長引くプレハブ仮設住宅での暮らし

2011年3月11日に起こった「東日本大震災」から4年目。2014年9月には、プレハブの仮設住宅で暮らす住民は、宮城、岩手、福島で約8万9千人というニュースが流れていた。

仮設住宅は、「災害救助法」という法律のもと、1戸にかかる建設費、住宅の広さ、供与期間などが定められている。東日本大震災発生当時の1戸にかかる建設費用は238.7万円(50戸以上を集団で設置する場合を除く)、住宅の広さは、1戸当たり平均29.7m2(約9坪)を標準とし、供与期間は建物の完成から原則2年とされていた。また仮設住宅は、「応急仮設住宅」と称される建築物だが、被災者の一時的な居住の安定と、生活再建・住宅再建に向けての足がかりになるものという目的のもと、従来の建築基準法の規定から緩和された建築物になっている。

通常、2年間という供与期間だが、1年ごとに特定行政庁の許可を受けることで延長ができる。それもあって4年目の現在も、仮設住宅での暮らしが可能になっているのだ。ただ、プレハブということもあり、建物を支える杭や床の腐食、建物の傾き、大量のカビの発生、雨漏りといった建物の傷みの激しさが問題になっている。住宅の劣化にともなって、入居者の健康状態を検査した自治体もあるほどだ。

一刻でも早い復興住宅への転居が待たれるのだが、ここにきて復興事業計画の遅れから最大8年もの間、仮設住宅に暮らす可能性がでてきたというのだ。仮設住宅の修繕に着手するものの、5年で仮設住宅が解消された阪神・淡路大震災との違いが明らかだ。

建築資材や人件の確保など諸処の理由はあるが、こんな時ほど住居くらいは快適で住みやすい空間であってほしいと、誰もが思うのではないだろうか。

そんな時、阪急百貨店うめだ本店で展示されていた、被災者が気持ちよく暮らせる木造の仮設住宅を目撃した。しかも、その仮設住宅は、そのまま復興住宅として移築することも可能だという。そこで、筆者はこの三角形の木造住宅についてインタビューをすることにした。

2014年9月、阪急百貨店うめだ本店で開催されたオークヴィレッジ株式会社40周年展。
合掌造りの「復興住宅」に進化する「仮設住宅」が展示されていた2014年9月、阪急百貨店うめだ本店で開催されたオークヴィレッジ株式会社40周年展。 合掌造りの「復興住宅」に進化する「仮設住宅」が展示されていた

建築設計士と大工職人が作る"究極の住まい"を被災地へ届けたい

「仮設住宅」から「復興住宅」に進化させる木造住宅を企画、建築するのは、オークヴィレッジ株式会社の木造建築研究所だ。世界遺産に登録された合掌造りの古民家が建ち並ぶ白川郷の隣の市、飛騨高山に本社がある。「『100年かかって育った木は、100年使えるモノに』をコンセプトに、食卓のお椀から建築まで!国産の木を使った商品を手掛け、2014年で40周年を迎えました」と木造建築研究所・所長の上野英二氏が話してくれた。創業当初は、木を使ったオーダーメイドの家具からスタートし、今では食器類や子供の玩具、新築住宅、民家再生(改築・改装)、店舗設計といった建築分野まで幅広く事業を展開している。

建築に精通しているとはいえ、なぜ仮設住宅を企画・提案するに至ったのか。
その理由を上野氏に聞いてみると「東日本大震災が起こった当時は、東京で3月末に竣工を控えた建物の施工をしていました。地震の直後は、そのまま工事が進められると思っていたのですが、その被害の甚大さから建築資材が入手できないことが分かり、工事がストップしてしまいました。大工職人を含め我々も、なす術もなくただじっと事態を見守るしかなかったんです。やるせない気持ちばかりが募り、自分たちに何か出来ることはないかと、社員や大工職人と話し合って、出てきた案が『仮設住宅から復興住宅へ』という住宅の提案だったんです。これなら、自分たちが持っている建築のノウハウを活かして、世の中の役に立つことができる!と思いました」と熱く語ってくれた。

仮設住宅でも、木材を使ってしっかりとした構法で作れば後々、復興住宅として再利用できる!そう考えたというのだ。上野氏が設計図を作成し、大工がもつ職人技で釘を使わずに組み立てる「木組み」という伝統的な構法を用いて仮設住宅を建設するのだ。もちろん使用するのは国産の木材、しかもそのほとんどが間伐材だ。木造というと高級で高いイメージがあるが、間伐材を使うことで、日本の林業に対して貢献もでき、コストも押さえられるという。

「復興住宅」に進化する「仮設住宅」の建築風景。大工職人が日本の伝統技術「木組み」構法で、組み立てる。建物の外側には、防水・防腐・防虫効果のある柿渋(天然塗料)を塗って仕上げる「復興住宅」に進化する「仮設住宅」の建築風景。大工職人が日本の伝統技術「木組み」構法で、組み立てる。建物の外側には、防水・防腐・防虫効果のある柿渋(天然塗料)を塗って仕上げる

飛騨高山の合掌造りをイメージさせる「仮設住宅」兼「復興住宅」、その建設費用は?

左:天井の高さが広がりを演出するリビング・ダイニング。<br>右上:様々な用途に利用できる2階のロフト。右下:木目がキレイな間仕切り壁、階段で2階のロフトへ左:天井の高さが広がりを演出するリビング・ダイニング。
右上:様々な用途に利用できる2階のロフト。右下:木目がキレイな間仕切り壁、階段で2階のロフトへ

先の項で述べた通り震災当時の法律では、仮設住宅について建築費238.7万円、約9坪という標準サイズが設定されていた。この広さだと、4.5畳の部屋が2つ、キッチン、浴室、トイレという2DKが一般的な間取りだ。傷みが激しいプレハブの仮設住宅は、安全性、快適性などを定めた建築基準法が緩和された応急仮設住宅であるため当然、長期的な利用には不向きなのである。談話室・集会所の建設費、造成費、追加工事費を含めて、実際に岩手、宮城、福島でかかった戸当たりの建設費は、約617万円〜730万円(平成25年1月時点 厚生労働省調べ)だという。それだけの費用をかけても、仮設住宅解消時には解体費用が別途かかるうえ、プレハブは再利用ができないためすべて廃棄処分となる。

では、オークヴィレッジ株式会社が提供する木造の仮設住宅はどうなのか。
約9坪という広さは同じだが、合掌造りを思わせる三角形の形状を活かし、2DKの間取りにロフトがプラスされる。このロフトがあるかどうかで、生活の快適性に大きな差が生まれると上野氏は言う。例えば、プレハブの仮設住宅では、部屋の間に仕切りはあるものの、ほとんど同じ部屋で窮屈な空間を過ごすことになる。家族それぞれの勉強したい、寝たい、食べたい、寛ぎたいといった時間を別々にとることが少々難しくなる。でも、ロフトがあれば夜でも一方は就寝し、一方では勉強をするというプライバシーの確保がしやすくなるというのだ。
また、断熱材として幾重にも板を貼り合わせ、厚みをつけることで断熱効果を高めることができ、結露やカビの心配も軽減される。木がもたらす空気の浄化作用や香り、ぬくもりが気持ちに癒しとゆとりを与えてくれる。

「仮設住宅だから、窮屈な生活は当たり前ではなく、そんな時だからこそ、住居は豊かな空間であって欲しいと、建築に携わる者として、そう思うんです」と、上野氏は静かに語っていた。

この仮設住宅の最大のメリットは、解体しても「復興住宅」として再利用することが出来るという点だ。この合掌作りの下に、新たな居住空間を増築すれば、約18坪の住宅に生まれ変わる。気になる建築費用は、100棟の仮設住宅が造れれば1戸600万円台ぐらいにできるといい、復興住宅として増築無く移築した場合なら約1,000万円ほどの予算でできるという。

万が一に備えた各自治体への地道な働きかけ

左:必要最小限の部材と労力で、空間を造ることを追求した結果、三角形(合掌)の仮設住宅に。右:一階を増築し、仮設住宅を上に載せると、復興住宅になる!左:必要最小限の部材と労力で、空間を造ることを追求した結果、三角形(合掌)の仮設住宅に。右:一階を増築し、仮設住宅を上に載せると、復興住宅になる!

「仮設住宅」を「復興住宅」に進化させるこの住宅を、被災地の自治体に提案したのは、大手ハウスメーカーなどに、プレハブ仮設住宅が大量に発注されたあとだったと言い、入り込むスキはなかったと上野氏は言う。あれから5年目を迎えようとしている今も、各自治体への地道な提案活動を継続している。木材は乾燥させる必要があるため、いざという時に山から切り出したのでは間に合わない。誰もが災害に遭いたくもないし、そんな暮らしをしたいとは思わない、けれど、誰もがそうなる可能性がある。万が一に備え事前に準備しておく必要性を訴え、木造の仮設住宅の保持を促しているのだ。

有事のときは、数百〜数千単位の仮設住宅が必要になる。そこで、被災地の周辺に10棟の仮設住宅を保持する自治体が10箇所あれば、100棟の木造住宅を被災地に送り込むことができる。それが日本全国となれば、その数の多さは容易に想像できる。それは各自治体が協力して、被災地の人々を支援・サポートすることにもなるのだ。少々、話しは大きくなったが、それができれば協力し助け合う日本人の姿勢が、また世界を驚かせることになるかもしれない。何もないときは、この仮設住宅をキャンプのバンガローなどの各種イベントにも使用できるので、倉庫で眠らせることもない。

仮設住宅を移築して復興住宅として住み続けたいとなれば、自治体の判断で被災者に払い下げることも可能だ。そのままの形で復興住宅にもできるが、三角の合掌造りを2階にして、1階部分を増築すれば生活面積が増え住みやすくなる。また、90cmスパンでフレームを追加すれば部屋を広げたり、部屋数を増やすこともできる。さらに、両脇に下屋を添えれば間口が広がり、駐車場を造ることもできる。増築の施工依頼は、同社でもいいし地元の工務店でも構わない、大工職人と木造の建築士がいれば可能だ。

木造住宅にかける想いが生み出した「再生住宅」

オークヴィレッジ株式会社 木造建築研究所 所長 上野英二氏オークヴィレッジ株式会社 木造建築研究所 所長 上野英二氏

日本の伝統的構法で施工するこの仮設住宅は、木造住宅を設計できる建築士と伝統技術を習得した大工、そして何より建築材となる木材の3つ要素が必要になる。大学で建築の勉強をしても、ビルのような鉄筋コンクリートや鉄骨の建物がメインで、木造はほとんどやらないのだとか。そのため、木に触れたことがないうえに、木造建築の設計ができない若者が多いという。そう言う上野氏も、同社に入社した30年前はコンクリートを使った建築経験はあったが、木造建築は携わったことがなかったという。また、大工職人にしてもその職につく人が少なく、貴重な技術の継承も危うくなっている。そこで同社では創業当初から、自社内で大工の人材育成に取り組み、今では棟梁クラスの職人が腕を振るっているという。上野氏は、この「仮設住宅」兼「復興住宅」を通じ、木に触れる若い建築士や伝統的技術を継承する大工職人が増えることにも期待している。そして、これが産業の活性化の一端を担うぐらいになると嬉しいと話す。

「日本には林業があり、木という資源があるにもかかわらず、海外から輸入した木材で住宅を建てている不思議な国です」と上野氏は語る。続けて「木を育てるのはとても大変で、自分が植えた木が伐採できるのは、子孫の代なんです。半世紀から1世紀の間、高所の枝を落としたり、日当たりや木の成長のための間伐など、世代を超えて手間暇かけて木を育てるんです。その林業家の人達の想いを含めて、そこに住む人々が豊かな気持ちになれる、そんな魅力的な住まいを造っていくことが私達の使命だと思っています」と内に秘めた強い意志を示してくれた。

木造建築にかける想いが、「復興住宅」に進化する「仮設住宅」という再生する新しい住宅を生み出したのかもしれない。

取材協力:オークヴィレッジ株式会社
http://www.oakv.co.jp/

2015年 01月21日 11時07分