身近に存在する文化財

「京都祇園祭の山鉾行事」は物理的な形を有さない重要無形民俗文化財である。祭りに使用される「祇園祭山鉾」は重要有形民俗文化財として、あわせて登録されている「京都祇園祭の山鉾行事」は物理的な形を有さない重要無形民俗文化財である。祭りに使用される「祇園祭山鉾」は重要有形民俗文化財として、あわせて登録されている

「文化財」と聞いて、まずどんなものを思い浮かべるだろう。美術館にあるさまざまな芸術品や、観光地などで見かける古い建物や史跡ならば、目に見えるものなので馴染みがあって分かりやすい。ほかには、演劇や音楽、各地の伝統的な祭りなどは形としてはっきりしないものだが、これも文化財と呼ばれているもののひとつである。
歴史や価値があるために、保存や保護される対象物というのが文化財における一般的なイメージだろうか。

日本において「国指定等の文化財」として数えられているものは、国宝だけでも1,101件存在しており、そのうち878件が美術工芸品で、223件が建造物である。また、重要文化財になると13,110件が登録されている(※文化庁発表、平成28年9月1日現在。重要文化財の数は国宝の件数を含む)。
この「国宝」や「重要文化財」といった分類について、どういった基準で整理されており、どういう保護や保存がなされているのか…明確に説明できる人は多くないのではないだろうか。

そもそも文化財とは、人類の長い歴史の中で生まれ育ち、守り続けられてきた財産の総称。美術品から伝統芸能までその幅が多岐にわたるのは、人々の生活とも密接に関わってきたためであろう。その中でも保護の対象とされているのは、専門家による調査や審議会による選定と諮問答申を経て、歴史・技術・学術的な価値などが確かめられたものであり、価値が高く優秀と認められたものになる。
ここではこの"保護の対象となる文化財"に着目し、意外と身近に存在しながらも知られていないその種類や、文化財保護の歴史を振り返っていきたい。

世界遺産としての文化財の保護

文化財には歴史的・芸術的にも価値の高いものが存在するのにもかかわらず、時代とともに風化が進んだり、継承する人がいなくなったりとさまざまな事情により消滅の危機に瀕しているものが少なくない。これまで文化財の保護はどのように行われてきたのだろうか。

世界を見てみると、1972年に採択された「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約(世界遺産条約)」によって、文化遺産や自然遺産を損傷や破壊などの脅威から保護し、保存していくことが取り決められた。
国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)では、世界遺産条約締約国総会で選出された21ヶ国の委員国からなる世界遺産委員会を立ち上げ、対象となる世界遺産のリスト化や登録への審議を行っている。

「世界遺産」とは世界遺産条約に基づき作成された「世界遺産一覧表」に記載されたもののことで、遺跡や建造物などが対象の「文化遺産」、自然や地域を対象とした「自然遺産」、それら両方を含む「複合遺産」のことを指す。世界遺産一覧表へ掲載されることにより、自国だけでは十分ではない遺産保護に世界遺産基金への援助を要請することが可能に、そして武力紛争や自然災害による特別な危険にさらされている世界遺産に対しては、保護の必要性を訴えることができるようになる。
平成28年8月現在、日本では16遺産が登録されている。直近では、日本の国立西洋美術館を含む「ル・コルビュジエの建築作品」が世界遺産として指定され、大きな話題となった。

このように、過去から受け継いだ財産を未来へ残していくために、文化財の保護は世界の命題ともいえるだろう。

平成25年に「富士山 ―信仰の対象と芸術の源泉―」として世界遺産に登録された平成25年に「富士山 ―信仰の対象と芸術の源泉―」として世界遺産に登録された

日本における文化財保護の歴史

法隆寺金堂(国宝)の壁面焼損が文化財保護法制定のきっかけとなった法隆寺金堂(国宝)の壁面焼損が文化財保護法制定のきっかけとなった

日本では明治4年に「古器旧物保存方」、明治30年に「古社寺保存法」が布告され、文化遺産の調査・保護が始まる。これらは大正~昭和初頭にかけて「史跡名勝天然記念物保存法」や「国宝保存法」へと引き継がれていくこととなる。

転機となったのは昭和24年に起きた法隆寺金堂の壁面焼損。これがきっかけとなり翌25年に「文化財保護法」が制定。今までの文化財保護に関する法律の統合と拡充、文化財保護委員会の設置が図られた。やがて高度経済成長期にはどんどん都市化が進み、町並みや景観が大きな変貌を遂げていく中、文化財の保護も、より一層重視されるようになっていった。

そして昭和43年には、文化財保護委員会と統合した文化財の保護を所掌する文化庁が設置。昭和50年には、埋蔵文化財に関する制度の整備や、『民俗資料』が『民族文化財』と呼び名を改められ保護制度の充実を図る、保存技術にかかる制度の創設など、大きな法改正がなされた。
その後も「文化財保護法」は平成16年に保護範囲の拡大、登録制度の拡充を行うなど、社会の変化に伴って随時改正を行いながら、現在に至っている。

多岐に渡る文化財の分類とは

では、どのようなものが保護の対象とされているのだろうか。
日本では文化財保護法によって次のように分類されている。

・有形文化財:建造物、美術工芸品(絵画、工芸品、古文書、歴史資料など)
・無形文化財:演劇、音楽、工芸技術など
・民俗文化財:風俗慣習、民俗芸能、若しくはそれらに用いられる衣服、器具など
・記念物:遺跡、名勝地、動物、植物、地質鉱物
・文化的景観:地域における人々の生活や風土により形成された景観地
・伝統的建造物群:宿場町、城下町、農漁村等
・埋蔵文化財:土地に埋蔵されている文化財
・文化財の保存技術:文化財の保存に必要な材料や用具の生産・制作・修理等の技術

ここからさらに、"より重要なもの"、"特に価値の高いもの"、"保存と活用が必要なもの"など細かくカテゴライズされ、その分野に最も適した方法で守られていくのである。(下図参照)

最初に挙げた国宝や重要文化財の違いもこれにあたり、「有形文化財」というカテゴリにおいて"重要なもの"を「重要文化財」、なかでも"特に価値が高いもの"を「国宝」と分類している。
なお、文化財保護法制定の際に、旧「国宝保存法」で指定されていた国宝が一律「重要文化財」へ指定されたものとみなされる措置が取られた。そして中でも特に価値の高いものが「国宝」として改めて指定されている。「旧国宝」「新国宝」という区分を目にすることがあるのはこのためであり、「旧国宝」の価値が下げられたという意味合いではない。

また国が直接指定するものに対し、残したいとする文化財を申請することで、ゆるやかな保存や活用がなされていくものを「登録文化財」としている。登録には一定の基準を満たす必要があり、調査も行われる。

そのほか、都道府県や市町村の指定による文化財も存在するが、これらは
「地方公共団体は、条例の定めるところにより、重要文化財、重要無形文化財、重要有形民俗文化財、重要無形民俗文化財及び史跡名勝天然記念物以外の文化財で当該地方公共団体の区域内に存するもののうち重要なものを指定して、その保存及び活用のため必要な措置を講ずることができる」
という文化財保護法(第182条第2項)に基づくものである。呼称も決まったものがあるわけではなく、「○○県指定重要文化財」「○○県指定保護文化財」といった、各地の条例に沿ったものが使われている。国で指定された文化財とは異なるものなので、区別しておきたい。

日本における文化財は多くの種類に分類される。</br>文化庁・文化財に関するパンフレット「未来に伝えよう文化財」を基に作成日本における文化財は多くの種類に分類される。
文化庁・文化財に関するパンフレット「未来に伝えよう文化財」を基に作成

文化財として登録されると…

赤茶色のタイルが印象的な「東京大学大講堂(安田講堂)」。平成8年に重要文化財として指定されている赤茶色のタイルが印象的な「東京大学大講堂(安田講堂)」。平成8年に重要文化財として指定されている

文化財への登録には調査、審議までの手間や時間が多くかかり、所有者の負担も大きくなると考えられる。それでも、文化財として登録されるメリットはあるのだろうか。

文化財所有者は義務として、文化財の適切な管理と可能な限りの公開を求められる。
指定登録のための調査が行われることにより、文化財の所在や所有者が明確になり、歴史的背景や希少性という情報が整理されるだろう。あわせて保存や管理の状況が明らかになるため、適切な修理や修繕は進めやすくなる。公開や開示、研究も行いやすくなり、活用にも期待できるようになる。
また文化財にかかる費用について助成を受けられるのも大きなメリットになるだろう。
どのような助成や優遇措置を受けられるかは、文化財の種類によって異なるが、例えば重要文化財であれば、修繕や保存に対する補助金が出るほか、相続税の控除や固定資産税の減税が発生する。これにより所有者の負担は登録前に比べ軽くなると考えられる。
半面、管理や修理には国からの指導が入ることとなり、都度、届け出が必要となる。自由な現状変更の範囲は狭まり、美術品などであれば輸出の制限もかかる。売買も可能ではあるが、これも文化庁への届け出が必須である。

このようにいくつかの制限も課されることにはなるが、文化財として登録されるということが、この先続く未来に向けて継承していくための一助になることは確かである。
人類の財産を文化財として保護し、後世に残していくことはもちろんであるが、これらを資源として情報を発信し、活用することで国民の文化的向上を図ろうというのが文化財保護の真意ではないだろうか。

次回は建造物に焦点を当てた保存と活用、登録有形文化財についてお伝えしたい。

■参考
文化庁|文化財
http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/
国指定文化財等データベース
http://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/

2016年 09月14日 11時06分