「南国・鹿児島」という固定観念をくつがえす冬季死亡増加率

鹿児島…というと九州でも南に位置し、南国というイメージが強い県である。温暖な気候に恵まれ、住まいも開口部が多く冬場も快適に暮らしている……と思われがちである。

ところが2014年に厚生労働省が行った人口動態統計調査の都道府県別・死因別によると、鹿児島県の冬季死亡増加率は、全国でなんと6位であった(※1位は栃木県、2位は茨城県…と続く)。ちなみに死亡増加率が一番低い都道府県は北海道、続いて青森県、(本当に温暖な)沖縄県を挟んで、新潟県、秋田県…と“寒い”といわれる地域が続く。

寒い地域で冬季死亡増加率が低く、暖かい地域で冬季死亡増加率が高い日本の現状……一見、矛盾したこのからくりをどう説明ができるかというと、住まいの断熱性能にその理由があるようだ。実は、日本に限らず欧州でも“断熱性能が良い住宅が普及している地域で冬季死亡増加率が少ない傾向にある”(※国交省:断熱改修等による居住者の健康への影響調査より)という。確かに、鹿児島は高断熱住宅の普及率をみると10%以下という結果になっている。

その鹿児島で活動する「KAGOSHIMAエコリノベ推進プロジェクト」。竹内昌義氏のエネルギーまちづくり社とRENOVEGGA、日本ガスの三者によるプロジェクトだ。
このプロジェクトが中心となり、築37年の賃貸マンションの断熱改修を行うエコリノベ実証実験プロジェクトが行われた。今回、主要メンバーである株式会社 大城の大城仁さん、日本ガスの泊和哉さんの案内で実証実験プロジェクトの物件を訪れた。

日本では特に九州での高断熱住宅の普及率が低いことがわかる日本では特に九州での高断熱住宅の普及率が低いことがわかる

築37年となる賃貸マンションで3部屋のエコリノベ比較実験

今回の実証実験の舞台は、鹿児島市の中心部・西千石町、店舗・オフィス併用の築37年の賃貸マンション「ルクール西千石」だ。RC無断熱の団地タイプのこの物件を鹿児島のガス会社である日本ガスが一棟を買い取り、そのうちの3部屋のエコリノベの断熱性能実験を行う。
具体的には
1.断熱無し既存まま(302号室)
2.断熱有りで地元専門会社が工事(502号室)
3.断熱有りで一般の方のDIYワークショップで断熱工事(501号室)
という3種の方法で工事をし、工事後に室内温熱データを鹿児島大学が収集するという実証実験プロジェクトだ。

リノベーション済みの現場にうかがったのは2019年2月中旬。
この日は最高気温12.7度、最低気温9.2度という気温だった。まずは、“断熱無し既存まま”の部屋に入る。足から伝わる寒さだけでなく、窓からの冷気が室内の温度を下げる。エアコンの暖房をかけているものの、部屋内の温度にムラがあり、エアコンの風が届かない場所ではやはり冷える感覚だ。室内でも窓際の気温を測ってみると、14度ほど。外気温と2度ほどしか変わらない。
その後、断熱有りの専門会社の工事を入れた部屋とDIYで断熱工事をした部屋を訪れた。体感的にはどちらも部屋内はまんべんなく、ふんわりと暖かい。気温を測ると20度ほどであったが、足元が冷えないためもっと暖かく感じた。
501・502号室に施したエコリノベ工事は、床・壁・天井部の断熱材の充填、内装塗装、断熱窓というもの。

案内いただいた日本ガスの泊さんは、
「エアコンは少しかけましたが、停止しても暖かさは続きます。まず、足元が寒くならない。フローリングに無垢材を敷いてるので、足ざわりもやわらかで築37年を感じさせません」という。

501号室で行われたエコリノベのDIYワークショップは全部で5回。</br>座学のあと実際に断熱材を充填し、断熱内窓の制作などのほか、工具の使い方などの体験も501号室で行われたエコリノベのDIYワークショップは全部で5回。
座学のあと実際に断熱材を充填し、断熱内窓の制作などのほか、工具の使い方などの体験も

エネルギー供給会社があえて省エネのプロジェクトを行い
地元建設会社がエコリノベを推進するわけ

写真左が日本ガスの泊さん、写真右が株式会社大城の大城さん。手にしているのが、今回のエコリノベに使用した素材写真左が日本ガスの泊さん、写真右が株式会社大城の大城さん。手にしているのが、今回のエコリノベに使用した素材

今回プロジェクトに参加し、中古賃貸マンションを一棟買い取った日本ガスは、明治44年に南九州初の都市ガス会社として鹿児島市に創業した。エネルギー供給会社が、省エネに取り組むため物件を買いリノベーションを行う、といったプロジェクトに参加した意図はなんだったのであろうか。

「⽇本の状況と同じく、⾼齢化・都市部への集中化が進み、賃貸市場では新築物件が増えるものの入居率は伸び悩み、結果としてガスの開栓率にも影響を及ぼしています。また、電気を含むエネルギー事業者間の競争も進むことが考えられ、単にエネルギーを供給するだけでなく、住む人々へのメリット創出をどうしていくかが課題だと考えています。エネルギーの消費を促すより、エネルギー会社として、これからは質のよい暮らしのため、効率のよいエネルギー循環がおくれる住環境に関わっていくことが必要です」と、泊さんはいう。

また、地元で建設業を営む株式会社 大城の三代目である大城仁さんは、
「私自身、父について現場を経験し、また高齢化や住宅の老朽化など鹿児島の状況を感じてきて"これからの住まいはどうあるべきなのか"について考え続けていました。私にとってひとつの転機が、鹿児島で行われたリノベーションスクールでした。住まいはもちろん見た目も重要ですが、リノベーションの目的は表面だけを美しくするだけではない、今ある物件の本質的な暮らしの質をあげていくことが必要なんだと学びました。そのひとつが、住まいの快適性と断熱です。
鹿児島はデータで見ると冬季死亡率の高い地域です。また、夏は日差しが強く暑い日が続きます。地域のための暮らしやすい家を提供していきたい。もっと住まいへの意識を高めていく働きかけが必要だと考え、今回の実証実験がきっかけになればと思っています。また今回の実証実験で、あえて2つの断熱を施した部屋のひとつをDIYで行ったのは、実感のあるエコリノベを自身で体験してもらいたいことと、プロと自分たちでできることの差を感じてもらう意図もあります」と、いう。

実際にDIYワークショップに参加した人は、変わっていく部屋を楽しんで作業したり、断熱の大切さを感じていたようだ。

プロジェクトが目指す、その先の住まいとエネルギーの関係

鹿児島大学大学院 二宮研究室でまとめられた今回のエコリノベ実証実験の実測結果によると、302号室(断熱なし)と502号室(断熱あり)で比較すると特に302号室は窓ガラスと壁の表面温度が低く、結露が発生しやすい環境にあり、さらにエアコンの消費電力を比較すると502号室のほうが15~31%消費電力が少なくなっている。
また、冬季だけでなく夏季の実測実験によると断熱なしの部屋と断熱ありの部屋の比較をしてみると冷房のエアコン消費電力が38%ほど少ないことが計測された(※ただし、夏季の実験は改修工事のため断熱なしの部屋は天井がない状態のため単純比較は難しい)。
いずれも室内の温熱環境は断熱を施すことによって改善されていることが見てとれる。

鹿児島中心部の賃貸市場は、新築が増加しており、空室率が上昇。需給バランスが崩れつつあるという。また、鹿児島だけでなく、建築物省エネ法により販売・賃貸業者の省エネ性能表示努力が義務付けられているが業界として対応遅れとなっていることはいなめない。

プロジェクトで目指すことは、「これからの鹿児島の賃貸の新たなモデルをつくる」ということであるようだ。入居者に住まいの質をあげた快適性を提供することにより、家賃単価を下げずに済み、不動産会社や建築会社が質のよい住宅への先進性を発揮。ひいてはストック住宅の資産価値をさげず、空き家や空き室を増やさずに済むことを目指している。

「もちろん断熱の性能をあげるためのコストはかかりますが、その快適性は体感すると代えがたい住まいの性能なのだと実感します。いずれは、エコリノベが普通になり大切に住まわれてきた古い家でも住みつなげられるようになったら、と願っています」と、大城さん。

今回の実証実験結果をもとにエコリノベを他の団地にも展開を考えているそうである。
泊さんは「鹿児島には老朽化をむかえている郊外団地も多いです。今回の事例がよいケースとなって展開をできたら、と考えています」。大城さんは「まずは、自分の事務所兼自宅をエコリノベしようと思っています。家族にもこの快適性を感じてもらいたいですね」と話してくれた。

■取材協力
KAGOSHIMAエコリノベ推進プロジェクト https://www.kagoshima-ecoreno.jp/

DIY施工で完成した501号室。インテリアも明るく清潔な印象にリノベーションされたDIY施工で完成した501号室。インテリアも明るく清潔な印象にリノベーションされた

2019年 04月21日 11時00分