住宅内での発症が4割以上、冷夏でも急激な温度差があれば危険

環境省熱中症予防情報サイトに掲載されている人間の体温調節の仕組み。熱中症になるとこの仕組みが機能しなくなる
環境省熱中症予防情報サイトに掲載されている人間の体温調節の仕組み。熱中症になるとこの仕組みが機能しなくなる

人間の体は運動などをして体温が上がっても、汗をかいたり、皮膚温度を上昇させることで体温を外に逃がすような仕組みを持っている。だが、平常時であれば自然に行っている体温調整が暑さや体の機能低下など複合的な要因からできなくなり、熱が体に溜まってしまうことがある。その結果引き起こされる障害の総称を熱中症と言い、ご存知のように年々増加の一途をたどっている。2013年には6万人に近い人が救急搬送され、そのうち、88人が死亡。死に至る可能性もある病態なのである。

しかも、かつては炎天下で屋外作業を行って倒れる例が多いように認識されていたが、実際には屋内で発症するケースが多いことも判明、冷夏であっても起こりうることが分かって来ている。「2010年の調査結果でみると、住宅内での発症が全体の4割以上を占めており、そのうち、65歳以上が7割。昼間リビングで倒れる例に加え、夜間、寝室で発症する例も多く見られます。また、2011年は冷夏だったにも関わらず、梅雨明け以降に急に暑くなった時期があったこと、東日本大震災の影響で節電に努めた人が多かったことから、前年の4倍以上の5万4000人弱が救急搬送されています。冷夏であっても急激な気温の変化があると、それに身体がついていけずに倒れる例もあるのです」(慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科・伊香賀俊治教授)。

明確な基準はないが、室温28度、湿度70%が防止のための目安

温度計、湿度計で我が家の現状を把握することから対策を始めよう温度計、湿度計で我が家の現状を把握することから対策を始めよう

熱中症対策を考えるにあたっては伊香賀教授が2010~2011年に行った熱中症発症者宅の実測調査、高齢者住宅の夏季室内環境・住まい方の調査が参考になる。調査は木造一戸建て、集合住宅の2種類について行われているが、いずれの住宅でも夜になって外気温が下がっても、室内は暑いままであることが判明した。

「直射日光にさらされる集合住宅最上階では外気温が36.4度の日に昼間32.8度、夜間31.8度とずっと暑さが続いていましたし、中間階でも昼31.9度、夜30.7度。涼しいように思われる木造一戸建てでも昼33.4度が夜間に28.4度まで下がった程度。この日明け方に外気温は24.1度まで下がっていましたが、どの住宅も熱を溜め込んだまま、涼しくなることはありませんでした」。

熱中症を発症するかどうかは、温度、湿度、風の有無などの環境に加え、個人の体調や疾患の有無などに左右されるため、基準を決めにくいそうだが、にしても上記の住宅は暑すぎる。「建築物における衛生的環境の確保に関する法律が定める室温28度、湿度70%をひとつの目安と考え、それ以下に室内を保つようにしたいところです」。まずは温度計、湿度計を用意、我が家がどういう状況にあるかを常に意識するようにしよう。

エアコンはゆるくでも一晩中つけておかないと意味がない

熱を溜め込んでしまいがちな住宅の中で、それでも快適に過ごすための最大の手段はエアコンの利用。「窓を開けて外気を取り入れる手もありますが、昼間は暑いし、夜間は防犯の問題があり、開けっ放しというわけにはいきません。そこで考えられる最大の手はエアコンの利用。高齢者、女性は冷えるからとエアコンをつけて寝ることを嫌いますが、熱中症で倒れることを考えたら、使って欲しい。それも寝る前の2時間程度ではダメ。エアコンは空気を冷やすだけで、壁、床は冷やせないので、エアコンを止めたらまた室温は上昇します。それを防ぐためには温度自体は28度、29度くらいにして、でも寝ている間中、使ってください。同時に除湿もすれば蒸し暑さをしのげます」。

高齢者の場合、もともと体内の水分量が少なく、かつ夜間にトイレに起きることを不安がって水を控えて就寝することが多い。暑さ、寒さを感じにくくもなっている。さらにエアコンを使いたがらないと、熱中症を起こしやすい要因が重なる。節電意識もあろうが、冷風が直接体に当たらないように留意しつつエアコンを活用していただきたいものだ。

ただ、危ないのは高齢者だけではない。乳幼児、肥満している人、糖尿病や精神疾患、低栄養状態にある人、下痢やインフルエンザなどで脱水状態にある人、二日酔いや寝不足など体調不良の人もリスクは高い。注意しよう。

また、エアコン利用に加え、一戸建てであれば夏の間だけ寝室を2階から1階に移す、よしずや簾、緑のカーテンを使うなどするのも良い。まめな水分補給も基本だ。

暑さに体を慣らし、汗をかけるようにしておくことも大事

乳幼児は高齢者と並んで熱中症のリスクが高い。一方で適度の運動で汗をかかせる必要もある乳幼児は高齢者と並んで熱中症のリスクが高い。一方で適度の運動で汗をかかせる必要もある

体を暑さに慣らすことで、熱中症になりにくくするという手もある。熱中症は梅雨入り前の5月頃から発生し始め、多発するのは梅雨明けの7月下旬から8月上旬。まだ体が暑さに慣れていない時期に急激に温度が上がると発症しやすくなるのだ。逆に言うと、早めに体を暑さに慣らしておけば発症しにくくなるわけで、これを暑熱順化という。具体的にはやや暑い環境で、ややきついと感じる強度の運動を毎日30分程度続けることで獲得でき、実験的には運動開始後から順化が始まり、2週間程度で完成するという。暑さが本格的になる前に始めておけば、間に合うだろう。もし、日常的にウォーキングをしている人であれば、少し早足で歩くなどして、意識的に汗をかくようにしても良い。ただし、持病があるなど健康に問題がある人は医師に相談、無理をしないようにしよう。

ところで、汗がかけないのは高齢者ばかりではない。若い人でも普段、身体を動かしていない、あるいはいつも冷房の効いた部屋にいるなどの場合には汗腺がうまく働かなくなり、汗をかきにくくなる。その場合、熱中症には至らなくても、ひどい夏バテに悩むような事態が考えられる。年齢に関係なく、汗をかくことは健康維持のために必要。軽い運動や半身浴などで汗をかける体を取り戻すようにしたい。

ちなみに汗腺の発達は2歳くらいまでの環境に左右されるそうで、子どもにとって汗をかく経験は大人以上に重要。無理のない範囲で汗をかかせよう。

断熱性能の高い家に住むことで熱中症を撃退、長生きする

国交省の調査では無断熱の家も4割近くあるとか。健康を考えると看過できない問題だろう国交省の調査では無断熱の家も4割近くあるとか。健康を考えると看過できない問題だろう

もうひとつ、根本的な問題解決につながるのは断熱性能の高い家に住むこと。前述の調査は築20年以上の住宅が大半だったが、建物が古くても、新しくても日本の住宅の断熱性能は非常に低いと伊香賀教授。

「国土交通省住宅局のデータによると、平成11年の次世代省エネ基準を満たしている住宅は全体の5%程度。住宅エコポイントのおかげで、多少増えましたが、それでも新築住宅で基準を満たしているのは半分ほどしかありません。一戸建てで基準を満たすために断熱工事を追加するとして、かかる費用は100~200万円程度。多少は高くなるとしても、それで熱中症や高血圧を原因とする心筋梗塞や脳卒中などの循環器疾患を予防でき、健康に長生きできるとしたら、そんなに高いものではないと思いますね」。

住宅を購入する際、多くの人は間取りや水回りの設備を気にするが、それよりも住宅の性能を意識すべきというのが伊香賀教授の意見。「何千万円もするのに性能が表示されていないという状況はおかしい。買う側がもっと意識して、住宅性能表示をチェック。省エネ性能の高い住宅を買うようにすれば、業界も変わってくるのではないかと思います」。

使い勝手も大事だが、健康はさらに大事。健やかに暮らせる家を買いたいものだ。

■関連リンク
住宅内での熱中症対策に関する検討事例(厚生労働省熱中症対策に関する検討会)
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002f13d-att/2r9852000002f1t6.pdf

環境省熱中症予防情報サイト
http://www.env.go.jp/chemi/heat_stroke/manual.html

熱中症環境保健マニュアル
http://www.env.go.jp/chemi/heat_stroke/manual.html

2014年 07月15日 10時30分