町家と路地のまち、京都の一画で進んだ住民の高齢化と空き家の増加

細い路地と古くからの町家がひしめく京都東山区六原学区。懐かしい街並が続く細い路地と古くからの町家がひしめく京都東山区六原学区。懐かしい街並が続く

京都市東山区にある六原(ろくはら)学区は、鴨川と清水寺の間、五条通の北側に位置し、36haに3,270人が暮らす(2016年1月時点。東山区のHP)。学区内には、六波羅蜜寺や六道珍皇寺など寺社が点在し、京都ならではの町家や路地がひしめいている。
不便な立地ではないが、戦前からの密集市街地で1戸あたりの敷地面積が狭いため、子育て世帯がどんどん流出していった。1955年当時に1,000人規模だった児童は、2010年の小学校閉鎖時には80人まで減った。地域の重要課題の一つは、近隣の小学校・中学校の統廃合後、公立小中一貫校を誘致することだった。

もう一つ、深刻な課題は住民の高齢化。現在、高齢化率は32.4%だ(2015年7月時点の住民基本台帳)。
高齢化が進むと、自治会の担い手が不足してくる。独居高齢世帯が増え、亡くなった後、家を継ぐ者がいないと空き家となる。家財を整理しないまま長年放置されれば廃墟のようになり、古い建物や狭い路地の多いエリアで防災上の不安も増してくる。
六原学区は全25町、30の町内会で構成されているが、2008年には区内の空き家率は14.9%となり、一部30%を越えるエリアも。
それに対して不動産の流通率は5%ほど。住みたい人はいるはずなのに流通しないまま、空き家は解消されず残り続けた。

地域自走型のまちづくり委員会を発足、空き家を個人ではなく地域の課題とした

「空き家の手帖」(六原まちづくり委員会+ぼむ企画著、学芸出版社)は空き家で困る人に、空き家解消・予防のための考え方や使い方をわかりやすく伝えている「空き家の手帖」(六原まちづくり委員会+ぼむ企画著、学芸出版社)は空き家で困る人に、空き家解消・予防のための考え方や使い方をわかりやすく伝えている

六原学区にとって大きな節目は2010年。地域住民と行政が連携した「京都市地域連携型空き家流通促進事業」が始まり、空き家の流通促進を手がける事業のモデル地区として、本格的な空き家対策に乗り出したのだ。
加えて、2011年、地域の念願であった小・中一貫校の「開晴小中学校(東山開晴館)」が開校。新たなまちづくりへの弾みがついた。
空き家流通促進事業が終了した後も引き続き、空き家問題に取り組んでいこうと、2012年、六原自治連合会の傘下に地域自走型の「六原まちづくり委員会」(以下、委員会)を発足した。

委員会は、不動産や建築、相続に関する専門家や、大学、まちづくり支援団体、若手芸術家支援団体などさまざまな団体と連携を図った。
六原自治連合会の事務局長で、六原まちづくり委員会の委員長を務める菅谷幸弘さんは、「空き家は特定の個人の持ち物ですが、空き家のまま放置して起きる諸問題は地域の課題。せっかく小中一貫校ができたのですから、子どもたちを育めるまちにしなくては」と話す。

委員会は、年3回ほど住まいに関するセミナーを開催する。空き家を探し、その所有者に空き家の実態や意向を聞き出す。地域住民に、空き家の現状や課題を知ってもらい、地域の有志メンバーで空き家の片付けを手伝う。空き家の改修設計、借主の募集と入居に際しては、たくさんの専門家にかかわってもらう。具体的で実践的な活動だ。

2014年から、空き家の現状や課題、解決法などの事例をまとめた冊子「空き家の手帖(私家版)」を地域住民に無償配布してきたが、2016年9月、「空き家の手帖 放っておかないための考え方・使い方」として本格的に刊行。発刊を記念して京都女子大学の井上えり子研究室が「六原の空き家活用」を見るまち歩きツアーを行なった。建築や行政、メディアなど空き家の活用に関心のある人が20人以上集まって、1月末、底冷えのする京都の町を歩いた。

空き家の「見守り」から「改修」「活用」まで、さまざまな団体やボランティアを動員

京都女子大学家政学部生活造形学科の井上えり子研究室が、この地区の空き家問題を調査・研究して10年ほどになる。
空き家のオーナーから井上准教授が鍵を預かり、学生が月1回点検を行い、年2回報告書を送付する「空き家見守りボランティア」を実践している。
具体的には、家を開けて風を入れ、雨漏り、床・天井・壁のたわみ、家の傾き、建具・屋根・庭などを目視する。報告書には写真とともに詳細な説明をつけ、異状を明らかにする。今年1月までに計15回の見守り活動をした中から、空き家の修復に腰を上げたオーナーが2人。
「手をこまねいて放置しているうちに、空き家はみるみる老朽化します。月1回、現状を見守って劣化箇所を報告することで次の手が見えてきます。学生は、そんな見守り活動や改修の手伝いをする中で、次第に地域の担い手の一人として期待されるようになり、この活動を通して成長していきます」と井上准教授。

まち歩きツアーで最初に訪れたのは、20年近く空き家だった家を改修し、東山アーティスツ・プレイスメント・サービス実行委員会(HAPS)のオフィスとした家だ。HAPSは、京都在住の芸術家たちの居住・制作・発表を包括的に支援し、地域創造やネットワーク形成、イノベーション活動を支えるため、2011年に始まった市のプロジェクト。芸術家たちから年間300件ぐらいの相談を受ける。その拠点を六原学区にもってきたのだ。
元々の空き家は、1階の床に穴があき、とても安全に歩けるような状態ではなく、庭の植物も伸び放題、廃墟のようだったという。当初の改修費用の見積りも多額となった。そこで、若手芸術家に呼びかけると100人以上のボランティアが集い、ワークショップ形式で木工や左官、内装などを手がけて改修した。建築の専門家が監修、大工さんに教えてもらいながらDIYしたので、費用を抑えることができた。
1階にギャラリーとレンタルスペース、2階にHAPSのオフィスがある。

1階の道路に面した部屋を夜間展示のギャラリーに(左)。このあたりは街灯が少ないので、地域に明かりを灯す役目も果たす。室内奥のレンタルスペースでは、本の読み聞かせや英語教室などが利用(右)。中庭をはさんで別棟に水回りを整備した1階の道路に面した部屋を夜間展示のギャラリーに(左)。このあたりは街灯が少ないので、地域に明かりを灯す役目も果たす。室内奥のレンタルスペースでは、本の読み聞かせや英語教室などが利用(右)。中庭をはさんで別棟に水回りを整備した

空き家の持ち主、借主、地域住民ともに役立ち、それぞれ顔の見える関係をつくりながら空き家を活用する

観光都市、京都では宿泊施設不足が極まり、空き家が買い取られて宿泊施設に改造されることも。
「その多くは、事業主や管理者がわからなかったり、グレーゾーンのいわゆる違法民泊。地域住民として一番不安なのは、何かトラブルが起きた時に誰に申し入れたらいいのかさえわからないこと。顔の見える人と、きちんとしたつきあいがしたい」と菅谷委員長は言う。
そんな課題を解決した事例が、宿泊施設(ゲストハウス)と現代美術のギャラリー、カフェなどが入居する複合施設「青春画廊」だ。
築100年になるこの家は、元々アンティークショップの倉庫として使われ、その後、アトリエ兼住居として活用した時期を経て、現在のようにリノベーションされた。
借主が1棟ごと借り受け、2階を現代美術を飾ったゲストハウスに改修。1組4人まで泊まれるコンパクトな宿泊施設で、主にヨーロッパからの家族連れが泊まりにくるという。宿泊客がいたため中を見学できなかったが、「まるで現代美術館の中に泊まるような感覚を楽しんでおられますよ」とのこと。
1階には、コーヒースタンドとギャラリーを兼ねた「Dongree」が入居。グラフィックデザイナーの柴崎友祐・ひろ子夫妻がディレクターを務めている。京都の各地で焙煎されるコーヒーが美味しく、見学ツアー当日には、木工作家の作品が展示されていた。

家の管理をしている人も入居している人も地域と顔なじみ。階下に人の目があるゲストハウスなので、人の出入りにも気を配ることができる。
「いまや京都は“観光に消費され“つつあります。地域住民が安価で楽しんでいた喫茶店が、観光客向けの高価格のカフェやジェラートショップになる。それでは地域住民が居場所を失います。青春画廊は、まさに地域になじんだ空き家活用となりました」と菅谷委員長はうれしそうだ。

2階のゲストハウスは窓を増設して明るく改修。1階にはカフェとギャラリーが入り、台所は土間2階のゲストハウスは窓を増設して明るく改修。1階にはカフェとギャラリーが入り、台所は土間

片付けを助ければ次の一手が見えてくる。まずは空き家を塩漬けにしないことが肝心

Mさんの祖母が使っていた家を改修し、アロマテラピーの店舗兼住宅に(上)。古いのれんもでてきたのでインテリアに使っている(下)Mさんの祖母が使っていた家を改修し、アロマテラピーの店舗兼住宅に(上)。古いのれんもでてきたのでインテリアに使っている(下)

空き家の活用を図る上で難しいのが「片付け作業」や「遺品整理」だ。
住民を失った後、相続人が片付けなければ、空き家にはかつて使っていた家具や衣類などすべてが残る。片付けないまま放置されている空き家が多数存在している。
委員会は、有志ボランティアを募り、「空き家片付け支援プロジェクト」を始めた。片付けを手伝いますよ、と提案するのは、空き家所有者と繋がる仕組みの一つだ。家の規模にもよるが、6、7人で片付けて半日はかかるという。全くのボランティアで、ゴミ撤去の実費のみもらう。

Mさんの祖母が住んでいた古い家は、約10年間空き家で、遺品はそのままにされていた。路地の奥に位置し、再建築はできない。
有志ボランティア10人で片付け、路地の奥からゴミ収集にきてもらう道路まで何往復もすること3時間。整理収納アドバイザーの指導で分別し、販売できそうな物は地域のバザーへ。一方、味のある建具や古い家具、のれんなど使えそうなインテリアもたくさん出てきた。
Mさんは一昨年、父の兄弟と話し合い、承諾をえて、アロマテラピーの店舗兼住宅として改装、昨年5月に完成した。待合室とアロマテラピー室には、祖母宅から出てきた建具やのれん、家具などを上手に使った。大工さんと一緒に、Mさんも三和土(たたき)をDIYした。床暖房をリビングにいれ、ロフトをつくって寝室にした。

「ここに仏壇があるから」「故人の思い出があるから」と片付けられない人もいるが、片付けなければ空き家は「塩漬け」され、持ち主と地域の双方の悩みの種となる。住まいや店舗にすれば建物は生きるし、地域の連携も生まれる。
委員会の委員で、建築家の寺川徹さんは「六原学区は、住民でもない外部専門家をよくぞ受け入れたと思います。“長いつきあい”が始まりました。これまでに空き家を解消して流通させたのはまだ13軒。さらにこれからも協働は続き、空き家にならないよう予防することが、長いスパンでは空き家を減らすことにつながると考えています」と話す。

六原まちづくり委員会
http://www.rokuhara.org/

2017年 03月06日 11時05分