日本で生まれた襖(ふすま)

30年前の本金砂子細工の襖の前に座る八上幸正さん30年前の本金砂子細工の襖の前に座る八上幸正さん

伝統的日本家屋は、断熱性と調湿性のある木と紙で構成されている。和室に使われる建具や調度にも木や紙製が多いのは、気温や湿度の変化が大きい日本で、快適に過ごすためだろう。近年は、心を落ち着かせてくつろげる空間としても、和室が見直されつつある。

和室に欠かせないのが襖。紙で仕上げられた引き違いの戸は日本唯一のものという。張り替えができる襖は気軽に選べる反面、手入れが難しい印象もあるかもしれない。そこで、大阪府表具内装協同組合理事長の八上幸正さんに、襖の歴史や構造、手入れ方法などを教えていただいた。

「寝殿造りの時代は畳も置き畳、空間の仕切りも屏風や床几と可動的でしたが、平安時代末期から鎌倉時代の書院造りでは畳が敷き詰められ、敷居と鴨居に嵌め込む襖も生まれました。その後装飾的要素が加わり、絵が描かれて『襖(ふすま)障子』と呼ばれました。障子は『さえぎるもの』、すなわち、風や視線を遮る建具の総称でした。
襖(ふすま)の語源は『衾(ふすま)』と『伏す間』にあるようです。『衾』とは寝具で掛け布団のようなもの。『ふすま』には『伏す間』の意味もあり、寝間を意味していました。そこに使用される障子は『衾』のように四周に錦が張られていたようです。『襖』は元々『おう』と読み、衣服の『袷(あわせ)』また『裏の付いた着物』の意味があることから、絹織物を両面に張った『障子』を『襖障子』と称されるようになったとも言われています。『襖(おう)』は綿入れの上着でもあり、『衾』も『襖(おう)』も防寒の衣料でありました。いつしか『伏す間』に建て付けた障子を『襖』の字が当てられ『襖障子』と言うようになりました。その後、版木で紋様を印刷された唐紙が輸入されると、唐紙を使った唐紙障子も登場します」

当初の襖は貴族や武家だけのもので、装飾的な工夫を凝らされてますます豪華になっていく。特に安土桃山以降の権力者は、権威を示すために床の間や襖を含めた障屏画に凝ったからだ。
「貴族や武家は、それぞれに絵師を抱えていました。有名なのは狩野派でしょう」
江戸時代の大名は、参勤交代で江戸に上がる時などには、控えの間から次の間などを通って上段の間に座す将軍に謁見するが、将軍に近づくたび格が上がり、襖も金箔が使用され、濃彩色の絵が描かれ豪華絢爛になっていったようだ。一方で、日常の生活空間には落ち着いた、水墨画が使用された。

襖が町民に普及しはじめたのは江戸時代ごろ。豪商や庄屋の家に取り入れられ、国産の「からかみ」を張った「唐紙障子」が多く使用されたが、庶民の長屋の仕切りにはあかり障子が使われていたようだ。
「紙が高級品だった時代、上張りにきれいな紙を使うだけでなく、何枚も紙を張って作る襖は贅沢品でした」

戦時中の物資が不足していた時代は、質の低い洋紙である新聞紙が下張りに使われるようになり、戦後の高度成長期以降は、襖の構造自体が簡素化される。近年の襖は、骨組みの上に下張り部分を工業的に作ったチップボール紙を張り、その上に薄い和紙と上張りを張っただけのものが多いとか。
マンションでは骨組みのない、段ボールや発泡スチロール芯材、ベニヤ板を使った襖も使われている。しかし張り替えを想定したものではないので、このタイプの襖が傷んだときは、張り替えでなく買い換えを検討した方が良いだろう。

襖の丁寧で複雑な構造

本襖の下貼り図本襖の下貼り図

本来的な和襖(本襖)には大量の紙が使われており、豪華なものは十層以上になる場合もある。
まずは骨組みがガタつかないよう繊維の強い和紙を張る「骨張り(骨縛り)」をして、骨組みが透けないように「胴張り」を重ねる。次に「蓑掛け」を行う。これは薄い和紙を鎧状に少しずつずらして何枚も重ねて張っていくが、それが農夫の蓑に似ているところからこう呼ばれる。さらに蓑かけをしっかり固定するために「蓑おさえ」の和紙を張る。ここまでが本体の下張りなので、張り替えの際に剥がさない。

次に下張りの上に袋張りをする。袋張りは「下袋」、「上袋(浮け掛け)」と呼ばれる二層からなる。一層ごとに二三判(60cm×90cm)の和紙を、田の字に1/4に裁断して襖一面に合計12枚の紙片を、周囲にだけ糊をつけて、部分的に重ねながら張りつけていく。全面に糊付けしないので空気が入るだけでなく、襖紙が直接骨組み部分に密着しないので、襖紙を張ったときに、凸凹なく綺麗にピンと張るのだ。上袋は紙片の縁を手で裂いて、和紙の繊維を出して張り継ぐことで、紙の重なり部分に段差が出ないようにする。そしてさらに上張りを補強するための「清張り」をしてから、やっと「上張り」が張られている。本格的な和襖は、驚くほど手が込んだ贅沢品だと気づかされるだろう

「蓑張りには大福帳や歌本、手紙、経典などの古紙を、漉きなおさずに使われてきました。紙が枯れている方が強いですし、墨を使っているので防虫や透け止めの効果があるのです」
現在は記録用紙として和紙は使われることがほとんどなくなった。以前は和紙の反故紙として、戦前戦後すぐの裁判記録や、登記簿などが流通したそうだが、蓑張りの紙も反故紙がなくなれば、漉きたての紙を使用するしかない。今では和紙の反故紙は貴重品である。

襖を選ぶときに気をつけたいこと

麻亀甲摺り文様の襖麻亀甲摺り文様の襖

「襖はまず、部屋の用途や好みに合わせ、上張りから選ぶと良いでしょう。たとえば座敷なら山水画が多いですし、居間なら花などが好まれます。襖は張り替えができるキャンバスのようなもの。写真プリントなどのオリジナルやキャラクターものもありますし、自分で自由に演出できますから、自分の気に入った絵柄や模様を取り入れて、空間作りをしていただきたいです」と、八上さんは襖選びの基本を語る。

上張りが決まれば、予算に合わせて骨組みを決め、さらに部屋の格や雰囲気に合わせて縁や引き手を選ぶ。この時、それぞれの格のグレードに合わせるのが一般的だ。

「書院造りの座敷には真・行・草があり、真の座敷ならもっとも格の高い黒塗り縁を使います。行の座敷なら木地縁、お茶室など草の座敷は侘びや寂びを重んじますから簡素な襖、縁をつけない坊主襖に、金具を使わない切り込み引き手などを使います。坊主襖は枠がなく、お洒落に見えますが、どのように使うか考えて選んだ方が良いと思います。茶室はものを丁寧に扱う場所ですから、縁がなく、引き手部分が紙のむき出しでもいいのですが、日常空間に置くとすぐに傷み、メンテナンスが大変なのです。現代風の部屋には、杉材に色を塗った木地縁やカラフルなカシュー塗りの縁も合いやすいですね」

引き手は軽合金製や合成樹脂や木製で、丸や四角のものが多い。ひょうたんや蔓や松葉などの意匠もあるので、好みの襖を仕上げたいときは、表具屋に相談してみてほしい。

襖のお手入れやリフォーム

敷居のすべりが悪くなったときは、すべり専用の「イボタ蝋」を使う。これはイボタカイガラムシの分泌物を精製したもので、建具敷居のすべり剤、 ロウソクの原料のほか、木材の艶出しに用いられる
敷居のすべりが悪くなったときは、すべり専用の「イボタ蝋」を使う。これはイボタカイガラムシの分泌物を精製したもので、建具敷居のすべり剤、 ロウソクの原料のほか、木材の艶出しに用いられる

襖の手入れは日々埃をはらう程度しか思いつかないが、ほかに注意点があるのだろうか。
「敷居に砂気が入ると傷みますから、きれいに掃除しておいた方が良いと思います。また、湿気に弱いので、濡れた服を襖の上に掛けないよう気をつけてください。服に付いた水分が襖に移ると、襖に染みができたりします。また、風通しが悪いと、黴が原因となる染み、斑点が出たりします」

敷居がすべらなくなったときは、シリコン系の滑り剤(液体)もしくは、イボタ蝋を使う。ただし、家庭で使う最近のロウソクのロウは粘るので、却ってすべりが悪くなるから注意が必要。粘りに埃がたまる弊害もあるそうだ。

「襖の歴史は長く、使い勝手を考えれば、今の姿が進化しきったものではないでしょうか。構造的に完成されたものに目新しさを求めると、本来的ではなくなると感じます。でも、紙は進化していますよ。たとえば竹炭を漉き込んだ、吸湿力や消臭能力を高めた紙や、自分でデザインできるものなどです。上張りの柄は時代によって変化するでしょうし、していくべきなのですが、なぜかあまり進化しません。それでも材質や模様は多様で、日本襖振興会のホームページにも見本がありますから、どんな種類や柄があるか知ってほしいと思います」。オリジナルのものを作ってくれるお店もあるので、和室を作ったときには、襖にも工夫をしてほしいという。

「10数年前に表具屋の技術がまったく必要ない、発泡スチロールの芯材に金属枠の襖が登場して、これからはこれが襖の本流になると言われたのですが、普及する前に襖の使用自体が減少してしまいました。日本家屋の良さが見直されてきてはいますが、まだ旅館などの非日常の粋で、普段の生活で取り入れているとは言えないのではないでしょうか」と、八上さんは危惧する。

襖の張り替えはもっとも手軽にできるリフォーム。襖は日本オリジナルの室内装飾具でもあり、寒暖差を緩和して、調湿性もあるから、日本の風土に合った建具でもある。和室のある家はもちろん、新築や建て替えの際は、自分らしい襖を作ってみてはいかがだろうか。

■取材協力
大阪府表具内装協同組合:http://osaka-hyougu.or.jp
■参考
日本襖振興会:http://www.fusuma.gr.jp

2018年 05月26日 11時00分