九州・山口の大学を中心に、21校の学生と教員が地域と協力

2016年4月14日・16日、わずか28時間の間に2度も震度7の揺れに見舞われた熊本。今も被災地では仮設住宅での避難生活が続く。

その生活環境をよりよくするために活動する学生たちの団体が「KASEI」だ。名称は「九州建築学生仮設住宅環境改善プロジェクト」の欧文表記「Kyushu Architecture Student Supporters for Environmental Improvement project」の頭文字と「加勢」を掛けたもの。九州・山口の大学を中心とした21校の建築系学生と教員で構成されている。

7月15日に行われた、第6回の実行委員会を傍聴した。

熊本大学で行われた、KASEI第6回実行委員会の様子(以下、写真はすべてKASEI提供)熊本大学で行われた、KASEI第6回実行委員会の様子(以下、写真はすべてKASEI提供)

家具などの“ものづくり”と交流を深める“ことづくり”の両面を支援

KASEIが発足し、第1回の実行委員会が開かれたのは、熊本地震発生から3ヶ月後の2016年7月14日のことだった。実行委員長をくまもとアートポリス(※以下KAP)アドバイザーで九州大学准教授の末廣香織氏が務め、大学教員や学生が運営に携わる。特別顧問には、KAPコミッショナーで建築家の伊東豊雄氏を迎えた。KAPには、東日本大震災の折、伊東氏の提案で仙台市の仮設住宅団地にコミュニティの交流の場として「みんなの家」を提供した経験がある。

熊本地震における、仮設住宅・「みんなの家」・災害公営住宅などの整備は、KAPが各担当部局をサポートしながら進めている。KASEIはKAPと連携し、「みんなの家」を中心に、家具など“ものづくり”、交流イベントなど“ことづくり”の両面から支援を行ってきた。KASEI1年目の活動は、主に「みんなの家」の整備にかかわるものだった。

熊本の「みんなの家」には“規格型”と“本格型”がある。“規格型”はKAPコミッショナーとアドバイザーの建築家が東日本大震災などでの経験に基づいてあらかじめ設計したもので、仮設住宅と同時に整備された。一方、“本格型”は、実際に仮設団地に入居した人たちの意見や要望を採り入れて設計・建設するものだ。KASEIのメンバーは設計にあたって意見交換会に参加し、聞き取りやまとめに携わったほか、花壇やテーブル、椅子の製作に加え、棟上げ式や完成パーティーと、折々にさまざまなイベントを企画・運営してきた。

そして今年(2017年)2月17日、20戸以上の仮設住宅団地62ヵ所に合計84棟の「みんなの家」が完成。20戸未満の小規模団地にも、日本財団わがまち基金による「みんなの家」が順次完成しつつある。2年目に入ったKASEIの活動も、新たなフェーズを迎えているようだ。

KASEIの活動の様子。(上左)「みんなの家」設計にあたっての意見交換会(上右)「みんなの家」上棟式(下左)「みんなの家」完成式(下右)家具ワークショップ。上棟式以降の写真では、黄色いビブスを着用しているのがKASEIのメンバーKASEIの活動の様子。(上左)「みんなの家」設計にあたっての意見交換会(上右)「みんなの家」上棟式(下左)「みんなの家」完成式(下右)家具ワークショップ。上棟式以降の写真では、黄色いビブスを着用しているのがKASEIのメンバー

発足1年の実行委員会で報告された、仮設団地ごとに異なる事情と活動内容

KASEIは各研究室を単位としたチームをつくり、熊本県内に散らばる仮設住宅団地を手分けして担当している。第6回実行委員会では、各チームが自らの活動状況を報告したほか、他チームの活動見学レポートも発表された。 

仮設団地は立地によって規模も入居者の構成もさまざまだ。中でも、最大規模の516戸が建ち並ぶ益城町テクノ団地を担当するのが熊本県立大学・有明工業高等専門学校合同チーム。同団地には規格型「みんなの家」10棟と、昨年12月3日に完成した本格型「みんなの家」1棟がある。合同チームはこれまで家具づくりや花壇づくりを支援してきた。

今回の実行委員会に先立ち、合同チームは、鹿児島大学チームによる宇土市浦田団地(33戸)での「植木鉢カラーペイントワークショップ」に参加。植木鉢に色を塗って苗木を植えるという、比較的簡単な作業を通して、参加者同士が交流を深める体験を得たようだ。報告者は次のように語る。「テクノ団地では、これまで“ものづくり”がメインでコミュニケーションが十分ではなかった。今後は、“ものづくり”かコミュニケーションか、目的を明確にして、それに沿った企画が必要だ」。

一方、宇城市当尾団地(30戸)を担当する鹿児島大学チームは、九州大学チームによる西原村小森第2団地(82戸)の支援活動に参加。「みんなの家」の片付けやグリーンカーテン設置を手伝った。両団地は規模だけでなく入居者の家族構成も異なり、年配者の多い宇城市当尾に対し、西原村小森は子どもたちの姿が目立つ。「みんなの家」はよく利用され、入居者とKASEIメンバーの交流も密だ。報告者は「九大チームは住民の方たちの名前をちゃんと知っている。コミュニケーションの基本に改めて気付かされた」と感想を述べた。

入居者からの要望で“ものづくり”に取り組むチームもある。益城町小池島田団地(82戸)を担当する崇城大学チームは、仮設住宅の収納不足を補うため、入居者と一緒に傘立て・ハンガー掛けを製作。取り付けまでを手伝った。2回のワークショップで傘立て36個・ハンガー掛け31個が完成。次は裁縫用のテーブルが欲しいとの依頼を受けている。

また、大阪工業大学チームは美里町くすのき平団地(15戸)に「屋外の好きなところに持ち運べる椅子」8脚を提供。縁側に代わる交流の場として重宝されているようだ。

熊本大学チームは御船町東小坂団地(10戸)での活動を報告。小規模な東小坂団地には「みんなの家」は整備されず、代わりにつくられたコミュニティスペースも利用度が低い。熊大チームは入居者との交流を図るためのイベント計画やコミュニティスペース用トイレの整備を進める一方で、御船町全21団地の調査も行っている。御船町の仮設団地はもともと同じ地域に住んでいた人が集まっている例が多く、比較的コミュニティが保たれているという。

発災から1年以上が経ち、団地の状況も入居者個々の事情も変化している。KASEIプロジェクト学生代表の遠藤由貴さんは、次のように語る。「仮設住宅での生活に落ち着きが見え始め、住民の方は生活再建に向けて動き出しています。必要な支援の内容も、これまでとは変わってくるでしょう。試行錯誤の繰り返しにはなるでしょうが、少しでも被災者の方の力になれればと思います」

(上)暑さ対策のため、ゴーヤのグリーンカーテンを設置(下)植木鉢カラーペイントワークショップで出来上がった作品(上)暑さ対策のため、ゴーヤのグリーンカーテンを設置(下)植木鉢カラーペイントワークショップで出来上がった作品

仮設住宅からそれぞれの生活再建へ、復興はこれからが本番

委員会の締めくくりには、東日本大震災時に「アーキエイド」をリードし、今も復興に携わり続ける、東北大学大学院教授の小野田泰明氏の講演が行われた。「アーキエイド」とは、KASEIのモデルにもなった、建築家と建築系学生による復興支援活動のことだ。

熊本では今、自力再建や災害公営住宅の建設に向けた取り組みが始まっている。東日本大震災の経験から得られた知見は貴重だ。小野田氏の指摘のうち、次の2点が重要に思われた。

ひとつは、応急仮設住宅(発災後に建設された仮設住宅)より、みなし仮設住宅(既存の賃貸住宅などを利用した仮設住宅)に入居した世帯のほうが家族数が多く、なおかつ実情が捉えにくい問題だ。個人情報の壁もあり、KASEIのようなボランティアがみなし仮設にアクセスするのは難しい。しかし、みなし仮設は都市部に遍在しがちで、そのため入居世帯はもといた地域から切り離されやすい傾向があるという。仮設住宅から自力再建に移行する際、その分断が決定的になることが危惧される。

もうひとつは災害公営住宅の需要把握だ。災害公営住宅とは、自力再建が難しい世帯のための公営賃貸住宅のこと。東北の被災地では、整備した災害公営住宅に空室が目立つ例もあるという。小野田氏は「住人の意向は、発災直後と復興期で大きく変化する。対面調査の継続など、丁寧な対応が不可欠だ」という。いたずらに災害公営住宅の建設を急いでも、まかりまちがえば将来に負の遺産を残しかねない。

こうした問題には、建築関係者だけでなく行政や金融など他領域の専門家が連携して向き合わなくてはならないだろう。熊本の復興は、これからが本番だ。 

さらに、九州北部は7月初旬に豪雨災害に見舞われている。KASEIでは「今後の状況をみながら、熊本での経験を生かせるかどうか考えていきたい」としている。

KASEIホームページ http://kasei.kumamoto.jp/

※「くまもとアートポリス」については、熊本県ホームページ、KAPのFacebookに詳しい。
http://www.pref.kumamoto.jp/
https://www.facebook.com/kumamotoartpolis/

2017年 08月29日 11時03分