歴史的な価値が高い建物群に溶け込む外観

周囲の歴史的建造物と調和する重厚な外観周囲の歴史的建造物と調和する重厚な外観

外国人観光客でにぎわう北海道の港町・小樽で、築90年弱の歴史的建造物が眠りから覚め、リノベーションホテルとしてオープンした。「北のウォール街」と呼ばれた商都の歴史が刻まれた重要な建物であるとして、国と市からお墨付きを得た元外国人専用ホテル。景観保全を重んじる小樽市の方針で、外観は当時の面影をほぼそのまま残すが、内装には現代的な味付けを随所に加えて大変化を遂げた。ソーシャルアパートメントや特徴あるホテルを多く手掛ける株式会社グローバルエージェンツ(東京)が、初めて歴史的建造物の再生に乗り出し、「クラシックとコンテンポラリーの融合」に挑んだ。

オープン前日、内覧会に参加した。JR小樽駅から徒歩で10分弱の、小樽運河近く。小樽芸術村(旧三井銀行小樽支店)の向かいに、重厚な鉄筋コンクリート造の建物が見えた。2019年4月13日に開業した「UNWIND HOTEL & BAR(アンワインド・ホテル・アンド・バー)小樽」。風格がありながら主張しすぎない佇まいで、芸術村と同様、歴史を感じさせる洋風の建物がひしめくエリアに溶け込んでいる。

この建物は、もともと1931(昭和6)年に「旧越中屋ホテル」として開業し、戦中は将校クラブとして陸軍に、戦後は米軍にそれぞれ接収された。小樽市の指定歴史的建造物と経済産業省の近代化産業遺産群に選ばれ、歴史的な価値が守られてきた。1993年に「小樽グランドホテルクラシック」として再開したが2009年に閉鎖。10年ほど休眠していたため、グローバルエージェンツは大規模にリノベーションをすることにした。山崎剛社長によると、「変えないもの」と「変えるもの」を選りすぐったという。

クラシックとコンテンポラリーの融合

エントランスの扉を開けてロビーに入ると、国会議事堂内のような格調ある階段が出迎えてくれる。2階の客室につながるこの階段の手すりは大理石で、1世紀近い時間の厚みを感じさせる。天井近くを見渡すと、小樽らしいステンドグラスがちりばめられている。右手奥はフロントで、左手にはバー。宿泊者はここで17~18時30分にフリーワインサービスが受けられる。そして正面には、クラシカルなステンドグラスと、幾何学的なデザインの照明が同居する目玉のレストランがある。

フロントのスペースはもともと待合室のような空間で、バーの場所は一部が事務室だったという。エントランスとロビー、レストランをそれぞれ隔てる窓と扉の枠などは天井付近でアーチを描き、クラシックな雰囲気を漂わせている。

リノベーション前(左上)と後(右上)のロビー。待合室のようなスペース(左下)はフロント(右下)に再生されたリノベーション前(左上)と後(右上)のロビー。待合室のようなスペース(左下)はフロント(右下)に再生された

価値あるものを残し、統一感を演出するデザイン

一方で、2~4階の客室は全面リノベーションされた。ダブル中心の36部屋があり、ほとんど部屋割りは変えなかったが、全室とも寝室と水回りを引き戸で隔て、バスとトイレを別にするなど、現代的な快適さを加えた。テレビは置かず、壁に投映されたプロジェクター映像と音楽でゲストを歓迎する。シンボル的な部屋は、天井近くにベッドを置く「アンワインド ロフト」(40m2)。もともとあった、港が望める縦長の窓「ベイウインドウ」とバルコニーを備えている。

グローバルエージェンツはこれまで、共用スペースを充実させたソーシャルアパートメントやホテルのほとんどでリノベーションを採用。もともとの建物の意匠を消す手法で、特にその内装の変貌ぶりを持ち味にしていた。ただ今回は建築としての貴重さや美観、また景観を重んじる行政の方針もあり、残すべきものを吟味してリノベーションするという「新しいチャレンジ」(山崎社長)をすることになった。

山崎社長は物件を見学した際に、3.7mある天井高やステンドグラスといった建築としての価値に惹かれたという。「これを引き立たせるようなリノベーションと再生ができれば、非常におもしろいものができると思いました。ただ、ステンドグラスや手すりを残すと、内装はある程度それに引っ張られる。そのため全体の空間として統一感を出すデザインには苦労しました」と振り返る。耐震基準を満たすために、壁を厚くする複数回の設計変更も余儀なくされたが、「思い通りの良い表現ができた。小樽市で長く保存されてきた建築物を生かし、しっかり小樽のアピールにつなげていきたいですね」と語る。

創業時のステンドグラスを残し、現代風にアレンジしたレストラン(左上)と手摺を残した階段(右上)。客室(下段)は全面リノベーションで大きく印象を変えた創業時のステンドグラスを残し、現代風にアレンジしたレストラン(左上)と手摺を残した階段(右上)。客室(下段)は全面リノベーションで大きく印象を変えた

朝食と婚礼にも伝統と現代性が同居

ステンドグラスを眺めながら楽しめるモーニングハイティーステンドグラスを眺めながら楽しめるモーニングハイティー

クラシックとコンテンポラリーの融合は内装だけでなく、サービスにも反映させている。宿泊者全員に提供される朝食は、北海道初の外国人専用の迎賓ホテルとして誕生した経緯を踏まえ、イギリスで19世紀ごろから広まった午後のアフタヌーンティーやハイティーを、朝に優雅に楽しむスタイルにアレンジした。伝統を感じさせながらも縛られすぎない、道産食材を多く使ったメニュー展開をする。

また向かいの芸術村と連携し、披露宴やウェディングパーティーといった婚礼事業にも乗り出す。クラシックなイメージを残しつつ、カジュアルでコンテンポラリーな空間の中で挙行できることをアピールする。

歴史的建造物に新たな価値を加えるリノベーション

内覧会で事業の狙いを説明する山崎社長内覧会で事業の狙いを説明する山崎社長

グローバルエージェンツは「UNWIND」の1号店を札幌市で展開。札幌市内という利便性の良い立地でのロッジ体験がコンセプトで、⼈気を呼んでいる。

山崎社長によると、そこを訪れる外国人宿泊客からは次の宿泊地として小樽を挙げる声が多く、「札幌という拠点があるので、相乗的、総合的な営業やプロモーションができる。今後も小樽の魅力をもっと海外に発信していければ、より成長していくと考えました」と言う。UNWIND小樽の宿泊単価は20,000円が目安で、稼働率が85~90%になるよう宿泊料金を変動させる。ユニークな滞在体験を好む30代のグループに訴求するという。

クラシックな建物が居並ぶ小樽に誕生した、現代的な表現を加えた新しいクラシックホテル。歴史的な建築物に新たな価値を生み出す手法として、リノベーションのポテンシャルの高さを感じることができた。

2019年 06月12日 11時05分