かつては跳ね橋ごとに管理小屋があった

Kinkerbrug橋のたもとにあるブリッジハウスは1936年に建てられたもの。現在の姿が下。写真提供/SWEETS hotel 撮影(下の写真)/Mirjam BleekerKinkerbrug橋のたもとにあるブリッジハウスは1936年に建てられたもの。現在の姿が下。写真提供/SWEETS hotel 撮影(下の写真)/Mirjam Bleeker

低い土地という国名が表すようにオランダは海抜0m以下の土地が国土の大半を占める。その立地を利用し、水運で栄えてきた国でもあり、首都アムステルダムの象徴とも言えるのが縦横に巡らされた運河。2010年にはオランダの黄金期である17世紀に掘削された運河エリアが世界遺産になっている。運河そのものだけではない。運河に面していることが事業に有利だったことから、運河沿いには往時の商人たちが建てたまちの歴史を伝える建物が多く残されている。

そんなアムステルダムの運河をより満喫できるホテルが2018年3月に誕生した。かつて運河にかかる跳ね橋沿いには船舶の航行に合わせて橋の開閉を行うためにブリッジキーパー(橋守とでも言えばいいだろうか)がおり、彼らが住んでいた小屋・ブリッジハウスをコンバージョン。ホテルの一室とした分散型ホテル「SWEETS HOTEL」である。

古くは1673年(日本でいえば江戸時代。4代将軍徳川家綱の時代)から2009年までに造られたブリッジハウスは、立地や建築様式、広さその他もひとつずつ異なっており、それ自体が記念碑的な存在。だが、橋全体を一カ所でコントロールするシステムの導入で橋守が不要になり、同時にブリッジハウスも空き家に。それを有効に使い、まちを訪れる人にとってこれまでにない経験ができる場に再生されたのである。来街者にとってだけではない。市民にとっても当たり前の存在だったブリッジハウスの再生はまちの財産を見直す契機になったのではないかと思う。

2012年の市への提案からプロジェクトがスタート

建物の外観も、内装もそれぞれ異なる 写真提供/SWEETS hotel 撮影/Lotte Holterman建物の外観も、内装もそれぞれ異なる 写真提供/SWEETS hotel 撮影/Lotte Holterman

市がブリッジハウスを廃止、中央コントロールシステムの導入を発表したのは2009年。そのブリッジハウスを小さな客室として利用、来街者にこれまでにないまちの魅力に気づく新たな経験をしてもらおうというプロジェクトが最初に市に提案されたのは2012年のこと。2013年夏には市内にある、アムステルダムとその周辺の建築に関する情報発信施設・ARCAM建築センターでブリッジハウスを模型とガイドブックで紹介する展示が行われ、好評を博したという。

それから6年の歳月をかけ、ブリッジハウスは少しずつ改修されてきた。関わったのはアムステルダムを中心に活躍する建築事務所Space&Matter、空きビルや低利用地などの開発に携わるデベロッパーgrayfield、プロジェクト発案者のSuzanne Oxenaar、Otto Nanとアムステルダムで各室異なるデザインで話題のHotel The Exchangeなどを創業したGerrit Groenが経営するSeven New Things、そして多くのデザイナー、職人たち。1部屋ずつ、ブリッジハウスの外観、立地に合わせたレイアウト、内装を施してきたため、これだけの時間がかかったという。

2018年3月の開業時は11室でスタート、その後、少しずつ部屋数が増えており、現在もまだ2020~2021年完成予定で改修中の部屋があるものの、最終的には全28室になる予定。それぞれに異なる客室はいずれも魅力的で、どれに泊まろうか、悩んでしまうほど。そのうちでも魅力的ないくつかをご紹介しよう。

運河の真ん中にある最古のブリッジハウスはボートの送迎付き

2018年9月に開業したAmstelschutsluisは、1673年に市内に入って来る船舶から料金を取るために造られたという複数の水門があるAmstelsluizenの一角にある、最古のブリッジハウス。アムステル川のど真ん中という驚くべき場所にあり、行き来はホテル専属のボートを利用する。1泊につき、4回利用できる仕組みになっており、到着時、出発時、外食利用の往復という想定。もちろん、事前に連絡すれば追加利用もできる。

建物は伝統的なオランダ建築でクラシカル。内装もそれに合わせて17世紀風に統一されており、1年かけてリノベーションされた。一方で設備は最新。他のブリッジハウスは1室を除き、キッチンは設置されていないが、Amstelschutsluisにはオーブンや食洗器なども含めたフル装備のキッチンが設置されている。冷蔵庫にはスナック類その他も用意されており、わが家感覚で宿泊する経験ができそうだ。ちなみに他の部屋で用意されているのはミニ冷蔵庫、コーヒーメーカーややかん、食器類とか。

また、この部屋だけは朝食付き。ボートに乗ったキャプテンが朝8時から10時の間の指定した時間に朝食を届けに来てくれることになっている。他の部屋の場合は別途注文をする仕組みだ。

宿泊料金は1,200ユーロから。2019年7月25日時点のレートで考えると1ユーロは120円ほどなので、日本円にして14万4,000円ほど。2人分としてもやや高めだが、他の部屋は160ユーロ、200ユーロ(1万9,200円、2万4,000円ほど)ともう少しお手頃である。

最古で最高額の部屋がこちら。夜景が見事だろうとか、朝食を待つのも楽しいだろうとか、妄想が止まらない。写真提供/SWEETS hotel 撮影/Mirjam Bleeker最古で最高額の部屋がこちら。夜景が見事だろうとか、朝食を待つのも楽しいだろうとか、妄想が止まらない。写真提供/SWEETS hotel 撮影/Mirjam Bleeker

まん丸な建物にまん丸なベッドのある部屋も

2階建てで、上から水面を眺められる部屋もいくつかある。そのうちでも人目を引くのはまん丸なKortjewantsbrug。この部屋からは1487年にまちの防衛のために建てられたThe Schreierstoren(涙の塔)、海洋博物館、ARCAM建築センターなどの建物が見渡せ、建築好きならたまらないだろう。すべてが丸くデザインされた室内から感じる非日常も旅ならではだ。

ちなみにホテルのホームページでは部屋ごとに設備その他についての記載と並んで、騒音レベルの表示もある。Kortjewantsbrugは普通となっており、中にはHIGH、つまり、うるさいよ!という部屋もある。街中の道路沿いや信号の脇、その他人通りが多い場所に立地していることもあるためで、ブリッジハウスという来歴を考えると仕方ない。音だけでなく、外も見えるが、外からも見える部屋もある。実際に利用する際には部屋の情報をよく読んでからにしたいところだ。

静かな部屋ということでは中心部から数キロ離れたアイ湾(実際には水路)を望むSluis Haveneilandが挙げられる。ブリッジハウスの中では2009年と最も新しく、コンパクトなキッチンに大胆なデザインの家具が備え付けられている。静かに水面を眺めてぼおっとするにはお勧めだろう。

左2点は都心部にある丸い部屋、右2点は水路沿いにある静かな部屋 写真提供/SWEETS hotel 撮影/Lotte Holterman左2点は都心部にある丸い部屋、右2点は水路沿いにある静かな部屋 写真提供/SWEETS hotel 撮影/Lotte Holterman

ホームページで各室の歴史をチェックしてからの宿泊がお勧め

眺めていると、一泊ずつ違う部屋を泊まり歩きたくなるほど 写真提供/SWEETS hotel 撮影/Mirjam Bleeker
眺めていると、一泊ずつ違う部屋を泊まり歩きたくなるほど 写真提供/SWEETS hotel 撮影/Mirjam Bleeker

最後に泊まってみたい人に向けて。定員は各室2名。バリアフリーとは言い難い立地もあるため、子どもはもちろん21歳未満、車椅子利用者などは宿泊できない。駐車場はないが、かつてのブリッジキーパーたちも通勤に自転車を利用していたことから、駐輪場は用意されている。フリーWi-Fi完備、ペット、喫煙は共に不可だ。

Amstelschutsluis1室だけはホテルのサイトからしか予約できないが、それ以外の部屋は複数の予約サイトから申し込める。チェックインはスマートフォン利用で、メールで送られてきた電子キーを利用する仕組みで、空港、駅から直接部屋へ向かえば良い。各室には新聞、雑誌、ご近所情報などが確認できるようにタブレットも用意されている。

ホームページには歴史、建築なども含めた各室の情報が詳細に掲載されているので、出かける前にはぜひ、一読を。普通にはないホテルに泊まるのである、しっかり情報を仕入れて泊まり、フルに滞在を楽しんでいただきたいものである。

2019年 08月27日 11時05分