岡崎市の中心部を流れる乙川流域で、まちづくり整備計画がスタート

徳川家康が生まれ育った街、愛知県岡崎市。多くのゆかりの地があり、歴史好きにも親しまれている。そんな岡崎市の中心部には一級河川、乙川(おとがわ)が東西方向に流れている。

乙川流域のなかでも下流部にあたり、家康が誕生した岡崎城のそばを流れるエリアが、現在「乙川リバーフロント地区」と名付けられ、整備計画が進行中だ。かわまちづくり、歴史まちづくり、リノベーションまちづくり、観光まちづくりと4つの主要なまちづくりが組み込まれている。今回は岡崎市役所・乙川リバーフロント推進課の香村尚将課長と鈴木亨一郎係長に、かわまちづくりに主な焦点を当て、取材に伺った。

江戸時代には城下町として整備され、発展を続けてきた岡崎市。水辺空間を生かしたまちづくりとは、どのようなものなのだろうか。

奥に見えるのが岡崎城。街の中心部ながら、川と木々の美しい風景が広がる奥に見えるのが岡崎城。街の中心部ながら、川と木々の美しい風景が広がる

リバーフロント地区の課題とは?

市街地を貫流する乙川は、春には桜、夏には東海地区屈指の規模を誇る花火大会、秋には市民祭りが開かれ、多くの市民が集まる。町の中心部を川が流れるという豊かな景観を生み出しているが、その各イベント時以外にも憩いの場であるかというと、なかなか活用がされておらず、長きに渡り議題にのぼっていた。また、中心部は他都市にもあるように“空洞化”が問題になっている。郊外に大型店舗ができたことで商店街の店舗が減り、人口も少なくなった。

その解消に加え、高齢化の進行、コミュニティの再生といった課題、多様な働き方を実現できる空間作りができないかなど、さまざまな要素を含めた展開で活性化を目指し、乙川リバーフロント地区整備計画、通称“おとがわプロジェクト”が2015年に立ち上がった。2020年までの5年間でエリアの再生を図る。

住みよく、働き方も含めた、日常的な暮らしの質の向上を目指すプロジェクト。その場となった乙川リバーフロント地区について「約157haの都市計画的にも重要な位置づけを持った地域で、ここにはもともと公共の投資をしているポイントがありました。図書館交流プラザりぶらは年間140万人ほど、岡崎城のある岡崎公園は年間50万人ほど、そして交通の要点である東岡崎駅は年間1,300万人ほどが利用しています。ただ、集客の拠点はあるのですが、“点”になってしまっているんです。図書館の利用だけ、あるいはお城を見に来るだけで、そのまま帰ってしまうといった具合に」と鈴木さん。

そういった公共空間を結び、回遊を実現させて活性化につなげるため、「QURUWA戦略」という構想がたてられた。“QURUWA”とは、かつての岡崎城跡の総曲輪(そうぐるわ、外堀のこと)の一部と重なること、動線が“Q”の字に見えることから命名された。

QURUWA戦略エリアの参照図QURUWA戦略エリアの参照図

主要回遊動線「QURUWA」と、公民連携のかわまちづくり

主要回遊動線「QURUWA」のなかには、先述した図書館施設、岡崎公園、駅のほか、商業施設もある。さらに強化するため、河川緑地を歩きやすくするなどの整備や、動線のなかの北東エリアに位置する籠田公園の再整備、乙川からその籠田公園までを結ぶ30m幅の都市計画道路・中央緑道の再構築、川にかかる人道橋の設置が計画されている。ちなみに人道橋とは、「人専用の公園の橋となります。車用の道路ですと、イベントの開催など規制がありますが、自由に使えるようになるんです」と鈴木さん。

前項の写真を参照していただくとわかるが、「それぞれの拠点が約300mの間隔になっており、歩くと5分ほど」と鈴木さんが教えてくださった。人々にとって魅力のある施設が点在することになる。「そこには公共空間だけでなく、ホテルなど民間の施設も誘致しています。そういった方と連携して公共サービスの受益が大きくなるように考えています」(鈴木さん)。

それが、かわまちづくりにつながる。
「岡崎市のかわまちづくりは、公民連携プロジェクトとなります。2015年3月に国土交通省のかわまちづくり支援制度に登録されました。通常、川というのは、治水が大事ですので、イベントができるのは公的団体等のみです。ですが、最近は、公共の場も生かしていこうという取り組みがされています。この登録により、乙川河川敷(吹矢橋~名鉄鉄橋)が都市・地域再生等利用区域と指定され、民間主体でも使用可能となりました」(鈴木さん)。

まちづくりに資するものや、地元の賛同を得たものなど、なにをやってもいいというわけではないが、岡崎市と、観光協会など地元の団体、事業者、市民が、乙川の河川管理者である愛知県と連携して取り組み、水辺空間を有効活用していく。

<写真左上>図書館交流プラザりぶら。街なかへの流れをつなげることも目的のひとつの公共施設だったが、なかなか実現できていない状態だった<写真右上>中央緑道は、その名の通り、車道の間となる真ん中を人が通れる道になっているが、利用度が低い状況に。写真の奥が工事中の人道橋となり、つなげて再構築を計画している<写真下>左が現在工事中の人道橋。右のパースのようにマーケットなどのイベント開催も予定する(パース提供:岡崎市役所)<写真左上>図書館交流プラザりぶら。街なかへの流れをつなげることも目的のひとつの公共施設だったが、なかなか実現できていない状態だった<写真右上>中央緑道は、その名の通り、車道の間となる真ん中を人が通れる道になっているが、利用度が低い状況に。写真の奥が工事中の人道橋となり、つなげて再構築を計画している<写真下>左が現在工事中の人道橋。右のパースのようにマーケットなどのイベント開催も予定する(パース提供:岡崎市役所)

社会実験を重ねて具現化

<写真上>かわまちづくりの周知と、社会実験のひとつとして2015年より開催している「岡崎 泰平の祈り」<写真下>「おとがワ!ンダーランド」で出店された橋詰オープンカフェ・殿橋テラスは、橋の欄干をカウンター代わりに。川の流れへの考慮や、増水時における水位と連動した撤去タイミングのルール、民間事業者等への理解と調整など、河川管理の面からは高いハードルがある場所だったが、なんとかクリアして、大人気だったという(写真提供:岡崎市役所)<写真上>かわまちづくりの周知と、社会実験のひとつとして2015年より開催している「岡崎 泰平の祈り」<写真下>「おとがワ!ンダーランド」で出店された橋詰オープンカフェ・殿橋テラスは、橋の欄干をカウンター代わりに。川の流れへの考慮や、増水時における水位と連動した撤去タイミングのルール、民間事業者等への理解と調整など、河川管理の面からは高いハードルがある場所だったが、なんとかクリアして、大人気だったという(写真提供:岡崎市役所)

では、かわまちづくりで具体的にどんなことがされてきているのか。水辺空間のリノベーションとして、河川敷に遊歩道や船着き場などの整備がされた。この船着き場は、すでに桜まつりなどのイベント時には民間事業者により観光船の運航で利用されている。河川敷の整備により、イベント時以外でも散歩や遊びで親しんでもらえるようにする。

有識者が加わったシンポジウムや、ワークショップと共に、どんなことができるかを試す社会実験も行われている。先の、QURUWA戦略の拠点の距離などについても、この社会実験で実際に回遊性を歩いて確かめるなかで可能性が考えられた。

社会実験では、まず2015年冬に「岡崎 泰平の祈り」というものを実施した。青年会議所や民間の企業が先導し、乙川にLEDを内蔵した玉を放流するというもの。そんな美しい光景の川とともに、河川敷では民間によるナイトマーケットなどを開催した。これは毎年続いており、2017年は約2万8,000人が訪れ、かわまちづくりの情報発信の役割を果たしている。

そのほか、「おとがワ!ンダーランド」と題したイベントを2016年から開催。SUPなど川を利用した水上アクティビティ、オープンカフェ、まちなかキャンプ、ナイトマーケットなど、さまざまなプログラムが行われ、盛り上がっている。

2017年11月に行われた社会実験では、開催日にあいにく雨が降ってしまい、イベント数もかなり減ってしまったというが、図書館前の道路には芝生をはって、ベーカリーなど飲食店が出店。完売も続出したそうだ。この状況から、近くの公園に、「飲食できるテーブルやベンチを整備すると利用してもらえそうだな」、といった次につながる考えが浮かび上がってくるという。

こういった社会実験に関しても、市は公共空間などの場所を開放する手続きをするのみで、民間が責任をもって出店している。「それが社会実験なんです。日常性、持続性を目標にやっていまして、(市が提供した)イベントとなると非日常で終わってしまう。民間の方にも責任がある仕組みで、かわまちづくりをやっていきたい」と鈴木さんは語る。

地方再生モデル都市にも選出

街のシンボルである乙川を中心に、賑わいを復活させるまちづくりに期待街のシンボルである乙川を中心に、賑わいを復活させるまちづくりに期待

「乙川は市街地のど真ん中にある河川ですので、まちづくりとの一体性をうまく図っていくというところが全国的には珍しいとも言われています。最初は、かわまちづくりから始まっていますが、街に人をどうつなげていこうかというところも課題として持っていましたので、民間を巻き込みながらいろんな取り組みをし、回遊動線をうまく通すことによって人が巡回する。それが将来的には街の価値を上げ、さらなる人を呼び込むことができないかという思いで進めてきております」(香村さん)。

そんな思いと共に、回遊性が高まり、街を歩く人が増えれば、市としては住民の健康への好循環も浮かんでくる。そこまではまだ先のことになるが…。

公民連携には苦労や難しい点もある。「民間の団体や学識者の方にも入っていただいていますが、市民の方も行政も、やっぱり慣れていないんです。行政はすぐに補助金を出しましょうかという体制になってしまうこともありますし、市民の方も何か手伝っていただけるんですかと。そうじゃなく、自らやってくださいと切り替えなければなりません。プレーヤーは出てきますが、それを担ってマネージメントをして盛り上げるという人がなかなかいません。もっと増やさなければならないと思っています」と香村さん。持続させるためには民間の力が必須なのだ。

2018年3月には、国土交通省が内閣府と連携し、都市のコンパクト化と地域の稼ぐ力の向上に取り組む地方再生のモデル都市の事例として、「QURUWA戦略」が選ばれた。全国から応募された77都市のうち、32都市が選定されたものだ。公民連携プロジェクトに期待が寄せられている。

「ハード整備は5年で終わりますが、まちづくりは過去からずっとやってきていること。そのあとも、本格的に使われて、まちづくりが続いていくんです」(鈴木さん)。かわまちづくり以外のプロジェクトも着々と進められている。実際に“QURUWA”地区を歩いてみると、確かにスポットが完成していけば、距離を気にせずに回れると思った。車社会の流れから、歩いて巡ることで、街の賑わいを出せる。ひとまず、進捗を楽しみに待ち、生まれ変わっていく岡崎市をあらためて訪れたい。

2018年 06月14日 11時05分