東京の木密地域では「不燃化」が大きな課題に

世界でも有数の巨大都市である「東京」。その23区には約916万人(東京都総務局による2015年2月1日現在の人口推計)が暮らしているものの、地震や台風・洪水などの自然災害に対して「世界で最も脆弱な都市」(スイスの再保険会社スイス・リーによる「自然災害リスクの高い都市ランキング(2013年)」において「東京・横浜」が世界616都市中1位)ともいわれている。そして、東京の最大の弱点と考えられているのが木造住宅密集(木密)地域の存在であり、その不燃化が大きな課題だ。

木造住宅密集地域か否かの線引きは国や自治体によってやや異なる部分もあるが、大地震の際に火災などの大きな被害が想定される「木密地域」は東京都内に約1万6,000ヘクタールあるとされ、その大半は都心エリアを取り囲むように存在している。また、国土交通省がまとめた「地震時等に著しく危険な密集市街地」(2012年3月時点)は全国で197地区、5,745ヘクタールに及ぶが、そのうち東京23区内が113地区、1,683ヘクタールを占める。

1923年9月1日に発生した関東大震災では、10万人を超える死者のうちおよそ9割が火災による犠牲者とされているが、当時の東京府に限ればおよそ95%が火災で亡くなっている。近い将来に首都直下地震の発生が懸念されているが、2012年4月に東京都が公表した被害想定では、環状6号線〜8号線の間をはじめとして広範囲に存在する木造住宅密集市街地を中心に大規模な火災延焼が起き、東京都内だけでも最大約20万棟が焼失、火災による死者は4,000人以上にのぼるものとされた。

この被害をできるかぎり減らさなければならないわけだが、東京における不燃化対策は現在どうなっているのだろうか。

東京都の木密地域(東京都「木密地域不燃化10年プロジェクト」実施方針資料より引用)東京都の木密地域(東京都「木密地域不燃化10年プロジェクト」実施方針資料より引用)

木造住宅密集地域にはどのような危険性があるのか

東京都による「地震に関する地域危険度測定調査(第7回)」で、全5,133町丁目のうち最も危険度が高いとされた荒川区町屋4丁目には、狭い通路を挟んで住宅が建っているところがある東京都による「地震に関する地域危険度測定調査(第7回)」で、全5,133町丁目のうち最も危険度が高いとされた荒川区町屋4丁目には、狭い通路を挟んで住宅が建っているところがある

木造住宅密集地域には昔の家並みが残り、住民同士の良好なコミュニティーが形成されていることも多い。東京の多くの地域で失われた人々の繋がりもあるため、比較的若い世代の人が「木密萌え」を感じることもあるようだ。

しかし、木造住宅密集地域の危険性については十分に考えなければならない。単に「道路が狭く建物が密集している」というだけでなく、老朽化した木造建築物が多いために地震による倒壊の恐れも大きい。人がすれ違うことのできないような狭い通路を挟んで住宅が建っていることや、隣同士の建物がほとんど密着していることもある。

戦後、建築規制が十分でなかった時期に無秩序な住宅建築が行われ、建築基準法で道路として認められなかった昔の里道やセットバックを要する狭あい道路が複雑に入り組んでいるようなところが、そのまま木造住宅密集地域として残っている例も多いだろう。また、道路にまったく接していない住宅敷地も少なからず存在する。そのような住宅が老朽化したものの、違法建築や既存不適格建築物が多いこと、さらに住民自身も高齢化していることなどを要因に、十分な手入れがされないことも多い。空き家として放置され、荒廃が進んだ住宅も目立つのだ。

大地震の揺れで古い建物が倒壊して狭い道路をふさげば、消防車や救急車が通れないだけにとどまらず、人々の避難の妨げにもなる。そのような状況下で火災が発生すれば、防火水槽などは使えず、地域の消防団による消火活動も困難だ。取り残された人の救助もできないまま、火はまたたく間に周囲へ燃え広がり、多くの人の命を危険にさらすことになりかねない。

東京都が取り組む「木密地域不燃化10年プロジェクト」とは何か

もちろん、国や自治体は以前から都市の不燃化に取り組んでいる。危険な密集市街地のリノベーションを戦略的に推進することを目的として、「密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律」(1997年制定)を2007年3月に改正したほか、2011年3月に閣議決定した「住生活基本計画(全国計画)」では、危険な密集市街地を2020年度末までに概ね解消(最低限の安全性を確保)するという目標を掲げている。

また、東京都はこれまでも「防災都市づくり推進計画」(1995年策定、2010年改定)で、とくに危険度が高い約7,000ヘクタール(居住人口約180万人)を「整備地域」に定めて、建物の不燃化や延焼を防ぐ道路の整備など対策を進めてきた。しかし、2010年度における都市計画道路の整備率はおおむね5割にとどまり、「不燃領域率」の改善は遅れがちの状況であった。

そのような中で東日本大震災が発生し、首都直下地震への懸念も高まった。そこで東京都は不燃化を強く推し進めるため、2012年1月に「木密地域不燃化10年プロジェクト」の実施方針を定めたのである。これは従来の計画を5年前倒しするものであり、「10年後の目標」として次の2つを掲げている。

□ 整備地域において市街地の不燃化により延焼による焼失ゼロ(不燃領域率70%)を実現
□ 延焼遮断帯となる主要な都市計画道路を100%整備

このプロジェクトでは、重点的に整備する地域を「不燃化特区(不燃化推進特定整備地区)」に指定し、さまざまな施策を講じることとしている。不燃化特区制度は2013年3月から始まり、まず先行12地区が対象となった後に順次追加されている。2015年4月1日付の13地区指定で合計52地区、約2,940ヘクタールへ広げられた。

不燃化特区の先行実施12地区(東京都政策企画局公表資料より引用)不燃化特区の先行実施12地区(東京都政策企画局公表資料より引用)

「木密地域不燃化10年プロジェクト」の内容は?

延焼を食い止めるために「防災道路」の整備も進められている延焼を食い止めるために「防災道路」の整備も進められている

不燃化特区に指定された地域で木造(または軽量鉄骨造)の住宅を、耐火建築物(または準耐火建築物)に建替えた場合には、5年度分の固定資産税および都市計画税が全額減免される。ただし、新築年月日が不燃化特区の指定日から2020年3月31日までであること、住宅の居住用部分の割合が2分の1以上であることなどが要件だ。さらに、古い住宅の解体・撤去費用への助成、建替える住宅の設計費補助なども定められている。また、老朽家屋を取り壊して更地のままにした場合でも、住宅用地としての軽減措置が継続されることになっている。

その一方で、木造住宅密集地域において長年にわたり培われてきたコミュニティーを壊さずにこれを生かしていくことや、権利者の生活の安定を図ることも必要だ。居住者の高齢化による建替え意欲の低下や現状の変更を好まない傾向、費用対効果が理解されにくいことなど、さまざまなハードルもある。借地・借家の権利関係が複雑で合意形成が難しいことや、公図と実際の土地が一致しないケースの存在なども不燃化対策のネックとなるだろう。

耐火性能の高い住宅への建替えを強制することはできず、あくまでも所有者の任意によらざるを得ない。そのため、建替えが進まない場合でも住民の防災意識を高めることが重要であり、住民のニーズを把握するための全戸訪問や専門家の派遣、住民への情報提供、相談ステーション運営の費用補助といった対策も「木密地域不燃化10年プロジェクト」に盛り込まれている。いずれも東京都と区の連携を強化しながら進めることが前提だ。

その他の対策も進められている

「木密地域不燃化10年プロジェクト」以外にも、東京都ではさまざまな対策を講じている。「住宅市街地総合整備事業(密集住宅市街地整備型)」が2013年度において65地区で実施されたほか、「東京都木造住宅密集地域整備事業」では46地区を指定し、道路や公園などの公共施設整備を進めるとともに、老朽建築物を良質な賃貸住宅や共同住宅などに建替える際の費用の一部を助成するなどしている。また、東京都が指定した「地域防災力向上モデル地区」では、木造住宅密集地域における安否確認方法の確立や実効性ある防災組織の構築などといった取組みも行われているようだ。

東京都の2015年度予算案では、木造住宅密集地域の不燃化・耐震化に581億円が計上され、不燃化特区制度の指定地区をさらに拡大すること、関係権利者の生活再建に向けたサポート体制を充実させること、延焼遮断帯を形成する特定整備路線の整備を加速すること、木密地域不燃化10年プロジェクトおよび木造住宅の耐震化のための助成制度を進めることなどが盛り込まれた。

また、国土交通省は東京都などに対して「公的不動産等を種地として活用した連鎖型の再開発事業等により密集市街地対策を行うこと」を要請(2014年4月)するとともに、それに必要な調整や支援を実施している。さらに、国土交通省が示した「地震時等に著しく危険な密集市街地」などを対象に、政府は「感震ブレーカー」の設置を求める方針のようだ。感震ブレーカーとは、地震の揺れを感知すると自動的に電気を止めるものであり、横浜市などではすでに独自の補助制度を設けている。

特別区ごとに独自の対策を進める例も表れてきており、足立区では道路に接していない住宅敷地での建替えを条件付きで認める制度を2014年度から開始した。区内にある無接道家屋7,963棟のうち、4,847棟が新たに建替え対象となったようだ。荒川区では不燃化特区内で一定の要件に該当する老朽住宅を区に寄付してもらう代わりに、区の費用で除却工事をする事業を行っている。また、杉並区では狭あい道路における敷地後退部分の私有地を強制的に道路として整備するための条例改正を2015年度に行う予定となっている。敷地後退部分の道路整備費用を区で負担する条例は以前からあったものの、道路状に整備しないまま花壇や駐車スペースとして使い続ける住民が多く、思うように整備が進んでいない状況が背景にあるようだ。
強制力のある条例は全国初となるが、公共の福祉と財産権の問題のどちらが優先するのか、反対意見も多いため今後の動向が注目される。

東京における不燃化対策の1日でも早い実現が望まれる東京における不燃化対策の1日でも早い実現が望まれる

2015年 04月07日 11時07分