サイクリストの聖地…瀬戸内しまなみ海道

尾道市は、天然の良港である尾道水道があり、海運交通の要地として発展を遂げてきた。
その歴史は古く、平安時代には備後地方からの年貢米を運ぶため、尾道から船で各地へ搬送されていたようだ。その後も、足利幕府の時代には大陸との貿易が盛んに行われ、海運業の活躍の拠点となったが、江戸時代の鎖国政策により、日本内海の商港として発展をしている。

大正時代には、尾道水道周辺は尾道鉄道ができたのを機としてさらに海運の要地として発展、政府によって第2種重要港湾に指定され、1939年には西御所岸壁および浮桟橋など大規模な改修が行われ竣工された。現在の主な施設はほぼこの時完成したようだ。その後、昭和初期に建てられた海運倉庫群は、第二次世界大戦の戦禍を幸いにもまぬがれたことから、戦後まもなくはその活気を取り戻した。

現在の尾道市は、数々の映画の舞台となったほか、サイクリストの聖地としても有名である。尾道市を通る「瀬戸内しまなみ海道」は西瀬戸自動車道の愛称であり、広島県尾道市と愛媛県今治市を結ぶ全長約70kmのルートは日本で初めての海峡を横断する自転車道だ。「瀬戸内しまなみ海道」は、徒歩や自転車でも渡ることができるため、その景観の美しさもありサイクリストに人気のルートとなっている。広島・尾道から今治までの間には、自由に相互の乗り捨てが可能なレンタサイクルのターミナルが14箇所設置されており、多くのサイクリストたちが行き交う。

広島県及び尾道市は、尾道水道のウォーターフロントに存在する港湾施設を、活気のある港湾空間の創造を目標に再開発構想を策定している。 そのひとつとして、2012年5月民間に公募をし、昭和初期に建てられた海運倉庫の改修プランを募った。活用事業の基本コンセプトは以下の通り。
①瀬戸内の地域資源を生かし、集客や地域経済の活性化、瀬戸内ブランドの形成などに寄与する拠点の整備
②尾道水道に面する海際空間の景観と築70年(※活用事業応募時の築年)・約2000m2の倉庫の大空間の魅力を最大限生かした賑わいの創出
③飲食物の提供や物品販売を始めとした賑わいづくりに資するサービス、イベント・交流機能を中心として、国内外から訪れるサイクリストも活用しやすい空間
④公共スペースを、上屋本体の10%から50%程度の範囲内で設定

そうして、選定されたプランが『ONOMICHI U2』(尾道 U2)である。

海際空間の景観と築73年・約2000m2の倉庫の大空間の魅力を最大限生かした賑わいの創出をテーマに生まれ変わった海運倉庫海際空間の景観と築73年・約2000m2の倉庫の大空間の魅力を最大限生かした賑わいの創出をテーマに生まれ変わった海運倉庫

築73年を超える海運倉庫をリノベーション

株式会社Onomichi U2の取締役:井上善文さん(左)とマーケティング&コミュニケーション部の黒田宵子さん(右)株式会社Onomichi U2の取締役:井上善文さん(左)とマーケティング&コミュニケーション部の黒田宵子さん(右)

先に紹介した広島県と尾道市の募集公募を経て、2014年3月、サイクリストと地域民の拠点としてOPENしたのが『ONOMICHI U2』。施設内には、ホテルのほか、レストラン・バー・ベーカリー・サイクルショップなどが入っている。今回、リノベーションのポイントや活用のコンセプトについて、株式会社Onomichi U2の取締役である井上善文さんとマーケティング&コミュニケーション部の黒田宵子さんにお話を伺ってきた。

「ONOMICHI U2は、1943年(昭和18年)終戦間近に建てられた海運倉庫でした。海運倉庫の時の名前は“西御所県営上屋2号”という名前で、ONOMICHI U2の“U2”はこの“上屋(うわや)2号”から名付けられました。県営2号とあるようにこのあたりは海運倉庫が複数あったんです」と、井上さん。

なるほど、外観にうっすらだが“県営2号”の文字が残る。建物の中を見て驚くのは、その広々とした空間だ。もともと、倉庫だったのだから広いのは分かるのだが、複数の店舗が入っているにもかかわらず、大きな仕切りのない空間で、建物の隅々まで目線が通る。また、東西南北に開放的な出入り口があり、様々な方向から出入りが出来るようになっている。

「きれいに造り直すのではなく、もとの海運倉庫の雰囲気を残しつつ、新しくコミュニティの拠点となれるような建物として、リノベーションすることを目指しました。リノベーションを行う際、広島や東京で活躍する建築家・谷尻誠氏と吉田愛氏にお願いをしました。お二人は、街を知ること、人が交わり、出来事をつくるといったコンセプトでこのONOMICHI U2を手掛けています。

海運倉庫だった当時、荷物を運ぶため貨物列車の線路がこの倉庫まで通っていたようです。海側から荷物を搬入し、貨物列車にのせるため、海側と山側に大きく開口部がいくつもとられていました。今回、店舗を入れる際にできるだけその開口部をふさがないように動線をきらずに設計しています。

また、建物内には鉄や石、木材などの素材が多くみられますが、このマテリアルの選択も、この県営2号倉庫が海運倉庫として扱ってきたモノや瀬戸内の造船業になぞらえて使われています。壁にところどころ木材を打ち付けてありますが、リノベーションのために飾ったのではなく、当時荷物が壁を傷つけないようにとつくられた緩衝材なんです。もともとの建物の使われ方やその場所にある意味などを考えたリノベーションとなっています」という。

ホテル、ベーカリー、セレクトショップ、カフェ&バー
旅人も地域住民も楽しいスペースが広がる

ONOMICHI U2のそれぞれのホテル・店舗にも工夫がある。

宿泊施設である「HOTEL CYCLE」の客室はアメニティも充実していて、リラックスして過ごすことができるほか、ホテル内には自転車を運び込むことが可能だ。またそれぞれのサイクリストが気軽に情報交流できるようにと、ソファーがおかれた共用部がゆったりと設けられている。

「SHIMA SHOP」には、“瀬戸内の日常の暮らしを豊かにする”というコンセプトでセレクトされた雑貨や観葉植物・本などが揃う。「Butti Bakery」(ブッチベーカリー)は、広島弁の“ぶち=とっても”という名前のパンやさん。地元の食材を使った総菜パンや小麦粉の味が楽しめる本格的な焼きたてのパンが並ぶ。レストランである「The RESTAURANT」にも瀬戸内の捕りたての魚や地元で生産された採りたての野菜や肉などがメニューに載る。夜、尾道水道の穏やかな港を眺めながらお酒が楽しめる「KOG BAR」の一角には、自転車のサドルの椅子があった。

立ち寄ったサイクリストにも、瀬戸内の旅行者にも、そして地元住民にも楽しいスペースが広がっている。

写真左上)「HOTEL CYCLE」のレセプションとロビー。共有部もゆったりとられている</br>写真右上)「Butti Bakery」には焼きたてのパンが並ぶ。地元の方々にも人気のベーカリーショップだ</br>写真左下)瀬戸内ブランドのこだわりの調味料や食材が並ぶ</br>写真右下)高い天井までのびる壁側に打ち付けられた木材は、倉庫として使われていた時代の緩衝材写真左上)「HOTEL CYCLE」のレセプションとロビー。共有部もゆったりとられている
写真右上)「Butti Bakery」には焼きたてのパンが並ぶ。地元の方々にも人気のベーカリーショップだ
写真左下)瀬戸内ブランドのこだわりの調味料や食材が並ぶ
写真右下)高い天井までのびる壁側に打ち付けられた木材は、倉庫として使われていた時代の緩衝材

地域のコミュニティとなる“まちの中のちいさなまち”

「もちろんサイクリストや旅行者の方々にも楽しんでいただきたいのですが、私達が目指しているのは地域住民に愛され、コミュニケーションが生まれる場です」と井上さんはいう。

「こういった施設をつくる場合、旅行者向けとなってしまいますが、ONOMICHI U2はそうではなく、地域の方々にも『開かれたコミュニティ』として活用してもらいたいと思っています。

多くのイベントが地域の交流の場として、この場所で開催されていますし、ベーカリーショップを店舗に入れたのも、そういった地元の方々に愛される施設をめざしているからです。

倉庫の出入り口を生かして、外から人が入りやすく、中でも行き交いやすいようにできるだけ人の動線をさまたげない店やホテルのオープンなレイアウトも"まちの中のまち"を意識しています。尾道のまちにつながる空間づくりを心掛けました」。

ONOMICHI U2は、実は「ディスカバーリンクせとうち」のグループ会社である。ディスカバーリンクせとうちは、尾道の歴史ある建物を旅館にリノベーションした“せとうち 湊のやど”や、備後地方のデニムを尾道で働く方たちが1年間ワークパンツとして穿き、本物のUSEDデニムづくりに挑もうという“尾道デニムプロジェクト”などを手掛ける企業である。同社の理念は、“地元の人とともに郷土愛を持ってまちの未来を真剣に考えできることをひとつずつ実行していく”というものだ。

黒田さんは、この会社に入社した感想を「まちのために何ができるかを皆が考えています。このような環境の中では今までとは違う視点からの考え方など、新しい発見があります。そういった刺激を受けながら、私自身まちのためにできることを模索したいと思っています」と話してくれた。

『ONOMICHI U2』は単なる流行を追う倉庫リノベーションではなく、暮らす人・行き交う人、双方を魅了しつづけ、地域の昔も今も未来も見据えた施設として挑戦を続けていく。

取材協力:『ONOMICHI U2』 https://www.onomichi-u2.com/

地域住民とサイクリストたちのコミュニティとなる“まちの中のちいさなまち” 地域住民とサイクリストたちのコミュニティとなる“まちの中のちいさなまち”

2016年 07月26日 11時05分