高野山の歴史と場所性を感じながら、学生が作品を共同制作

公開プレゼンテーションの会場となった高野山金剛峯寺の大師教会公開プレゼンテーションの会場となった高野山金剛峯寺の大師教会

弘法大師開創1200年の節目を迎え、多くの参詣者や観光客でにぎわう世界遺産・高野山。標高約1000mの高地に今も100を超える寺院が軒を連ね、山上の宗教都市として独特の景観を誇っている。

秋の気配が漂う8月30日、ここ高野山の金剛峯寺大師教会で、アートアンドアーキテクト フェスタ(以下、AAF)が主催する「建築学生ワークショップ高野山2015」の公開プレゼンテーションが行われた。
このワークショップは、建築や環境デザインなどを専攻する学部生や院生を対象としたもの。国内外で活躍する著名な建築家や構造家の指導のもと、原寸のミニ建築物の実作と公開プレゼンテーションを行い、コンテスト形式で競い合うという趣向だ。

この試みが始まったのは2001年度。以来、奈良の平城宮跡や滋賀の竹生島をはじめ、関西各地で続けられてきた。今年のワークショップには、多数の応募者の中から選ばれた約50名の学生が参加。各地から集まった学生により8つの混成チームが編成され、課題の共同制作に取り組んだ。

公開プレゼンテーションに先立ち、AAFの担当者はこう語った。
「これは学生が一度学校を離れて、日本有数の聖地で合宿し、模型や図面だけではなく実寸で制作して自ら空間体験することを目的としたワークショップです」(事業運営マネージャー・松本ガートナー祥子氏)
「高野山という聖地の将来を考え、今ある環境を改善し、緑豊かな環境を人間と共生できるサステナブルなものにしていくための建築提案を出してほしい。このめったにない機会を活かして、高野山という歴史や場所性を感じながら作品を作ってほしいと思います」(司会・田中天氏)

当代一流の建築家・構造家や地元の大工が学生を指導

地元の職人の指導を受けながら、現地で作品を制作地元の職人の指導を受けながら、現地で作品を制作

「建築学生ワークショップ高野山2015」が始動したのは7月4日。高野山金剛峯寺の協力により、金剛峯寺の境内や壇上伽藍、霊宝館の庭など8ヵ所が提供され、現地で説明会と敷地周辺調査が行われた。当日は、高野山大学・森本一彦教授からレクチャーがあり、参加者は高野山の歴史や仕組み、現代社会における位置付けなどを学習。僧侶からは宗教的な観点からの説明も受け、学生たちは作品のテーマやコンセプトを練り上げていった。

8月初旬の提案作品講評会が終わると、学生たちはいよいよ作品の制作に着手。8月26日~29日の4日間は現地で合宿し、地元大工の手ほどきを受けながら、原寸の模型制作に取り組んだ。
審査員による作品視察と公開プレゼンテーションが行われたのは、夏の終わりの30日。あいにくの雨で、作品の一部が破損するハプニングもあったが、学生たちは作品への思いを込めて熱いプレゼンテーションを繰り広げた。
また、作品に対する講評では、時に審査員席から厳しいコメントも寄せられたが、当代一流の建築家・構造家に直接指導を受ける貴重な機会とあって、学生たちは神妙な面持ちで聞き入っていた。

【1位入賞】木枠を何層にも積み重ね、高野山の歴史を表現

審査の結果、見事1位に輝いたのは、壇上伽藍の六角経蔵付近で6班が制作した「あまのしるべ」。正方形の木枠を何層にも重ねてバランスをとり、地面から湧き上がるイメージを表現したフォリー(※)である。

「根本大塔から明神社へと時計回りで進み、仏の空間から神の空間へと移動するのが、壇上伽藍の正式な参拝方法。この参拝方法を喚起させる、しるべとしてのフォリーを作れないかと考えました」(静岡文化芸術大学大学院修士2年・近藤洋輔さん)

螺旋を思わせる独特の構造は、六角経蔵にヒントを得たもの。六角経蔵は構造の一部を取っ手を使って回せるようになっており、ひと回りすれば一切経を1巻読むのと同じ功徳が得られるという。そこから、「経蔵を回している人たちの思いの重なりを想像する」というアイデアが生まれ、現在の構造へとたどり着いた。六角経蔵の回転を空間的に表現すると同時に、微妙なバランスを取りながら、歴史を積み重ねていく高野山の歴史を表現した、と6班は制作意図を語る。

「現場で触ってみると揺れるんですが、こうした(揺れても壊れない)ものを作るのはかなりの難問なので、よくできたなと思います。ただ、設置面積が限られている以上、上へ上へと積み上げる姿勢は示して欲しかったですね」と、ある審査員は講評を述べた。
※フォリー:西洋の庭園などに見られる装飾用の建物。

1位に輝いた作品「あまのしるべ」1位に輝いた作品「あまのしるべ」

【2位入賞】伝統の紙漉きや写経のプロセスを作品に昇華させる

一方、今回のワークショップで最も話題をさらったのが、次点となった4班の作品「うつし絵」だ。
このフォリーは、学生が一から高野山伝統の紙漉きや写経を体験し、作品として昇華させた点に最大の特徴がある。
学生たちは地元の和紙職人に指導を受け、「細川紙」の制作に挑戦。コウゾやトロロアオイなどを使った和紙の原料作りから始め、紙漉きの工程を体験した。和紙には写経を施し、油を塗って防水加工も行った。半透明の和紙に般若心経が浮かび上がり、風を受けて揺らめくフォリーが完成した。

だが、本番当日、明け方の大雨でフォリーの大部分が破損。4班は、完成作品を一夜にして失う不運に見舞われた。続いて行われた公開プレゼンテーションでは、班長の伊藤遼祐さん(和歌山大学大学院修士1年)が、「今回目指したのは、“自然に逆らわない、もろく弱く不完全なフォリー”です」と強調。「フォリーは雨という自然の影響により、その姿を変容させ、見え方を変えました。自然環境や時間の流れに逆らうことのない、そのままの姿を見ていただければと思います」と、会場に訴えかけた。

このアクシデントを逆手にとったプレゼンは会場を唸らせ、審査員からは好意的なコメントが次々に寄せられた。
「(見る人の)考え方を改めさせるようなプレゼンテーションになっている」「材料を全部ゼロから作るというところも素晴らしい」「写経したというプロセスを建築に展開していく点が興味深い」と評価する声が相次ぎ、審査員の幅広い支持を集める結果となった。

2位作品「うつし絵」の制作風景2位作品「うつし絵」の制作風景

特別な場所での空間体験と制作機会を提供し、未来の建築家を育む

この他、3位以下のチームも工夫を凝らした力作を披露。会場からは温かい拍手が送られていた。

高野山金剛峯寺という日本有数の聖地を舞台として、自らの作品を実現する――それは、たとえ著名な建築家であってもなかなか巡り合えない、千載一遇のチャンスといえる。その意味で、このワークショップが、建築家を目指す学生にとって大きな糧となったであろうことは想像にかたくない。
今回の参加者の中から、伝統文化や環境と調和した価値ある空間の創造を目指す、次世代の建築家が生まれるのではないか――そんな期待を持って、会場を後にした。

現地で作品を視察する審査員と学生たち現地で作品を視察する審査員と学生たち

2015年 10月09日 11時05分