画一的な再開発手法の転換が求められている

UR都市機構主催による「密集市街地再生フォーラム2017」が開催されたUR都市機構主催による「密集市街地再生フォーラム2017」が開催された

大都市などで老朽化した木造建築物が密集し、道路や公園の空間なども十分に整備されてない、いわゆる「密集市街地」ではその改善が大きな課題となっている。火災や地震が発生したときには広範囲の延焼が懸念されるほか、住民の避難に必要な機能も確保されていないのだ。

とくに東京都や大阪府を中心に、国土交通省が指定した「地震時等に著しく危険な密集市街地」(2012年公表)は全国で約6,000haにのぼり、そのうち首都直下地震の発生が想定されている東京都が約1,700ha、そして大阪府が約2,200haを占める。

その一方で、密集市街地を形成する「木密地域」には、都心部に近く利便性が高いこと、あるいは独自の文化やコミュニティが形成されていることなど、それぞれの地域で特色をもった魅力が醸成されていることも多いだろう。

これまでの自治体や民間による、密集市街地あるいは駅前の再開発・都市再生では防災対策に主眼がおかれ、古い木造建築物を取り壊し、区画を整えて道路を整備し、中心エリアに高層ビルやタワーマンションを建てるといった、画一的な手法がとられる場合が多かったことも否めない。まちが新しく綺麗になり、防災機能が向上するのと引き換えに、まちの個性や魅力が失われた例も少なくない。

しかし、これからの密集市街地整備では防災機能の向上とともに住環境を改善し、安全性と暮らしやすさの両立を目指したまちづくりが求められている。

そんな中で「市街地の安全性が確保され、日常の中で住み心地が良い暮らしが持続するまちを目指したこれからの密集市街地のまちづくりを考えること」を目的に、独立行政法人都市再生機構(以下、UR都市機構)主催による「密集市街地再生フォーラム2017 密集市街地の防災と環境整備」と題したシンポジウムが開催され、500席の会場はほぼ埋まった。今回はその様子をお伝えすることにしよう。

阪神・淡路大震災が大きな転機に

来賓として挨拶をされる国土交通省の伊藤明子住宅局長来賓として挨拶をされる国土交通省の伊藤明子住宅局長

UR都市機構理事長の中島正弘氏による主催者挨拶の後、来賓として国土交通省住宅局長の伊藤明子氏による挨拶があった。伊藤氏は、密集市街地の問題をさまざまな視点で考えることの必要性のほか、増加が懸念されている空き家についても「個々の対策だけでなく、まちづくりの観点から解いていかなければならない問題」と指摘した。

UR都市機構からは、密集市街地におけるこれまでの取組みが紹介された。住宅・都市整備公団として発足した1981年(昭和56年)当時から密集市街地の整備にかかわってきたというUR都市機構(2004年に改組)では、35年ほどの間に東京、大阪、神戸の50地区以上において事業、またはコーディネートを実施しているようだ。

そのうち、太子堂・三宿地区、梅田五丁目地区、西ケ原四丁目地区、京島三丁目地区、荒川二・四・七丁目地区の5事例(すべて東京都23区内)について事業内容の説明があった。

外部からはなかなか分かりづらい面も多いUR都市機構の活動だが、コーディネートや道路整備の「受託」、土地区画整理事業の活用、従前居住者用賃貸住宅の整備、防災街区整備事業、防災性の高い街区の整備、防災公園街区整備事業、市街地再開発事業、旧住環境整備モデル事業、共同建替え等、震災復興共同建替え、木密エリア不燃化促進事業の活用など、地区の特色に応じてさまざまな取組みをしていることが分かる。

また、事業を進めていくうえで大きな転機となったのが1995年に起きた阪神・淡路大震災だという。古くなったものを建て替えるだけでなく、「建物をなくして空地化することも整備だ」とする考え方に変わったようだ。市街地整備など事業を進めるうえでの「種地」として、小さな土地などでも積極的に買っているという説明もあった。

密集市街地整備は「ボトムアップ」から「バリューアップ」へ

基調講演をされる横浜国立大学大学院の高見沢実教授基調講演をされる横浜国立大学大学院の高見沢実教授

フォーラムの第二部として、横浜国立大学大学院教授の高見沢実氏による「変わる密集市街地整備」と題した基調講演が行われた。これからは「まちにどのような価値を見出すか、求めるか、大切にするか」という視点が大事だと指摘したうえで、密集市街地整備に対する価値観の変化、市街地整備における1970年代以降10年ごとの特質の変遷、教授が学生時代から研究テーマにしてきたという「東池袋地区」の整備を題材にしたケーススタデイなどの話がされた。

まず、密集市街地整備に対する価値観の変化については、次の6つの視点から語られている。
1.若年者や高齢者が住みやすい
2.密集しているがぬくもりがあり独特の空間
3.都心周辺の利便な場所であり「高度利用」が必要
4.安全性を向上しないと危ない
5.地域管理力に優れる面もある
6.国際化も踏まえた新しい需要

「若年者や高齢者が住みやすい」まちにすることや、安全性を向上することについては従来も今後も変わらずに重要であるとしたものの、安全性の向上は一定水準に達すればそれ以上を求める必要はないとしている。その一方で、密集市街地を考えるうえで「誰もが住める、勤務地に近いまち」という視点が欠かせないという。

「密集しているがぬくもりがあり独特な空間」「地域管理力に優れる面もある」「国際化も踏まえた新しい需要」の3つについては、従来あまり重視されていなかったのだが、密集市街地の価値としてこれからはもっと強く意識しなければならないようだ。とくに「低層木造住宅が集積している」という空間の特長を、さらに増進するような工夫も必要だとする指摘があった。

それに対して、これまで重視されてきた「高度利用が必要」という視点については、「東京ではまだこのプレッシャーが強いと思う」としたうえで、一般的には「人口減少時代に入り、この種の議論は今後、あまり大きなテーマにはならない可能性がある」としている。

いずれにしても、これからの整備においては「密集市街地ならではの特質、特長を踏まえて考えることが重要」だとし、防災面における「ボトムアップ」が主眼の対策から、まちの「バリューアップ」が新たな視点になったことが説明された。

住み続けたい、住んでみたい市街地へ

第三部はパネルディスカッション「これからの密集市街地のまちづくりについて」が行われた。コーディネーターとして株式会社アルテップ代表取締役の中川智之氏、パネリストとして東京都市大学名誉教授の住吉洋二氏、株式会社LIFULL LIFULL HOME’S総研所長の島原万丈氏、首都大学東京助教の松本真澄氏、中野区都市基盤部長の豊川士朗氏、UR都市機構東日本都市再生本部密集市街地整備推進役の藤本俊樹氏が登壇している。

まず、住吉氏から「URの直接施行による密集事業の取組み」「阪神・淡路大震災後の密集事業の位置づけ」「今後の密集市街地整備に求められるもの」という3点について説明された。URの直接施行は、当時の公団が1981年度から手掛けた東京都北区神谷一丁目地区の事例だ。当初から住吉氏が関わっていたそうだが、自治体がやるような事業をなぜ公団がやらなければいけないんだというところから始める難しさがあったという。

また、今後の密集市街地整備にあたっては「住み続けたい、住んでみたい市街地像を提示すること」が重要であるという指摘がされた。

続いて豊川氏からは中野区大和町、弥生町三丁目地区などの木密地域を例示し、さまざまな現状の問題点やこれまでの取組み、今後の課題などが紹介された。豊川氏自身も木密地域に住んでいるということだったが、防災面での問題は指摘しながらも、木密地域を前向きに捉えている様子が伺えた。

藤本氏からはUR都市機構が取組んでいる事例をいくつか挙げ、「今後のまちづくり」に対する考え方などが紹介されたほか、地域価値の向上に向けた取組みの提案、景観デザインガイドライン導入の提案などの説明があった。2016年12月に大火があった糸魚川市駅北地区における「修復型のまちづくり」にも取組んでいるようだ。

「これからの密集市街地のまちづくりについて」と題したパネルディスカッションの様子「これからの密集市街地のまちづくりについて」と題したパネルディスカッションの様子

密集市街地と「住みやすいまち」には共通点が多い

「Sensuous City:官能都市」について説明をするLIFULL HOME’S総研の島原万丈所長「Sensuous City:官能都市」について説明をするLIFULL HOME’S総研の島原万丈所長

続いて、住環境整備の視点から松本氏、島原氏の話があった。松本氏はニュータウンと密集市街地がどのように違い、どのような共通点があるのかといった説明がされたが、古くなったニュータウンの再生問題に、密集市街地再生のヒントがあるのではないかという。密集市街地を魅力的にするためには、高齢者の外出促進や地域とつなぐこと、多世代がかかわる仕組み、シナジー効果のある多様な拠点の整備、地域資源の活用などが必要であると指摘した。

また、高度成長期に大量供給されたエレベーターのない5階建ての団地が、現在さまざまな問題を抱えていることを引き合いに、居住者が高齢になるまで住み続けることのできない3階建て住宅がいま、数多く供給されていることへの危惧も感じているという。

島原氏からは2015年に発表した「Sensuous City:官能都市」についての紹介があった。これは都市の魅力をどうやって可視化するのかといった観点でまとめたレポートである。

従来からよくある「住みやすさランキング」などでは、人口あたりの病院やベッドの数、公園面積、大型商業施設の面積、新築住宅着工戸数、持ち家世帯数などをもとにしたものが多い。そして、これらを念頭において再開発するとどこも画一的なものになり、まったく同じ構造で日本中のまちが作り変えられているという。Googleで「再開発」を画像検索すると、真ん中にタワーマンションがあるようなものばかりになる事例も示された。

そこで「都市を測る物差しを変えなければいけないのではないか」という問題意識からまとめられたのが「センシュアス・シティ」であり、共同体に属している、ロマンスがある、匿名性がある、機会があるなどの「関係性」、食文化が豊か、自然を感じる、街を感じる、歩けるなどの「身体性」などを新しい物差しとしている。

また、センシュアス・シティでは住民の幸福度や満足度が高く、次に引っ越すときも同じまちに住みたいという結果が出ているという。さらにセンシュアス・シティの調査で上位になるエリアと密集市街地には、多様性、混在、密集など共通する点が多いという説明がされた。さらに、各地の整備事例を紹介しながら「建替えによらない整備」をもっと考えなければならないという指摘もあった。

今回はUR都市機構の取組みを中心においたフォーラムだったが、URだけでなく、自治体による市街地再開発などでもさまざまな可能性が考えられる。再開発によって、まちの個性や魅力が失われることは避けてほしいものだ。

2017年 12月12日 11時05分