外来害虫の脅威が日本に迫る、殺虫剤が効かないスーパートコジラミも

害虫と聞いて最初に思い浮かべるのはどんな虫だろうか。農業従事者は農作物に害を及ぼすアブラムシや蛾の幼虫、我々建築関係者は建物に害を及ぼすシロアリ、そして一般的にはゴキブリや蚊などを思い浮かべる人が多いことだろう。しかし近年世間を騒がせているのは、最近ほとんど聞くことが無かったトコジラミやマダニといった害虫である。

なぜこのような害虫が増えているのか。どんな対策をしておけば安心なのか。「ダスキン 外来生物・害虫対策セミナー」で、生態系リスクの第一人者である国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター室長の五箇公一氏と、害虫駆除サービスに30年の実績がある株式会社ダスキンターミニックス事業部の斎藤祐輔氏に、外来生物や害虫の最新動向と、家庭でできる予防と対策方法、駆除のポイントを聞いた。

まずは日本におけるこの50年の害虫の変遷を見てみよう。1970年代、大阪で国際博覧会が開催された時期から都市部に人口が増加。団地やビルが増え、ドブネズミ、ハエ、ゴキブリ類が増え始めた。そしてバブルの時代にそれらが一気に増殖、建物の気密化、空調システムの発達により、これまで冬になると死んでいた害虫たちが越冬するようになった。

2000年以降になると、これらの害虫の生息域が大きく変化する。物流の発達、ヒートアイランド現象、インバウンドの増加、グローバル化により、分布域が一気に拡大。これまでの国産害虫に加えて、セアカゴケグモ、アルゼンチンアリ、トコジラミ、ヒアリ、アメリカカンザイシロアリといった外来害虫の脅威にさらされるようになっている。

斎藤氏によると、近年に問合せ頻度が増えているのが、ヒトスジシマカとトコジラミだと言う。ヒトスジシマカはシマシマ模様の蚊などと呼ばれるお馴染みの蚊で、これまではただ血を吸われてかゆくなる虫という程度の認識だったが、デング熱やジカ熱を媒介するということで、一気に知られることとなった。

デング熱に関しては2014年の代々木公園での騒動が記憶に新しい。デングウィルスは本来、熱帯地方に存在するものだ。しかし海外渡航歴が無い人が公園内で蚊に刺され、デング熱に感染した。はっきりとした経路は不明だが、もともと公園に生息していた蚊がデングウィルスに感染している海外からの渡航者を吸血し国内感染が起きたとする説、海外から来た荷物にウィルスを持った蚊が紛れ込んでいた説などがある。最近ではあまり報道されていないが、東京都では現在も6月を「蚊の発生防止強化月間」として、注意喚起を継続中だ。

トコジラミに関しては、ここ50年近く日本ではほとんど目にすることが無かった害虫だが、最近あちこちで被害が確認されるようになっている。しかも一般的な殺虫剤の成分であるピレスロイドがほぼ効かない、薬剤耐性を持ったスーパートコジラミが発生しているのだ。

インバウンドの増加、グローバル化によってこのような外来生物・害虫の影響は深刻化している。五箇氏は、このような外来生物は着々と日本に侵入し、すでに定着してしまっている害虫も居ると警鐘を鳴らしている。

害虫の人に対する危険度と問合せ頻度の分布図。蚊とトコジラミに関しては、近年問合せ頻度が上昇してると言う<br>(害虫のポジショニング/株式会社ダスキン調べ)害虫の人に対する危険度と問合せ頻度の分布図。蚊とトコジラミに関しては、近年問合せ頻度が上昇してると言う
(害虫のポジショニング/株式会社ダスキン調べ)

外来生物の最新事情、マダニを街へ運ぶアライグマ、外来害虫は徐々に日本に定着

外来生物の脅威に関してはテレビなどでもよく特集されている。しかし外来種の増加は、在来種が減って可哀そうといったような話ではなく、環境破壊を引き起こし、人間や家畜に深刻な健康被害を引き起こすものであると五箇氏は指摘する。

例えばペットとして大量に輸入され、逃げ出したアライグマが都市部近郊で自然繁殖。日本だけでなく、世界各地でゴミ箱を荒らしたり農業作物へ被害を及ぼしたりなどの問題が発生している。しかし最も重大な問題は、アライグマが人獣共通感染症であるアライグマ回虫、鳥インフルエンザ、狂犬病など媒介し拡散することだ。

特に狂犬病に関しては、発生がゼロである「狂犬病清浄地域」と呼ばれる国は世界でも非常に少なく、アジアでは日本だけ、他にオーストラリアやニュージーランド、北欧諸国などに限られる。実は台湾も、近年まで清浄地域だったそうだが、最近狂犬病が発生し大問題になった。原因は大陸から入ってきた外来生物からの感染だと推察されている。

アライグマはマダニも運ぶ。マダニに噛まれ感染症を引き起こし、死亡したケースもある。2017年にはマダニ由来の感染症を発症した猫に噛まれた女性が死亡、猫から人への感染も確認された。

殺人蟻と呼ばれ一時期問題になったヒアリも、五箇氏いわく現在も着々と日本へ来ているとのこと。五箇氏はヒアリに刺されたことがあるそうだが、強烈な痛みがあり、アレルギー体質の場合はアナフィラキシーショックにより死亡するケースもあると言う。ヒアリに刺された場合の対処方法はスズメバチに刺されたときと同様に速やかに病院へ行き、ショック症状が出たら抗ヒスタミン剤を投与すると良いとのことだった。

また国立環境研究所では、ヒアリ早期発見のための「ヒアリDNA検出キット改良版」を配布しているそうだ。ヒアリは見た目ではほとんど判別できないため、発生の確認にはDNAでの判定がてっとり早いとのこと。学校や幼稚園の庭などにヒアリの不安がある場合は、問合せてみるといいだろう。

五箇氏によると、外来害虫は発見された時は大いに報道されるが、その後はあまり話題に上らなくなり、いなくなったと思われがちだが、そうではないと言う。例えば熱帯に生息する毒性の強いセアカゴケグモも、すでに日本に定着していると言う。

病原体や寄生生物には本来の生息地があり、そこに固定されている限り生態系のバランスが取れて安定している。しかし人や物の移動に伴って、本来の生息地を離れ、このように世界各地に本来いるべきでない外来生物が拡散定着する現状は、我々人類に新たな感染症の脅威をもたらしているのである。

左:グローバル化によって増大する外来生物の生態リスク・社会リスクについて語る国立環境研究所の生物・生態系環境研究センター室長の五箇公一氏<BR>
右:報道はされないが外来害虫のヒアリも着々と日本に来ていると警鐘を鳴らす。イメージ図左:グローバル化によって増大する外来生物の生態リスク・社会リスクについて語る国立環境研究所の生物・生態系環境研究センター室長の五箇公一氏
右:報道はされないが外来害虫のヒアリも着々と日本に来ていると警鐘を鳴らす。イメージ図

蚊の対策で大事なことは我が家の周辺で蚊を発生させないこと、見逃しがちな雨どいも徹底対策

家庭でもこれらの害虫の対策はできないものか、自分でできる予防と対策方法のポイントを聞いた。まずは蚊の対策だ。とにかく我が家の周辺で蚊を発生させないことが肝心となる。

斎藤氏によると、蚊の発生は梅雨から夏、秋にかけてと思われがちだが、実は冬場も発生していると言う。蚊はご存知のように、幼虫のボウフラ時代は水の中で生息するため、とにかく家の周囲に水たまりを作らないことが大切だ。

ほんの少しの水でも蚊は繁殖する。例えば床モルタルのすり減ったへこみ、空き瓶や空き缶にたまった水、古タイヤのくぼみはもちろんのこと、自転車などの雨よけカバーにたまった水にも繁殖するので、家の周囲をこまめにチェックしておこう。

また見逃しがちな場所として、雨どいと雨水ますがある。雨どいが枯れ葉や泥で詰まっていたり、傾いて逆勾配になっていたりすると、常時少し水がたまった状態になる。そうなるとボウフラが繁殖するのに格好の場所となる。雨どいは定期的に清掃し、傾きや詰まりが無いよう確認しよう。雨水ますはこまめに清掃し、時々薬剤の投入をしておけば安心だ。

家の周囲に山や藪があり、自分の家だけでは対処できない場合は、蚊を一気に集めて殺虫する装置を使用する手もある。写真のBGモスキテールは屋外設置用の蚊捕虫器で、ヒトの皮膚に似た酸っぱいにおいを発生し蚊を集めて殺虫、軒下などに置いて使用する。

もちろん網戸の破れにも注意が必要だ。網戸の張り替えはホームセンターなどで売っているアミ、押さえのゴム、押し込むローラーがあれば簡単にでき、費用も3,000円程度でできる。本格的な蚊のシーズンが来る前に対処しておこう。

上:株式会社ダスキンの屋外設置用の蚊捕虫器。においで蚊をおびき寄せる。4週間ごとにメンテナンスをする定期管理サービス品<BR>
下:網戸の貼り替えの様子。簡単なのでぜひDIYでチャレンジを。費用も安くできる
上:株式会社ダスキンの屋外設置用の蚊捕虫器。においで蚊をおびき寄せる。4週間ごとにメンテナンスをする定期管理サービス品
下:網戸の貼り替えの様子。簡単なのでぜひDIYでチャレンジを。費用も安くできる

今後増大する恐れがあるスーパートコジラミの被害、宿泊施設から自宅へ持ち帰るケースも

蚊に加えて問合せが増えているトコジラミだが、そう聞いてもピンとこない人が少なくないことだろう。トコジラミは吸血性の寄生昆虫で別名は南京虫。近年日本では撲滅したとされ、目にすることはほとんど無かった。しかし東京都福祉保健局によると、トコジラミの相談件数はこの10年で約14倍になり、株式会社ダスキンへのトコジラミ駆除依頼数もこの5年で5倍に増加している。

注意してほしいのが宿泊施設やネットカフェだ。インバウンドの増加により荷物に紛れて日本に侵入、宿泊者がそれを家に持ち帰ってさらに被害範囲が拡大するケースが少なくない。

トコジラミの成虫の体調は5~8ミリと意外と大きく、人間の放つ二酸化炭素や熱に集まるとされ、ヒトの柔らかい皮膚を刺し吸血する。トコジラミに噛まれるととにかく非常にかゆい。アメリカではベッドバグと呼ばれ、宿泊先でトコジラミに噛まれた客がホテルを訴えた例もある。

薬剤への強い耐性を持ったスーパートコジラミは、完全に駆除するためにはかなりの時間と費用が掛かる。しかし宿泊施設などでは風評被害を恐れ、発生を公にするケースは少ない。またきちんとした対策が取れていない施設もあると言う。

今後、2020年の外国人観光客の増加を控え、人と共にトコジラミも更なる侵入をしてくる可能性は大きい。ホテルはもちろん、民泊、ネットカフェなどは、トコジラミの徹底対策をしておくことが重要となり、我々もできる限り自衛をしておく必要があるだろう。

トコジラミの実物。大きさの目安に隣に時計を置いてみた。シラミというとかなり小さいイメージがあったが、意外と大きくておどろく。血を吸うと濃褐色になり丸く大きく膨れあがるトコジラミの実物。大きさの目安に隣に時計を置いてみた。シラミというとかなり小さいイメージがあったが、意外と大きくておどろく。血を吸うと濃褐色になり丸く大きく膨れあがる

我が家にトコジラミを持ち込まない予防対策と、発生をチェックする方法

トコジラミはとにかく家に持ち込まないよう注意を払うことが肝心だ。いったん発生してしまうと、駆除には手間と費用が掛かる。トコジラミの予防対策と発生をチェックする方法、発生した場合の対処方法を教えてもらったのでご紹介しよう。

まずは宿泊先でのチェック方法だ。トコジラミが潜んでいそうな場所を確認してみよう。トコジラミは、血糞(けっぷん)と呼ばれる黒い糞を出し、生息場所の近くに残す。見るべきポイントはベッドの足元やマットレスとベッドのスキマ、家具のスキマなどだ。黒い汚れのような血糞を見つけたらトコジラミが発生している可能性がある。そんなときはフロントへ連絡し、部屋を替えてもらおう。

また家庭でトコジラミが発生する原因で少なくないのが、国内外問わず、旅先から身体や荷物にくっつけて運んでくるケースだ。家への持ち込みを防ぐためには、荷物は直接床に置かずラックなどに置く、気になる場合はビニール袋で覆っておくのも良いそうだ。 またトコジラミは衣類につくと水で洗うだけではなかなか駆除できず、とにかく乾燥機に掛けることが肝心であると教えてくれた。

もし我が家でトコジラミが発生してしまったら、自分で駆除するのはかなり難しく、速やかに専門業者に依頼することをお勧めする。スーパートコジラミは一般的な殺虫剤に強く、1匹だけ殺しても卵が残ればまた発生する。トコジラミのピークは夏だが、飢餓状態に強く、吸血無しでも半年は生き続け、最長2年生きていた例もあるという。

専門家によるトコジラミ駆除のデモンストレーションを見学したが、まず専門のトラップで生息調査を行い、バキュームでトコジラミを丁寧に吸い取る。その後、冷却材を噴射してスキマに潜むトコジラミと卵を駆除。最後に薬剤処理を行う。完全駆除をするにはおおよそ1ヶ月ほど掛かるそうで、7日~10日おきに再処理を行う。

最後に、斎藤氏は害虫発生防止のポイントは、掃除と整理整頓で環境を改善することにあると言っていた。害虫被害に遭われた方に多く共通する点は、整理整頓が行き届いていないことだそうだ。放置された汚れは害虫の餌になり、散らかった住まいは格好の隠れ家となる。外来害虫の脅威から身を守るためには、まずは身の回りの整理整頓と掃除を心掛けるのがよさそうだ。

取材協力:株式会社ダスキン ターミニックス

上:トコジラミの血糞。こんな黒い汚れを見つけたら要注意。ベッドの足元やマットレスのスキマ、家具の脚などに見られることが多い<BR>
下:トコジラミ駆除のデモンストレーションの様子。専用の容器にドライアイスを噴射し密封することで高濃度の二酸化炭素を充満させてトコジラミを駆除する。株式会社ダスキンの特許技術
上:トコジラミの血糞。こんな黒い汚れを見つけたら要注意。ベッドの足元やマットレスのスキマ、家具の脚などに見られることが多い
下:トコジラミ駆除のデモンストレーションの様子。専用の容器にドライアイスを噴射し密封することで高濃度の二酸化炭素を充満させてトコジラミを駆除する。株式会社ダスキンの特許技術

2019年 06月11日 11時05分