全国の行政や商店街関係者からの注目を集める
『伊勢おはらい町』のまちづくり事例

20年に一度おこなわれている“神様のお引越し”、伊勢神宮の『神宮式年遷宮』。2013(平成25)年の第62回式年遷宮の時には、つい神頼みをしたくなる日本経済低迷の時代背景も重なってか、一躍“パワースポットブーム・お伊勢さんブーム”が巻き起こったことはわたしたちの記憶にも新しい。

1600年代の慶安年間、江戸の商人たちによって流行が広まったと言われている伊勢神宮集団参詣『お陰参り』が一般庶民にも浸透。当時は江戸から伊勢神宮まで15日、大坂から5日、尾張からでも3日を要したそうで、各地から長旅の参拝客が集まるお伊勢さん周辺は『日本最大の観光地』として発展を遂げた歴史を持つ。

先の式年遷宮の際には参拝客数が史上最多の1,400万人を記録したというが、そんな伊勢神宮内宮前で栄える『伊勢おはらい町』は、いま“人を呼べる商店街”として注目を集めている。

“このまちの『人を惹き付ける仕掛け』は何なのか?”

『伊勢おはらい町会議』会長の前田世利子さん(55)にお話をうかがってみた。

▲伊勢神宮“内宮さん”の鳥居前から約800mに渡って様々な商店が軒を連ねる『おはらい町通り』では、<br />何世代も続く古くからのお店だけでなく、外部からの新規参入店も含め約100店舗が商売を営んでいる。<br />その『おはらい町通り』で商いをする人や通りに居住する人たち、62会員で構成されているのが『伊勢おはらい町会議』。<br />現在の会長は、伊勢神宮の御糧酒を納める蔵元『白鷹』を扱う酒店『白鷹三宅商店』の四代目・前田世利子さんだ▲伊勢神宮“内宮さん”の鳥居前から約800mに渡って様々な商店が軒を連ねる『おはらい町通り』では、
何世代も続く古くからのお店だけでなく、外部からの新規参入店も含め約100店舗が商売を営んでいる。
その『おはらい町通り』で商いをする人や通りに居住する人たち、62会員で構成されているのが『伊勢おはらい町会議』。
現在の会長は、伊勢神宮の御糧酒を納める蔵元『白鷹』を扱う酒店『白鷹三宅商店』の四代目・前田世利子さんだ

“住む人の暮らしやすさ”を追求したら“人を惹き付ける町”になった
100年計画ではじめたまちづくり

▲おはらい町『白鷹三宅商店』前の街並み。第62回式年遷宮から1年半、ようやく参拝客の流れも落ち着いたというが、それでも週末の『おはらい町通り』は前に向かって真っ直ぐ歩けないほどの人出で賑わっている▲おはらい町『白鷹三宅商店』前の街並み。第62回式年遷宮から1年半、ようやく参拝客の流れも落ち着いたというが、それでも週末の『おはらい町通り』は前に向かって真っ直ぐ歩けないほどの人出で賑わっている

「実は、この町が“商店街”と呼ばれることには、ちょっと抵抗があるんです。

『おはらい町』は“住宅地”と“観光地”、両方の顔を持って共存している町ですから。

観光客を集めるためにまちづくりをする中で、“地元に暮らす人たちがどうしたらもっと住みやすい町になるか?”を掘り下げたのが、『おはらい町』のまちづくりなんですよ」と、にこやかに語る前田さん。

前田さんが幼い頃には、この『おはらい町』一帯は閑散としていたという。

「今でこそ、各商店の入口が大きく開かれて、初めていらっしゃる方にも入りやすい雰囲気になっていますが、わたしの昔の記憶では、当時ほとんどのお店が扉をピタリと閉めていて、引き戸をカラカラと開けてお客さんが入ってくると、売り場の奥に家族が夕飯を食べる居間が見えているような、そんな店構えでした。

近年視察にいらっしゃる商店街の関係者の方からは、よく“お伊勢さんが近くにあって、ほっといても観光客が立ち寄ってくれるから羨ましい”と言われることがありますが、全くそんなことはありません。もちろんお伊勢さんのおかげ様で『おはらい町』が成り立っているのですが、三重県内にはいろいろな観光地があるので、ほっといたらお客様は他の場所へと移動してしまいます。

だから、昭和30年代にバス旅行が主流になり、昭和40年代にマイカーが普及しはじめたときに、“参拝客の皆さんが『おはらい町』を通り過ぎて、人が途切れてしまうことへの危機感”を、先輩方が感じられたんでしょうね。

“このままではいけない。子どもたちや孫たちの代まで、100年後もここから離れたくないと思えるような、暮らしやすく魅力のある町を今のうちから作らなくては”と、1980(昭和55)年から組織を立ち上げ、民間主導のまちづくりがスタートしたんです」(前田さん談)。

まちづくりに必要なものは『ビッグデータ』による解析ではなく、
町の変化を敏感に読み取る“肌感”

▲『伊勢おはらい町会議』の景観条例を継承する形で『伊勢市景観計画重点地区』に指定された『おはらい町』一帯。伝統的な家屋形態である『切妻妻入り』の木造建築が建ち並び、風情たっぷりのまち並みが続く。全国チェーンのコンビニエンスストアもおなじみの外観ではなく、一見すると老舗商店のような佇まいだ▲『伊勢おはらい町会議』の景観条例を継承する形で『伊勢市景観計画重点地区』に指定された『おはらい町』一帯。伝統的な家屋形態である『切妻妻入り』の木造建築が建ち並び、風情たっぷりのまち並みが続く。全国チェーンのコンビニエンスストアもおなじみの外観ではなく、一見すると老舗商店のような佇まいだ

まちづくりの際には、地域のヨコのつながりやネットワークを構築することが第一の課題と言われるが、もともと『おはらい町』は“住宅地”でもあることから、地元の人たちは皆同じ幼稚園・小学校・中学校の卒業生。いわば、“先輩・後輩・同級生・幼馴染”としてタテにもヨコにもつながっている点が団結の強みになったという。

「子どもの頃から、お伊勢さんの様々な行事に参加しているため、わたしたち宇治の人間(宇治=内宮周辺の地元地域の地名)は、“内宮さんにご奉仕できることが嬉しい”という気持ちを皆が持ち合わせています。だから、参拝客の皆さんに立ち寄っていただいて喜んでいただけることは、わたしたちにとって内宮さんへのご奉仕でもあり、喜びでもあるわけです」と、前田さん。

前田さんによると、20年ごとの式年遷宮がおこなわれるたびに『おはらい町』の雰囲気や人の流れが変わることを、子どもの頃から自然に感じ取っていたそうだ。

「行政の方や広告代理店の方から、たまに“おはらい町の『ビッグデータ』はこんな感じです”と、お客様の特性やニーズを分析した資料を提示していただくことがあるんですが、それを見て、“ああ、うちらの感覚は合うとったね”と、みんなで笑いあうんです。

イマドキな『ビッグデータ』の分析も必要かもしれませんが、何より大切なのは、そこに暮らしている人やそこで商いをしている人たちの“肌感”。

最近、町を歩いている人の層が変わって来たなとか、ここにこんな施設があったら嬉しいかなとか、こんなものを作ったら喜んでもらえそうだなとか、町の空気の変化を“敏感に肌で感じ取ること”が、結果的にはまちづくりに生かされるんだと思います」(前田さん談)。

平成元年には、独自につくり上げた『景観条例』により伊勢の伝統的な木造様式である『切妻妻入り』の建物への改修工事を推し進め、通りを石畳にしたり電線の地中化工事を完了させるなど、地元行政からのバックアップも受けながら『古き良き街並みの再生』が実現したが、そうした工事もすべて“次の遷宮”を意識しながらスケジュールを立ててきたという。

「当初は100年計画でスタートしたまちづくりですが、必ず20年に一度やってくるお伊勢さんの遷宮に合わせて、新しい目標を掲げることができるという点も、『おはらい町』のまちづくりが止まらずに動き続けている理由なんでしょうね」(前田さん談)。

これから先の20年の繁栄のために、
次の世代へとリレー式でバトンを渡していくことが大切

次回、第63回の式年遷宮は2033(平成45)年に予定されている。新たな20年に向けて、前田さんがいま感じている“肌感”とはどんなことなのだろうか?

「前回の遷宮では、本当にたくさんの方たちに『おはらい町』のことを知っていただいたので、次の遷宮まで、訪れてくださった皆さんの期待を裏切らない町にすること。安心して訪れることができ、安心して帰っていただける町にしたいと思っています。

遷宮効果もあって、今までにはなかった新しい企業や組織が参入してきましたが、“この町に住む人を大切にすること”も基本。住む人の満足感や達成感が足りないようでは、人を惹き付けるまちづくりは続けられませんからね。

あとは、若い世代の人たちに早目にバトンを渡さないと!

次の遷宮のときには、わたしたちは退いて後輩たちに頑張ってもらう。何か困ったことが起これば、先輩たちが全力でサポートをする…そうやってこの町は“20年サイクル”で成長してきたんだと思います」(前田さん談)。

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さて、次回は“お伊勢さんと共に生きるもうひとつの町”のまちづくり。伊勢神宮外宮前『外宮参道発展会』のケースについてご紹介しよう。

▲昼間人口が急激に増加した『おはらい町』では、<br />万一の地震災害に向けて来訪者参加型避難訓練をおこなうなど、<br />“安心して暮らせるまちづくり・安心して訪れることができるまちづくり”のため、<br />街の防災力の強化にも取り組んでいる▲昼間人口が急激に増加した『おはらい町』では、
万一の地震災害に向けて来訪者参加型避難訓練をおこなうなど、
“安心して暮らせるまちづくり・安心して訪れることができるまちづくり”のため、
街の防災力の強化にも取り組んでいる

2015年 05月05日 11時27分