夏暑く冬寒い…日本の住宅事情

左から、講師の藤江さん・主催者の江頭さん・講師の内山さん【撮影:山口】左から、講師の藤江さん・主催者の江頭さん・講師の内山さん【撮影:山口】

日本の家の断熱性能は乏しく、7割以上は断熱性能がない家だという。比較的断熱性能のある平成11年基準(天井GW180t・壁GW100t・ペアガラス・二重サッシ・年間暖房負荷120~150kWh/m2)の家は、全国の住宅の5%に満たない。

また、世界トップ水準の断熱性能をもつパッシブハウス(ドイツでは15%の普及率)は日本にはまだわずか30戸ほどだという。「夏熱く冬寒い家」これが日本のほとんどの住宅の現状だ。当然、冷暖房機器は高稼働となり住宅のエネルギー効率は悪い。また、ヒートショックなどの健康被害も問題視されている。ある調査では、年間17000人もの人がヒートショックに関連する入浴中急死に至っていると発表された。同年、交通事故で亡くなった方は4411人であり、3倍以上もの人が家の中で命を落としていることになる。

ヒートショックは、家の中の急激な温度差「暖→寒→暖」を体感することによって体内に急激な血圧変化が発生し、何らかの影響を及ぼすことを言う。特に高齢者は血圧の変動幅が大きくなりやすい。(これについて、すぐにできる対策として、トイレや脱衣所で暖房機器を利用すること、シャワーを活用した湯はりなどで防ぐことも啓蒙されている。けれども高齢者にとって、入浴時などの長年の習慣を変えることは、容易ではないよう。)

さらに、国土交通省の調査チームが2017年1月に発表した報告によると、室内の気温が低くなるほど血圧が高くなることが確認されている。「家が寒い」ことは、健康に影響する問題なのだ。

暮らしながら実践するDIY断熱リノベ〜①木製内窓をDIY

最近ようやく、新築住宅では断熱性が注目されてきているものの、中古住宅については如何ともしがたい。上述の通りほとんどの家は無断熱だ。もちろん、リノベーション等で断熱性能を上げることは可能だが、専門性が高く費用もかかる。もっと手軽に快適さを手にいれる手立てはないものか。そこへ「断熱をDIYで」できる方法があると知り、ワークショップを体験してきた。

断熱ワークショップの講師は東京で設計事務所を営む内山章さん(有限会社スタジオA建築設計事務所 代表取締役)と、地元大工の藤江啓明さん(LOTEK主宰)だ。会場となった物件は福岡市内にある築42年の一戸建てで、内山さんが『昭和の普通の家』と評する一般的な木造住宅。主催の江頭聖子さん(福岡リノベース代表)がシェアハウスを運営する家でもある。こちらもやはり、「無断熱」の建物だ。

なお、温暖な気候だと思われているためか、九州の住宅の断熱化率は1割以下なのだそう。(1月の福岡市の平均気温は東京と0.3℃しか変わらないのだが…)ワークショップは一般の人が今の家に住みながら行える内容で、窓断熱と、畳断熱、屋根裏断熱の3つ。自分たちの手で、より暮らしやすい住まいを実感しながら手に入れようというのがテーマだ。材料はホームセンターやインターネットで手に入るものばかり。以下、順に紹介しよう。

■窓断熱
冬、窓の近くはどんどん冷気が侵食してくる。また、窓ガラスやアルミサッシに発生する結露に、悪戦苦闘している人は少なくないだろう。結露はカビの発生や住宅の腐食を進行させる憎い現象でもある。
ガラスの熱伝導率(熱の伝わりやすさ)は高く、冬の暖房時、単板ガラスの窓の開口部から流出する熱は建物全体の58%にも上る。夏の冷房時は73%もの割合で外の熱を取り入れてしまう。窓の断熱は、費用対効果が最も高い箇所と言えるだろう。

ワークショップでは、2階の各居室の窓にDIYで木製内窓を取り付けた。材料は主に木材とポリカーボネート樹脂の中空ボード(以下、中空ポリカ)。中空ポリカは衝撃に強くて軽いうえ、熱伝導率がガラスの1/5以下と断熱窓向きの素材だそう。しかもカッターで簡単にカットでき、扱いやすい。
製作工程は、①窓枠の寸法を測る、②木材をカットする(木材の幅を考慮して算出する)、③ビスを使って枠を組む、④枠内ぴったりに中空ポリカをカットする、⑤中空ポリカを挟み込むように細い木材を枠内に打ち付ける、というもの。かなり簡潔に書いたが、なかなかの作業だった。
触ったことのない工具もたくさん使い、また、普段知らない職人さんの一手間や技を知ることができたのは、ワークショップの醍醐味だろう。作業にかかった時間は各チーム3~4時間ほど。できあがった内窓がカチッと収まった瞬間、参加者からは拍手と歓声が上がった。既存のアルミサッシがうまく隠れ、仕上がりもとても洗練されている。

ただ正直なところ、同じことを自宅で実践するにはかなりDIY慣れする必要がありそうだ。それに賃貸物件の場合、部屋に釘を打つことはできない。
「コの字型のレールを既存窓枠の上下に両面テープで貼って、中空ポリカをスライドさせるように入れるだけでも全然違いますよ。」(内山さん)
なるほど、それならもっと手軽に自宅でもできるだろう。障子の中に中空ポリカを入れ、断熱障子にする方法も教えてくれた。
ちなみに使った中空ポリカは厚さ4mm大きさ1×2mのもの。メーカーによって価格は様々だが、インターネットでも手に入る。複数のホームセンターで確認したところ、店頭によくあるサイズは910×1820mmだった。まずは自宅の窓のサイズを測るところから始めてみてはどうだろうか。

まっすぐにカットするため、卓上丸ノコを使用(左上)窓枠を組む際は、クランプで押さえてビスを打つ(右上)ポリカを挟む細い木材には、ケーシング釘を使用。木材が割れないよう、ドリルで穴を開ける一手間が重要(左下)かっこいい二重窓に入居者さんもご満悦。上下に溝をつけた内窓用の窓枠は、事前に藤江さんが製作してくれた(右下)まっすぐにカットするため、卓上丸ノコを使用(左上)窓枠を組む際は、クランプで押さえてビスを打つ(右上)ポリカを挟む細い木材には、ケーシング釘を使用。木材が割れないよう、ドリルで穴を開ける一手間が重要(左下)かっこいい二重窓に入居者さんもご満悦。上下に溝をつけた内窓用の窓枠は、事前に藤江さんが製作してくれた(右下)

上昇気流をなくす。②畳断熱と③屋根裏断熱

■畳断熱
次に行ったのは1階の居室の畳断熱。
古民家や木造家屋の和室の寒さに凍えている人はいないだろうか。畳をあげると板の間で、その下はそのまま外気に触れていることも多い。どうりで寒いはずである。
さて、テープで畳に番号を付け元の状態を記録し、畳を外して別室に移動させた。板の間の埃を掃除して位置を決めたら、敷居との段差を利用して、板の上に気密シートと暑さ4mmの断熱材を敷き込む。作業はそれだけだ。
「敷居を利用してしっかりと立ち上げながら気密テープで留めること。隣り合う気密シートを重ねて気密テープで留めること。ここ、大事なところです。」(内山さん)
タッカーを使って仮止めしながら作業するのがコツだ。その上に断熱材のスタイロシートを乗せ、さらに間を気密テープで留めた。たった4mmの断熱材の上は、先ほどの板の間と違って足がヒヤッとしない。畳を元に戻し、参加者全員でその違いに感動した。畳は大人2人がかりほどの重さはあるけれども、和室の寒さに悩む人にはおすすめしたい。

■屋根裏断熱
最後は屋根裏断熱。
工程はなんと、断熱材を「置く」だけだ。もし1階に比べて2階が特段暑い・寒いと感じるならば、屋根裏の点検も兼ねて試してみるといいだろう。
ほとんどの家は押入れや納戸の上などに点検口があり、そこから屋根裏に上がることができる。今回は2階の1部屋の押し入れ天井から屋根裏に上った。今回は事前に江頭さんと講師の2人が屋根裏内部を点検し、照明も設置してくれていたが、当然、屋根裏には照明がない。作業の際は準備しよう。そして、幸いにもこの物件は綺麗な状態だったが、「普段人が行かない場所」という事は少し覚悟しておいた方がいいだろう。
「南房総の古民家で断熱ワークショップをした時は、ハクビシンの糞が大量にあって大変でした!」(内山さん)
また、天井板は体重をかけると抜ける危険があるので、乗るのは梁の上のみ。必要があれば、梁の間に丈夫な板を置いて足場にすると便利だ。手の届かない場所に断熱材を置く場合は、長い棒があるとよいそう。使用した断熱材は防湿フィルムの袋に入ったタイプで、これは繊維が飛びにくく扱いやすい。何せバケツリレーのように運んで、置いただけなのだ。グラスウールやロックウールを使用する場合は、肌が繊維に触れないように注意し、素手では扱わず、マスクやゴーグルも装着しよう。

暖かい空気は上に行く。ポイントは足元から冷たい空気を入れず、暖かい空気を天井から逃さないようにすること。マンションよりも一戸建てやアパートに住む人の方が、はっきりとこれらの違いを感じるだろう。

畳の下は板張りで、隙間からは冷気が…(左上)気密シートは、少し重なり合うように。タッカーを使って作業するとスムーズだ(右上)屋根裏断熱は文字通り「置く」だけ(左下)梁以外には乗らないように注意(右下)畳の下は板張りで、隙間からは冷気が…(左上)気密シートは、少し重なり合うように。タッカーを使って作業するとスムーズだ(右上)屋根裏断熱は文字通り「置く」だけ(左下)梁以外には乗らないように注意(右下)

日本の家は「裸にカイロ」。工夫する断熱で、今より快適に暮らしたい

私たちは寒ければ、服を重ね、風を通さない上着を着る。断熱もそれと同じで、動かない空気の層を作るのである。セーターを着て(断熱)、ウィンドブレーカーを着る(気密)。
「日本のほとんどの家は、裸にカイロを貼っているようなものと言う人もいます。」と内山さん。言い得て妙だ。
とはいえ、断熱性能のいい家を新しく建てる・大規模な断熱改修を行うという選択はなかなかハードルが高い。そこで活用したいのがDIYエコリノベだ。念頭におくのは次の4つ。

1. エリアを小さく決めよう
2. 断熱材でくるもう
3. すきま風をなくそう
4. 上昇気流をなくそう

もちろん、これは飛躍的に断熱性能を伸ばすというものではない。
けれど、少しの工夫で、今よりエコな暮らしを入れることはできる。寒さ暑さを我慢せずに、去年よりも電気代を抑えられる。その実感のうえで、また次のステップにとりかかるといいだろう。より高度な部分は専門家の力を借りてもいいだろう。

ハイスペックな暖房機器や、太陽光パネルなどの設備を追加するのも悪くない。だがその前に、土台となる家自体の性能について、自分たちでももっとやれることがある。
「家全体が暖かいと、認知症の予防にもなるという報告もあります。」(内山さん)
超長寿社会を生きてゆく私たちは、きっともっと断熱について意識したがよいのだろう。

2016年に内山さんらが千葉県南房総市の古民家で開催した「DIYエコリノベーションワークショップ」は4日間で100名以上が参加という盛況ぶりで、2017年は第2回を行った。2018年はさらにパワーアップして、全国の行政向けにプロフェッショナルスクールを予定しているそう。

さて、今回のワークショップの効果だが、「1階の土間でエアコン付けてるより、2階の何も付けてない個室の方が寒くない。」と後日シェアハウスの入居者さんから嬉しい報告をもらったという江頭さん。次は1階共用部の大きな窓の断熱を計画中だとか。


「エコリノベDIYワークショップ」(主催/NPO法人南房総リパブリック主催)
https://mb-republic.com/activities.html#other

「エコリノベプロフェッショナルスクール」(主催/(株)エネルギーまちづくり社)
https://www.facebook.com/events/381479865606720/

最後はみんなで記念撮影。各々今日使った道具を持って「暖かいは、幸せ〜!」のポーズ最後はみんなで記念撮影。各々今日使った道具を持って「暖かいは、幸せ〜!」のポーズ

2018年 01月23日 11時05分