被災者の生活を少しでも快適にしたいと開発された「クレイドルキャビン」

いつ発生するかわからない地震への備えは、地震大国日本に住む我々にとってもはや必須ともいえるもの。さらに豪雨による河川の氾濫や土砂災害など、「100年に1度」と呼ばれるような災害が頻繁に発生している昨今、誰しも防災の重要さを認識していることだろう。

ただ、「もしも自分が被災者になったら」という視点で、防災を真剣に考えたことがある人がどれ程いるだろう? プライバシーのない体育館や窮屈な車中での宿泊、住み慣れない仮設住宅での暮らし…。

いつ自分が被災者になるかわからない今、被災者が送る不自由な生活を少しでも支援したいと開発された「災害時宿泊ユニット」があるというので取材に訪れた。

避難所等に運搬・設置が可能な災害時宿泊ユニット「クレイドルキャビン」。写真は昨年10月に行われた「危機管理産業展2016」のもの。東京都西東京市にある株式会社アーネストワンの本社近くで現物を見ることができる避難所等に運搬・設置が可能な災害時宿泊ユニット「クレイドルキャビン」。写真は昨年10月に行われた「危機管理産業展2016」のもの。東京都西東京市にある株式会社アーネストワンの本社近くで現物を見ることができる

「建築に携わる会社として被災者に何かできることはないか?」と、熊本地震をきっかけに開発を開始

お話を伺ったのは、分譲住宅を事業主体とする不動産、建設会社の株式会社アーネストワン クレイドルキャビンプロジェクトチームの高橋博紀さん。
「昨年起きた熊本地震の後、弊社で過去に分譲を行った126棟の住宅の無償点検を行いました。幸い弊社分譲の住宅に構造上支障がある建物は1棟もなかったのですが、避難所で不自由な生活をされている方々を見て、建築に携わる会社として何かできることはないか、せめてプライバシーを守りながら安全にゆっくり寝ることができるものを提供できないかとの想いで開発したのが、災害時宿泊ユニット『クレイドルキャビン』です」

クレイドルキャビンは、避難所等に運搬・設置ができ、設置後すぐにプライバシーの守られた快適な空間をつくれるのが特徴。
「クレイドルキャビンを一言で表すなら、内部を自由にカスタマイズできるコンテナ。4人が寝られる寝室タイプや、トイレ・シャワーの付いたタイプ、女性用トイレがメインのタイプなど様々なクレイドルキャビンが用意されており、現在も他の用途を開発中です」

平常時にはガレージや防音室、各種店舗、アトリエ、移動事務所など自由な使い方ができ、快適に過ごせるように外周部すべてに断熱材を入れて断熱性能を確保。また太陽光パネルや蓄電池の搭載も可能で、照明やエアコン等の電気機器も使用できる。

クレイドルキャビンの内部。写真左はテレビを見ることもできるハイグレード室内タイプ。右はトイレ・シャワータイプ。</br>ほかにも様々なタイプを用意して被災者の暮らしを支援するクレイドルキャビンの内部。写真左はテレビを見ることもできるハイグレード室内タイプ。右はトイレ・シャワータイプ。
ほかにも様々なタイプを用意して被災者の暮らしを支援する

「全国の市町村に設置して、いざという時に助け合い、繋がる安心感を提供したい」

同社が考えているのが、クレイドルキャビンを全国すべての市町村に配備すること。個人的な災害への備えとしてのほか、社会的な備えとしての活用も考えている。
「全国の自治体や企業様にクレイドルキャビンを保有していただき、安全な暮らしを守るためのネットワークを構築したいと考えています。普段はそれぞれの場所で使っていても、災害時には皆で助け合える、どこで災害が起きても多数のクレイドルキャビンを集めて有効活用できる体制をつくりたいですね」と高橋さん。

仮に全国1740ほどの市町村が1台ずつクレイドルキャビンを保有した場合、ネットワーク全体で約7000人分の住宅供給力に達する。企業が所有すれば、さらにその人数は増える。クレイドルキャビンは設置場所の状況や設置数に応じて自由にレイアウトができるほか、省スペース性に優れるため、テニスコートの広さがあれば26台まで保管できるという。

左上から時計まわりに、スペースを有効に使える並列型、小コミュニティ向きのコの字型、</br>大コミュニティ向きのUの字型、スペースが限られている場合に有効な2階建て。場所に応じた使い方ができる左上から時計まわりに、スペースを有効に使える並列型、小コミュニティ向きのコの字型、
大コミュニティ向きのUの字型、スペースが限られている場合に有効な2階建て。場所に応じた使い方ができる

認知度アップ、予算や場所の確保が今後の課題

お話を伺った、株式会社アーネストワン クレイドルキャビンプロジェクトチーム プロジェクトマネージャーの高橋博紀さん。「決して十分ではありませんが、被災された方に少しでも快適な暮らしをご提供したいと考えています」お話を伺った、株式会社アーネストワン クレイドルキャビンプロジェクトチーム プロジェクトマネージャーの高橋博紀さん。「決して十分ではありませんが、被災された方に少しでも快適な暮らしをご提供したいと考えています」

現在、全国の防災関係の展示会などにクレイドルキャビンを出展し、広報活動を行っている高橋さん。
「災害時に皆で助け合おうという、クレイドルキャビンの『絆ネット』という考え方が評価されています。まずはクレイドルキャビンを知っていただき、1台でも購入していただけるように認知度を高めていくのが現状の課題です」と話す。昨年初出展した「危機管理産業展(RISCON TOKYO)2016」に今年も出展を予定し、災害時に安心な暮らしをいち早く被災地の方に届ける体制を紹介したいと意気込む。クレイドルキャビンの価格の目安は、ハイグレード寝室タイプ/620万円、スタンダード寝室タイプ/480万円、トイレ・シャワータイプ/460万円、ダイニングキッチンタイプ/380万円(12フィートサイズ、税別)。

被災時に協力しあい、短時間に大量の住宅が供給可能なクレイドルキャビン。しかしその一方で、クレイドルキャビンが今後全国に普及するためには、保管場所の確保や保管時における有効活用の提案、各自治体や企業における予算の調整、災害時に道路が寸断された場合の運搬や輸送の問題など、いくつかの課題のクリアが必要だと思われる。

クレイドルキャビンプロジェクトチームは、高橋さん以外に女性スタッフ3名の合計4名。幼児連れ被災者のためのオムツ替えシートのベルト向きの工夫やトイレの着替え台の設置の検討など、女性ならではのアイデアも融合させながら新商品の開発に取り組んでいる。

いつどこで自分が被災者になるかわからない。クレイドルキャビンのような災害時宿泊ユニットが普及すれば、少しでも安心して眠ることができるのではないかと感じた。

2017年 09月18日 11時00分