人の幸せと密接な関係を持つ住まいの幸福の見方を解体した
『住宅幸福論 Episode.1 ~住まいの幸福を疑え』の続編

人の幸せと密接な関係を持つ住まいの幸福の見方を解体した</br>『住宅幸福論 Episode.1 ~住まいの幸福を疑え』の続編

2019年5月、LIFULL HOME'S総研が新たな調査報告書を発表した。
『住宅幸福論 Episode.2~ 幸福の国の住まい方 日本・デンマーク住生活比較調査』と題された今回の調査報告書は、前年に発表された『住宅幸福論 Episode.1 ~住まいの幸福を疑え』の続編である。

『住宅幸福論 Episode.1 ~住まいの幸福を疑え』は、人の幸せと密接な関係を持つ住まいについて、いったん今までの固定した見方を解体しようとした試みであった。現在の日本の「住まいの幸福」という住宅観を解体するプロセスとして、社会構造の変化やテクノロジーの発展、世帯の変化などを考察しながら、具体的なデータや数字、アンケートを踏まえて検証を行っている。

導き出されたのは、定説となっている「持家VS賃貸」や「新築VS中古」や「マンションVS戸建て」についての幸福度の誤解であった。調査報告書からは、定説である“持ち家は幸福度が高い”のは実は大きく年収が関与しているという交絡要因(※交絡要因とは:例えば、飲酒とがんの関連性を調べようとする場合、調べようとする因子“飲酒”以外の因子”喫煙など”ががんの発生率に影響を与えているというような関連性をいう)を排除すると、「持家」の方が多少満足度が高いものの、差はあまり大きくないということが見えてきている。

では何が「住まいの幸福」の本質となっているのだろうか?
その手がかりとして、ひとつ導き出されたのが「住まい方」への注目であった。このあたりを中心に、次回は海外の事例などもウォッチして調査を進めていく…ということで前回の調査報告書は終わっている。

2019年5月16日に発表された新たな調査報告書の内容について、LIFULL HOME'S 総研の島原万丈氏にインタビューを行った。

住生活をテーマにした経緯とデンマークを選定した意図

2019年5月16日に行われた調査報告書発表の様子2019年5月16日に行われた調査報告書発表の様子

-今回の調査報告書では、住生活をテーマとしたのはどういった経緯からでしょうか

島原:日本の住宅観というものは、世帯の構造とか家計の上に成り立っていたのですが、その社会構造自体が変化しています。日本の住まい観の前提としてきたものがくずれつつあるという課題をもとに検証を進めてきました。
『Episode.1 住まいの幸福を疑え』では、持ち家か賃貸か、新築か中古か、マンションか戸建てかなどのハコの種別によって住まいの満足度に大きな違いがないことが明らかになりました。その上で幸福度の高いグループの分析結果をもとにするとハコの種別ではなく、住まい方・暮らし方が大切であるという仮説までを提示しています。

今回、日本人がどんな住まい方をしているのか、を改めて振り返ってみて、幸福度が高い人の住まい方をあぶりだすということを焦点としています。日本だけの住生活に注目しても本質が見えにくい、そのために今回はデンマークの住まい方との比較をしました。

-特に比較軸としてデンマークという国をあげたのは?…

島原:デンマークは、国連の幸福度ランキングで上位常連の国です。国民総幸福量(GHP)で知られるブータンや国際調査で目に付くフィジーやコスタリカなどもありますが、市場経済が高度発展を遂げた日本とこれらの国では経済力やインフラの面でも比較するのは難しいと思いました。基本的に日本と同じく資本主義・自由主義の価値観を共有する先進国で幸福度の高い国を…と考え、デンマークを選びました。

デンマークには、Hygge(ヒュッゲ)という暮らし方・ライフスタイルを表現する言葉があります。なかなか日本語訳はむずかしいですが、あえて訳すと「心地よさ」のようなものでしょうか。

もちろんデンマークの暮らし方が正解だ、とする意図はこの調査にはなく、日本の住まいが目指す方向性を考えるときにひとつの視野を広げる役割となるのではないか、というのが企画の狙いとなっています。

調査から見えてきたデンマークと日本の住まい方の違い

-調査データから見えてきたデンマークの住まい方と日本との違いは?

島原:調査データの「家について気に入っている点をデンマークと日本で比較してみると、日本は“日当たり・風通しが良いこと”や“持ち家であること”“新築で購入・建設した”などスペック項目が高いポイントとなっているのですが、デンマークの場合“友人を呼んで交流ができること”や“家族やパートナーと親密になれる空間であること”“自分らしさを表現できる空間になっていること”などに高いポイントがついています。

また、デンマークの人に「あなたにとっての家って何ですか」と質問をすると、「家は自己紹介」「家は私のアイデンティティー」という答えが帰ってきます。このことから、デンマークでの住まい方は暮らしと住まいに対して主体的であり、他者に対しても開いているということがわかります。自ら整えたインテリアによってつくられる空間が、友人や家族を囲む行動につながり、心地よいコミュニケーションを生み出す場となっています。

-今回、インテリアに注目されていますが?

島原:デンマークの人々が大切にしている家は、ハードのスペックではなく家の内部空間への主体的な関与です。北欧での家具は有名ですが、インテリアというと、それは家具だけでなく内部空間全体のインフィルは全部インテリアということがいえます。彼らは、ヒュッゲな暮らしのために、人と交流する場としての家のために暮らしの環境を整えています。

日本でも、部屋の飾りつけや家具選びなどの積極的なインテリアに対する行動が多い人ほど、住まいの満足度が高いという結果も出ています。半面、住まいへの満足度が低かった日本の独身男子の賃貸層の場合、家にこもるけど人は呼ばない、誰にも見せない、だから興味関心がない、という結果となっています。
インテリアに注目したのは、ハコは個人が関与し続けることは難しいですが、能動的に住まいへ関与できるひとつの方法がインテリアであるからです。

調査から見えてきたデンマークと日本の住まい方の違い

住まいの幸福度をあげていくことに住宅産業ができること

-今回の調査報告書で見えたこととして、日本人が住まいへの満足度をあげていくためには何が必要でしょうか?

島原:住まいの満足度はその国の幸福度に大きな影響を与えています。住宅の満足度は人生の満足度との相関関係にあるのです。今回の調査報告書をまとめていて、いわれてみれば当たり前だけど家に対して主体的に関与できているほうが幸福度に近づくことがわかりました。

住宅産業ができることとしては、単にハコを提供するだけではなくてユーザーが主体的に住まいに関与できる土壌を育てることだと思います。そのひとつの働きかけがインテリアです。調査報告書内でもあげていますが、不動産業界とインテリア業界のコラボレーションが起こり始めているのもそのひとつの現れだと思います。
その流れは偶然ではなくて、中古不動産業とクロスオーバーさせて生まれるリノベーションから、その動きが起こり始めています。不動産プラス建築プラスインテリア…そしてそのマインドを育てていく…住宅産業が目指さなくてはいけないのは、そういう方向ではないでしょうか。

また、行政ができることもあると思います。
日本では、年収の差がそのまま住まいの満足度に反映しています。ところが、デンマークでは年収によってでは、住まいの満足度に大きな差はありません。なぜかというと、低年収である人々に国が家賃補助を行い、一定の住まいに暮らせる土壌があるからです。
日本では、ながらく新築神話があったこともありますが、新築を建てるときに公的な補助や控除がある。これは年収のある人々へのサポートではあっても、全体の住まいの満足度を上げる結果にはなりません。このあたりにも注目して検討していくとよいのでは、と思います。

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『住宅幸福論 Episode.2~幸福の国の住まい方』は、前回の日本の“住まいの幸福の定説解体”からさらに一歩踏み込んだ調査報告書となっている。掲載されている多くのデンマークと日本の住まいや暮らしへの意識データの比較は、今まで深く掘り下げたことがない、我々の住まいへの認識や意識について考えさせられる内容である。ぜひ、『住宅幸福論 Episode.1~住まいの幸福を疑え』とともに、ご一読いただきたいと思う。

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また本レポートの全文は、PDFにてダウンロードも可能
■『住宅幸福論 Episode.2 幸福の国の住まい方』 LIFULL HOME’S総研、新調査報告書
→ https://www.homes.co.jp/souken/report/201905/

■『住宅幸福論 Episode.1 住まいの幸福を疑え』 前作はこちら
→ https://www.homes.co.jp/souken/report/201804/

写真左)デンマークの20代独身男性の部屋。写真右)日本の同じく20代独身男性の部屋。</br>住まいの満足度調査で一番低かった日本の20代独身男性の住まいへの意識の一端が見える写真左)デンマークの20代独身男性の部屋。写真右)日本の同じく20代独身男性の部屋。
住まいの満足度調査で一番低かった日本の20代独身男性の住まいへの意識の一端が見える

2019年 05月20日 11時00分