東日本大震災から生まれたスマートモデューロ

以前紹介した、動く家「スマートモデューロ」。
1つのユニットが海上コンテナ(幅2.4m×長さ12m×高さ2.89m)と同一規格でつくられており、連結により床面積を広くすることもできる。住宅だけにとどまらず、店舗やオフィス、ホテルなどにも活用されている。耐用年数は100年以上で、オフィスから住宅への転用など、さまざまな用途として再利用することも可能だ。動かすことができて、広さも自由に選ぶことができるという新しい価値観を与えてくれるのが「スマートモデューロ」だ。
今回は、そんな「スマートモデューロ」が生まれた背景と今後の展望について、お伝えしたい。引き続き、開発した株式会社アーキビジョン21(本社:北海道千歳市)の代表取締役丹野正則さんに聞いた。

「『スマートモデューロ』は東日本大震災の経験から生まれたんです。宮城県の亘理町にも支店があるのですが、当時、巨大地震と大津波が押し寄せ、甚大な被害でした。そこで、すぐに震災復興に携わることになりました。」
応急仮設住宅として、当時所有していたミニハウス(9.6m×2.4m)6棟を全国から集めた。もともと工事現場の職人が住むための仮設住宅であったが、気密や断熱性が高く、評判が良かったそうだ。

「応急仮設住宅(以下、仮設住宅)では、断熱や遮音性能が低く、結露がひどかったり、隣の家の会話までも聞こえてくるような劣悪な環境の中で暮らしている方が大勢いらっしゃいました。北海道ではあたり前の、気密や断熱のことが考えられている建物が少ないことを実感しました。しかし、そういった仮設住宅ですら、職人不足や資材不足などで建設に1年くらいの時間が費やされていたのです。」

いち早く被災者の方に快適な住まいを提供する方法はないかと考えていたところ、品川の東京事務所近くからコンテナの陸揚げの様子を目にしたそうだ。
「船が入ってきて、大量の海上コンテナがクレーンで吊るされ、次々とトレーラーに載せられていました。ワンタッチで固定され、何百台もが次々と発車するのです。家も同じようにできたら一度に何百台、何千台もが運べるのではと思いました。」

そうして、震災から3年たった2014年、海上コンテナと同規格であるスマートモデューロが完成した。

スマートモデューロをクレーンで吊って、海上コンテナ用の輸送トレーラーに載せている様子。スマートモデューロについている箱金物とトレーラーがワンタッチで固定されるという仕組み(提供:アーキビジョン21)スマートモデューロをクレーンで吊って、海上コンテナ用の輸送トレーラーに載せている様子。スマートモデューロについている箱金物とトレーラーがワンタッチで固定されるという仕組み(提供:アーキビジョン21)

スマートモデューロを仮設住宅に。次なる震災に備えるための仕組み「防災・家バンク」

復興庁によると、16,427戸の仮設住宅が東日本大震災から7年たった今もなお現役で使われているという。(2018年3月時点)全ての仮設住宅が整うまでに時間がかかったことに加え、本来の入居期限が2年とされている仮設住宅が未だに使われているというのが現状だ。丹野さんは、仮設住宅の建設費と解体費に多額の金額を要することが、国の財政を圧迫していると指摘する。さらに、そういった現状を目の当たりにし、首都直下地震など、大規模な震災が起こったときのことを危惧しているという。

東日本大震災では、12万戸の仮設住宅(みなし仮設住宅を含む)が整備された。内閣府によると首都直下地震では、最大94万戸の仮設住宅が必要になると試算されている。これは、東日本大震災の約8倍にあたる数字だ。
「このままいくと、仮設住宅が整備されるまでに7年ほどかかる計算になってしまいます。人間の生活の基本は『住まい』です。住まいが戻らなければ、復興とはいえません。あまりに震災後の復旧が遅れていますし、実質的に復興なんてしていません。費用も膨大なものとなり、国や地方自治体への負担は計り知れず、財政破綻を招く可能性もある。国だけに任せておくのではなく、我々民間も頑張らないといけないと思っています。」

そこで、丹野さんは「防災・家バンク」という仕組みを考案した。大災害に備えて、国・地方自治体・各種法人・一般企業があらゆる用途の施設に「スマートモデューロ」の技術を採用し、災害時には被災地へ輸送して、仮設住宅として使う、というものだ。仮設住宅としての役割が終わった際には、元の建物として、または別の用途で再利用することができる。
全国で「防災・家バンク」のシステムに共感してくれる生産パートナーを募っており、本州でも計画が進んでいるという。
「現在、ホテルの建設に力を入れています。災害時には、宿泊施設の需要は減ってしまうことが多いです。しかし、仮設住宅として用途を変え、被災地へ輸送することで、建物を生かすことができます。できるだけ3、4階建てと階層を多くして、収容人数が多い施設をつくることで、災害時に多くの仮設住宅を提供できるのではないかと考えています。」

移動でき、様々な用途に転用がしやすく長く使い続けることができる。そして、万が一に備えた活用が検討されているのが「スマートモデューロ」なのである。震災復興の様子を間近で見てきた丹野さんだからこそ、考えられたことなのかもしれない。

千歳防災展示場の様子。モデルルームは、そのままレンタルすることができる。さらに「防災・家バンク」にも登録されているので、災害時には仮設住宅として転用される可能性もある千歳防災展示場の様子。モデルルームは、そのままレンタルすることができる。さらに「防災・家バンク」にも登録されているので、災害時には仮設住宅として転用される可能性もある

住宅も長く使い続けられる社会資産へ

株式会社アーキビジョン21 代表取締役丹野正則さん株式会社アーキビジョン21 代表取締役丹野正則さん

丹野さんは、スマートモデューロを通じて、住宅が社会資産となる未来を築こうと取り組んでいる。
日本の住宅は、30年ほどで価値がなくなり、「建て替える」という考え方が主流だ。一方海外では、建物に何度も手を入れながら長く使い続ける文化が根付いている。家を建て替えるということは、大量にゴミを出していることに他ならない。

「30年サイクルでゴミを排出するのではなく、木材で頑丈な建物を建て、世代交代をしながら住み続けられることができれば、家は立派な社会資産になります。」

住宅というと、どうしても「不動産」と考えてしまうが、スマートモデューロは「動産」だ。さらに、家だけではなく、さまざまな用途にも対応することができる。
都市圏では、待機児童が多く、保育施設の供給が進んでいるが、少子高齢化社会のなかでは、いつか保育所が供給過剰で必要なくなってしまうこともあるかもしれない。そんな時もスマートモデューロであれば、必要なところへ、用途を変えて再利用することができる。

丹野さんは、常に社会と向き合いながら、未来を見据えている。建物も社会や価値観に合わせて柔軟に変化するべきだと考えていった結果、動く家「スマートモデューロ」が生まれたのだろう。今後、スマートモデューロが社会資産として、どこで、どのような用途で使われ、受け継がれていくのだろうか。どんな価値観を創造していくのか、期待したい。

取材協力:
株式会社アーキビジョン21 http://www.archi21.co.jp/
スマートモデューロ http://smartmodulo.jp/

2018年 07月12日 11時05分