元研究者が仕掛ける、民泊新法を活用した新賃貸モデル

オビハウス外観。芝を張った中庭を挟んで長屋が向かい合う。左を母屋、右を離れとし、母屋には中庭の反対側に玄関を設けたオビハウス外観。芝を張った中庭を挟んで長屋が向かい合う。左を母屋、右を離れとし、母屋には中庭の反対側に玄関を設けた

家賃を払って住みながら、民泊を運営して収入が得られる。「賃貸民泊」と銘打った、ユニークな集合住宅が熊本に誕生した。中庭を挟んで母屋と離れがあり、母屋に住みながら離れに旅人を泊めるスタイルだ。

仕掛け人の末次宏成さんは、もともと都市デザインや建築計画の研究者(芸術工学博士)。これまでに、原状回復義務のない「DIY賃貸」の仕組みを自ら編み出したニレノキハウス、建築基準法の特例を利用して空き家を宿に転用したスミツグハウスなど、実験的な取り組みを成功させてきた。「賃貸民泊」オビハウスは、これらの経験を活かし、発展させた事例といえる。

「2018年6月にできた民泊新法(住宅宿泊事業法)は、家そのものを稼ぐ場にする画期的な法律だと思います。特徴は、住居専用地域でも宿が営めること。これは、建築業界でも改革になるのでは。この仕組みを利用して、社会貢献につながるビジネスモデルがつくれないかと考えました」と末次さんは言う。

向かい合う2室をワンセットにして「母屋」と「離れ」に

オビハウスはもともと、空き家になっていた2棟の長屋だ。昭和の半ば頃に建てられたとみられ、すでに時代に合わなくなっていた。そこで、家主から相談を受けた不動産会社が、空き家再生に実績のある末次さんに、改修活用のプロデュースを依頼してきたわけだ。

「4mほどの間隔で2つの平屋が向かい合っているので、そのままではお互いのプライバシーも守りにくい。お金をかけて改修したところで、借り手が付くとは思えませんでした」と末次さんは振り返る。そこで思いついたのが、民泊新法の活用だ。「2棟の向かい合った部屋2つをワンセットにして貸し、片方を母屋、片方を離れとして民泊に使えるようにするアイデアです」と末次さん。

大家には10年間の定期借家契約を申し入れ、改修と民泊運営の許可を取り付けた。10年間入居者に転貸することで、改修にかかった費用を回収する。設計と施工には、熊本大学建築学科の田中智之研究室の協力を得ることにした。熊大とは、ニレノキハウス改修の折にも連携した実績がある。

設計・施工ともに熊本大学と連携。田中智之教授の指導のもと、学生達が設計し、模型をつくって検討した。左下は現場での打ち合わせのようす(写真提供:末次宏成)設計・施工ともに熊本大学と連携。田中智之教授の指導のもと、学生達が設計し、模型をつくって検討した。左下は現場での打ち合わせのようす(写真提供:末次宏成)

入居者の民泊開業支援もサービスに組み込む

もとは2棟8戸、それぞれ約30m2。うち6戸を2戸1組のユニットとし、「母屋」にあたる北側の住戸に、「離れ」と向かい合わない玄関を新設する。「母屋」側にはシステムキッチンとユニットバス、脱衣室を兼ねた洗面室・トイレを。宿にする「離れ」にも簡易キッチンとトイレ、シャワー室を設け、そこだけでも生活が成り立つようにした。

道路側の2戸は解体し、6台分の駐車スペースをつくった。3戸の入居者全員が車を1台ずつ所有したとしても、3室の宿泊者用の駐車場が確保できる。

スミツグハウスで宿の運営も経験している末次さんだが、「賃貸民泊」の仕組みについては、改めて学生たちとも意見交換しながら練った。スミツグハウスは旅館業法の簡易宿所に当たるが、民泊にはそれと異なるルールもある。
「入居者が民泊を開業する際には、届け出の書類作成を代行するなどの支援も行います。初めて宿業を営む人にとって、ノウハウを蓄積するためのトライアルになればいい。起業支援の側面もあります」。

実際、オビハウスの1ユニットは、今後、民泊による空き家活用事業を検討している不動産会社が借りて、試験運用に使う予定だという。

上2点/住みやすさ重視の「母屋」。ハイグレードのシステムキッチンは末次さんが自ら展示品を格安で仕入れたもの </br>左下/新たに設けた「母屋」の玄関。藻器堀川(しょうけぼりがわ)のせせらぎに面している </br>右下/土間リビングが特徴の「離れ」。キッチンもシャワーも揃っている上2点/住みやすさ重視の「母屋」。ハイグレードのシステムキッチンは末次さんが自ら展示品を格安で仕入れたもの 
左下/新たに設けた「母屋」の玄関。藻器堀川(しょうけぼりがわ)のせせらぎに面している 
右下/土間リビングが特徴の「離れ」。キッチンもシャワーも揃っている

入居者による民泊が次々開業。個性を活かしたカスタマイズに期待

学生たちのアイデアが実り、3つのユニットはシンプルながら少しずつ個性の違う空間になっている。「離れ」のほうはリビングを土間空間にし、「母屋」とも異なる雰囲気にした。「DIYで土間コンクリートを打つのは大変な作業でした」と末次さんは苦笑しながら振り返る。

いの一番に入居した下田恭平さんは、スミツグハウスのアルバイトスタッフとして宿の運営を経験したひとり。大学で経営学を学んでいたが、就活に疑問を感じ、2年間休学して、海外で英語を学んだりホテルスタッフとして働いたりしながら旅をした。その経験から「それぞれの国の特色や建物の違いに魅力を感じた」という。「世界中の人と触れあう機会を、帰国してからも持ちたいと思った」。

熊本生まれ、熊本育ちの下田さん。以前は「早く熊本を出たい」と思っていたが、海外を見てきた今は、郷土愛を強く自覚している。「民泊を営みながら、訪れる人に熊本の良さを伝えたい。住宅街にあるオビハウスのよさは、この町のリアルな暮らしを体感してもらえることだと思う」と語る。インテリアにオリジナルのアレンジを加え、2019年10月に民泊を開業した。

10月には最後の一室も入居。今のところ、全ユニットが民泊を運営する予定だが、ほかにも離れをアトリエやオフィスに使うなど、さまざまな使い方が考えられる。2世帯住宅として使ってもいいだろう。もちろんDIYカスタマイズ可能、原状回復の義務もない。入居が始まったこれからが、オビハウス再生の本番だ。

左上/末次宏成さん(左)とオビハウス入居者で民泊を運営する下田恭平さん</br>ほか3点/下田さんがオビハウスで運営する民泊のインテリア左上/末次宏成さん(左)とオビハウス入居者で民泊を運営する下田恭平さん
ほか3点/下田さんがオビハウスで運営する民泊のインテリア

2019年 11月30日 11時00分