文化財は活用され続けることが大切

文化財はまちづくりや観光資源、コミュニティの拠点としての地域貢献を期待されている文化財はまちづくりや観光資源、コミュニティの拠点としての地域貢献を期待されている

各地でまちの再開発が進む一方、古き良き景観は失われつつある。趣のある家が消えてしまったり、管理の行き届かなくなった建物が取り壊されたりと、身近な懐かしい風景が変化していった経験はないだろうか。
こうした長い歴史の中で、人と密接に関わり合いながら、文化によって生み出されたものを"文化財"と呼び、価値あるものを未来へ継承していく方法として、日本では「文化財保護法」が制定されたということは前回の記事でお伝えした。今回はその中でも建造物に注目して、保護の現状を見ていこう。

建造物の保護というと、内外装を修復して元の形を維持していく、ということが思い浮かぶ。しかし文化財保護の意義は管理、保存することだけではない。
文化財保護法の第一条には
「この法律は、文化財を保存し、且つ、その活用を図り、もつて国民の文化的向上に資するとともに、世界文化の進歩に貢献することを目的とする」
と規定されている。つまり、文化財は保存するだけでなく、活用されることが重要であると謳われているのである。活用は公開による知識や体験の共有だけでなく、その建造物を使い続けることが大切で、その効果としてまちづくりや観光資源、コミュニティの拠点としての地域貢献を期待されているのだ。

近年、文化財への関心は高まりを見せ、保存については徐々に進んでいるように思える。しかし活用になるとまだまだ十分な状況とはいえず、文化財の保護において大きな課題となっているようだ。

重要文化財活用の現状とは

現状を見る前に、まずは文化財の分類についておさらいしておこう。
建造物は有形文化財に該当する。国の基準で判断され、文化財として指定されたものが「重要文化財」。「国宝」は重要文化財に含まれており、特に価値の高いものを指す。現在、重要文化財に指定されている建造物は2,456件(4,825棟)に上る。
都道府県などの地方公共団体から指定されたものはそれぞれの「指定文化財」であり、国指定の文化財とは別の扱いになる。

これらはどのように活用されているのか。
たとえばHOME'S PRESSでも取材した、国宝『迎賓館赤坂離宮』。今も、外国の元首や首相など国の賓客を迎え入れる場所として使用されている。また、これまでは限定的にしか行われていなかった一般公開だが、平成28年4月より接遇等に支障のない範囲で、可能な限り通年公開となった。
他にも、東京の『日本橋高島屋』は現役の百貨店でありながら、平成21年に重要文化財として指定された。本館を保存しながらも営業を続けられるように、駐車場や事務所の設備は別館に移し、耐震改修に意匠の統一を図るといった工夫がなされている。

このような例があるものの、重要文化財となった建造物活用のハードルは高い。
現状変更には大きな制限がかけられており、文化庁長官への届け出と許可が必須になる。活用を計画しても、許可が下りなければかなわない。隣接地や直下の大規模な掘削や、想定されていない重量物の搬入のような、建物の保存に影響が及ぶ行為も同様である。建造物へ配慮を欠いた利用がされることで、文化財の価値が損われてはならないからだ。一度失われてしまった固有の価値を取り戻すことは二度とできないため、保存と活用は慎重にならざるを得ないのだろう。
一般的な文化財の保護は価値を守ることが第一とされ、保存が優先される。特に社寺などは建物の状態や機能性が問題となるためかその傾向が強い。活用がいまひとつ進まない理由の一端がここにありそうだ。

旧福岡県公会堂貴賓館(重要文化財)。</br>都市公園の一部として整備され、飲食スペースなどを追加した商業施設として活用が図られている旧福岡県公会堂貴賓館(重要文化財)。
都市公園の一部として整備され、飲食スペースなどを追加した商業施設として活用が図られている

活用を想定した保存ができる「登録有形文化財」

登録有形文化財の証であるプレートが交付される登録有形文化財の証であるプレートが交付される

さて、重要文化財よりゆるやかな制限で文化財の保護や活用をする方法がある。それは平成8年に誕生した「文化財登録制度」を利用して、保護したい建造物を登録有形文化財にすることだ。
登録された建造物は機能の追加が容易で、宿泊施設を付加して観光資源にしたり、カフェスペースを設けて商業や地域住民の拠点にしたりということも可能。外観の大きな変更や移築する場合には文化庁への届け出が必要になるものの、修繕や改築の自由度が高く、幅広い活用を考えられるのが何よりの特徴である。
この制度制定の背景には、以前は公開による活用が想定の中心だったことに対し、最近では活用による地域振興へ踏み込んだ効果を期待するようになったという理由があり、全国では10,715件の建造物が登録有形文化財になっている。

では、どのような手順で登録されるのか、その手順を簡単に見ていこう。
登録の基準としては、『重要文化財や地方公共団体の指定する文化財になっておらず、建設後50年が経過していること』が原則。その上で、次の3つの条件を満たすものが対象になる。
①国土の歴史的景観に寄与しているもの
②造形の規範となっているもの
③再現することが容易でないもの
加えて、建物調査によりその価値が認められており、なおかつ所有者が保存の意思を明確にしている必要がある。

条件を満たした建造物は、図面や写真など現況を伝えるもの、条件を満たしていることを証明する書類、所見書…といった多くの資料と共に文化庁へ申請される。専門的な知識が必要になることから、手続きを支援する団体も多く存在している。地域の市町村でも相談にのっているケースがあるので、登録を検討するなら確認してみよう。
審議を通過すると文化庁より登録証と登録プレートが届けられ、晴れて登録となる。

その重要性や価値に気付いていたとしても、所有者である個人や地域の力だけでは維持しきれないという理由で取り壊されている歴史的建造物は多い。文化財に登録されると、受けられる税制面や費用の補助で維持が可能になるという点は大きいだろう。具体的には、保存・活用する修理費や地域活性化事業にかかる費用の補助、相続税と固定資産税の控除が発生する優遇措置を受けられる。また、管理や修理に対する技術的な指導と助言を国(文化庁)へ求めることもできる。

ただし、審議には現在、半年~1年程度の時間を要している。申請される文化財は増加の傾向にあり、この先さらに時間がかかるのではないかと懸念されている。

地域振興としての活用が抱える課題

前述のとおり、文化財として登録された建造物は、鑑賞や研究成果の紹介といった「公開」よりも、地域振興への貢献を目的とした「活用」がより求められるようになる。これはつまり、本来の建造物(蔵、工場など)を修理保存しながら、レストランや博物館などの新たな機能を追加することで観光施設にしたり、イベントスペースを設けて地域のコミュニティ拠点や教育の場に利用したりすることを指している。

過去の記事から登録有形文化財の活用例を紹介しよう。
愛知県半田市の『赤レンガ建物』は、元ビール工場を補修を施しながらカフェやショップを設け、市民のイベントスペースとしても解放されている。
広島県尾道市の『みはらし亭』は、空き家になっていた元旅館をクラウドファンディングの利用で資金を補いつつ、ゲストハウスへと生まれ変わらせた。この再生は地元の有志の手により、ワークショップという形で行われたものだ。

いずれも元の建造物を保護しながら、公開のみにとどまらない活用が行われ、さらには地域にも開かれていることがわかる。
こういった、よりよい活用がなされ発信されることは、文化財への理解を深め、後継者の育成や資金の安定につながるだけでなく、やがては地域振興や地域ブランドの確立に貢献していくことだろう。

このような成功例がある一方、文化財活用の努力をしているのに十分な効果が上がっていないと感じている地域もあるようだ。これには、「地域の抱える課題が正しく認識されておらず、活用の目的が定まっていない」、「運用体制に問題がある、整っていない」、「文化財の活用成果が効果的に発信されていない」というような理由が考えられそうだ。

歴史的建造物の適切な保存と効果的活用には、所有者の力だけでなく、地域住民の協力が不可欠である。
登録有形文化財になったことをきっかけに、関係者と地域の人々相互の理解と意識を高めることは、文化財を地域の財産として長く活用していくためにも必要なことではないだろうか。

竹瓦温泉(大分県・登録有形文化財)は入浴することができる観光スポットになっている竹瓦温泉(大分県・登録有形文化財)は入浴することができる観光スポットになっている

文化財の活用を目指した規制改革も進んでいる

最近の動きとしては、平成26年4月に国土交通省が各都道府県に向けて「歴史的建築物の活用等が円滑に行われるよう、個別の審議を経ずに、建築基準法の適用外を認める仕組みを推進する(一部抜粋)」と通達した。これは現行の文化財保護制度に定められている、建築基準法除外の範囲をより拡大するもの。
これを受け、歴史的な寺社や建造物が多数存在する鎌倉市では、"歴史的建築物の保護を建築基準法の対象外とする条例"の制定が検討されている。京都、福岡市などではすでに制定されているものだが、全国的にはまだ珍しいという。耐震や耐火について十分な検証が必要になるものの、歴史的建造物の保存活用が進む足掛かりとなりそうである。今後の動向に注目していきたい。

※本文内の文化財登録件数はすべて、平成28年9月1日現在、文化庁の発表によるもの。

■参考
文化庁|文化財
http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/
国指定文化財等データベース
http://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/

2016年 10月10日 11時05分