信濃川河川敷には長い利用の歴史があった

夏の新潟と言えば海水浴や夏祭り、蛍を思い浮かべる人も多いだろうが、新潟市を訪れたならぜひ、訪れてみて欲しい場所がある。市の中心部を流れる信濃川の河川敷「やすらぎ堤」である。

やすらぎ堤では2006年に社会実験として萬代橋の下流側、右岸(新潟駅側)で萬代橋サンセットカフェが始まって以降、信濃川やすらぎ堤川まつり、萬代橋誕生祭などといったイベントで水辺を使い続けてきた。そこに2016年から加わったのが「ミズベリング信濃川やすらぎ堤」である。

これは2011年に行われた河川占用許可準則の改正により、河川区域で民間事業者等による企業活動が可能になったことを契機として開催されるようになったもの。実際に水面を含めた河川区域を利用するためには都市・地域再生等利用区域の指定を受ける必要もあったが、新潟市では前述のサンセットカフェや河川敷を利用した各種イベントを続けてきた実績があり、2016年には指定を受け、同年から「ミズベリング信濃川やすらぎ堤」がスタートしている。

指定を受けたのは萬代橋から上流の八千代橋間。国内でも最大級の18haという広大な範囲が指定されており、2019年は6月29日にオープン。9月29日までの3ヶ月間、水辺を楽しめるようになっている。そのうち、左岸側(古町側)はヘルスゾーンとなっており、健康志向の飲み物を用意したカフェとその前の河川敷を利用したイベントが売り物。すでに子どもを対象にした運動教室が開かれており、今後もヨガその他身体を動かすイベントが予定されている。

昼間から賑わうことも。夕方は6時くらいから人が集まり始めるそうだ昼間から賑わうことも。夕方は6時くらいから人が集まり始めるそうだ

河川敷にキャンピングオフィスを作るという試み

メインとなる会場は右岸側。堤上の遊歩道脇の萬代橋寄りに1軒、八千代橋寄りに6軒の飲食店が出店しており、店内に加え、河川敷に設置されたテント内で飲食が楽しめるようになっている。ここでのポイントはテントだ。野外の飲食はお祭り時の屋台のように賑やかに楽しむ乱雑な空間になりがちだが、ここは一味違う。最近、キャンプに快適さをとグランピング(グラマラスとキャンプを合わせた造語。テント設営、食事の用意などの煩わしさがない、快適なアウトドア体験の意)が流行っているが、水辺でも同様なのだろうか。ランタンの灯りの下、気持ちよく食事できるのである。屋台のがやがやした雰囲気もそれはそれで楽しいが、それよりもちょっと落ち着いた雰囲気がやすらぎ堤なのである。

テントや椅子、ランタンその他用意されているのはすべて新潟県三条市に本社を置くアウトドア用品等で知られる株式会社スノーピークの製品。初年度、水辺近くに置かれたテーブル、椅子などがごちゃごちゃと見え、せっかくの水辺の景観を邪魔している、出店事業者に偏りがあるなどのさまざまな反省があり、2年目となる2017年からは公募で選ばれた事業者である同社が空間デザイン、現場管理や事業者選定その他の全体のマネジメントを行っているのだ。コンセプトは「水辺アウトドアラウンジ」。一味違うのは同社のプロデュース力のなせるものというわけだ。

3年目となる今年は飲食に加え、新たな試みもある。ひとつは平日限定で行われる「水辺キャンピングオフィス」。水辺に設置されたテントやタープ内で会議や打ち合わせ、そしてその後の懇親会を楽しんでみては?という提案である。首都圏でも6月から渋谷でキャンピングオフィスが行われているが、それをより自然の近くでやってみようというのである。

こんな環境での会議、仕事ならいつもと違うアイディアが浮かびそうな気がするこんな環境での会議、仕事ならいつもと違うアイディアが浮かびそうな気がする

イベント、マルシェなど楽しみ方は多彩に

最近流行のハーバリウム作りのワークショップ。今後、さまざまな内容のイベントが予定されているそうだ最近流行のハーバリウム作りのワークショップ。今後、さまざまな内容のイベントが予定されているそうだ

利用に当たっては昼、夜のどちらかのプランを選択、さらに6~12名まで人数に応じて用意される3種類のレンタル会議室セットから好きなセットを選ぶことになる。たとえば昼プラン+レンタル会議室のスタンダードプラン(8~12名)を選択し、8名で利用すると1人当たり3,500円で利用が可能。1,000円分のお食事券が付くので、ランチミーティングもできるということになる。まだ、始まったばかりだが問合せは順調に入ってきており、「就活生向けのイベント、企業の研修その他で使ってみたいという声を頂いております」とスノーピークやすらぎ堤事業運営事務局の大竹春那氏。

いつものメンバーで行う会議でも、場所が変わるだけで気分が変わり、自由な発想が生まれたり、互いの距離を近く感じたりするそうで、それが水辺の開放的な空間であればさらに自由になれるはず。試してみたいものである。

今年はイベントにも力を入れており、飲食スペースの間にはイベントスペースが設けられた。焚き火台を使って焚き火をしたり、ハーバリウム作りのワークショップや有名酒蔵のイベントが行われるなどすでに使われ始めており、特に週末の集客には寄与しそう。飲食のみの昨年までと趣向を変え、マルシェスペースも作られた。ここでは市内、県内の産物を販売する予定で、三条市の出汁メーカーの出店などが予定されている。

また、こうした新たな試みを告知すべく、これまで以上に多くのポスターを作り、イベントスケジュールをホームペ―ジにアップするなど情報発信にも力を入れている。「広く、多くの人に伝えようとインスタグラムなどSNSにはこれまで以上に写真をアップするなどしており、情報発信を続けてきたこともあって、少しずつ認知度は上がってきていると思います」と大竹氏。

自分のまちの良さを再発見する契機

実際、ポジティブに評価する声も増えている。

「信濃川の夕暮れがこんなにきれいとは知らなかった、気持ちの良い空間だった、新潟にやすらぎ堤があって良かったなど、やすらぎ堤を訪れることで、これまで気づかなかったこのまちの良さに気づいたというような声を聞いています。やすらぎ堤が自分たちのまちを愛する気持ち、シビックプライドの醸成に繋がっているのです」(新潟市都市政策部まちづくり推進課 以下まちづくり推進課)

視察などで新潟市を訪れた他自治体の職員が見学を要望することも増えているそうで、新潟市の取組みは全国的にも知られつつある。水辺を使いたいと考える自治体も増えているのだろう。ただ、水辺を憩いの場として利用するためには治水が鍵。信濃川はしばしば流域を水没させてきた川だが、ダムや複数の分水路の完成で近年はかなり安全になっている。地道な土木工事が安全で楽しい水辺に繋がっているわけで、そう考えると治水という遠いところで行われる作業が一気に身近になるというものである。

訪れる人も確実に増えているが、問題は天気。野外での飲食、イベントは天気に左右される。天気の良かった7月第1週の金、土、日の3日間には1日に1,000~1,500人以上が集まり、賑わった。しかし、翌週金曜日は小雨にも関わらず、強風が予想されたため、夕方5時には営業が中止に。広い敷地には数人の客とスタッフのみ。寂しい風景だった。

「テントやタープは雨には強い。ところが、強風には弱く、風があると小雨でも中止せざるを得ません。面白いことに一般の人は雨を敬遠し、風を気にしないのですが、実際は逆。雨でも風がなければ営業できるんですよ」と大竹氏。意外である。

現地に行ってみると驚くほど水辺が近い。遠くから眺めるも良し、近づいて味わうも良し、楽しみ方は人それぞれ現地に行ってみると驚くほど水辺が近い。遠くから眺めるも良し、近づいて味わうも良し、楽しみ方は人それぞれ

「焚き火を眺めに水辺へ」はいかが?

意外なことは他にもある。最近はキャンプ場でも焚き火はできないというのだ。

「地面が焼けないようにと直火禁止のキャンプ場が増えています。河川敷も同様。幸い、やすらぎ堤では直火ではなく焚き火台を使用して、さらに芝生へのダメージを軽減する工夫がされているので存分に焚き火が楽しめます」とまちづくり推進課。人間は火を使うことで他の動物と別れ、独自の進化を遂げてきており、火は人間を人間たらしめる大事な存在だ。だが、残念なことに都市化、近代化は生活の周囲から火を遠ざけている。たまには炎のゆらぎを見たいと思ったら、特別な場所に行くしかないのである。

今年の営業期間中には次年度以降に向けての取組みも行われている。河川敷でキャンプができるかどうかの検証である。

「河川敷、堤上の遊歩道は一般の人が通勤・通学などで通る場であり、公園のような性格もあります。そこで最初はスノーピークの関係者のみで、その次は行政関係者も含めて、さらにその次は一般の人たちにも参加していただき、課題を検証していく予定です。初回には河川敷に散歩に来た人がテントを開けてしまうなど思いもよらぬことが起きており、実験を重ねることで今後へ繋げたいと考えています」(まちづくり推進課)

歩いたり、走ったり、ぼおっとしたりする場から飲食、買い物、仕事などで人が集う場へと変化してきたやすらぎ堤にさらに新しい使い方が増えるかどうか。年々使い方が多彩になってきたことを考えると、来年以降にも期待したい。

ところで、最後にやすらぎ堤に行ってみようと思った人に一言。昨年のように猛暑の夏でも川辺は夕方になると涼しい。日が落ちてからなら川風の影響で体感温度は実際の温度よりマイナス2度ほどにもなるとのこと。暑い日ほど行ってみてはどうだろう。そして、新潟の9月はそろそろ涼しいが、そんな時には焚き火である。火の傍に人気の大きな肉が運ばれてくるとあれば盛り上がること請け合い。インスタ映えも間違いない。

都心で川風に吹かれながら火を眺めるというアウトドアな体験ができるというのは贅沢都心で川風に吹かれながら火を眺めるというアウトドアな体験ができるというのは贅沢

2019年 07月22日 11時00分