北海道のサラブレッド一大生産拠点としての日高路・浦河

サラブレッドという言葉から連想するのはどんなものだろうか。競馬という言葉を思い出す方もいれば、乗馬、若しくはオグリキャップ、ディープインパクトなどの有名馬の固有名詞を思い起こす方も多いと思う。

実は、日本のサラブレッドの大半は北海道で生産されている、ということをご存知無い方も多いかもしれない。北海道では日本のサラブレッドの一大生産地である日高地方。その中でも今回の舞台である浦河町は、古くはシンザン(俗に言う三冠馬)、テイエムオペラオー、ホクトベガ(砂の女王)などが生産されているサラブレッド生産の名門の地である。

「競馬はロマン」と言われるが、オグリキャップなどのアイドルホース誕生による競馬ブームに乗って、かっこいいサラブレッドを一目見たいと、日高路に旅行者が殺到していた時代があった。現在はこうした需要も一巡し、旅行者も減少、受け皿となるユースホステルなどの簡易宿所的な宿も営業をやめるケースが増えてきている。

また、浦河町は人口減少が進んでおり、1960年の21,915人をピークに、2018年2月現在13,000人を割り込み、2040年には8,500人まで減少すると予想されており、現代の地方都市のよくある構図となっている。

日高路には大小さまざまな牧場が広がり、のんびりとした風景を楽しめる。日高路には大小さまざまな牧場が広がり、のんびりとした風景を楽しめる。

サラブレッドだけではないまちの魅力、新たなまちの顔の誕生

まさご湯。いかにも銭湯な雰囲気が懐かしさを感じさせる。まさご湯。いかにも銭湯な雰囲気が懐かしさを感じさせる。

浦河町の主な産業はサラブレッド、漁業、そして近年はイチゴ栽培なども盛んである。まちの堺町地区には、スナックや飲食店、カフェやパン屋さんなどが点在する俗にいう繁華街である。その一角に1954年に開業した銭湯「まさご湯」がある。

浦河町内には、過去4件の銭湯があり、漁師や地元民に愛される社交場であったが、現在はこのまさご湯一軒が残るのみ。現在も、まさご湯は地元シニアの社交場としての機能があり、ここのお風呂を心待ちにして、オープン前から並んで待っていることもあるそうだ。1日100人前後の方が入浴している。

このまさご湯には面白いハイブリッドなお店がある。なんとラーメン屋である。もちろんラーメンも美味しいのだが、行者にんにく餃子など、ネット注文なども受けている人気のサイドメニューも存在する。番台の前のテーブルでは、風呂上がりのお客様がラーメンをすすりながら語らう人もいる。何か温かみを感じられる、まちの社交場=銭湯ならではの光景だろう。

このまさご湯には、2018年もう一つの顔『ゲストハウス』が誕生した。浦河町には、既に4軒のホテルが町内に存在しており、旅行者が減ってきている現在、それなりに需要を満たしていると見える。そんな中、なぜまちの社交場が新たな事業に乗り出したのだろうか。

まちのハブになりうる銭湯&ラーメン屋&ゲストハウスのハイブリッド感

そもそも、まさご湯をオープンするきっかけとなったのは何か。
オーナーの大久保氏曰く、「先々代の時に当時の町長に頼まれて」とのこと。ボーリング調査して、水が出るならやろうか、くらいの軽いノリだったそうだ。ラーメン屋については現在の建物に更新された1996年に合わせて開業。「サウナ利用者がよく出前を頼んでいて、ラーメン一緒にやったらお客さんが喜ぶんじゃないか」ということだった。銭湯とラーメン屋が1階に、2階には家族風呂とサウナを経営していたが、2階は2017年に閉鎖。ゲストハウスへとリノベーションされることとなった。

ゲストハウスをオープンした動機についてはこう語る。「浦河町は体験移住の希望者が多く、町が用意する体験移住用の住宅が足りない時期があるんです。せっかくこのまちに興味を持ってくださる方に申し訳ないし、もっとこの町のことを知ってもらえる場を作りたかったんです。」普通のホテルでは宿泊費もかさむし、情報収集にも限界がある。「銭湯に来る客は地元民がほとんど。地元のことをよく知る人と、旅行者が銭湯で交流できることで、新しい何かが生まれてくれる」ことも期待しているそうだ。通常のゲストハウス以上にまちのモノコトが集約されていく可能性を秘めているハイブリッドであるといえるのではないだろうか。

左上/メインラウンジの全景。宿泊者はもちろん、まちの人の集える場に。 右上/メインラウンジ真ん中には加藤氏が作り上げた大黒柱。オーナーの大久保氏の手形も施され、このラウンジをしっかり支えている。
 左下/シングル・ダブルルームの個室。元家族風呂を活用 右下/ドミトリールームは浴場の痕跡であるタイルがところどころに左上/メインラウンジの全景。宿泊者はもちろん、まちの人の集える場に。 右上/メインラウンジ真ん中には加藤氏が作り上げた大黒柱。オーナーの大久保氏の手形も施され、このラウンジをしっかり支えている。  左下/シングル・ダブルルームの個室。元家族風呂を活用 右下/ドミトリールームは浴場の痕跡であるタイルがところどころに

このまちの財産をギュッと凝縮。まちのハブになりうるモノコトヒトの集積

ブランディング・ウェブ制作・ロゴ制作など全般を担当した小野寺さんはIターン者。
今回のWEBやフライヤーなどのデザイン全般も担当した彼女は、「ロゴには、これが大久保さん」というのをしっかり盛り込んだそう。日高山脈と渓流、そしてシマエナガという野鳥が大きく配されている。敢えて馬が書かれていないのも、大きなこだわりといえよう。

メインラウンジの空間デザイン・施工を担当したのは、加藤さん、大野さんのユニット「RBST(リビスト)」。なんと彼ら、本業はいちご農家、木材販売会社の異色ユニット。面白い場づくりを自分たちの手で実現していきたいとゆるく繋がり、今回が初のプロダクトとなった。狙いはずばり、「日高らしさ」だ。牧柵や漁港で使われていた鮭箱、木製パレットなど、味のある木材が随所に使われている。大野さんが「初めて施工した」とは思えない精度で壁面を仕上げた。また、メインラウンジの真ん中にあるひときわ目立つ柱には、加藤さんの手によって、これまた精度が高く力強いモルタル造形がなされている。もちろん、その他にも地元の建設会社や職人、移住してきた建築士など、様々な町の住民たちの協力により、ゲストハウスは完成した。

「今回のプロジェクトはほぼ全て浦河町のモノコトヒトで形成していることに価値があるんです」と彼らは言う。地元のことを理解する人がつくりあげたことにより、旅人にも、地元の人にも愛される空間が誕生したといえよう。また、「まだまだ発展途上の空間。これからまちの人、旅人がゆるく繋がれるきっかけの場として育てていきたい」とのことでこれからの展開にも注目だ。

ゲストハウスmasagoの顔であるラウンジでお話を伺う。
右からデザイン担当の小野寺さん、オーナーの大久保さん、RBSTの加藤さん、大野さん。ゲストハウスmasagoの顔であるラウンジでお話を伺う。 右からデザイン担当の小野寺さん、オーナーの大久保さん、RBSTの加藤さん、大野さん。

四季を問わず楽しめるアクティビティたち。浦河町の新たな拠点のスタート

浦河町の人気のアクティビティといえば、やはりサラブレッド見学に乗馬。逆にそれ目当て以外にはあまり観光というイメージがないのが現状だ。

浦河観光協会の中川貢氏曰く、「どうしても乗馬一辺倒、その乗馬も夏のアクティビティと思われがちですが、冬しか見られない風景が見られるし、年中楽しめます。また、冬は野鳥ウォッチングするには穴場中の穴場とも言えますね」とのこと。

masagoのゲストハウスの主人、大久保氏はもう一つの顔も持つ。それは自然のアクティビティを楽しむ達人という顔である。特に渓流釣りについては、かなりおススメとのことで、GW前後から10月末くらいまでの長期間楽しむことが可能。乗馬に渓流釣り、そして野鳥ウォッチングなど、様々なアクティビティ系が取りそろっているのも長期滞在などでも楽しめる要素になりえるだろう。

ゲストハウスで旬の情報を聞き、銭湯でおすすめの飲食店の情報を仕入れ、地元の人たちとラーメンをすする。
「暮らすように旅をする」ことが、この浦河町の新たな拠点から生まれてくるのかもしれない。

まちには普通であるようなモノコトが、旅人にはすごく魅力的であることはよくあることだが、こういったことがまちの人から旅人へ伝えられることによって、旅人はもちろん、まちの人にも新たな視点が生まれてくるのではないだろうか。

◎取材・文:小正茂樹(OURS.編集部) 写真:中川貢(一般社団法人浦河観光協会)、小野寺千穂、小正茂樹
◎OURS.ウェブマガジン http://ours-magazine.jp/

■取材協力
ゲストハウスmasago http://www.gh-masago.com/
うらかわ旅 http://www.urakawa-tabi.com/

左上/外乗が本州などに比べある程度自由に楽しめるのが魅力  右上/優駿桜ロードはちょうどゴールデンウィーク前後が満開に  
左下/貴重なオオワシの姿を見られることも多い  右下/大久保氏おすすめの渓流釣り。本州では味わえない楽しさが左上/外乗が本州などに比べある程度自由に楽しめるのが魅力  右上/優駿桜ロードはちょうどゴールデンウィーク前後が満開に   左下/貴重なオオワシの姿を見られることも多い  右下/大久保氏おすすめの渓流釣り。本州では味わえない楽しさが

2018年 03月15日 11時05分