所有者が不明の土地でも10年は自治体が活用できる制度

登記簿謄本などを調べても所有者が特定できない土地を利用可能にする特別措置法が2018年6月、国会で成立した(※「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」 2019年6月までに施行予定)。

資本主義の大原則である「私有財産制度」を、一定の条件の下であっても国や自治体といった公的機関にその利用にを認める制度ができたことは極めて異例(=画期的)と言うべきだが、事態はこのような法律が必要になるほど深刻だということを窺わせる。

内容は、現所有者不明の土地(不動産登記簿などの公簿情報により調査してもなお所有者が判明しない、または判明しても連絡がつかない土地、もちろん私有地である)について、都道府県知事の判断で最長10年間の「利用権」を設定することができ、公園や仮設道路、文化施設などの公益目的に限って利用することを可能にするものだ。

現在、この法律に該当する「所有者不明」の土地は全国で20%、約410万ヘクタールの面積を占めると推計されている。これは367.5万ヘクタールの九州本土を大きく上回る面積で、驚くほどの土地の所有者がわからないという状況にある。しかも今後このまま登記制度を変えずにおけば、人口減少や少子化・高齢化により所有者不明土地はさらに増えるとの指摘もなされている。

つまり、公益目的の利用に限定することなく「利用権」を民間にも認めて当該制度の利用拡大を進めなければ、土地の有効活用を推進することは困難になると考えておく必要がある。

活用ルールは厳格だが、公共工事は所有権取得も可能に

土地の所有者を探し特定することについても仕組みを合理化する土地の所有者を探し特定することについても仕組みを合理化する

ただし、「私有財産」である土地を所有者がわからないとはいえ許可なく利用することになるので、その運用はかなり厳格だ。「利用権」を設定できる対象となるのは建築物が建てられておらず(小規模かつ簡易な建築物は除外されるとのこと)、かつ反対する権利者もいない土地に限られる。

所有者不明土地について所有者が特定でき、かつ明け渡しを求めた場合はどうするのかというと期間満了後に原状回復を行い、所有者に異議がない場合は「利用権」設定期間を延長することを可能にしている。もちろん所有者が特定できた段階で「利用料」が然るべく支払われることになるが、この制度が施行されると、各自治体が利用権を速やかに設定することで利用の進まなかった土地に公園や道路、駐車場や地元物産品の直売所などを造ることができるようになる(※建築物の設置は公益目的であることが条件になる)。

さらに、公共工事の妨げになっている土地については、所有者不明であることを前提として各都道府県の収用委員会の審理を経ることなく「所有権」を取得できるという強制措置も盛り込まれているが、これも特段の修整を経ることなく成立している。

併せて、土地の所有者を探し特定することについても仕組みを合理化する。具体的には土地の所有者を探索するために必要な公的情報(登記簿はもちろん住民票や戸籍、固定資産課税台帳、地籍調査票など)を行政機関が利用できる制度を創設し、所有者を探すための情報を比較的簡便に得ることができるようにする。さらに、長期間相続登記がされていない土地については、登記官がその旨を登記簿に記載できる制度も創設される。所有者不明になることを未然に防ぐため、登記を促す仕組みを取り入れるということになる。

それでもこの法律の施行によって「利用権」を設定する土地の件数は、10年間で100件が目標というから、九州本土を大きく上回る所有者不明の土地の利用を促進するには、まだはるかな道のりが待っているようだ。

所有者不明土地の利用は端緒。国土調査法、土地基本法の改正も視野に

今回の特別措置法の成立・施行によって所有者不明土地の利用を促進するとともに土地所有者の把握を進める今回の特別措置法の成立・施行によって所有者不明土地の利用を促進するとともに土地所有者の把握を進める

政府は今後の施策として、2020年までに国土調査法および土地基本法の改正を視野に入れている。
今回の特別措置法の成立・施行によって所有者不明土地の利用を促進するとともに土地所有者の把握を進め、その先に新たに所有者不明の土地が発生しないようにするために、売買・相続などで土地の所有者が変更された場合の登記を義務付けることが最終的なゴールになる。

すでに政府からは「所有者不明土地問題 対策推進のための工程表」が公表されており、その中には所有者の氏名や住所が正確に登記されていない土地について、これも登記官に所有者を特定するための調査権限を与えたり、自治体が把握できる所有者の死亡情報と、国が管理している登記情報を紐付けて、現所有者を速やかに調べられるようにする構想が掲げられている。

実際には、登記簿表題部の所有者の表記が「○○太郎 他5名」などと記載されている「変則型登記」が数多く存在しており、調査権限が与えられればすぐに判明するという単純な話ではないが、土地の所有者を特定し、権利関係を明らかにすることで私的財産である土地の活用(税金の徴収も含めて)を公的に促進することを目的とした一種の社会主義的アプローチとなっていることに特異性がある。

そもそもなぜ所有者が特定できなくなるのか

所有者不明の土地がこれだけ増えて社会問題化した背景には、土地の相続人が所有者の変更について登記簿に記載する義務がない(登記簿もしくは登記事項証明書の甲区、乙区欄で登記される権利については義務付けられていない)ことが密接に関わっている。

売買による所有権の移転であれば、高額のコストを負担している経済活動でもあるので登記しないということは一般に考えにくいが、相続となると状況は変わってくる。相続が発生しても、権利関係を外部に主張する必要がなければ現に利用し居住する者が実際の所有者であることは明確であり、登記しなくても実生活において支障をきたすことはないからだ。

相続の発生によって多数の相続人がいる場合は特に登記が煩雑で費用も相応に発生するため、逡巡しているうちに時間がたってしまい、そのまま放置されるケースが全国で多発しており、いざ権利関係を明確にしようとすると所有者が特定できなくなってしまうのである。

現在は任意となっている登記を義務付ければ、今後所有者不明の土地が増えることを防ぐことが出できる。併せて土地基本法には「所有者の責務」を明記することで登記を促す方針であるという。

このまま放置すると北海道全土が所有者不明に!?

増田寛也元総務相が主宰する「所有者不明土地問題研究会WG」の試算によると、冒頭に記した通り2016年時点で九州全土の面積を上回る約410万ヘクタールの所有者不明の土地があると推計されるが、このまま対策を講じなければ2040年には北海道全土に相当する約780万ヘクタールにまで拡大する可能性があるとされている。

特別措置法の成立によって、所有者不明土地問題が看過することができない深刻な事態に至っていることが広く認識されることとなったが、まだ問題解決の端緒についたばかりであり、根本的な解決のために同法の施行、国土調査法および土地基本法の改正など関連諸法案の整備と迅速な対応が必要になる。

少子化・高齢化の影響は土地利用だけでなく、土地権利の態様にも大きな影響を与えている。

■関連資料:国土交通省 土地・建設産業局
「所有者不明土地、土地所有に関する基本制度の見直しの動向について」 PDF
(2018年10月)http://www.mlit.go.jp/common/001257147.pdf

最長10年間の“利用権”を設定する特別措置法は、ひとつの解決策となるのか最長10年間の“利用権”を設定する特別措置法は、ひとつの解決策となるのか

2019年 01月06日 11時00分