家を壊さずに「住み継ぐ」。それを現実的な選択肢として広めたい

東野唯史さんと妻の華南子さん(左上)。デザイン性の高いインテリアからは築50年の中古物件であることがまったく感じられない(右上)。大きな窓の向こうには広い畑が広がる(左下)。真冬の諏訪市では最低気温がマイナス10℃を下回ることも(右下)。(写真提供:ReBuilding Center JAPAN)東野唯史さんと妻の華南子さん(左上)。デザイン性の高いインテリアからは築50年の中古物件であることがまったく感じられない(右上)。大きな窓の向こうには広い畑が広がる(左下)。真冬の諏訪市では最低気温がマイナス10℃を下回ることも(右下)。(写真提供:ReBuilding Center JAPAN)

日本人は新築が好きだ。国土交通省の発表によれば中古住宅の流通シェアは2013年時点で14.7%と、同年のイギリス(87.0%)やフランス(68.4%)などと比べると大幅に低い。近年では日本も20%を超えたという意見もあり、そもそも地震の有無などの条件が異なるので他国との比較に意味はないかもしれないが、それでも日本人の新築志向の割合が多いことは事実である。

そのような中、確固たる意志を持って中古住宅のリノベーションを選んだのが、長野県諏訪市に住む東野唯史さんだ。東野さんが購入したのは築50年ほどの平屋で、寒さの厳しい諏訪地域にありながら断熱材が一枚も入っていないような家だった。そんな古い建物が、リノベーションによって断熱性・気密性に優れ真冬でも温かく過ごせる空間に生まれ変わった。

かかった費用は新築を建てるのと変わらない金額だったが、それでもこの選択肢を選んだのは、古くなった家を簡単に壊さず長い年月をかけて住み継いでいく文化をつくりたいという東野さんの想いからだった。

快適性をないがしろにしない古民家リノベーションへの挑戦

東野さんは諏訪市内で「リビルディングセンタージャパン(通称リビセン)」という、古材や古道具のリサイクルショップを経営している。「ReBuild New Culture」という理念を掲げるリビセンはただ古いものを販売するだけの店ではなく、古道具を別のかたちで使うためのリメイクワークショップを開くなどして、「古いものの本質的な価値が見直されて再活用されていく世界」の実現に取り組む集団でもある。

店で取り扱う古材のほとんどは解体される建物から引き取ったものだが、長い間暮らしてきた家がなくなることを寂しく思う家主を何人も見ているうちに、壊して建て直すのではなく、何代にもわたって住み継いでいける方法があるのではないかと考え始めた。

「古い家はとても寒くてとても暑いけれど、そういうところを普通のリノベーションだとカバーしきれないから、快適さを優先して新築を選ぶ人が多いように思う。もしリノベーションでも新築同様の快適性が実現できるのであれば、取り壊さずに住み継ぐという選択肢が生まれるはず」と東野さん。

もともと空間デザイナーとして数多くのリノベーションに携わってきた経験もあり、「誰かが実際にやってみないと『そんなのできるわけないよ』で終わってしまうから、まず自分たちで実例を作りたい」という思いから、快適性をないがしろにしない古民家リノベーションに自ら挑戦したのだという。

リビセンで販売されている古道具(左上)。解体現場から引き取った古材も所狭しと並んでいる(右上)。ただのリサイクルショップではなく新たな文化の発信地でありたいという思いから、人が気軽に立ち寄れるようカフェも併設している(左下)。カフェの席からは古材売り場が見えるようになっている(右下)。リビセンで販売されている古道具(左上)。解体現場から引き取った古材も所狭しと並んでいる(右上)。ただのリサイクルショップではなく新たな文化の発信地でありたいという思いから、人が気軽に立ち寄れるようカフェも併設している(左下)。カフェの席からは古材売り場が見えるようになっている(右下)。

真冬でも暖房なしで20℃を保つ、高性能な「エコハウス」の完成

断熱設計は工務店に任せきりにせず、東野さん自身で知識を身に付け、目指すべき快適性を実現するための設計を進めた。断熱性だけでなく気密性も重視していたため、断熱材は基礎立ち上がりから床下、壁、天井にわたって隙間なく入れたという。

半年以上にわたる工事を経て、築50年の古い木造住宅は、気密性や断熱性を高めて冷暖房にかかるエネルギーを抑えた、いわゆる「高性能エコハウス」と呼ばれるものに姿を変えた。屋内の熱気や冷気を外に逃がさず、窓から差し込む日射量を適切にコントロールすることで、できる限り電力や燃料に頼らないで家を快適に保つのがエコハウスだ。

取材でこの家を訪れたのは2月上旬。記録的な大寒波に襲われ最高気温ですら氷点下という日だったが、暖房が入っていないのにもかかわらず室内は20℃近くあった。聞いてみれば、昨夜寝るときに20℃に設定していたエアコンを起床とともに止め、朝からその室温を保っているのだという。この日は曇っていたが、晴れていれば日光をぐんぐん取り込んで、日中の室温が24℃くらいまで上がることもあるそうだ。

住宅の断熱性能にはさまざまなグレードがあり、東野さんの家はHEAT20(2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会)が定める「G2」というグレードに該当する。日本国内ではかなりレベルの高い水準で、新築であればこのグレードに達する家は増えてきているが、無断熱の中古住宅のリノベーションでG2を実現した事例は今のところほとんどないようだ。

断熱性のほかにエコハウスの特徴として挙げられるのは、空間の間仕切りを少なくすることで内部の空気を循環させ、家全体が同じくらいの室温に保たれることだ。日本の一般的な住宅はこれとは逆に、きっちり間仕切りをして部屋ごとに空調を効かせる。すると各部屋は暖かくても廊下やトイレが寒くなるなど家の中での温度差が激しくなり、快適性に欠けるだけでなくヒートショックを起こす要因にもなる。東野さんの家にある空調設備はリビングの薪ストーブとエアコンだけだが、どの部屋に移動しても室温の変化を感じることはほとんどなかった。

リノベーション前はいかにも昭和の家という雰囲気だった(左上)。解体途中の状態。このあと根太も外壁も解体してスケルトンに(右上)。工務店などプロの力も借りつつ、東野さん自身をはじめリビセンのスタッフや、サポーターとして手伝いを志願する人たちの手で作り上げた(下段)。(写真提供:ReBuilding Center JAPAN)リノベーション前はいかにも昭和の家という雰囲気だった(左上)。解体途中の状態。このあと根太も外壁も解体してスケルトンに(右上)。工務店などプロの力も借りつつ、東野さん自身をはじめリビセンのスタッフや、サポーターとして手伝いを志願する人たちの手で作り上げた(下段)。(写真提供:ReBuilding Center JAPAN)

古い家でもこれからの時代に合う新しい物に作り替えることができる

リノベーションの費用はおよそ2,000万円。購入した建物は約180m2あるが、夫婦ふたりで暮らすならその半分でいいと考え、耐震補強とリノベーションを施すのは約90m2に区切った部分のみにとどめた。東野さんの場合は自身で設計し、リビセンの在庫で持っていた古材も使えるうえ、DIYを行った範囲も多かったためにこの金額だったが、すべて工務店に依頼するならば2,500万円〜3,000万円ほどになるのではないかという。

新築を建てるのとそう変わらない金額をどう見るか、それは人によって違うだろう。新天地に移住して家を手に入れようとしている人であれば、どうせなら新築に住みたいと思うかもしれない。先祖代々暮らしてきた家の老朽化に悩んでいる人であれば、思い出の詰まった場所を残すため、建て替えるのではなくリノベーションを選ぶかもしれない。

東野さんは今回作ったエコハウスについて、「リビセンでは古くて今の時代に合わなくなった物の新たな使い方を提案してきたけれど、この家もそれと同じで、古くなった建物でもこれからの時代に合わせて新しい物として使えるんだという提案なんです」と話してくれた。

その提案に興味を示した人は多く、リノベーション完了後数回にわたって開催した見学会は軒並み盛況だった。参加者の半数は工務店や不動産業などで住まいに携わっており、断熱技術についての話を熱心に聞いていったそうだ。はるばる県外からやってくる人も少なくなかったという。

家を壊さずに住み継ぐ。それを現実的な選択肢として広めたいという東野さんの想いは、小さな火種となって各地に飛び散っていったのかもしれない。

古材もふんだんに使ったインテリアは、新築の家にはない独特の風合いを醸し出している(写真提供:ReBuilding Center JAPAN)古材もふんだんに使ったインテリアは、新築の家にはない独特の風合いを醸し出している(写真提供:ReBuilding Center JAPAN)

2019年 03月21日 11時00分