賃貸だからこそ「したい暮らし」を実現して欲しい

じっくり意見を交換したからこそ生まれるカスタマイズされた部屋。間取り、壁紙、設備…ひとつひとつに住まい手の想いがこもっているじっくり意見を交換したからこそ生まれるカスタマイズされた部屋。間取り、壁紙、設備…ひとつひとつに住まい手の想いがこもっている

賃貸住宅を選ぶとき、皆さんは何を優先して考えるだろうか?
駅徒歩何分?間取りは?築年数は?陽当たりは?家賃は?そのほかにもあるだろうが、今までの賃貸の部屋選びはほぼ、スペックが中心だったと思う。
今後、少子化が進み人口が減る日本においては賃貸住宅の空室率もあがることが予測される。空室は大家にとってはもっとも大きな課題だ。
少しでも借り手へのサービスを高めようと「カスタマイズ賃貸」「コンセプト賃貸」という言葉が飛び交い始めた。ようやく少しずつだが、賃貸住宅に「自由」という考え方が出始めた気がする。

そんな中、数々のメディアに取り上げられ空室待ちの行列ができる賃貸住宅がある。
メゾン青樹が手掛ける「ロイヤルアネックス」がそれだ。壁紙を自由に選ぶ部屋は、今ではいろいろな会社が取り組みを始めている。ただ、ロイヤルアネックスの理念とはやはり少し違うようだ。
今回、そんな物件を手がけた青木純さんにお話を伺った。

「僕は、オーナーという家業を継いだとき、まさに空室に困っているオーナーだったんです。空室をなんとか埋めたいといつも考えている毎日だった…。ある時、はっと気が付いたのは“住まい手のことを考えていなかった”ということ。空いている部屋は自分が借りたい部屋ではなかった…。そこから、いかに部屋を埋めるかではなく、暮らしとしての空間を住まい手と共にいかにコーディネートしていくか、という考え方に変えなくてはいけないと気付いたんです。」
それから、青木さんの挑戦が始まった。「自分だったら、窮屈な賃貸には住みたくない。もっとワクワクする自分らしい空間が欲しい。」という考えからすべてを見直したという青木さん。また、賃貸だからこそ提供できる価値が何なのかを考え続けた。
「普通、自分で家を買うのはすごくお金がいる。なかなか冒険もできない。賃貸だからこそできる“したい暮らし”“してみたかった暮らし”をしてほしい」と語る。
「賃貸をあきらめないでほしい」という。

いつでも新しい可能性をもっているのは「住まい手」である

ロイヤルアネックスは、入居者が決まるとまずその人の暮らしや住まいに対する考えや好きなもの好きな色、好みをとことんオーナーと話し合う。だんだん形になっていくその過程を同時に楽しんでほしいと考えている。ふつうは部屋を紹介して、契約をして、鍵を渡して終わりのところをじっくり時間をかけて一緒に部屋を変えていくのだというのだ。

その過程で住まい手は「自分で選んだ」という経験、変わっていく部屋を見ることで「出来上がっていく」という経験をすることで住まいに愛着が湧いていく。

「今はカスタマイズ賃貸という言葉が飛び交っているけど、そんな簡単なものではない。住まいを一緒につくり上げる過程を通じて“どういった暮らしをしたい?”を一緒に考えていくんです。大家はそういったワクワクした場をつくる暮らしのコーディネーターであるべきだと思っています」と青木さんは語る。

たくさんの部屋を住まい手とともにコーディネートしている青木さんだが、
「住まい手に教えられたり、一緒に造っていく過程で発見したりの連続です」という。

いつでも新しい可能性を持っているのは「住まい手」だというのだ。

住む人が、ポジティブに変わっていく…「住育」住居でもあるかもしれない

入居している部屋の玄関に「本日はお越しいただきありがとうございます。ゆっくりご覧になっていって下さいね」の文字入居している部屋の玄関に「本日はお越しいただきありがとうございます。ゆっくりご覧になっていって下さいね」の文字

青木さんの理念は、ロイヤルアネックスの住人によりさらに大きく花を拡げている。
取材に伺ったとき、見せてもらった部屋は(すでに入居している方の部屋だった)玄関の黒板にチョークで「本日はお越しいただきありがとうございます。ゆっくりご覧になっていって下さいね」と書いてあった。オーナーの青木さんに鍵を預けて部屋を公開しているのだ。信頼関係と物件への愛情がなければできないことだろう。

屋上には家庭菜園がつくられており、「これも入居者の方々が自主的に造り管理してくれているんです」という。新しい入居者は住人たちのfacebookグループで紹介され、先住の入居者がだれとなくお祝いの言葉をかける。楽しいことを分け合える住宅、コーディネートするけれど最後は住まい手にゆだねる余白がある住宅なのだ。取材後もエレベーターで入居者の方に会ったのだが、「こんにちは」とおおらかな挨拶を受けた。
ゴミ置き場などの共有部分もきれいに使われているに違いない。

こういった住まいを経験した人達が、次に選ぶ家・自分で建てる家はどういうものになるのだろう。たぶん、住まうことの豊さがどうやって生まれるかを体験した彼らは「楽しい暮らしと住まいづくりの達人」になるにちがいない。こういった経験が本当の豊かな住まいを生み出していくのだ。

本当のカスタマイズ賃貸は単に部屋のカスタマイズだけでなく、住まい手が自分の暮らしとその周りの環境を豊かに整える積極的な姿勢まで引き出す賃貸住宅だった。
この経験をさせる賃貸住宅は、住まい手のポジティブな感覚を引出し育てる本当の意味での「住育」住居なのかもしれない。

2013年 10月21日 11時55分