断熱性、耐震性ともに一般的な新築住宅の性能を上回るレベルに改修

上)築30年の戸建て住宅をZEH改修するにあたり、建物を解体してスケルトン状態に </BR>下)改修後、2階はリビングとダイニングキッチンの機能をもつワンルームに上)築30年の戸建て住宅をZEH改修するにあたり、建物を解体してスケルトン状態に 
下)改修後、2階はリビングとダイニングキッチンの機能をもつワンルームに

ZEH(ゼッチ)。ここ最近、目にすることが多いキーワードである。Net Zero Energy House の略でゼロ・エネルギー住宅とも呼ばれる。高い断熱機能やエネルギー効率の高い設備の導入による省エネルギーと、太陽光発電などでエネルギーを創る創エネルギーの機能を組み合わせ、年間のエネルギー消費量がおおむねゼロ(※1)になるという住宅を意味する。

ZEH住宅の普及は、政府が掲げる政策目標となっている。その背景には日本のエネルギー問題や地球環境問題がある。政府は2020年までに標準的な新築住宅で、そして2030年までに新築住宅の平均でZEHの実現を目指すというから、ZEHが住宅のスタンダードになる時代は近づいている。

そうした流れを受け、ハウスメーカーなどによる新築のZEH住宅が次々に登場している。

今回紹介するのはリノベーションによるZEH住宅。リノベーション会社の株式会社リビタと、窓メーカーのYKK AP株式会社の協働による戸建てリノベーション実証住宅「代沢の家」プロジェ
クトだ。東京都世田谷区に建つ築30年の戸建て住宅をZEH住宅へ改修。リノベーションのZEH住宅の事例はまだ少ないなか、この「代沢の家」は断熱性、耐震性ともに一般的な新築住宅の性能を上回るレベルへ向上させている。

2017年7月12日、竣工披露を兼ねた記者発表会が行なわれたので、現地へ取材に出向いた。

(※1)国の定めるエネルギー消費性能計算プログラム(国立研究開発法人建築研究所)による

家の中で熱の出入りの多い「窓」の断熱性能を強化

写真上は改修前。写真下は改修後。外観はそう大きな変化はないが、1階エントランスを東側から南側へと移動、納戸として使っていた地階を浴室や洗濯機置き場など水廻りスペースにするなど、内部は思い切った変更をしている写真上は改修前。写真下は改修後。外観はそう大きな変化はないが、1階エントランスを東側から南側へと移動、納戸として使っていた地階を浴室や洗濯機置き場など水廻りスペースにするなど、内部は思い切った変更をしている

リビタは、これまで多くの建物を再生させているなかで、2013年から「HOWS(ハウス)Renovation」と銘打って、戸建て中古住宅の買い取り再販事業を展開。現在まで約50棟の戸建てリノベを手がけ、性能向上改修をしたうえで販売しているが、ZEHに取り組むのはこの「代沢の家」が初めてとなる。

「代沢の家」は、小田急線・京王井の頭線の下北沢駅から徒歩7分の閑静な住宅街にある。1987年1月の建築。地下部分が鉄筋コンクリート造りで、1階と2階が木造という混構造だ(敷地面積は126.82m2、建物面積は144.38m2)。

記者発表の会場になった2階は、リビングとダイニングキッチンからなる、約24.4帖のワンルームだった。改修前は3室の洋室に区切られていたというが、フロア内の温度が一定になるよう、また住む人のライフスタイルに合わせた用途でスペースを利用してほしいとのリビタの基本コンセプトにより、一体化した空間としてまとめられた。

当日は最高気温が33度を超える真夏日だったのだが、このワンルームに取り付けられたエアコンは1台。そこへおよそ30名もの報道関係者が集まったのだから、室内は人の熱気で暑く、筆者も汗だくになってしまった。だが、それも最初の頃だけで時間の経過とともに汗もおさまり、過ごしやすいとすら感じるようになった。

はからずしも冷暖房効率がよい家であることを体感したわけだが、どのような改修が行なわれたのだろう?

重要ポイントとなるのは断熱性能だ。天井に260mmの高性能グラスウールと50mmのフェノールフォームの断熱材を組み合わせて使うなど、屋根、壁、床を断熱改修。そして、熱の出入りが多く、住宅の断熱性能を左右するパーツである窓や開口部にはYKK APの商品「APW330防火
窓」を活用した。この窓は樹脂フレームと Low-E複層ガラスを組み合わせたもの。

従来、窓フレームといえば軽くて腐食に強いアルミが主流だったのだが、アルミは熱を伝えやすいというデメリットがある。したがって、室内と室外の温度差があるとき、アルミフレームが熱を出入りさせてしまう。冬なら外気温と室温の差で窓が結露したり、夏ならば直射日光で熱せられたアルミフレームから室内に熱気が伝わってくる。こうした現象を防ぐために効果的なのが、樹脂のフレームの窓を採用すること。樹脂の熱伝導率はアルミの約1000分の1と、高い断熱性をもっている。

また、Low-E複層ガラスとは、ガラスを2枚重ねた複層ガラスの一種。ガラスの内部に「Low-E」と呼ばれる特殊金属膜を設けていることによって、夏は太陽の日射熱をカットして、冬は暖房の熱を外に逃がさないという効果がある。

このような高断熱の窓商品を使い、高断熱材への入れ替えを行なった。

冬でも平均室温16℃以上を保てる家に。光熱費も改修前の4分の1

では、断熱の性能はどのくらいのレベルになったのだろう?

断熱性能をはかる指標のひとつにUA値(外皮平均熱貫流率)という数値がある。外皮とは、断熱材が入っている壁や床、天井や窓などのことで、それらから熱がどのくらい逃げていくのかを算出する。この値が小さいほど、高断熱性能な住宅ということになる。一般社団法人日本エネルギーパス協会によるシミュレーションによると、「代沢の家」は改修前の1.53W/m2・Kから0.46 W/m2・Kへと性能が大幅に向上。この数値は、国が2020年に義務化を予定している省エネ基準の値である0.87 W/m2・K(東京都の場合の基準値)をも倍近く上回っている。

また、住宅に関する研究者などで組織された「2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会(HEAT20)」による外皮性能グレードでは、高性能の断熱水準であるG2レベルを達成。具体的には、冬に間欠暖房(暖房をつけたり、消したりする利用方式)の状態でも、平均室温は16.6度を保つことができるという。

断熱性を向上させ、加えてさまざまな省エネ設備を取り入れている。省エネタイプのエアコン、節電・節水型のトイレ、エコキュート(自然冷媒ヒートポンプ式電気給湯機)、LEDタイプの照明などだ。電気の使用状況をチェックできるHEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)も設けられている。

気になるのは、光熱費がどのくらいかかるのかだ。前出の日本エネルギーパス協会のシミュレーションによると、「代沢の家」が必要とする一次エネルギー量は、屋根に設置した6.3KWの太陽光発電も加味すると、改修前と比べて半分まで減り、光熱費は改修前の4分の1になるという。改修前は年間31万746円かかっていた光熱費が、売電を含め、年間7万2899円(※2)にまで減らせる。

気象状況の影響を受ける太陽光発電ではあるが、日常の使い方によっては、光熱費を抑えつつも売電によって収益が得られることも期待できる。

(※2)日本エネルギーパス協会のシミュレーションは家電なども加味するため、0円とはならない。なお、国の計算プログラムでは0円

上左)記者発表会で断熱性向上による効果を語る、YKK APのリノベーション本部・石井喜大さん</BR>上右)記者発表会で用いられたプロジェクターの背後はバルコニー</BR>あえて減築し、周辺の緑を借景として最大限に取り入れている</BR>下右)「代沢の家」の設計・施工について話す、リビタの戸建事業部・黒田大志さん</BR>下左)「代沢の家」の必要一次エネルギー量と光熱費のシミュレーション結果(一般社団法人日本エネルギーパス協会による)上左)記者発表会で断熱性向上による効果を語る、YKK APのリノベーション本部・石井喜大さん
上右)記者発表会で用いられたプロジェクターの背後はバルコニー
あえて減築し、周辺の緑を借景として最大限に取り入れている
下右)「代沢の家」の設計・施工について話す、リビタの戸建事業部・黒田大志さん
下左)「代沢の家」の必要一次エネルギー量と光熱費のシミュレーション結果(一般社団法人日本エネルギーパス協会による)

耐震等級は3レベル。窓を減らさずに耐震性を高めた

「FRAMEⅡ」は1階の内壁や外壁など6ヵ所に配置「FRAMEⅡ」は1階の内壁や外壁など6ヵ所に配置

さて、このように夏は涼しく、冬は暖かいという快適な室内環境を実現しながらも、エネルギーや光熱費の節約ができるというZEH仕様の「代沢の家」。もうひとつ、着目すべきは耐震性能を大きく向上させたこととその手法だ。

住宅の耐震の強度を高めるには、壁の量を増やすケースが一般的。そのため、窓や開口部は減らすことになるのだが、「代沢の家」は窓を減らさずに耐震性を高めることができた。
実現できたのはYKK APの「FRAMEⅡ(フレーム
ツー)」という、木質の耐震フレームを採用したことが大きい。

「FRAMEⅡ」について、YKK APのリノベーション本部・石井喜大さんはこう語った。
「窓がなくなり、壁が増えてしまうと室内は暗くなりがちですし、光や風、四季の移ろいを感じることができなくなります。そうした問題を解決するために、2015年秋に当社が商品化しました。窓まわりに取り付けることで耐力壁のように機能し、耐震強度を高めることができます」

そうした技術を用いることによって、改修後は、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に基づく規準である耐震等級で3レベルを確保。これは、建築基準法で求められている耐震レベルより、1.5倍の強さをもつ住宅であることを示している。所定の耐震診断による「上部構造評点」においても、改修前の0.42から1.53まで高めることができた。改修前は震度6強の地震が起きたら建物が倒壊する可能性が高かったのが、震度6強の地震にも耐えられるような建物になったのだ(※3)。

(※3)耐震性能の数値は「代沢の家」の構造設計を担当したラムラックス株式会社によるシミュレーション結果

販売後はエネルギー収支や光熱費などの実証実験を行なう

このように高い断熱性、耐震性を備えたZEH住宅として完成したのだが、リノベーションだからこそできたことはどんなことなのだろう?

リビタの戸建事業部・黒田大志さんはこう語ってくれた。

「この『代沢の家』には限らないのですが、リノベーションの場合は新築のように計画した設計図面通りに進めればいいというわけにはいきません。建物を解体してスケルトン状態にし、基礎や柱、梁などの状態を調査することから始まり、それを踏まえてプランを立てます。既存の部材と新規で使う部材をどう取り合わせるかといった細かい部分まで配慮する必要があります。ですが、既存の建物があるということは、家づくりにおいて最大のメリットであると考えています。例えば、『代沢の家』の場合、東側に樹木の緑が広がっています。その緑が2階からどう見えるのか、リアルにわかるわけです。そこから発想を膨らませ、豊かな緑の眺めを借景としてより楽しめるようになれば、ということで、改修前は居室だったところを約5.8m2減築し、バルコニーを設けています」

2階スペースは窓が9窓あって、明るく開放的な雰囲気。東側の窓越しには借景の緑が迫る。

「代沢の家」では、性能面とともにデザインも、窓と開口部が重要な役割を果たしている。

今回、改修工事にかかった費用は約3500万円程度。それに対し、リビタの「HOWS Renovation」事業で手がけてきた戸建てリノベーションの1棟あたりの改修工事費は2000万円程度という。「代沢の家」のほうが約1500万円ほどアップしているのだが、「高性能の断熱材や耐震フレーム、省エネ設備、太陽光発電の設備などを導入しているのが理由」とリビタの黒田さんは話す。ちなみに同じ場所で同じ規模や仕様で新築をした場合よりも、1000万円~1500万円ほど割安になるという。

今後「代沢の家」は、リビタ、YKK AP両社のモデル住宅として2018年2月中旬頃まで住宅関連
事業者や一般ユーザーに公開し、ノウハウ提供、情報発信などを行ないながら、販売活動を開始。販売価格は1億5900万円。

販売後は居住する人の協力を得て、エネルギー収支や光熱費、温熱環境などの定点観測など、性能向上リノベーションの実証実験を約2年間、行なう。

実験結果は公表される予定。どんなデータが得られるのか、そして、このような高性能なリノベーション住宅の住み心地はどうなんだろう?  実証実験の結果を楽しみに待ちたい。

左)玄関から入ると、すぐに階段。2階まで吹き抜けになっている</BR>右上)左からリビタの黒田大志さん、同社・戸建事業部長の吉賽健太郎さん、</BR>YKK AP執行役員リノベーション本部長の永木公三さん、同社の石井喜大さん</BR>右下)2階の天井の梁は改修前からのものという左)玄関から入ると、すぐに階段。2階まで吹き抜けになっている
右上)左からリビタの黒田大志さん、同社・戸建事業部長の吉賽健太郎さん、
YKK AP執行役員リノベーション本部長の永木公三さん、同社の石井喜大さん
右下)2階の天井の梁は改修前からのものという

2017年 08月31日 11時06分