観光客頼みでは、地方の鉄道を再生することはできない

富山ライトレールの超低床車両富山ライトレールの超低床車両

モータリゼーションと地域の過疎化が進む中、各地のローカル鉄道は苦境に立たされている。“観光鉄道”にシフトすることで集客を図る動きも目立つが、時代の波に抗しきれず、廃線に追い込まれるケースが跡を絶たない。

そんな中、「鉄道を再生するには、観光路線に活路を求めるばかりでなく、交通サービスとしての利便性を高めるべき」と語るのは、株式会社ライトレール代表取締役社長・阿部等氏だ。阿部氏は東京大学と同大学院(都市工学科)で交通を専門に学んだ後、JR東日本に17年間勤務。現在はこの分野のエキスパートとして、国内外の交通に関する研究やコンサルティングを手がけている。講談社のWebマガジン『現代ビジネス』では「住みたい街2015【沿線革命】」を連載しており、読者からの支持も厚い。
http://light-rail.blog.jp/archives/1014464871.html

「環境問題や高齢化、若者のクルマ離れなどにより、クルマ社会は曲がり角を迎えています。クルマに依存した社会から脱却するには、利便性の高い地域の公共交通を用意しなければいけません。鉄道が住民にとって本当に便利なら、イメージ戦略に汲々としなくても、乗客数はおのずと増えていきます。そのためには、最新のテクノロジーを活用し、また、鉄道事業がビジネスとして成り立つ仕組みを構築する必要があります。行政がローカル鉄道の公的支援をするにしても、税金を投じて赤字経営の尻拭いをするだけでは意味がありません。税金を有効に使うためにも、便利な交通サービスを実現する努力が求められます」

増便により利用客が3倍近くに増えた富山ライトレール

株式会社ライトレール代表取締役社長・阿部等氏株式会社ライトレール代表取締役社長・阿部等氏

とはいうものの、ローカル鉄道の再生の取り組みは遅々として進んでいない。そんな中、交通機関としての利便性を高めることにより、見事に復活したローカル鉄道がある。JR西日本から路線を引き継ぎ、2006年に開業した、富山ライトレールだ。

富山ライトレールは、JR西日本が運営していた富山港線が前身だ。富山港線が廃線の危機にさらされたとき、森雅志富山市長が第3セクター方式で残すことを決断。富山ライトレール株式会社に運営を移管し、ライトレール(次世代型路面電車)として復活させた。車両は2車体連接の低床式。立山をイメージした白い車体に鮮やかなアクセントカラーを入れたお洒落な外観と、高齢者に優しいバリアフリー・デザインで人気が高い。

だが、それは事の本質ではない、と阿部さんは指摘する。
「富山ライトレールは列車ダイヤを大幅に改正し、1日に片道19本から64本へと本数を3.4倍に増便しました。それまで朝夕でも1時間2本、昼は1本だったのを、朝は10分おき、昼でも15分おきとした結果、利用者が2.7倍に増えました。
ユーザーが高く評価したポイントは、超低床車両でもお洒落なデザインでもなく、『90%以上は本数が増えたこと』と、森雅志市長から伺いました。もともと富山港線は富山市内を走っているため、沿線人口はそこそこありました。ところが、本数が少なくて不便だったため、あまり使われていなかったのです。本数を増やして高頻度運行としたことで、今まで乗りたくても乗れなかったのが格段に利用しやすくなりました。それが大幅な利用者の増加につながったわけです」

鉄道の利用者数を決めるのは、沿線人口ではなくサービスレベル

新たな観光地として人気を集める、富山ライトレールの終点・岩瀬浜新たな観光地として人気を集める、富山ライトレールの終点・岩瀬浜

富山ライトレールが増便に踏み切ったことは、さまざまな副次効果をもたらした。お年寄りが電車に乗って気軽に出かけるようになり、以前は閑散としていた平日昼間の利用客が増えた。また、終点の岩瀬浜が新たな観光地として脚光を浴び、週末の利用客も増えた。

「富山ライトレールを開業するとき、関係者の大半は、本数を増やすことには大反対でした。『本数を増やしたら、コストがかかって赤字がますます大きくなる』というわけです。そんな中、ごく一部の人たちが、『やるからには、便利にしなければ意味がない』と強く主張し、JR西日本、国、県、市などの関係者を説得して回りました。最終的に市長が決断を下し、サービス改善が実現したのです」

その効果にはめざましいものがあった。開業初年度は337日間で約165万人が利用し、1日当たりの利用客は約5000人。当初の目標を大幅に上回る結果となった。

「『利用者数は沿線人口で決まる』というのが、多くの交通事業者の発想です。しかし、富山ライトレールの成功により、利用者数は外から与えられるものではなく、『どれだけよいサービスを実現できるかで決まる』ことが明らかになりました。鉄道の利用者数はサービスレベルによって決まるという当たり前のことが、見事に証明されたのです」

今後の課題は、サービスレベルの向上と高コスト構造の解消

ビジネス視点を導入することが、ローカル鉄道再生の鍵ビジネス視点を導入することが、ローカル鉄道再生の鍵

富山ライトレールの事例は、ローカル鉄道が地方の交通サービスとしての利便性を高めることによって、息を吹き返した好例といえる。だが、後に続く鉄道事業者がなかなか現れない、と阿部氏は嘆く。

「各地で進められている鉄道再生のためのさまざまな取り組みは、利便性が低すぎるものばかりです。『こんなに不便では、クルマを使える人は使うわけないでしょ』と言いたくなるような鉄道が多いのが実情です。そして、もう1つ問題があります。鉄道経営が高コスト構造になっている点です」

その最大の原因は、バスの数倍になることもある運転手の人件費だ、と阿部氏は指摘する。
「鉄道の運転士の免許制度は、バス・タクシー・トラックの運転手の免許制度と比べ、極端にハードルが高くなっています。そのために、鉄道の運転士の人件費は非常に高くなります。鉄道は線路と保安システムに守られ、バス・タクシー・トラックの運転よりむしろ容易です。運転士の免許制度を少なくとも同等とすべきです。そこにメスを入れないまま、小手先のコスト削減策を打ち出したところで、鉄道会社の赤字体質は改善できません」

「消費者目線で冷徹に見るなら、低品質で高コストなものが選ばれないのは当然です。ところが、『過疎地域で鉄道を走らせているのだから、利用客は増えなくて当たり前』とあきらめてしまい、必要な努力を怠っているのが地方鉄道の現実です。
今後の鉄道経営は、サービス向上を基軸として見直しを図る必要があります。よいサービスを提供する、ただしムダなコストはかけないのがビジネスの鉄則です。鉄道事業にも、ビジネスとしての視点を導入することが不可欠です」

では、今後、地方の鉄道が息を吹き返すためには、どのような取り組みが有効なのか。次回はその点について考えてみたい。

(つづく)

2015年 06月08日 11時07分