今も多くの人を惹きつける中銀カプセルタワービルの新しい取組み

特徴的な外観の中銀カプセルタワービル特徴的な外観の中銀カプセルタワービル

「中銀カプセルタワービル」といえば、故黒川紀章氏の作品として広く知られている。築45年を超えた今でも、内部を見学したいという人が国内外から訪れているが、老朽化していることもあり、解体か保存かの間で揺れていることは以前取り上げた通りだ。

この中銀カプセルタワービルで、新たに「マンスリーカプセル」という取組みが始まった。1ヶ月という短期間ではあるものの、賃貸借契約を結んでカプセルの一室に住めるというものだ。

なぜ、マンスリーなのか?また、どのような人が申し込んでいるのだろうか。
中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクトの前田達之さんと、実際にマンスリーカプセルの第一期に応募し、当選した池尾健さんにお話を伺うことができた。

マンスリーカプセルの狙いはファン層の拡大

ファン垂涎の中銀カプセルタワービルのパンフレット。当時のものをスキャンして忠実に再現している。入居者はもちろん、カプセルタワービルの見学に来た人にも人気だファン垂涎の中銀カプセルタワービルのパンフレット。当時のものをスキャンして忠実に再現している。入居者はもちろん、カプセルタワービルの見学に来た人にも人気だ

2015年まで、中銀カプセルタワービルには民泊として利用されていた部屋があり、大変な人気を集めていた。一泊15,000円という、民泊にしては強気の価格設定にも関わらず、民泊予約サイトAirbnbの人気民泊TOP40にアジアから唯一ランクインしたこともあるという。
管理組合の方針で、現在は民泊としての利用は禁止されているものの、泊まりたいという問合せはまだ続いているそうだ。
しかし今、中銀カプセルタワービルを巡る状況は変わってきている。

「2018年6月に、所有者だった中銀が借地権、所有権を不動産ファンドに売却したのですが、購入したファンドは建物を解体したいとの意向を示しているのです。そこで、この建物の価値を伝えることで保存の方向に動いてもらえないかと考え、今回マンスリーカプセルを始めることにしました」(前田さん)

前田さんはマンスリーカプセル開始のきっかけをそのように話す。
どれだけ多くの人がこの建物に魅力を感じ、住みたい、あるいは泊まりたいと思っているのか。それを伝えることにより、建物を守ろうという取組みが、この「マンスリーカプセル」なのだ。

マンスリーという短い期間にしたのは、よりたくさんの人にカプセルでの暮らしを体験してもらいたいため。いわば「お試し入居」だ。その後、もっと住みたい、所有したいと思ったら、別のカプセルを賃貸するなり、購入するなりして住人となっていってほしい、と前田さん。

「カプセルの見学会も人気ですが、実際に使ってみてはじめてわかる魅力もあるはず。まずは使ってもらい、建物のファンを増やしていくことが大切だと考えています。それに、建物はある程度人の入れ替わりが必要だと思うんです。まさしくメタボリズム(新陳代謝)ですね」(前田さん)

マンスリーカプセルを始めてから、情報発信はFacebookやHPのみだが、入居申し込みの倍率は10倍以上になっているという人気ぶり。海外からの問合せも増えてきているのだそうだ。

インテリアは無印良品で統一。カプセルの住み心地は?

株式会社良品計画の協力を得て、無印良品の商品で統一されたインテリアは、シンプルながら機能的だ。ステンレスユニットシェルフをいくつか組み合わせた棚は、ハンガーラックやデスクの役割も兼ねている。棚と反対側の壁際にはベッドが置かれ、窓際にはサイドテーブルにもなる小さなスツールと、柔らかな光を放つ球状の間接照明。空いた棚に置かれたエアプランツや本も無印良品セレクトだ。狭い空間を最大限効率的に利用したインテリアで、着の身着のまま入居しても、おしゃれな暮らしを始められるようになっている。

「カプセルで生活している人たちは、狭い空間で暮らしていることもあってミニマリストが多いようなんです。よく使われているのが無印良品の家具。シンプルな家具ならどんなカプセルとの相性も良いのではないかと思い、今回協力をお願いしました」と前田さん。
そんな部屋の記念すべき最初の入居者となったのが、京都大学・立教大学などで新しい形の観光教育に取り組む池尾健さんだ。

「もともと建築が好きで、中銀カプセルタワービルにも興味がありました。マンスリーカプセルを知ったきっかけはFacebookだったかな。募集の情報を見つけ、きっとすぐに埋まってしまうと思って、勢いで申し込みました」(池尾さん)

申し込みの際には、自己PRや今回申し込んだ理由をメールにしたためたという池尾さん。その熱意が実ってか、10倍以上の倍率を突破し、晴れて入居となったのだった。

「この部屋は他の部屋と離れて独立していて、横に高速道路が走っているとは思えないほど、とても静か。現在は事務所として使用しているのですが、集中して仕事をしたいときにはぴったりです。ベッドがあるので昼寝もできますしね」(池尾さん)

そんな池尾さんの部屋には、多くの人が訪れるという。

「仕事の打ち合わせなど、別の場所でもいいのにわざわざこの部屋でやりたいという方も多いんです(笑)。建築好きに限らず、この建物に興味を持っている人が多いんだなと感じています。誰かが部屋に来るたびに色々質問されるので、毎回この建物のことを話して、価値を伝えているんですよ」(池尾さん)

窓際の棚はデスクとして使用中(左上)低めのベッドは人が遊びに来た際のソファ代わりにも(右上)<br>収納ボックスも椅子を兼ねる。モノを入れる場所はこのボックスだけ(左下)<br>中央下段の棚にはインテリアとしてイラストとエアプランツが置かれていた(右下)窓際の棚はデスクとして使用中(左上)低めのベッドは人が遊びに来た際のソファ代わりにも(右上)
収納ボックスも椅子を兼ねる。モノを入れる場所はこのボックスだけ(左下)
中央下段の棚にはインテリアとしてイラストとエアプランツが置かれていた(右下)

シンプル化する暮らしの原点

マンスリーカプセル入居者第一号の池尾健さん。学生たちを見学に連れてきたところ、この建物のことを知らない子も多かったそう。「アトラクションのような感じで見ていましたね」マンスリーカプセル入居者第一号の池尾健さん。学生たちを見学に連れてきたところ、この建物のことを知らない子も多かったそう。「アトラクションのような感じで見ていましたね」

「最近はニューヨークでタイニーハウス系の建物が人気を博しているように、一つ所に定住することよりもモビリティを重視する人が増えてきています。また、イギリスの会社がカプセルホテルをイメージしたホテルを展開するなど、シンプルなホテルのあり方が日本以外でも受け入れられるようになってきました。住居とホテルの在り方が近づいてきているようにも感じますね」
大学の観光学部でホテルに関する講義も⾏う池尾さんはそのように分析する。

「タイニーハウスやカプセルホテルの原型ともいえるのが、この中銀カプセルタワービル。そのため、この建物は貴重な歴史的遺産だと考えています。投資効率や経済的合理性を考えると、一度解体されたらこのような建物はもう建てられないでしょう。オリジナルがないと歴史検証もできませんし、再現性がないものは保存すべきだと考えています」(池尾さん)

マンスリーカプセルに応募してくるのは、建物の価値を理解している池尾さんのような人ばかりとは限らない。第二期の入居者は都内で働く社会人の女性で、応募者全体としても意外に女性が多いのだという。「まだ始まったばかりで検証できていませんが、中には無印良品のファンという人もいるかもしれませんね」と前田さん。しかし、例えばここに住む本人や、遊びに来た友人らがSNSに写真をアップすることも、十分にファンを増やすことにつながると考えている。

多くの人に愛され続けているユニークな建物とはいえ、老朽化を放っておくわけにもいかない。前田さんが目指すのは、黒川紀章が計画したように、カプセルを新しく交換していくことだ。

「支柱は問題なく使い続けられるのですが、カプセルは本来25年で交換する想定のもの。それを46年も使い続けているのですから、交換しなければならないと思っています。そのため、行政や黒川事務所と連携しながら話し合いを進めているところです。もしカプセルの交換工事現場を公開したら、注目が集まりそうですよね」(前田さん)

中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクトでは、投資型クラウドファンディング「カプセルファンド」も開始している。ウクライナの建築家が内装をデザインするカプセルの改修費を投資し、完成後はマンスリーカプセルとして運用、その利回りをリターンとするもの。これもまた、カプセルに関わる人、ファンを増やす活動の一つだ。

前田さん、池尾さんのように、中銀カプセルタワービルを愛する人たちの活動でファンは着実に増えている。保存か、解体か…結論はどうなるのだろうか。今後を見守っていきたい。


■取材協力
中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト
マンスリーカプセル
https://www.nakagincapsuletower.com/monthlycapsule

2018年 12月26日 11時05分