を見つけられる。ビールなど飲料(有料)が入った冷蔵庫、ターンテーブル&スピーカーなども備えられている。  

和の要素を生かしながら、存分にくつろげる空間に仕上げられた。北欧ヴィンテージ家具が空間に彩りを添えている。ワンフロアでありながら、大きく3つのカテゴリに分かれ、ゆとりのある造りだ。建築家のスタッフがリノベーションを担当し、床張りや塗装など、可能な限りスタッフによるDIYでコストを抑えた。

かつての調剤薬局をはじめ、使えるものは可能な限り生かしてあるかつての調剤薬局をはじめ、使えるものは可能な限り生かしてある

会員の数だけある使い方の多様性

コワーキングスペースのように仕事場と限定せず、読書や昼寝、勉強、音楽を聞きながらくつろぐなど、多目的に使える。資格取得のために勉強している人やランチと夜営業の間にくつろぐ飲食店オーナーをはじめ、使い方は実に多様だ。「勉強している人が多い印象がありますね」と大澤さんは言う。

会員(月額会費:税別6,800円)にはカードキーが与えられ、24時間いつでも利用ができる。深夜に利用する人もいる。ソーシャルリビングにスタッフは常駐していないが、会員同士のトラブルなど、特に問題は発生していないそうだ。「ソーシャルリビングのシステムは、会員は良い人であるという性善説に基づいているんです」と橋爪さんは笑う。

現在、会員数は約30人で、定員は40人。これまで同時に利用している会員は最大でも3人程度だったというから、まだ余裕はありそうだ。今後も、中庭にある物置、離れをリノベーションし、ギャラリーや1棟貸しスペースとする構想もある。

(右上)勉強やPCワークに適したテーブルコーナー(右下)書籍も並ぶ(左下)ターンテーブルとスピーカーもあるので、好きな音楽を聴くことも可能(左上)奥行きのある大きなワンフロアリビング(右上)勉強やPCワークに適したテーブルコーナー(右下)書籍も並ぶ(左下)ターンテーブルとスピーカーもあるので、好きな音楽を聴くことも可能(左上)奥行きのある大きなワンフロアリビング

貸し手の悩み・課題解決に寄り添う

(上)修復前の2階。まずは片付けから始まった(下)建物の奥にある中庭の物置や離れは、これからリノベーションする予定(上)修復前の2階。まずは片付けから始まった(下)建物の奥にある中庭の物置や離れは、これからリノベーションする予定

まちごと屋は、青年会議所で出会った大澤さんや橋爪さんらを中心に、2013年に設立。空き家と借り手のマッチング事業を行う。市街地の中でも、本町を中心とするエリアにフォーカスしている。高崎駅周辺とは異なり、本町には銭湯など古い風情が残っている。

「空き家となって市場に出回っていない物件には、理由があるんです」と大澤さんは言う。「貸し出さなくても経済的に困っていない」「むしろ、貸した場合のトラブルを避けたい」「家財道具が山積みでどうにもならない」「建物が老朽化しているから無理」「オーナーが高齢」「オーナーの所在が遠方」etc.
こうした理由から、あえて重い腰を上げようとしないオーナーが多い。

まちごと屋は、そんなオーナーの課題一つ一つに向き合い、「貸したい」と思わせるよう働きかける。例えば、「荷物が多すぎて貸せない」というケースでは、同社スタッフが掃除を手伝うこともある。トラブルを懸念するオーナーの不安を解消するために、借りる側の人柄や事業内容を重視する。オーナーと入居希望者の面談も行い、信頼関係が構築できると判断した場合のみ契約へと進む。建物の老朽化については、同社で貸し手、借り手双方にリノベーションの面から協力できることも大きなメリットだろう。

着実に身を結びつつある

左から武井さん、大澤さん、橋爪さん。元紺屋町にあるまちごと屋の事務所には、武井さんが常駐している左から武井さん、大澤さん、橋爪さん。元紺屋町にあるまちごと屋の事務所には、武井さんが常駐している

建物の発掘とオーナーとの交渉、借り手探し、相性の検討など綿密なマッチングワーク、そして場合によってはリノベーションまで請け負うため、1プロジェクトに多くの時間を要する。それでも、本町界隈に、書店「REBEL BOOKS」、「PIECE CAFE」などをはじめ、事例が増えつつある。

3人は「まちづくりや地域活性化といった意識はないんです」と口をそろえる。「とにかく続けていくことが大事」(橋爪さん)「自分が暮らす生活圏を楽しくしたい」(大澤さん)と気負いはない。当分の間は、本町周辺にフォーカスしていく予定だという。

空き家の解消には、オーナーの説得が第一歩となるが、課題解決のための丁寧な取り組みがまちごと屋の真骨頂だ。一歩ずつではあるが、恐らく10年単位で見れば、街は大きく変貌していくだろうと感じられた。


まちごと屋
http://machigotoya.jp/

2018年 08月12日 11時00分