シャッター商店街の2階を住宅に転用、将来を感じさせるリノベ

グランプリ受賞作品となったアーケードハウス。商店街に住むという手があったか!という驚き、絵柄のインパクトが強烈だったグランプリ受賞作品となったアーケードハウス。商店街に住むという手があったか!という驚き、絵柄のインパクトが強烈だった

年々応募作品が増えているリノベーション・オブ・ザ・イヤー。2016年の応募作品は161作品で、そのうち、一般の人の投票などを経て選考委員による二次選考に進んだのは51作品。応募会社数は48社に及んでいるそうだが、授賞式でフラッシュのように流された画像の中で、群を抜いて印象的だったのは今年、グランプリに選ばれた作品「アーケードハウス」(タムタムデザイン)だった。

授賞式では500万円未満、800万円未満、800万円以上、無差別などといくつもの賞が発表された後で、グランプリが発表されたのだが、そこに至るまでのストレスと言ったら。あの、印象的な物件はいつ、どの賞を受賞するのだろうとじりじりしながら聞き、最後に発表された時には他の参加者も同じ思いだったのだろう、大きな拍手が沸き上がった。

その作品、アーケードハウスは昭和54年に建設された、福岡県東部にある行橋市のアーケード街の2階店舗を住宅にリノベーションしたもの。写真は北九州市のベットタウンとして人口は増えてはいるものの、郊外大型店増などのあおりを受け、約7割が空き店舗という夜の商店街に新しく作られた住宅が明るく、浮かぶように撮影されており、見た途端に多くの人は「これはなんだ!」と思ったはずだ。

商店街の現状の厳しさ、暗さを背景にしながらも、ここに住宅ができ、人が住むことで街が変わるかもしれないという予兆を感じさせるものでもあり、商店街だからといって商店として使わなくても良いという融通無碍さを教えてくれるようでもある。空き家、空き店舗の使い方の事例として今後、参考にされる物件のひとつといえるだろう。個人的には居住が始まった時点よりも1年後あるいは3年後などが楽しみ。ぜひ、お邪魔させていただきたいものである。

インバウンドニーズに対応、宿泊施設のエントリー増

外観はそのまま、カフェと宿に転用されたシーナと一平。子どもを対象としたリノベーションスクールなども行われており、地域を元気にする存在として使われている外観はそのまま、カフェと宿に転用されたシーナと一平。子どもを対象としたリノベーションスクールなども行われており、地域を元気にする存在として使われている

もうひとつ、商店街の中のリノベーションで注目されたのが無差別級部門で最優秀賞を受賞したカフェ&お宿「シーナと一平」(ブルースタジオ)。これは消滅可能性都市と名指しされた豊島区の、池袋駅の隣駅椎名町駅の商店街の中にあった元とんかつ店の空き店舗を行政、地元住民、事業者が連携して作り上げた空間で、かつての店の趣きをそのままに用途を一新。生活に必要なものが揃う商店街という立地を生かし、観光客が東京での日常を味わえる宿となっている。

この作品もアーケードハウス同様に、商店街の中の建物の使い方を変えることで、街にインパクトを与えており、リノベーションには空き家・空き店舗の増加、商店街の衰退・中心市街地の空洞化などといった社会問題に寄与する力があることを教えてくれる。この2つの例以外にも作品タイトルに空き家、シャッター商店街などという単語が散見されたことを考えると、社会性を考えた建物活用が一般的になりつつあると言えそうだ。

社会との関連でいえば、もう2つ、印象的だったことがある。ひとつはこのところ増えているインバウンドへの対応である。今回、無差別級部門には前述のシーナと一平以外にも、北陸ツーリズムを生む地域密着型ホテル「HATCHi金沢」(リビタ)、開放感あふれるデザインモーテル SPICE MOTEL OKINAWA(アートアンドクラフト)と2つの宿泊施設がエントリーしており、後者は特別賞としてインバウンド賞を受賞している。社会の変化がリノベーション事例から読み取れるとも、リノベーションで社会が必要としている施設が作られるようになってきたとも言えるわけである。

北海道ならではの住宅を断熱性能アップで生かす

北の大地に映える、可愛い三角屋根の物件。こうした、その土地らしい建物がリノベで再生されるとしたら街の風景も変わってくる北の大地に映える、可愛い三角屋根の物件。こうした、その土地らしい建物がリノベで再生されるとしたら街の風景も変わってくる

もうひとつは建物の性能へのこだわり。800万円未満部門、800万円以上部門の最優秀賞はいずれも北海道の作品で、共通するのは断熱性能の大幅アップである。他の土地であれば見栄えだけのリノベーションもあり得るのかもしれないが、同地でリノベーションするのであれば断熱性能向上は必須。中でも面白かったのは後者、三角屋根のブロック造の家(スロウル)。

作品解説をそのまま引用すると、リノベーション前の建物は『昭和48年に建てられた築43年の補強コンクリートブロック造の三角屋根の家。通称「三角屋根」と呼ばれるこの建物は、戦後の行政主導により「断熱」「すきま風」「凍上」「すがもり」などの対策を検討する中で、昭和28年制定「北海道防寒住宅建設等促進法」通称(寒住法)を具現化するモデルとして、住宅供給公社により建設が進められた北海道遺産とも言える貴重な建物。しかし、壁内結露や居住空間の狭さ、築年数の古さなどから今では次々に姿を消している』という。

つまり、北海道ならではの歴史がある住宅というわけだ。それが今の技術で断熱性能を施され、居住空間が変えられることになって今後も活用されるようになったとすると、古い家の可能性は大きく広がったことになる。断熱性能向上という日本の住宅の社会的な問題解決と同時に、歴史の保存にも繋がる、面白い作品だったと思う。また、同物件では道産材を利用、地元ならではのホタテ貝から作った漆喰を利用するなど、地産地消の住宅でもある。その点も評価されていたようだ。

無差別級部門には未来の暮らしへのアイディア多数

上は賃貸で住んでみてから購入を実現するトラスム、下は京都の路地、長屋を利用したさらしや長屋上は賃貸で住んでみてから購入を実現するトラスム、下は京都の路地、長屋を利用したさらしや長屋

予算とは関係なく、これからの暮らし、住まい方への提案のある作品が揃った無差別級部門で印象に残ったのはお試し居住ができる仕組み、トラスム(リビタ)。これは「TRY(トライ)+LIVE(住む)」を掛け合わせた造語だそうで、賃貸で試しに住んでみることで街の様子、共用部の使い勝手、どんな人たちが住んでいるかをリアルに体験できるというもの。

しかも、体験後に購入するとなった場合には、支払済みの家賃の一部を購入時の資金に充当できる仕組みもあり、払った家賃も生かされる。かつてのように、双六のように買い替えができる時代ではない以上、たった一度の購入を慎重に検討するためには、こうした仕組みはもっと広がっても良いはずだ。この作品は審査委員特別賞であるユーザーファースト賞を受賞しているが、その名にふさわしい受賞である。

同じく、無差別級部門で土地の独自性を感じたのは京都の、そのままでは再建築のできない路地の物件、長屋を生かしたコワーキング∞ラボ 京創舎(きょうそうしゃ)、空家活用×まちづくりリノベ 「さらしや長屋」(いずれも八清。後者は空家活用まちづくり賞を受賞)という2作品。京都市内には幅4m未満の、建築基準法的には道路とされない狭い道が1万3000本もあるそうで、そうした路地に建つ建物の問題は個々人では解決しにくい。私有財産である以上、行政にも手は出しにくく、そこにノウハウのある民間企業があることは救い。路地の奥に空き家が取り残されないよう、今後の活用に期待したい。

地方での事例も蓄積、リノベは都会だけのモノではない

最後にもうひとつ、全体としての感想を。それは地方での事例が年々増え、しかも印象的になっているという点。2015年の時点でも同様のことを感じたが、2016年はグランプリ、価格別最優秀賞5作品のうち、3作品が首都圏、関西圏以外。地方の層の厚みが増しているわけで、加えて前述したように土地の材を使った作品も。京都、北海道のようにその土地らしい建物が残る地域など、首都圏に比べ、有利さもある。これからは地方でこそ、新奇なやり方が生まれるようになってくるのかもしれない。

個人的にツボだったのは800万円未満部門の最優秀賞を受賞した“高品質低空飛行”に暮らす家〈暮らしかた冒険家 札幌の家〉(棟晶)の解説文。断熱性能が高まった住宅を評するのに「リノベ前の薪消費量9立米。無理なく割れるのは3立米」というのだが、これは必死に薪を割りまくらなくても温まる家ということ。よく、以前に比べて光熱費が3分の1になったなどという文章を読むが、それに比べるとなんと分かりやすいことか。光熱費以外にもリノベ後の暮らしのメリットが平明に書かれているので、ご一読を。極寒の北海道でも、お金をかけなくても快適な住まいを手に入れる方法があることが分かる。

リノベーション・オブ・ザ・イヤー2016 選考結果
http://www.renovation.or.jp/oftheyear/2016/royresult.html

最後に自分がその場に行ってみたいと思った作品を。左上から沖縄の宿泊施設、開放感あふれるデザインモーテル SPICE MOTEL OKINAWA、同じく金沢の宿泊施設で北陸ツーリズムを生む地域密着型ホテル「HATCHi金沢」、右下は北海道の“高品質低空飛行”に暮らす家〈暮らしかた冒険家 札幌の家>、東京の賃貸住宅、「ただいま」より、「いらっしゃい」が似合うカフェ部屋ライフ 最後に自分がその場に行ってみたいと思った作品を。左上から沖縄の宿泊施設、開放感あふれるデザインモーテル SPICE MOTEL OKINAWA、同じく金沢の宿泊施設で北陸ツーリズムを生む地域密着型ホテル「HATCHi金沢」、右下は北海道の“高品質低空飛行”に暮らす家〈暮らしかた冒険家 札幌の家>、東京の賃貸住宅、「ただいま」より、「いらっしゃい」が似合うカフェ部屋ライフ

2017年 01月15日 11時00分